コードギアス 馬鹿が歩くと皇女に当たる   作:夜半の月

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馬鹿が歩くと皇女に当たる2

 

 

 

 

 馬鹿が歩くと皇女に当たる2

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ああ~、これは骨折してますね」

 

 んなもん素人目にでも見りゃわかるよバカ。なめんなよテメェそれでも医者か?

 

 自分の腫れた腕を診てくれているのはブリタニア人の医者。厳密には名誉ブリタニア人の医者か。

 

 名誉とは、ブリタニアに媚を売るような連中で、極東事変の日本敗戦後に同国の占領統治体制を受け入れ、恭順の意思を明確にした元日本人のこと。

 

 つまり日本人の裏切り者だ。個人的にはそんなクソ名誉の医者なんかに体を診てもらいたくはない。 まだブリタニア人の医者に診てもらった方が嬉しいくらいだ。何でかって?

 

 俺は日本人で此処は日本。日本人のくせに日本を裏切った彼ら名誉のことは正直なところブリキ以上に嫌いだったのさ。

 

 とは言うものの、名誉登録もしてない自分のような人間を診てくれる医者など同じ日本人"だった"名誉くらいの者だというのは理解している。

 

 それでも気に入らない名誉には、一言二言文句をつけてやろうかとも思ったが、 自分の後ろで子供の病気を診てもらいに来た家族みたいにして立つ少女の下がり気味な目尻を見てしまうと、余計なことを口にする気も消え失せてしまう。

 

 自分を医者に連れてきたのはこの少女なのだ。

 

 元はといえばこの少女のせいでこんな目にあっているわけで、この少女、この女が医者に連れてくのは当然のことなのだが、案の定どこの病院へ行ってもイレヴンはお断りと門前払い。

 

 五軒、六軒と廻っても皆同じで自分でも諦めていた。

 

 次第に「たかが骨折れただけじゃねえか。ほっときゃそのうち治る」と投げ槍な感じになってきたところで漸く診てくれたのが此処だったわけだ。

 

 

〔私を助けてくれたせいであなたが怪我をされた〕

 

 

 だから何がなんでも医者に連れていくのだそうで、十七軒目の小さな町医者にたどり着き、とうとう有言実行を果たしたのだった。

 

「複雑骨折ではありませんし折れ方も綺麗だ」

 

 綺麗な折れ方なんてものがあるのかよ?

 

「そちらの方、奥様か恋人の方ですか?」

 

 此方から目を外して後ろを見た医者は、そんな意味不明なことを口走る。

 

 奥様か恋人って誰を?

 

 此処には自分と医者以外に人は一人で、医者は男だから女は一人だ。

 

「ハァ!? あんたなに言って」

 

「は、はい恋人ですっ」

 

 否定してやろうとした矢先に勘違いされた少女のほうが恋人であると肯定する。

 

「おまっ! なに考えてっ!」

 

「あなたは黙っていなさい! いまはわたくしがお医者様とお話をしているのですから!」

 

「……ッ!!」

 

 少女の気迫に圧され黙らされてしまった。

 

「見かけによらず気の強い方ですね。まあ、この方とお付き合いなされているのなら多少気が強くないと上手くやっていけないのでしょうが」

 

 どんな目で見ているんだこのクソ医者。こっちは患者なんだぞ? やっぱなめてやがんだろ? 

 

「こんな気の強いお嬢さんがついていれば無茶をなさらないとは思われますが、全治ニ,三ヶ月の骨折です。最低でも一月の間は患部への大きな負担になるような作業は控えるようにしてください」

 

 ちょっとまてや。そんな長期間かかる怪我だったのか?

 

 そりゃまずいな。それだけの時間腕が使えないとなればレジスタンス活動ができなくなる。

 

 無理をして活動に参加する手もなくはない物の、それでメンバーの足手まといになったりすれば本末転倒もんだぜ。

 

「日常的な生活が可能になるまでおよそ一月。全治は二月から三月といったところですが入院の必要はありませんよ」

 

 入院しろと言われたところでゲットー暮らしの自分にはそんな金もないからどうでもよかったが、少女のほうはほっとしたような申し訳なさそうな、複雑な顔をしていた。

 

「どうもありがとうございました。わたくしの恋人の病状を診てくださいまして」

 

「いえいえ、これが仕事ですからね。お嬢さんの様なしっかりしとした恋人さんが傍に居らっしゃれば安心です」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「おいこら。いつ、どこで、誰と誰が恋人になったんだよ、ああっ!?」

 

 病院を出て人通りの少ない脇道まで来たところで、勝手なことをしてくれた少女を怒鳴り付けた。

 

「恋人もクソもねえだろうがよ。俺とおまえはさっき知り合ったばっかでお互い名前も知らないんだぞ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 少女はすぐに謝ったがなんであんなことを?

 

 聞いてみると意外にも素直に話してくれた。

 

「他人であるわたくしが男性をつれて病院へ訪れたとなれば怪しまれると思いましたので……。その、事情があって深く調べられると……」

 

 ああ、そういえば確か悪いやつに追われているとか言っていたな。

 

 具体的なことは聞いていないし聞くつもりもなかったが、二階の窓から飛び降りるくらいだ。悪いやつから逃げるために余程急いでいたんだろう。

 

 言葉遣いも貴族のそれだし、追われてるとしたら犯罪組織か親の手の者か? その辺は知らねえけど。

 

 おかげで腕の骨折なんて不幸に見舞われてしまったが、なにが楽しくてブリキの少女を助けた代わりに骨を折らねばならんのだ。

 

「そんな理由なら……ま、しょうがないか」

 

 捕まって痛い目にあわされる経験は自分にもイヤほどあった。

 

 子供の頃は親から。大人になってからは他人から。いまは他人とブリキから。

 

 散々殴られ蹴られてきた。

 

 痛い思いなど嫌に決まってる。そこは俺も少女も同じであるらしい。

 

「あの、許してくださるのですか?」

 

 ビクビクしながら聞いてくるが、なにもとって食ったりはしない。

 

「あのな、許すもなにも事情が事情だろうよ。俺はブリキが嫌いだがそんな事情があって逃げてるやつにまで冷たくあたったりしねぇよ」

 

 基本はブリキがどうなろうが知ったことではない路線だがな。今回だけは特別だ。

 

「いや、な。俺も別に怒っちゃねーんだよ。理由が無茶だろってとこ指摘してんだけでよ。そのなんだ。キツイ風に聞こえてたらワリイ。謝る」

 

 そうしたら申し訳なかったのか俯かせていた顔をあげて「ユフィ」と名乗ってきた。

 

「ユフィ?」

 

「はい……ユフィです。わたくし、ユフィと申します」

 

 愛称か本名か知らないがユフィと名乗った少女。屈託のない純真そのものな笑顔で此方を見る薄い紫色の瞳がまっすぐ過ぎて眩しかった。

 

 "穢れをしらない"なんての、よく歌のワンフレーズで聴きそうなものだが、このユフィという少女には、なぜかその匂いを感じさせられる。

 

「おれぁ玉城だ。玉城真一郎」

 

 純真無垢な柔らかい空気に充てられたおかげで、こちらも名乗る気にさせられた。

 

 別にブリキの小娘に名前を知られたくらいで問題が起きることもないだろうといった思いもある。

 

 しかしあまりにもまっすぐに見つめてくるので名乗らないといった種の選択肢を奪われたような気がしないでもない。

 

「タマキンイチロー? …………変わったお名前なのですね」

 

「だれがタマキンだよゴラぁ゛! た・ま・き・し・ん・い・ち・ろ・う! 宝玉の玉にお城の城っ、真実の真に一郎次郎の一郎で玉城真一郎っ! 玉城でも真一郎でも好きに呼びゃあいいが、たまきんだけは止めろっ! 小坊んときにその渾名で呼ばれてひでーめにあってっんだよ」

 

 小学生のときにつけられたくそ腹立つあだ名とほとんど同じものを悪気なく呼ぶ少女ユフィに思わず声を荒げてしまった。

 

「まあそれはしつれいを申し上げました、それではシンイチロウとお呼びしますね?」

 

 いきなり下の名前で呼ぶとは遠慮ってものをしらないやつだ。

 

「これだからブリキは」

 

「ブリキ……? ブリキってなんですか?」

 

 自分たちの蔑称すら気がつかないとはさすがはブリタニア人だ。

 

「そんなことも知らねえのかよ? ブリキっつーのはなぁ、てめぇらが俺ら日本人をイレヴン呼ばわりしてるのと同じようなもんだよ」

 

 皮肉を込めて言ったつもりが少女ユフィの反応は予想だにしないものだった。

 

「へぇ~そうなんですかぁ~。うふふ、ブリキってなんだか可愛らしいお名前ですね」

 

 なんだこいつ? 侮蔑されて喜んでやがんのか?

 

 変なやつだと思いながらも日本に来たばかりだというからしゃあないと感じた。

 

「ああ~もういいわ。とりあえず医者代の礼は言っとくぜ。あんがとよ」

 

「いえ、礼など……、もとはと言えばわたくしが悪いのですから……」

 

「わかってんじゃねえか。これに懲りたらもう二階から飛び降りるなんて無茶せずに、警察でも呼ぶこったな」

 

 ブリキのお貴族様が呼べばすっ飛んでくる。その警察官が名誉なら尚さらに点数稼ぎでやってくるだろう。

 

 これがイレヴン呼ばわりの日本人なら反対にお前が悪いとかいって無視されるか、犯罪者に加担して被害者の此方が逮捕されるところだ。

 

「んで? これからどうすんだ?」

 

「どうとは?」

 

 呑気な少女だ。

 

「おまえ追われてんだろうがよ。だからどうするんだって聞いてんだ」

 

 乗り掛かった船だ。警察に行くならついて行くくらいはしてやろう。

 

 そういう意味で聞いたが、ユフィはまた変なことを口走る。

 

「そうでした。でも病院を探している間に街の様子は窺えましたし」

 

「なんだそりゃ?」

 

 街の様子が見れたとは、まさかそれが目的だったんじゃなかろうか?

 

「もういっかい聞くが、おまえ逃げてんだよな?」

 

「はい。逃げてます」

 

 緊迫感がない。逃げてるやつ特有の切羽詰まった雰囲気を感じなかった。

 

「ですから疎開の外へ、ゲットーへ連れていってくださいませんか?」

 

 疎開の悪いやつでもゲットーまでは追ってこない。ゲットーの治安は疎開の悪人が恐れるほどだから間違ってはいない。

 

 なるほど、少しは考えているようだった。

 

「シンイチロウはゲットーにお住まいなのでしょう?」

 

 歩く道々でそんな話はしていたが。

 

「ゲットーでやりすごしてから戻るってわけか」

 

「はい。それとそんな腕のシンイチロウを放ってはおけません。どうかわたくしにお家までお送りさせてください」

 

 包帯で吊った腕は確かに使えないが、帰るだけなら歩いて帰れる。

 

 だがユフィの目的はまだ別にあるらしい。

 

「それに……それにゲットーの現状をこの目で確かめたいといった目的もあります」

 

 ゲットーの今を確かめる? 確かめてどうするというんだ。なにもしらないブリキの小娘が。

 

「駄目、でしょうか……?」

 

「……」

 

 なにを考えているのかわからない。

 

 わからなかったが。

 

「……わあーった、わあーったよ、ゲットー……連れていってやるよ」

 

 自分にとっては庭みたいなものだ。関わったついでに連れていってやってもいいか。

 

 とくに考えることはなかった俺は、ただ気まぐれにそう思った。

 

 

 

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