ルナちゃん「トレセン学園をぶっこわす!」――絶対全員を幸福にする皇帝と絶対改革を完遂する地方ウマ娘――   作:帝都ウマピヤヰ倶楽部

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卑怯者だからね

 バイオリン――――――それは、弦楽器の一種。

 

 

 そして多くのウマ娘が嗜み、また嗜むのが当然とされている楽器である。

 

「これは、どういうことかな」

「見ての通りだよ。君がどんな音色を奏でるのか、聞いてみたいんだ」

 

 弾けるでしょとシービー。差し出されたのは、先ほどまで彼女が弾いていたバイオリン。

 

「光栄だが、あいにくと自分の弓を持ち合わせていなくてだな……」

「ああ、いいよ。これつかって?」

 

 ぐいと、押しつけるように弓を渡すシービー。

 

「いや、しかし」

「キミが()()()を使ってどんな音を奏でるのか。それを聴きたいんだよ」

「……」

 

 何かを躊躇うように、押し黙るルドルフ。それも仕方がないことだ。

 バイオリンがなぜウマ娘の嗜みとされるのか、それは至極単純――――――その音色を奏でるために用いる弓に、己の尻尾を使うからである。

 

「どうしたの? アタシを使うことに遠慮してる?」

 

 他人の毛を使った弓で弾くことは、決して禁忌(タブー)というほどのことではない。

 しかし一方、自分の毛を使った弓は大切なヒトに贈るものとされているのも、また事実。

 

「いや。いいだろう」

 

 ルドルフは押し負けたように弓を受け取る。では一曲と構えて、ゆっくりと音を奏で始めた。

 

 

 

 

「うん。なるほど、丁寧な演奏だね」

 

 

 曲目を終えてから、シービーはしばらく目を閉じていた。

 

「でも、やっぱり遠慮してた。完璧な旋律なのに、内側には切り込んでこない。そんな感じがする」

 

 アタシはもっと、シリアスな音が聴けるかと思っていたのだけれど。

 ゆっくり開かれる目と共に溢れたその言葉には、はっきりとした失望が混ざっている。

 

「――――――っ、そうか……」

 

 シービーの講評に、肩を落とすルドルフ。

 

「ルドルフ……」

 

 サブトレーナーにしてみれば、今のルドルフの演奏に文句をつけられること自体が驚きである。完璧な音楽に聞こえたというのに。

 

「ああ、でも。いい音楽だとは思うよ? アタシよりも上手だもの。さすがだね」

 

 それとも、完璧であるがゆえに、内側に切り込んでこないと評されてしまったのだろうか。

 

 

「さて、いこっかエース」

「そのまえに」

 

 ルドルフの言葉を遮ったのはホープだった。彼女はルドルフから、半ば奪うようにバイオリンを受け取る。

 

「あなたは『2人の演奏』と言った。自惚れじゃなければ、私の音も聴いてから結論をだしてくれないかな?」

「いいけれど」

 

 言葉とは裏腹に、シービーの顔には不満が浮かんでいる。

 

 当然だろう、シービーはやりたくないことはハッキリ「やらない」と言い切るタイプのウマ娘だ。ちなみに、それを世間は気性難と呼ぶ。

 そんな彼女が、まさかつまらない音楽の「おかわり」を望むとでも?

 

「気に入らなかったら、そこで止めて。私は構わないから」

 

 それだけ言って、ホープは勢いよく息を吸い込んだ。肩が僅かに持ち上がり、そのままの流れで肩にバイオリンを構える。

 

 そして、牽く。突風のように、嵐のように。

 選曲は誰もが知っているクラシックであった。堤を破ってなだれ込む洪水のように、秩序を失いながらも物理法則には逆らわないような過激な演奏。

 たちまちのウチに教室内を埋め尽くし、観衆を喰らい尽くすような――――――

 

 

「もういいよ」

 

 

 その声で、濁流はピタリと止まる。一方奏者であったホープは肩で息をしており、早くも汗が噴き出さんばかり。

 

「……なるほどね。シリアスの正体は、これだったわけだ」

「ルドルフは優しいから」

「ああ、そういうこと。となると、ルドルフをけしかけたのはキミなワケだ」

「…………」

「本当に面白いね、君たちは。あの総務会議に勝とうって考えるだけはあるよ」

 

 それからシービーはひとしきり笑って、ホープからバイオリンを受け取った。そして彼女は弓を愛おしげに、撫でるようにみやる。

 

「まるで身を投げ出すように攻撃的……それでいて、不思議なくらい慎重な演奏だった。アタシにキズ1つつけずに、使い倒してやるぞって気概がある」

 

 で、ルドルフもそうやって使い倒す気? シービーの視線がホープに刺さる。

 

「必要ならね。私は卑怯者だから」

 

 ルドルフが何かを言いたげな気配。シービーは眉をわずかに持ち上げる。

 

キミの友達(ルドルフ)は、それを望んでないみたいだけれど?」

「それは関係ない。目的は常に、手段を正当化するからね」

「カッコいいね、それ。でもいつか、目的に縛られて動けなくなりそうだ」

 

 そしたらどうするんだい? シービーの問いかけは軽く、しかし内容は重たいモノ。

 

 なにせ、既に彼女たちは目的に縛られている。

 

 学園の維持にはマンパワーがいる。だから総務会議を解体するワケにはいかない。

 

 しかし総務会議との対立は必至。

 総務会議を破壊することなく、総務会議と戦わなければならない。

 

「縛られたら縛られたで、体当たりでなんとかしようと思うよ」

「ほどいたり、切ったりしないの?」

「必要性を感じないかな」

「いいね。嫌いじゃないよ、そういうの」

「おいおいシービー、本気か?」

 

 肩を竦めるカツラギエースに、ミスターシービーは本気さと笑う。

 

「アタシの名前は、ミスターシービー」

「……さっき聞いたケド」

「いまの学園は窮屈でね、静かで自由な場所を探しているんだ」

 

 その言葉の意味を、まさか取り違えるホープではないだろう。そして――――――

 

「悪いけれど。生徒会長はルドルフだよ」

 

 ――――――だからこそ、彼女はそれを拒絶する。

 

「そっか。残念」

 

 

 


 

 

 

「おいおい、随分とデケェ獲物を取り逃がしたんじゃないのか?」

 

 今日は随分と来客が多い。じゃあねと去って行ったシービーに入れ替わるように、別のウマ娘が入ってきた。

 

「……トレーナーさん? ちゃんと情報管理してる?」

 

 ホープが耳打ちして聞いてくるが、こればかりはサブトレーナーにもどうしようもない。教室の使用許可は教員室に提出する必要があって、教員室の掲示板には誰がどの教室を使っているか一目で分かるようになっているのだから。

 要するに、それだけ注目されているということなのだ。

 

「いや教員側(そっち)の事情はどうでもいいけれどさ……で、知り合い?」

 

 答えは否である。ありがちな鹿毛、真っ白な流星が中央に大きくひとつ。知っているなら忘れるような顔立ちではない。

 

「…………やあ、シリウスか」

「ルドルフの知り合い?」

「そうか。ホープは知らないんだったな。彼女は――――」

「シリウスシンボリだ。妙な奴とつるんでるって聞いて顔を見に来てやったが……」

 

 そう言いながらそのウマ娘は、シスカノホープに詰め寄る。

 

「お前がルドルフを()()()()()()ってウワサは、どうやら本当みてえだなぁオイ」

「そりゃどうも。でもその表現(たぶらかした)は事実と違うかな。私はルドルフに、助言をしただけだよ」

表現の差異(いいまわし)はどうでもいいんだよ」

 

 シリウスシンボリに見下される格好となるホープ。しかし彼女はひるむ気配も見せず、彼女をぐっと見上げてみせる。

 

「それで? シンボリ冠名ってことは忠告にでも来たって感じかな?」

 

 そう言ってから、あれ? と彼女は首を傾げた。

 

「……ルドルフ、もしかしてご実家の支持とりつけてなかったりする?」

「家なんか関係ねぇ。俺は俺の意思で、テメェに文句を言いに来たんだ。あとコイツは実家の支持なんて取り付けてねえぞ」

 

 さらっと流れたシリウスの発言に、ホープは目を見開く。

 

「え、それ本当(マジ)? だったら私が会長ってことにして、手っ取り早くシービーさんを取り込んだ方がよかったか……失敗したなぁ……」

「ホープ???」

 

 口元を露骨にひくつかせるルドルフ。シリウスシンボリはダン! と机を叩いた。

 

「んなことたどうでもいいんだ! さっきから見てればテメエ、最後の一線だけは相手に委ねようとしてるよな。助言とか抜かして散々誘導尋問しやがるクセに、責任だけは取りたくねぇって腹か?!」

「まさか。私は誰かに強要したくないだけだよ。自由意志と()()は、尊重されるべきだ」

 

 その言葉を聞いて、サブトレーナーは合点がいった。妙にホープとシービーの会話がテンポ良く進んだのは、こういう根っこの信条(自由に重きを置く所)が似ているからなのだろう。

 

「私たちの正義とは、みんなの願いの代弁者であるという点だけなんだ。そうでなければ、私たちは会長選挙で支持を取り付けられないし、きっとその先の改革も、上手くなんていかないよ」

「おいおい、とんだ偽善者だな。総務会議をほぼノープランでぶっ壊そうとしてる奴の台詞かよそれが」

「プランはルドルフが決める」

「……ふん、そこで責任転嫁(他人任せ)に逃げるようなら、テメエはそれまでってことだ」

 

 シリウスは吐き捨てるように言ってから、ルドルへと向き直った。

 

「んで、お前はどうしてこんな奴と一緒に政治家ごっこなんかしてるんだ? ルドルフ」

「ホープは、私と信念を共にしてくれる数少ない同志だからね」

 

 その言葉に固まったのはシスカノホープ。

 

「え? 私が同志? ルドルフの?」

「勝ちウマに乗りたいと言っていたじゃないか」

「いやそれは、同志って意味にはならなくない?」

「いまさら逃げられるとは思わないことだな、執行部役員シスカノホープ君?」

「いやいやいや……私みたいな無名が役員とか、ないでしょ。ないない」

 

「チッ……そういうところは変わってねえんだな、ルドルフ」

 

 2人の掛け合いを遮るように、シリウスシンボリは悪態を吐く。

 

「おい、表出ろルドルフ。テメエが()()()()になったのかどうか、直々に確かめてやる」

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