向日葵の暗躍   作:黒色の向日葵

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怪しげな男たちが運ぶ荷物の中から、小さな子どもの手が助けを求めるように出てきた。
それを目撃した主人公は…


第4話 子どもに笑顔を、悪漢にも笑顔を

 その日、長野県を含む甲信越地方で殺人や恐喝、暴行、麻薬の密売、そして誘拐を行う犯罪組織の構成員達は「仕事」の成功に満足していた。なんと彼らは、とある製薬会社の社長令嬢の誘拐に成功したのだ。その犯罪組織と協力関係である、首都圏で猛威を振るう泥惨会と麻薬や少量の密輸品と引き換えに交換してもらう為の材料として誘拐した。

 

 その製薬会社は鈴木財閥と双璧をなす長門グループの系列で、近々長門グループから鈴木財閥へ鞍替えする予定だった。長門グループ会長の健康悪化問題に加え、お家騒動の前兆が財界だけでなく政界にまで聞こえてきたからだ。

 

 また長門グループとは別に、先の四井グループ内部での社長令嬢殺害事件(溺死)やそれに関連するゴタゴタで財界は荒れており、それに加えて最近深刻化している不動産不況や不良債権問題で、どうしても企業としては安寧秩序を求めていたのだ。

 

 その為、その製薬会社は将来性と安定性を考慮して、比較的安全そうな鈴木財閥に自ら売り込もうとしたのだが、それを第三者のとある自動車産業会長が聞きつけた。

 

 その自動車産業自体は真っ当で健全な企業だが、会長は違う。とある黒ずくめの組織の幹部を務める老人で、犯罪者の中の犯罪者だった。そしてその組織はある目的の為に、科学者や、IT技術者を勧誘したり誘拐したりしていた。特に製薬系・化学系の科学者は常に欲しており、その為に長門財閥の中でも優秀な業績と素晴らしい商品、そして何より得難き人材の宝庫でもあったその製薬会社の移動劇は格好の的だった。

 

 そこで、その幹部である老人は組織内部での自身の更なる権益確保の為に、組織のボスや№2には内密でその製薬会社を強請る為にも社長令嬢を手に入れようと画策した。暴力装置として間接的に利用していた泥惨会に任せてみたら、彼ら自身ではなく彼らの協力団体が成してくれたのだ。

 

 そういった背景を全く知らないその甲信越地方の犯罪組織構成員達は、取り敢えずの取引材料としてしか見なしていなかったが、それでも「仕事」の達成感に浸っていた。

 

 「悪夢」と出会うまでは…

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 長野県松本市から長野市方面に向かって走行中の黒色のバンの中で、人相の悪い派手目な服を着た男たちが騒いでいた。

 

「いやーなんとか目標を確保出来て良かった良かった」

 

「あぁ。のほほんと家族連れで旅行してたみたいだが、それが仇になったな」

 

「この不動産不景気の中で吞気に家族旅行とは良い御身分だねぇ…」

 

「全くだ。製薬会社とはいえ全くの無関係ではないだろうしな」

 

「今はまだ何もないが、来年の1997年辺りからは銀行も融資先の企業に対して何らかのアクションをやっちまいそうな雰囲気だしな」

 

 そう、彼ら犯罪組織は製薬会社社長一家の家族旅行中に静かに社長令嬢を眠らせ誘拐したのだ。

 

「まだ小学校低学年くらいだから、捕まえる時に五月蠅そうだったんで眠らせたが、もうすぐ起きそうだな」

 

「あぁ。だから絨毯でぐるぐる巻きにしておいたぜ。事務用品の中に応接セットとして紛れてたが、役に立つんだな」

 

「臨時とはいえ、新拠点をまた作れるとは…不動産不況様々だな」

 

「弱った企業への恫喝は俺たちの十八番だしな」

 

「ちげぇねぇや、ガハハ!…ん?」

 

「どうした?何かバックミラーに映っているのか?」

 

「いや、さっきから俺たち後方にいる車の運転手なんだが…なんか見たことあるような…ないような…」

 

「あぁ?どうせ恫喝した企業の社員か何かだろ?…それより、助手席の若い女の方が気にならねぇか?」

 

「うん?どれどれ…うわすっげぇ!無茶苦茶美人じゃねぇか!」

 

 黒いバンの後ろを走行する車には、浅黒い隻眼の大男とミディアムショートヘアの若い美女が乗っていた。特に助手席の美人の方は、この世の人間とは思えないほどの美しさと、相手を視線だけで殺せるような鋭いオーラを放っており、見るものに強烈な印象を与えていた。まるで「美女と野獣」のペアだった。

 

「あのアベック(?)、先ほどから俺たちを妙に気にしてるみたいだが…さっき思いっきり右折した時もするりとついてきたし…まさか、製薬会社の関係者か?」

 

「うーん…にしては別にカーチェイスするほどの執念やスピードもアイツらから感じないし、そもそもこちら方面に用事がある奴も割といるし…」

 

「確かに…ちょっと睨んできてる感じもするが、どうも隻眼っぽいし、遠方を注視してるだけかも?」

 

「まぁ何でもいいさ、もう目的地だ」

 

 目的地の廃工場に着いた彼らは、そこで同じ組織の構成員達が中でくつろいでいる新アジトに「荷物」を下ろそうとした。

 

「よーし、積荷を降ろすぞ。…ん?あのアベックの車、なんだかんだで通り過ぎたじゃねぇか」

 

「やっぱ勘違いか。妙に鋭い視線と寒気を感じたが…気のせいみたいだ」

 

 彼らは後ろの男女2人組のことよりも仕事に専念した。積荷の中でも最も重要な「荷物」を降ろそうとした時、恐れていたことが起こった。なんと誘拐した製薬会社社長令嬢が目を覚ましたらしく、絨毯の中で暴れだしたのだ。

 

「うわコイツ目を覚ましやがった!クソっ!大人しくしやがれ!」

 

「あ、手を絨毯から出しやがっ…ん?」

 

 突然、先ほどの男女2人組の車が急ブレーキをかけ停止した。そこから助手席の扉が開き、そこには…

 

 笑顔の女性がいた。

 

 日傘をさして、ぱっと見は深窓の令嬢然とした見た目ではあるが、口が裂けるほどにあがり、目は薄く開いていた。地獄の悪鬼も思わず逃げ出すほどの悍ましさと同時に、本能的な恐怖を周囲にまき散らしていたその女は男たちの方に歩いて来た。そして絨毯を一瞥した後に、質問を投げかけてきた。

 

「それは何かしら?」

 

 たった一言ではあったが、怒りがこもっているのは明らかだった。女の異様な空気にビビッていた犯罪組織の構成員達は我に返り、相手がただの若い女性1人であることを再認識すると、いつもの調子に戻った。

 

「あぁ?なんだぁお前はぁ?」

 

「オラオラ、何様のつもりなんだぁ?ねぇちゃんよぉ!」

 

「その綺麗な顔やエロい身体を傷つけたくないなら、とっとと帰んなぁ!」

 

 男たちが若い女を囲みながら下品な台詞を吐いていると、その若い女はより目を細め笑みを深めた。そんな態度が気に入らなかったのか、周囲を囲んでいた男たちの1人が日傘をもつ若い女に絡みはじめた。

 

「そもそも、目上の人間に対するその態度が気に入らねぇな…ちょっとばっかし教育してやんよ」

 

そう言いながら若い女に手を出すと、逆に若い女にその腕をつかまれ、握り潰された。

 

「ぎゃあああああ!!!!いっっでえええええ!!!!」

 

「あら、教育してくれるんじゃなかったの?」

 

 自分に手を出してきた男が返り討ちにあうのを冷笑しながら若い女が煽ると、男の悲鳴を聞きつけた男の仲間達がゾロゾロと鉄パイプや金属バット、さらには日本刀を持ちながら廃工場から出てきた。その数は30人を超えていた。

 

「なんだなんだ、何があったんだ!?」

 

「兄貴ィ!このアマが積荷に手を出してきたんでさぁ!」

 

「なにいぃ!?てっめぇ、あの製薬会社の回し者かぁ!?それとも敵対組織の構成員か!?」

 

「いいえ違うわ。私はただの、花を愛する化け物よ」

 

「ぬかせぇ!おめーら、女だからって構うことはねぇ!積荷に手を出す輩は殺して処分しちまえ!」

 

「おぉ!」「やっちまえ!」「情け容赦しねぇぞ!」

 

 そうリーダー格の男が言い放つと、犯罪組織の男たちが一気に若い女に襲い掛かった。

 

 ある男が金属バットを若い女の頭部にぶつけようとしたら、その金属バットをつかまれ、バットと利き手をへし折られた。違う男は、鉄パイプで若い女の胴をつこうとしたところ、その鉄パイプを手でつかんだ若い女に引き寄せられて頭部をつかまれ、地面に叩き付けられた。また別の男は、日本刀で斬りかかったところ、若い女が持つ日傘でその日本刀を真っ二つに切られ、呆然としてると、女に首元をつかまれ周囲に放り投げられた。

 

 女による一方的な蹂躙劇が続く中、ようやく若い女の隣で運転していた浅黒い隻眼の男が女の援軍としてやって来た。

 

「県警本部に応援要請を出したが…あー…ちょっとばっかし遅かったみたいだな」

 

「あら?か弱い女性を一人きりに、それも屈強な男どもが蠢く場にやるなんて酷いわね」

 

「お前が俺に県警本部への応援要請と、救急車の手配を頼んだんだろうが…。そもそも俺は病み上がりで、しかも杖をついて歩いてんだぞ」

 

 そう言いながらも、その浅黒い隻眼の男は、その杖で襲い掛かってきた男たちをゲラゲラ笑いながら叩きのめしていた。その様子を見た日傘の若い女も嬉しそうに笑いながら、殴りかかってきた男の頭部を掴み、その男を地面にめり込ませながら肩をすくめて隻眼の男に喋りかけた。

 

「あら、随分と楽しそうじゃない。県警刑事部捜査一課所属なんて言っていたけど、刑事部捜査四課(現組織犯罪対策課)や警備部機動隊の方が似合っているわよ?」

 

「ぬかせ。俺ぁ根っからの刑事だよ。まだ追ってるホシもあるしな。それよりもアンタ、本当にただの女子大生探偵か?見たことのない戦い方だが…」

 

「最近の探偵は犯罪者と戦ってナンボよ?それこそ今をときめく名探偵である毛利小五郎の娘さんは高校生ながらもただの拳一突きで電柱を叩き潰すほどの力だし、関西で名を轟かせている高校生探偵は竹刀や木刀で犯罪者と戦っているとか」

 

「そういう…ものなのか?」

 

 周囲に犯罪組織の構成員達の山を築きながら、刑事と女子大生探偵(?)は会話を続けていた。そして、この犯罪組織にとっては悪夢のような蹂躙劇が終わりに差し掛かると、犯罪組織のリーダー格の男がもぞもぞ動く絨毯を抱えあげ、ナイフを突きつけながら脅してきた。

 

「お、お前ら、この人質がどうなっても良いのか…ッ!?」

 

 そして、その男は自分の失態を悟った。

 そのリーダー格の男の脅迫の前部分で既に若い女と隻眼の男は動いていた。隻眼の男が持っている杖をリーダー格の男の足元に投げつけ、足場をよろめかせ、その間に若い女がリーダー格の男から絨毯を奪った。そして行き掛けの駄賃と言わんばかりに若い女がリーダー格の男の股間を蹴り上げた。リーダー格の男は声にならない泣き声を漏らし、無言のまま慟哭した。

 

「アンタ…あれは無茶苦茶痛いぜ…」

 

「手がふさがっちゃってるから、思わず蹴ったんだけど…ちょっと可哀想なことしたかしら?」

 

 そう言いながら若い女は丁重に絨毯を降ろし、巻き付けられていた鎖を絨毯に当たらないように引き裂いた。そして…

 

「さぁ…もう大丈夫よ。怖いおじさん達はいなくなったわ」

 

「いや周りに死屍累々と晒してるが…」

 

「ちょっと黙っていなさい。それに死んではいないわよ。多分」

 

 絨毯の中から小学校低学年辺りの女の子が出てきた。あどけない表情に涙を浮かべながら、おそらく自分を助けに来てくれたであろう日傘をもつ若い女に語りかける。

 

「お姉ちゃんが助けに来てくれたの…?」

 

 日傘を持つ若い女は、犯罪組織の構成員達に見せた悪鬼羅刹のような笑みではなく、慈愛に満ちた女神のような微笑みを浮かべながら、その少女を励ます。

 

「えぇそうよ…よく頑張ったわね。もう心配要らないわ」

 

「うぅ…うわーん!!怖かったよぉ!!」

 

 安心したからか、幼い少女は日傘を持つ女に涙を流しながら抱きつく。そしてそれを女は優しく受けとめる。その様子を眺めながら、浅黒い隻眼の刑事は最近購入した私物のポケベルではなく、レンタルしていた携帯電話で救援要請した県警警部や救急車を誘導していた。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

(少女安堵中…)

 

 ふぅー…なんとか助けることが出来たか。いやマジで焦ったわ。ぱっと見たところ負傷した様子もなさそうだし、一件落着かな?

 

 さすがは名探偵コナンの世界だけあって、誘拐事件も日常茶飯事なんだな。長野県でこれなら、東京…ってか米花町とかヤバいんだろうなぁ…。

 

 パトカーと救急車のサイレンが聞こえてくる中、大和敢助警部と一緒に誘拐された少女の話を聞いてみると、どうもこの少女はとある製薬会社の社長令嬢らしい。それで狙われたのか。隣でその製薬会社の社名を聞いた大和敢助警部が驚いた顔をしていた辺り、この世界では有名な企業なのだろう。

 

 さて…この後おそらく長野県警で事情聴取なんだろうけど、まずいな。本当にまずい。なんせこの名探偵コナンの世界に東方projectの風見幽香の身体で異世界憑依転生したんだから、住民票や戸籍なんてあるわけがない。そもそも人間じゃなくて妖怪なんだから、見た目の年齢はともかく、実際の年齢すら不明だ。まぁ東方projectでも書かれていなかったし、その辺は仕方ない。

 

 よし、しれっとフェードアウトしよう。某「千の顔を持つ魔女」だって似たようなことやってたし、いけるいける。

 

 そうして後ろ向きな決意をする中、再度県警本部(その割には所轄の名前と個人名らしき単語が出て怒鳴っているが…?)に連絡を入れているらしい大和敢助警部の様子を伺いながら、幼い少女が俺に囁いてきた。

 

「お姉ちゃん、困っているの?助けてあげようか?」

 

 

…無自覚なのか不明だが、これって悪魔のささやきなんじゃないっすかね…??

 

 




風見幽香さんは笑顔の似合う素晴らしい女性です。

ところで、今週のアニメ放送で遂に萩原千速さんが出てきますね!凄く楽しみ!
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