異世界は平面ですか?   作:生き残れ戦線

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プロローグ

それはありし日の記憶。

 

「お父さん世界平面説ってなに?」

「ほら、こんなふうに海が下に落ちてるだろ?昔の人は地球が平面だと思っていたんだ」

「ほんとだ....この形って何だかUFOに似てるね」

「UFO......はは、ほんとだUFO(平面)に世界が乗ってる」

「じゃあさ世界が平面(UFO)なら飛んで来れるね僕達の世界に!」

 

 

 

それは唐突に現れた。

異世界ベヘリッドが広大な太平洋の直上に大陸ごと転移してきたのだ。

それは異世界からの来訪者だった。

まずベヘリッド大陸の出現によって何が起こったかというと海水面積が上昇した。海に落ちたベヘリッドによって起きた洪水は全世界に影響を与えた。それは僕の住む日本においても例外ではなかった。強大な津波が沿岸部を襲い僕達はそれを見ている事しかできなかった。今でも覚えている当時平凡な学校生活を送っていた中学生の僕は放送部員で放送室には唯一のテレビがあった。それで昼休みに僕達はその光景を目撃していた。その頃の僕達は只の傍観者だった。なにもすることができずただその災害を見ている事しかできない。

 

一か月後、混乱が落ち着きを取り戻し始めたころアメリカ政府がベヘリッド大陸の異世界人と初めて接触をすることになった。世界中に発信された。未知なる存在ベヘリッド大陸とその人々。どのような姿をしているのかどのような文明なのかみんなが知りたがっていた。真っ先に動いたのは国連ではなくアメリカ政府だった。

さすがは世界一の国というべきか軍艦を差し向けてベヘリッド大陸に乗り込んだのだ。それが自分達の役割だと言わんばかりに。これも世界初の事である。世界初が好きなのかな。

 

ベヘリッド大陸側の使者と初めての会談の席が設けられた。それも全て中継された。

初めて彼らを見て驚いた。姿かたちが異なるのもそうだが全員が総じて粗末な服を着ていた。まるで原始人だ。明らかに文明が進んでいない証拠だ。歴史の先生がそう言っていた。

彼らには悪いが僕達は笑って安堵していた。

僕達よりも科学が進んでいたらどうしようと怖かったのだ。

きっとアメリカ政府の使者団もそう思ったのだろう固い表情だったのが笑みがこぼれていた。

これなら喧嘩をふっかけられても勝てると思ったのだろう。

 

後日、改めて会談を行う事を約束して一度目の接触は無事に終わった。

世界中が安堵した瞬間だろう。

だがそれも二度目の会談までだった。

 

圧巻だった。

ずらりと並ぶ異人種達。

竜神族・エルフ族・馬神族・ドワーフ族・蛇神族・ダークエルフ族。

その誰もが煌びやかな服装で揃えている。ベヘリッド三王国の貴族達である。そのいでたちに一番驚いたのはアメリカ政府の役人さんだろう。粗末な服装を着ていた人物が次に会った時にはスーツに身を包んでいたのだから。僕達の世界の。

そうすでにして最初から負けていたのだ。

 

「初めまして新世界のお客人、私は三大神族が一柱、蛇神族のシャーシャ・ズールー、今回の交渉役を任せられている者だ」

 

蛇神族と名乗る彼は最初の接触者の一人だ。

前回はたどたどしかったはずの言語も今では流暢に英語を話してさえいる。

一見人とそう変わらないが目や肌の質感が確かに蛇のようだ。

今回の為に同行していた手話や民俗学の専門家達(NASAから選ばれた人達)の存在は意味がなくなり終始ベヘリッド側主導の下、相手側有利の交渉で進んでいった。

そして結ばれたのがベヘリッド平等通商条約という名の不平等条約である。

まず太平洋を結ぶ海上航路を封鎖されベヘリッド政府の許可がなければ通れないというものだ。

次に関税自主権を一方的に奪われた。アメリカ政府はベヘリッド政府の決定がなければ関税を上げられなくなった。おまけに治外法権までベヘリッド優遇となっている。

アメリカ政府民主党の人道措置があだとなった形だ。

 

まるで現代の江戸幕府のようだと先生は言っていた。

まさにアメリカ政府痛恨の極みである。

今や世界の半分のタンカーが太平洋を渡って貿易を行っている。

それを止められたとあっては世界経済に悪影響だ。

世界中の国がアメリカに文句を言った。

踏んだり蹴ったりだ。

そのせいでG7を始めとした国々も同様の取り決めを結ばざるをえなくなったので彼らの怒りも仕方ない。当時の僕には難しくてよく分からなかったけど。

その後もアメリカ政府は何度も会談を行ったが状況は芳しくなく。

世界株価指数は下降し続けついに世界の国々の経済が不況に陥るまでになった。

とうとうアメリカ政府は腹を据えかねた。軍事的介入を行う事で状況の打開を開始する。

つまりは戦争である。

 

ベヘリッド大陸転移事件から一年後、アメリカ軍はベヘリッド大陸上陸作戦を開始した。

 

  

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結果だけを言うならば第一次上陸作戦は不発に終わった。

というより上陸部隊が消えたのだ。まるで幽霊のように忽然と。数万人のアメリカ兵がベヘリッド大陸のどこかに。

今でも覚えているニュースで連日放送されていたから。

いくら軍の監視衛星で探しても彼らは二度と見つかることはなかった。

それから直ぐにベヘリッド軍の反撃は始まった。

攻撃目標にされたのはハワイ諸島だった。防衛部隊の抵抗むなしく未だ兵士達の消失から立ち直れていなかったアメリカ政府は瞬く間にハワイ島を奪われた。

 

その翌日、ベヘリッド大陸軍のアメリカ本土上陸侵攻が始まった。

いくつもの軍船が沿岸海域を埋め尽くした。

そこから何万人もの異形の人からなる軍団が降りたつといよいよ。

迎え撃つアメリカ軍との本格的な戦争が始まった。

 

当初の動きとしては連日連夜アメリカ軍の優勢だった。圧倒と言ってもいい。

ベヘリッド軍は西海岸の都市に入るどころか海岸を超える事すらできなかった。

おびただしい死体がウエストバレー海岸に積み重なる結果となった。

異相を誇るベヘリッド軍は何も出来ないまま、アメリカ軍にすりつぶされていった。

アメリカの誇る空母群が到着するといよいよ勝敗は確定するかに見えた。

 

だがそこで転機が訪れた。後の歴史家はこの戦争には大まかに分けて三つのポイントがあったと言う。

一つはこの海岸戦、そして二つ目は魔獣の解放だ。

ベヘリッド大陸には多様な動物が生きている。その一つが魔獣である。

地球の動物を遥かに超える強靭な肉体を誇り銃弾をも跳ね返す。

脅威の魔獣が西海岸に解き放たれたのである。

ここから先は対人ではなく対魔獣戦に移行する事となる。

 

防衛線に穴が生まれるのは時間の問題だった。

アメリカ軍の被害は藁山に火を放ったように増えていった。

村や町が襲われる報告が増え大都市にまでその被害は及んだ。

アメリカ史上初の本土決戦に国民は総力を上げて戦った。

一般市民も銃を手に魔獣と戦ったという。アメリカ政府の立ち上がりも早かった。

すぐに対魔獣特別本部とチームを立ち上げて魔獣討伐に乗り出したのだ。

それらは一定の成果を上げた。

魔獣の進行を一度ならず幾度もはねのけた程だ。

兵士と国民が力を合わせた結果だろう。だがそれも長くは続かなかった。

 

たった一匹の魔獣によって。

 

最初の報告はカリフォルニア州の基地から。

それは黒い馬だった。

それはあまりにも大きい。

連なる山脈の頂きよりも大きく天を衝くほどの。

圧倒的な大きさの馬。馬神である。

 

馬神はただ歩くだけでよかった。

それだけで村は消滅した。

馬神はただ駆けるだけでよかった。

それだけで都市は崩壊した。

それだけで百万人以上の人間が死んだ。

 

破壊をまき散らした馬神はアメリカ大陸の横断を始めた。

アメリカ軍の必死の抵抗も虚しく大陸は蹂躙されていった。

それを僕達は、いや、人類はただ見ている事しかできなかった。

世界で一番強い国が崩壊していく様を。

 

その様を見ていたアメリカ大統領は決断した。

核兵器の使用を。

 

アメリカ大陸中部に馬神が差し掛かったところ。

千の爆雷が降り注いだ。それでようやく足が止まる。

空を覆いつくさんばかりの爆撃機と地上からのミサイルによる一斉攻撃である。

世界中の火を一か所に集めたような光景だった。だがそれでも神は死なない。

傷を負いつつも歩みを再開しようとする。

その瞬間である。核弾頭が馬神の頭上に撃ち込まれた。

光の炸裂。それが三度続いた。

人類史上初の一度に複数の核兵器が使われた瞬間だった。

その歴史的な光景は馬神の死によって幕を閉じる。

世界中が歓喜に包まれた。

 

だが魔獣との戦争は終わらない。

今もまだ奴らとの闘いは続いている。

そしてそれは世界を巻き込む戦いの始まりに過ぎなかった。

僕達の暮らす日本もまた例外ではない。

むしろ最も苛烈な戦いに身を置かれることになる。

 

 

2

 

7月14日08:56~

 

太平洋側沖合に未確認生物の奇妙な影が現れた。同時期に複数の艦船が海上より消えた。

直ぐに敵の攻撃だと理解した日本政府は海上自衛隊を向かわせた。

直ぐにそれは一匹の海蛇だと分かった。

だがやはりその姿形はこの地球上のどの生物よりも異なりビル程の大きさがあった。

日本政府はそれを蛇神(マダラオロチ)と呼称した。

蛇神は恐ろしい程に強かった。

蛇神は迎え撃った防衛艦をことごとく撃沈すると、潜水艦部隊の到着を前にゆうゆうと東京湾に入った。平和に慣れていた日本人はここでようやく危険だと理解した。都心から避難する車で道路が一杯になったのを覚えている。日本政府は緊急事態宣言を発令した。家から出る事を自粛させパニックにならないよう呼びかけた。東京湾に陸上自衛隊の戦車が展開される。

その翌朝、日が昇らぬ内から戦火は切って落とされた。

みんなが固唾をのんで見守る中、お昼ごろまで戦況は膠着していた。

僕は家でのんきにお昼ご飯を食べながらテレビで見ていた。

釘付けだった。蛇神に向かって多方向から弾幕が降り注ぐ光景に。

蛇神の体が崩れ出した。

効いている、誰もがそう思った。異変が起きたのはその後だ。

海中から大蛇が出現したのだ。その数は見渡す限りに居た。

その正体は崩れ出したと思われた蛇神の体から作られていたのだ。

削られた肉片が大蛇に姿を変えて自衛隊を襲い始めた。

そこからは地獄絵図だった。それを映していたマスコミも逃げ出すほどに。

ショッキングな光景が映し出された。無数の大蛇によって大勢の人間が丸呑みにされていく、

近隣に住む人は逃げてください逃げてくださいと何度も連呼する声。

それを見た僕は震えあがった。母が抱きしめてくれた。

 

「お父さんは大丈夫かな?」

 

父親は自衛官だった。もしかしたら父さんもあの戦場にいるかもしれない。きっと大丈夫よと優しく言ってくれたが母も心配そうだった。

その夕刻、父さんが慌てた様子で帰って来た。直ぐにここから逃げる準備をしろと。

 

「どうしたのあなた」

「もう奴らがすぐそこまで来ている!」

 

驚く事に東京都心から離れたところに住んでいた僕の家にまで敵の脅威は及ぼうとしていたのだ。尋常ではない早さで制圧されている。あれから数時間しか経っていないのに。

都市機能は完全に沈黙し総理大臣を始めとした官僚も既に避難したそうだ。

残った各部隊が展開し遅滞戦闘を繰り広げているらしい。

東京は捨てられる。それを聞いて息をのむ母。

僕も事の重大さを理解する。

逃げなきゃ。

 

通りはもう人で一杯だった。みんな一様に怯えている。

車で逃げようにも遅々として進まない。

車のガラスが叩かれる度に僕は肩をすくませた。

時折、誰かがガラス窓を叩いているのだ自分も乗せろといわんばかりに。

途中自衛隊の人達が避難誘導をしていた。

それでようやく流れがスムーズになり車も前に進めた。

ほどなくして避難区域を抜けるための大橋が見えて来た。川を超えた先が安全地帯だ。

橋の入り口で自衛隊がゲートキーパーをしている。

何とか無事に行けそうだとずっと固い表情だった父さんが安心したように言った。

 

その時だ、列の遥か後方から大蛇の一群が現れたのは。

後部座席を振り返ると人々が恐怖の悲鳴を上げているのが見えた。

何事かと思ったら大蛇が首をもたげて起き上がっていたのだ。ビル四階はあろうかという見上げる程に大きな体だ。ここからでもよく分かる。誰もがそれを目にした。

途端に集団はパニックになった。

我先にと走り出し列を抜かし始める。

人の波がどっと押し寄せてくる。

どんと鈍い音が鳴る。フロントガラスにひびが入った。

それがとても怖かったのを覚えている。

 

「オシオ!どこに行く!?中に居なさい!」

 

気づいたら車の外に出ていた。

人の恐怖にあてられてしまったんだと思う。

ここにいたら危ないよ早く逃げないと。

そう思って飛び出した世界は混沌としていた。

人が人を押しのけて自分は助かろうとする浅ましさ。怒気混じりの悲鳴。

秩序の崩壊した光景に人食いの大蛇が徘徊する地獄のような現実に僕は逃げ出した。脇目も振らず走り出した。父と母を置いて。

 

どれだけ走っただろうか。

心臓が破裂しそうだ。眩暈もする。

あまりの辛さに路地裏に入って休憩する。

そこで我に返った。

 

「母さん....父さん?」

 

呼びかけてみるが返事はない。

今さら罪悪感が湧き上がる。逃げてしまった両親を置いて。その事実を受け入れられなくて泣きだす。ここがどこかも分からない。誤って横道に入ってしまったようだ。

表通りでは依然として人が大挙として逃げている。

僕も逃げなきゃいけないのに疲れて動けない。

もっと早く動くための脚があればいいのに。

 

この状況を脱出するには圧倒的に力が足りない。

その時の僕は現実を恐れて縮こまる幼子でしかなかった。

自分の不甲斐なさを嘆いていると頭上に影が差した。

 

建物の上から一匹の大蛇が僕を見下ろしていた。

ゆっくりとこちらに向かって首をもたげている。その眼に射抜かれたように僕はその場を動けなかった。

 

「シオ!どこだ!」

 

父さんと母さんの声がする。駄目だこっちに来ちゃだめだ。僕は悲鳴を漏らすのを必死で堪えた。僕の悲鳴を聞いて父さんと母さんがこっちに来ないように。大蛇に食べられないように。

そんな僕の意思をせせら笑うかのように大蛇は父さん達のいる方を向いた。

 

「やめて....食べるなら僕だけにして」

 

僕は必死の念を込めた。

意外にも大蛇は僕を見た。いいだろうと頷いたのだ。

大蛇は口を開いた。白いナイフの牙が覗く真っ赤な口内を見て僕はゾッとした。立っていられなくなり地面に倒れこんでしまう。頭からぱっくりいかれるのは嫌だった。

幸いというべきか大蛇は僕を足から呑みこんだ。ぬろりとした生暖かさに僕はもう観念した。もう終わりだここから助かる術はない。

腰から下はのまれてしまった。僕の体は宙ぶらりんになる。

死ぬそう思って目をつむる。

 

「やめろおおおお!オシオを離せ!!」

「父さん?.....母さん」

 

見れば両親が僕を見上げていた。大蛇にのまれかかる僕の姿を。

二人が絶望の表情になる。

少しだけ嬉しかった。探しに来てくれてありがとう。

父さんが僕に手を伸ばす、僕も手を伸ばす。

 

「父さん母さん.......逃げて!」

 

何とかそれだけを言うと僕の体は完全に大蛇にのまれた。ごくんと一息にのみこまれたのだ。

ずるりと胃袋に落ちる感覚を感じながら、僕はそのまま地面に尻もちをついた。

柔らかい土の地面に。

起き上がり辺りを見渡す。

突然の状況に追いつけない。

 

なぜなら今僕は見渡す限り緑豊かな丘に立っているのだから。

僕意外にも大勢の人がそこにいた。

みんな僕と同じで状況が分からないらしい。

だけど一つだけ共通するのはみんな僕と同じ日本人ということ。

訳も分からず立ち尽くしていると周囲に蛇神族の男達が立っていた。

そして前に出たのは何処かで見た顔の男だ。

 

「初めまして新世界のお客人、我は三大神族が一柱シャーシャ・ズールーと言う者、ようこそ我らがベヘリッドへ....歓迎しよう」

 

男はそう言って笑みを浮かべた。

蛇のように狡猾な笑みを。

 

 

3

 

 

「お前達には我と契約してもらうぞ」

 

ベヘリッドにやって来た僕達を待ち受けていたのはシャーシャ・ズールーだった。アメリカ政府と初めて接触した使者団の中に居た一人だ。テレビで見たのと同じ顔だ。

確か三大神族の一つ蛇神族と呼ばれるベヘリッドでも特別な存在らしい。

どうやら彼の力でこちらに送られたようだ。

まだ困惑していた。

 

「お前達に与えられた選択肢は二つ、一つは我と契約し下僕となるか、もしくは.....」

「おいおい何だよここは!どこなんだよ!」

 

シャーシャの声を遮って若い男がいきりたつ。

状況が分かっていないのか分かっていてがなり立てているのか知らないが勇気のある男だ。その声に共感したのか周りの人達もそうだそうだと声を上げる。

味方が出来て気を良くしたのか男が更に文句を言おうと近づいた次の瞬間、どこからともなく現れた蛇が男の首を噛んだ。がぶりと牙を突き立てる。

男は真っ青になって血泡をふいて倒れた。死んでいる。

 

「......もしくは我が眷属の餌となるか選ぶがいい」

 

契約か死か二つにひとつ。

僕達は選ばざるをえなかった。

勿論死にたいものは一人もいない。

僕達は彼の下僕になる事を選んだ。

 

「ならば受けよ我が魔を【蛇神魔法】第一段階『知恵の実』」

 

そう彼が唱えると不思議な事が起きた。

僕達全員の手にリンゴ大の果実が現れた。

 

「食え、さすればこの世界の真理に触れる事が出来よう」

 

有無を言わさぬ迫力に訳も分からず僕達はその実に噛りついた。

途端に体が熱くなる。世界が逆転する。

吐き出しそうになるのを必死で我慢した。やがて落ち着いてきた。

目の前にかかっていた霧が晴れたような気分だ。

左手を見ると斑模様の刺青が浮かび上がる。

これは.....?

 

「自らの血を媒介に使用者に知恵を授ける魔法だ。知恵とは我が情報、ゆえにお前達はこの世界の言語と魔法を使えるようになった」

 

魔法。お伽噺の産物。

俄かには信じがたい。

皆も同じ気持ちなのだろう。怪訝な顔をしている。そんな僕達を見てシャーシャは魔法の使い方を教えてくれた。

 

「念じろ、さすれば我が叡智が答えてくれよう」

「うわああああなんだこれ!?」

 

さっそく念じたのか驚きの声を上げる人物がいる。

腕が剛毛でおおわれていく。何らかの動物の腕のようだ。

 

「それは第二段階『変異』だ。我が魔法は取り込み与える力」

 

こんな力を与えて僕達に何をさせようと言うのだろう。

まるで僕の考えを読んだように彼は言った。

 

「我の目的は一つ。分裂し取り込みまた一つとなる事。最強の個へと、そのための贄だお前達は。簡単に言うならそうだな.....先程の男から取り込んだ趣味嗜好(ゲーム)で言うならばこれはクエスト(試練)だ。主題はベヘリッド大陸の生物を狩猟し取り込むこと、エンディングでは神の贄となり捧げられ新たなる神となるべく神の産みなおしを行う。先の戦いで数が減ったのでな増やす必要がある」

 

これも知恵の実の影響か彼の言葉を理解できる。

先の戦いとはアメリカとの闘いの事だ。あれによって大勢のベヘリッドの民が死んだ。その為に新たな神がつくられる。それは新たな種を生むためでもある。

その為に僕達が必要なんだ。新しい世界の種が。

 

「さしずめここは拠点だ、名前はそうだな人間牧場とでも名付けるか」

 

つまりは家畜のような存在なんだ。

新しい神の為に生かされているだけの供物。

僕達にはそれを拒否する権利も力もなかった。

暗い感情が僕達を襲った。

 

「案ずるな羊達よ、お前たちの自由を奪いはしないさ」

 

異世界ベヘリッド。そこは神を名乗る者達が支配する世界だった。

でも僕はきっと助けが来ると信じていた。

異世界の様なこの世界も日本と繋がっているんだから。外から父さん達が助けに来てくれるって、そう思っていたんだ。そんな淡い希望を抱きながら日々を生き続けて。

 

それから10年の歳月が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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