ある日の夕方。
俺は帰路についていた。
ただ過ぎ去っていく時間。
この世界はどうにも時間からは逃げられないようだ…
それはどの世界も一緒か。
御年29歳 身長177㎝ 体重74㎏ 妻子なし ただのサラリーマン。
これが俺のスペック。お腹は出てないし酒もたばこもしていない。
趣味はなし、特技は少し運動できるぐらいで特徴はない。
眼鏡もしてないし髪もボサボサでもない。
イケメンでもないしブサイクでもない俺はそう思っている。
実際にはそうだろう
普通に学生生活を行い普通に勉強して、普通に仕事して、お金を貰って過ごす面白味もない人生だ。
そんな俺でも最近いいことがあった。何となく友人から勧められた競馬をやってみたところこれがなんと大当たり。
久々に笑みがこぼれた気がした。
「こんな俺にも運気が来たのかな…」
あの当たった時の感覚を思い出してまた笑みが零れる。
ギャンブルとも無縁の人生だったが一回当たるだけですごい昂りだ。ギャンブル中毒になるのもうなずける。
俺はならんけどな。
まぁその金でどうするかは何も決まってはいないんだけどな。
だって趣味もない男が大金を手に入れたところで使い道がないに決まっているだろう。
だがまだ30手前使える時に使っておこう。何に使おうか…焼肉…回らない寿司…
……全部食べ物か……まぁあたりまえだろうな。
いつもより軽やかな足で帰路に就こう。
そう思った矢先俺の体に何かぶつかった。
「…は?」
俺は宙に浮いていた。
こういう絶体絶命の時って走馬灯が出るんじゃなかったっけ?
でも出てこないってことは俺の人生は薄いどころか透明そのものなんだろうな。
あぁ…遺産どうしよう…どうせ家族に折半されるなら可愛い妹に全額あげたかった。
競馬で勝った金も折半かぁ…
貯金はしてたし29歳ただのサラリーマンにしては多いくらいの金は持ってたな…
それに競馬の当たり金、相当な貯金額になっていただろうな。
水で助かるのではと思ったがその考えむなしく俺は地面に叩きつけられた
————
———
——
「ーーー!!」
「ーー!!---!!」
なにやら周りが騒がしい。
救急隊が来たのか?
どうせ俺はもう助からないしいいだろ
あぁ最後に可愛い妹の顔でも拝みたいし目でも開けるかって…
うまく開かねぇな…
「う、あー…」
口もうまく動かねぇ…
目も開かねぇ…
落ちた衝撃で何か障害でも起きたか…
あれだけの衝撃だしな。後遺症やら障害やら残っててもしょうがないだろ。
一体ここはどこなんだろうか。
「———!!————!!」
騒がしいが言っているのは日本語だと分かっている。
だがぼんやりとしか聞こえない。
もう死んでるも同然な男を介抱したところで意味もないだろ
早く死なせてくれ…
ーーー
俺はようやく意識がはっきりとしてきた。
どうやら俺は生きているらしい。
なぜ生きているかは自分でも分からない。
目の前には耳の生えた茶色の髪の女性とガタイの良い男性とこちらもまた耳の生えた小さな女の子。
なんだなんだコスプレ一家に見守られてんのか。が、悪い気はしない女性も女の子もどちらも可愛いからな
ガタイのいい男は…変な顔をしてるが何をしてるんだ29歳男に向かって…
手足も自由に動かせないし仕事にも行けねぇ
周りを見渡すと病院らしき場所というのは分かるし、きっと日本ということもわかっている。
ただどこの病院なのか。一体何の病棟なのか。というのは一切分かっていない
分かっているのはこの若い耳の生えた女子供に、ガタイのいい男が俺に付きっきりでいることだ。
お前らは俺を助けてくれたのか?
お礼はやるから今はここがどこか教えてくれ
一刻も早く帰って仕事を仕上げなきゃいけないんだ!
けがを治してくれてどうもありがとう!これでいいだろ! 早くここから出してくれ!!
そんなことを思っていたら扉から先生らしき人物が入ってきた
なにやら話している…おっとさっきの男女が喜んでいる。
ということは俺は助かったのだろう。
さぁ助かったのなら元の場所に帰してくれ。競馬の賞金が欲しいんだ。
「やったなぁ!」
男はそういい俺を持ち上げた
おいおいガタイがいいからって俺を持ち上げれるほどの筋肉を持ってるのかこいつ!
いや、待て…
持ち上げられたとき異様に頭が重かったな…なんでだ?
…このくらいなら足がついてもおかしくないのに足が宙に浮いてる感覚が新しい…
ふと俺は自分の手を見る
…は?
そこにはクリームパンのような手があった…
これ俺の腕か!?俺なのか!?確かに動かしてる感覚があるから俺なのだろう…でもどうして…三十路前の男の腕がこんなにも赤ん坊みたいに…
赤ん坊…?
今俺はどこから持ち上げられた…?
恐る恐る後ろを見る
そこには赤ん坊のベッド…いわゆるサークルベッドが置いてあった…
そこでようやく俺の置かれている立場を理解…ができてないが理解しようとした
ーーー
数ヶ月経ったが未だに状況は掴みきれていない。
友人に少しの間貸してもらった本の内容に似ているためきっと俺は生まれ変わったのだろうあの…”てんせい”?だったか?
宗教の教えとして輪廻転生というのがあるがこれはその類であろうか。
友人に貸してもらった本には”いせかいてんせい”?なるものをしていたが俺は確実に日本で生まれ変わっているため輪廻転生…新しい命として日本にまた生まれてきたのだろう。
ここは”いせかい”というものでもないだろう。
それとだこの家族はなかなかいい場所に住んでいる。
東京の一等地の高層マンションの高層階であろう。
東京タワーと東京スカイツリーが見える…
学生時代1度や2度来ただけでそれ以降来たことはなかったがこうして東京に生まれるとはな!競馬といい不運もあるが幸運の方も降り掛かってきてるのではないか?
まぁ死んだら元も子もないけどな…
今は赤ん坊ということで食事はミルクだが流石に母親とはいえ母乳を飲むのは気が引けるため粉ミルクを出してもらうよう愚図る。
大の大人が何やってるんだか…
自分のことを調べておきたい…そのためにも親の目を盗みなんとかしてパソコンに行かなくては…
ーーー
子供で過ごしているとはいえ精神年齢は30歳だ。
時間の流れは早いものでこの体になって1年が過ぎようとしていた。
そして言葉を発することも出来るようになってきた。家族への意思疎通も取れるってことだ。歩きも出来るしある程度は一人で出来てはいるが…
「そっちいっちゃだめ!こっちであそぶの!」
そうだ、俺には姉がいるんだった。これもまたすごいことであのガタイのいいお父さんの遺伝子を受け継いだかたった5歳の娘が赤ん坊の俺を軽く持ち上げる。
「こーらっ!あんまり抱っこしちゃ駄目よ。この子体弱いんだから」
そう母親が娘を叱る。体が弱いとな…まぁ多分産まれてすぐに泣かなかったことが体が弱いと見られているのは確かだな
小さい娘は好みでもなんでもないが正直遊ぶのは楽しい…ただ新鮮だってだけだな。
その日の夜、父が帰って来た。
「ただいまー」
「おかえり(なさい)」
あぁこういう感じ…懐かしい。何年も忘れてた感覚だな…それはそうと今日は日曜日、競馬のニュースと俺の死亡事故がニュースにでもなってないかそう思いテレビを見たが無かった。というかなんだか事件やら事故が少ない気がする…
そして耳と尻尾の生えた少女。つまり母と姉のことだ。ニュースを見ていて分かった。"ウマ娘"という種族らしい…超人的な走力、耳と尻尾…があるらしい
ここは日本だよな…?日本にもどこにもウマ娘なんて生き物はいなかったが…
今は西暦2024…俺が死んだ年の1年後だ…死んでから1ヶ月で俺は転生したところを見るにこのウマ娘という生物はその間に出現したと考えるべきだ。
しかしニュースにもなんでも最初からいたかのようなものばかりだ。歴史改変とでも言うのだろうか。俺には全く理解できなかった。
ひとまず俺はウマ娘という種族についてより調べなくてはいけないようだ。