正月が過ぎ温かくなってくる季節が来た。
この季節が一番好きだ。
暑すぎず寒すぎずと言いたいところだが俺の家は絶賛真夏。
なんでも、姉が重賞を勝ったらしい。
それで今日は姉の担当トレーナーをご招待し家でパーティーってこった。
あの父を持つと正直冬が真夏になる。
こっちの世界の松岡〇造だろ。
「トレーナーさんどうぞ~」
「奥さん、ありがとうございます」
「いやぁ、うちの娘をここまで育ててくれてありがとな!」
「いえ、○○さんの娘さんは基礎がしっかりしてたからですよ」
「アハハハ!そりゃどうも!!」
リビングに父の笑い声が響く。
もう酒が入ってるのだろうか
まぁ身内がめでたく勝ったんだ。
今日は俺も楽しく祝おう。
「そういえば彼が、」
と姉のトレーナーが俺のほうを見てそう言った。
なんだよ。見るなよ。恥ずかしいだろ。
「えぇ、本当はトレーナーになってほしいんですが、本人は普通の中学に行くと言っていてね……」
父が少し残念そうに、でもどこか嬉しそうに酒杯を傾ける。
「まあ、焦る必要はないでしょう。まだ12歳ですし、ご本人の意思が一番ですから」
姉のトレーナーさんはお穏やかに微笑みながら、お茶に手を伸ばした。
そうだ、それが大人の意見ってやつだ。助かる。
俺はただの29歳サラリーマンの生まれ変わりだ。前世でも目立った実績もなければ熱い情熱もなかった。二度目の人生をもらったからといって、急に主人公みたいに燃え上がれるわけじゃない。
冷めていて、無気力で、流れに身を任せる。それが俺という男のスペックだ。
「でもさ」
隣で肉を突ついていた姉が、ぽつりと口を開く。
「シンボリのあのふたり、アンタが普通中学行くって知ったらなんて言うかな」
「……は? なんでここで二人の話になるんだよ」
「だってさ、この前二人のトレーニングに顔出したとき言ってたよ。『あいつは絶対トレセンに来る』ってさ。シリウスなんて『来ねぇなら引っ張っていくだけだ』なんて言ってたし」
「……あいつら、勝手なこと言いすぎだろ」
脳裏に、本屋の帰り道で服の裾を強く掴んできたシリウスの感触や、不機嫌そうに顔を背けつつも俺の言葉を待っていたルドルフの姿が浮かぶ。
来年、あの二人はトレセン学園へと旅立っていく。
圧倒的な才能と情熱を持って、華やかな世界へと走っていくんだ。
それに比べて俺は、相変わらず自分の人生にすら身が入らない無気力な男のまま。
(……ほんと、何なんだろうな)
あんな眩しいやつらに引きずり回されるのは嫌だし、面倒なことには巻き込まれたくない。
だけど、完全に突き放して逃げるほどの冷酷さも持ち合わせていない。
我ながら実に半端で、流されやすい性格だと思う。
「……父さん」
「ん? なんだ、T」
「……気が向いたらでいいんだけど。トレーナー試験の参考書とか……あるなら置いといて」
俺がぼそっと呟くと、一瞬リビングの時が止まった。
次の瞬間、父が「おおおっ!!」と重厚な歓声を上げて俺の肩をバンバンと叩いてきた。痛いって、熱血親父。
母さんはクスクスと笑い、姉は「素直じゃないねぇ」とニヤリと鼻で笑った。
────
それから数ヶ月が経ち、温かい春がやってきた。
桜が舞う中、俺は普通の中学校の制服に袖を通した。
自分の部屋のデスクに向かうと、端の方に積まれた父からの分厚い参考書が目に入る。
まだページを開いてすらない。俺の無気力さは、そう簡単に治るものじゃないらしい。
窓の外を眺めると、どこまでも青い空が広がっていた。
来年には、あの二人がトレセン学園に入学する。
俺がこのまま静かな普通の中学生として終わるのか。
それとも、あの勝手なやつらに引っ張り出されて、また面倒な巻き込まれ方をされるのか。
「……まあ、なるようになるか」
椅子の背もたれに深く体重を預け、俺は小さく息を吐いた。
自分の未来すら他人事のように思いながら、ただゆっくりと過ぎていく春の時間を眺めていた。
完
みなさん、大体察し付くでしょう。
打ち切りです。
ここで私のウマ娘作品はすべて終了となります。。
勤め人はもっと書きたかったですがもう何年も書いてないです。
これが正真正銘最後のウマ娘作品です。
またどこかで私の作品を見ることがあれば応援をよろしくお願いします。
関わってくれた方。作品を待ってくれた方。youtubeまで見に来てくれた方。様々な人に出会えたそんなウマ娘SS生活でした。
ハーメルンはこの作品だけでしたが短い間ありがとうございました
ではまた。