某所掲示板に投稿しておりました物の手直し版となります。
PS2ゲームコードギアスロストカラーズと同じく完全IF、別物としてのストーリー成が非常に強いです。
なお、シリーズ自体が全年齢の純愛風味ではありますが、現時点ではまったく描き切れておりません……。
馬鹿が歩くと皇女に当たる
「ちっ、胸くそわりぃぜ」
華やかな街並み。活気ある通り。かつては東京と呼ばれていた大都市の只中で行き交う人々を観ながら男は独り吐き捨てる。
名前を奪われたこの街、トウキョウ疎開を歩く彼は、街と、そしてこの街が東京であった頃の正統な統治国日本と時同じくして名前を奪われた最下層の住民だ。
神聖ブリタニア帝国によって滅ぼされた日本に元より住んでいた日本人だ。
今は統治国となった侵略者ブリタニアにその名をイレヴンと改称されてしまったが、誰憚ることなく彼はいつでも己を日本人だと言い切る。
彼だけではない。彼と同じ立場に立たされたかつての日本人たちは皆そうだ。
自分たちはイレヴンではなく誇り高い日本人であるとの自覚を持って生きている。
たとえ二度とは日本が戻らずとも……。
そんな彼だからして街を歩けば気分が悪くもなるだろう。
いい服を着て、いい物を食べて、笑顔で日常を過ごしている統治者階級の者たち、ブリタニア人をみていれば。
彼等華やかな生活を満喫するブリタニア人に比べ、今の自分は、今の日本人はどうか?
(ボロッちい服着て、くそ不味い安物のメシしか食えねぇときてやがる)
疎開の郊外や、ゲットーと呼ばれるスラムに住まわされ、貧民のような生活を送っている。
こうなったのは日本が負けたからだ。弱肉強食という鉄の掟を戦勝国ブリタニアから押し付けられたからだ。統治者がルールを決めるのは世の常。
これを脱するには闘い、そして勝ち取る以外に道はない。レジスタンス活動に身を投じて思う処はいつも一緒。
いつの日か日本人としての権利をこの手に取り戻してやる。
逆立てた短髪に赤いバンダナを巻いた人相の悪い青年玉城真一郎は、いい格好で呑気に歩くブリタニア人を横目にしながら、決意をたぎらせていた。
「退いてくださ~いっ!」
そうやって注意散漫に歩いていたからなのか?
「ああン?」
突如として上から聞こえてきた声に咄嗟の反応が遅れてしまった。
「あぶな~いっ!」
ふっと影が射し、日の光が隠れる。上を見上げてみると、声の主だろう人物が落下してくるところだった。
「うおおっ?!」
反射的に伸ばした腕の中に声の主は見事にすっぽり入ってきた。
「きゃああ!」
途端に舞うピンク色の長い髪。一瞬いい香りが鼻をくすぐってきた物のそれどころではなかった。
(う、腕がヤベェェっ)
うまく受け止めたとはいえ急なことだったので腕へ強烈な衝撃が掛かったのだ。
「お、おいっ、大丈夫かよ?」
俺の腕はちと大丈夫じゃねえけど。言いそうになって我慢する。腕の中に入ってきた、つまり頭上から落ちてきたのが女の子だからだ。
男だったら投げ捨ててやるところだが女の子は別。それが嫌いなブリタニア人であってもだ。女には優しくする。
昔から女の前ではいいかっこしたいという思いが人一倍強かった自分らしい対応だった。
「ごめんなさいっ、下に人がいるとは思わなくてっ」
「そりゃあこっちの台詞だバカっ、空から人が降ってくるとか誰が考えて道歩いてンだよっ」
それに人がいなかったらいなかったで大ケガをしていただろう。
ふと見上げてみると窓のカーテンが外に垂れている。結構な高さだ。あれくらい高いと受け止めていなかったら骨折していたかもしれない。
(…………俺の腕……大丈夫か?)
じんじん痺れる。筋が逝ったかもしれないと怖くなってきたところに、なにか気になることでもあるのか? 少女が声をあげてきた。
「あら?」
「どうしたよ?」
急に彼の顔を覗きこんで首を傾げた少女は、彼女を支えている彼の腕をみると顔をほころばせて続ける。
「はい、どうかしたんです」
「ハァ?」
「わたくし、実は悪い人に追われていて……、だから、助けてくださいませんか?」
助けるだ?
そりゃ本当に悪い奴から追われてるってーなら助けてやらんでも無い。
「自己紹介がまだでしたね。わたくしは──」
答えかけて言葉を詰まらせた少女は一呼吸置くとなにかを指差した。なにを?
「腕……」
「あ? 腕がどうしたよ?」
指差すなにかは腕のようだ。もちろん此方の腕のことらしかったが、腕がどうしたというのだろう?
暑いこの日は半袖を着ていたから腕は出ているがイレヴンだからと腕を出してはいけない等といった条令などない。
唯でさえブリタニアによる日本統治への反発が強いというのに、これ以上旧日本人を締め付けるような条令を施行したりすれば更なる治安悪化を招くだけだ。
その程度のことは悪辣な政治ばかり行うブリタニアの中でも、特に酷く感じられるエリア11総督府とて理解しているだろうが。 まあ、新しい総督になるという事で変わるかもしれないが。
しかしまあ、だったらこの少女はなんで此方の腕を指差して青ざめているのだろうか?
「俺の腕がどうしたって言うんだよ──」
オイ──―いいかけて絶句した。
「なっ なっ なっ……! なんじゃこりゃぁぁ?!」
自分の腕が倍ぐらいに大きくなっていた。
これだけ腕が太ければ仲間内での腕力が最強だぜといったバカな発想を持ったりは流石にない。
「痛っデェェェェェェェェェ──―!!!!」
腕が、落ちてくる少女を受け止めたときに加重のかかったであろう自分の右腕がたくましいほどに大きく腫れ上がっていたのだ。