異世界は平面ですか?   作:生き残れ戦線

3 / 7
二話

「ぎゃははは!」

「飲め飲め!」

「食え食え!!」

「踊れ踊れ!!!」

 

村の広場ではもう宴が行われていた。

宴会芸が盛り上がっているようだ騒がしい声が聞こえてくる。

もう出来上がっている者もいた。

まだ始まってすらいないというのに。

 

オシオは呆れた目でそれを見ていた。

酒杯の酒を見て。まあ仕方ない事なのかもしれないと思う。

こういう日でないと酒が飲めないのだから。ついつい飲み過ぎてしまうのだろう。

というのも酒は貴重だ。

酒造メーカーや工場もここにはない。全部自分達で作らなければならない。

そうなると飲める量も日も限られてくる。

ちなみに村では芋に似た穀物を使って焼酎を作っている。少し辛いが癖になる味だ。

 

「お兄さん注ぎます」

「ん?.....美久か」

 

空になった酒杯に注ぎ直してくれたのはミクという少女だった。

齢15でありながら弓を使い獣を狩る狩人の一人だ。重要な村の守り手でもある。

なみなみと注がれた酒杯を一気に飲み干す。

 

「お見事です」

「別嬪さんに酌をされたら飲まない訳にはいかないさ」

「別嬪さんですか......えへへありがとうございます」

 

無駄にかっこつけた事を言う。

ミクは素直に受け取った様子で喜んでいる。悪い男に引っかからないといいが。

 

「お兄さんが駆けつけてくれなかったら.....おばさんや私達は死んでいたと思います。みんなお兄さんに感謝してましたよ」

「まさか森に鹿狩りに出かけたはずが、あんな化け物退治をする事になるとは思わなかったな、誰も犠牲にならなくて良かったよ」

 

彼らに贈る物もできたことだし言う事はない。

そういえば今夜の主役二人はまだだろうか。

 

「お兄さんは凄いです。あんな恐ろしい怪物を倒してしまうんですから、それに比べて私は.....力不足です、それを今回は痛感させられました」

「そんなことないぞミク達が踏ん張ってくれたから誰一人死なずにすんだんだ。ミクは凄く頑張ってる。それにな俺がミクの年の頃なんてサーペント一匹に何も出来ず、立ち尽くす事しかできなかったんだ。それに比べたらあの魔獣と立ち向かえるミクは俺よりもっと強くなれるよ」

「10年前の拉致事件ですね.....その時は私は五歳でしたからよく覚えてないんですが、姉と一緒に逃げていてとても怖かったのを覚えています」

「みんな怖い思いをして、それでも生きたかった。だから俺達は強くなれたんだ」

「どうやってお兄さんは強くなれたんですか?」

「......友人の存在かな、誰かと一緒にいれば守ってもらえる。代わりに俺も守りたい、そうやって協力していけば人は自然と強くなってるものさ」

 

俺が見たところミクにもそういう友人がいるはずだ。

戦っている最中でもお互いを守ろうとしてた彼女達なら。

きっと俺がびっくりするくらい強くなれるはずだ。

そう言うとミクはうんと頷いた。眩しい笑顔だ。

 

「.....来たぞ主役が」

 

 

 

 

 

 

新郎新婦が現れた。

紋付き羽織袴(あくまでそれに寄せた風の衣装)を着た男はあからさまに緊張した面持ちで、ガチガチになっている。女性の方は白無垢を着こなしている。緊張の様子もなく自信に溢れていた。本当に釣り合いの取れていない二人である。

それを観衆にもいじられている。全部男のヤジだ。

 

「許せん!集落一番の美人を!」

「我々は認めんぞー!」

 

主に嫉妬のこもった言霊だった。

祝い酒かと思ったらヤケ酒だったのか。

紋付き袴の新郎がぶちぎれる。

 

「うるせー!お前らちゃんと祝えよ!」

「バッカ野郎大樹(ひろき)!美羽ちゃんを幸せにしろよな!」

「うおおおん美羽ちゃんを泣かせたら許さねえからな!」

 

怒り出すわ泣き出すわ勝手に祝いだすわで式はもうめちゃくちゃだ。

ヒロキがわなわな震える。

くすくすと美羽が笑っているのに気づく。

 

「美羽?」

「ヒロキさん私嬉しい、みんなに祝ってもらえて」

「祝ってるのかなあ、これ?」

「そうだよ」

 

美羽がこくりと頷く。

こんな日が来るなんて思わなかった。

もうおしまいだと思った日が何度もあった。

この人とシオ君が立ち直る希望を与えてくれた。

感謝している。それを少しでも返したい。

 

「それでは誓いのキスを」

「え?これって西洋式なのか?」

「やれーきすしろー!」

「やめろー!」

 

そんなの聞いてない。困惑するヒロキをよそに観衆の盛り上がりは絶好調だ。

抗議の声もあるが。意気地のない男に変わって美羽からキスをするのであった。

全く戦い以外はからっきしだな。そうミクに言うと「.....そうですね」と返された。何やら含みがあった気がするが理由は思い当たらない。

 

それからは粛々と婚儀は進み神主が祝詞を唱え幕を閉じた。

それで解散ではない。むしろこれからが本番だと言わんばかりに披露宴が行われた。

司会進行役の男がマイクパフォーマンスを行う。昔そういう仕事に就いていたらしい。

 

「さあ皆さま!今宵の宴の主役の登場だ!何でも北の森を超えた先から来たとか来ないとか!村始まっての大物!森の主の登場だ!」

 

今日の主役は俺達じゃ?と呟くヒロキの言葉は無視される。

どでんと広場に運ばれる魔獣の頭。まさか鯛の頭の真似か。

確かにめでたい感じが出てるけど。

 

「本当に食べれんのかこれ?」

 

ヒロキが戦々恐々としている。お前は何でも食べるだろ。

流石に美羽もこれには驚いている。

 

「御覧の通りまるで神か悪魔の様でございますな!それを討伐せしめたるは、こちらにおわす鹿王(ししお)オシオ!村一番の狩人にござーい!!」

「よっ日本一.....いやベヘリッド一!」

 

どうやら呼ばれているようなので立ち上がる。

その場のノリで片手を突き上げてみた。

拍手喝采が鳴り響く。

こういう場はあまり得意ではない。少し面食らった。

 

どうやって倒したのか等、その場面の再現をやらされた。

寸劇の様な事を数分やらされた時は勘弁してくれと思った。

それでも何とかやりきった頃には別の意味で疲れた。

 

「それでは魔獣を討伐したシオにまず料理を食べてもらいましょう!」

 

聞いてないぞ。

新郎新婦にサプライズのつもりが俺にサプライズしてどうすんだ。

しかし食べないわけにはいかないか。

そう思っているとミクが「私もお料理を作ったんです」とこっそり言ってきた。食べない訳にはいかないな。出された皿は煮物料理だった。

見た目は良い。ブリ大根みたいな感じだ。

味は......。意を決してぱくりと食べてみる。

 

「!!.......う」

「う?」

「う、うますぎる!!」

「!!」

 

俺のコメントを聞いた観衆達も料理を口にし始める。そこは新郎新婦じゃないのかよ。もう待てなかったのだろう食に関しては人一倍関心のある我が第六集落の村民達だ。

口にした瞬間、衝撃を受けた顔になる。

今まで食べたどんな動物よりも美味かった。たぶん日本で暮らしていた時でさえこんな美味いものはなかった。そう自信をもって言えるぐらいには美味い。

鶏肉の様なプリプリの弾力と牛肉よりも深い肉の味なのに豚肉よりも食べやすい。魔法の様に噛めば噛むほど肉汁があふれてくる。もう食物としてのステージが違い過ぎる。

有名料亭で働いていたプロの料理人まっさんこと松田周作が作る料理の数々に俺達は涙した。

 

「俺達の結婚式そっちのけになってない?」

「ふふ、美味しいですよ」

 

新郎新婦も料理に舌鼓をうってるようで安心した。

大変な思いをして魔獣退治を頑張った甲斐があった。

それにしても、結局この魔獣の正体は分からなかったな。

俺達は知恵の実を食わされ蛇神の知識を与えられている。だからこの周域にいる大抵の動植物に関する知識はある。それらの知識に該当しなかったという事は、それより遠くからやって来たという事に違いない。だとしたらなぜ、魔獣はこの地にやって来たのだろう。

ただの気まぐれか。それとも.....。

何かの予兆じゃなければいいが。

 

ともかく翼もつ蛇の魔獣は余さず6000人の腹の中に納まったのであった。

 

 

 

 

8  

 

 

その日の夜。

宴も終わりみなが寝静まったころ、寝ずの番をしていた門衛の為吉が何度目かの欠伸をした。

 

「いやー食った食った久しぶりにたらふく食えたな」

「だな、もう思い残すことはねえよ」

 

縁起でもない同僚だと眉を顰める。だがそうだな、それくらい食えた。

こんなに飯の貯蔵を気にせず食えたのは何年ぶりだろうか。

ここには食べられる物は多いが危険も付きまとう。

日々、節約して生きて来た。

俺も狩りの一つでも出来れば違うんだろうが、残念ながら俺には狩りの才能も魔獣と戦う才能もなかった。村の中にこもり仕事をするしかない。

だから為吉は狩人を尊敬していた。

 

「オシオは凄いなあ、あんなでかい魔獣をかっさばいて」

「だな、俺達は腹の中だな」

 

まただ、縁起でもねえことを言う。

だけども同僚の言う通りだ。俺達じゃあ何人いても戦力にはならない。

だからこうして誰もやりたがらない門番をかって出たのだ。

少しでも村のみんなの役に立てればと。

 

俺達は戦えない。でも役に立てない訳じゃない。

それが村長が俺達に言ってくれた言葉だ。

 

「そいや村長も食べたのかな見かけなかったけど」

「知らんのか?隣村に行っとったんよ大事な会議だったらしいぞ、夕刻頃に帰ってらしたからお休みになったんだろう」

「そうだったのか為吉は物知りだのう」

 

このごろ村長は村を空ける事が多くなった。近隣の集落を訪問しては何らかの取り決めを行っているようだ。ほとんどは商売の話だろう。最近ようやく交易が盛んになってきた。

そのおかげで各地に散らばる集落の近況報告が届くようになり、それが俺達の数少ない娯楽になっていた。意外と面白い話が聞ける。

特に最近の勢力図は面白い。

東側の集落は一つ一つが同盟を結んで自由都市みたくなっているとのこと、返って西側は10ケの集落が一つ所に集まって大都市を築いているとのこと。そこは本殿と呼ばれる場所があり蛇神様を祭っているのだとか。そのため首都と呼ばれているそうだ。

中々に興味深い話だ。

 

「俺達は人の歴史をなぞっているだけなのかもしれんな」

「だな、人はいつか誰しも骨になる」

「まただ、不吉な事を三度も言うな現実になったらどうするんじゃ」

「あはははそんなわけない......」

 

だろと言い切る前に同僚の胸に矢が刺さった。

いきなりの事に理解が及ばず、同僚が何かを言おうとして倒れる。

 

「.....っ誰だお前ら!」

 

気が付いたら囲まれていた。闇夜に乗じる為に黒服で全身を統一している。明らかに異質な敵だ。何でこんなに近づかれるまで気付かなかった。まるで気配を感じない。

とにかくこの事をみんなに伝えないと。

 

「敵襲!てき——グァッ」

 

背後から胸を一突き。手刀が背中から胸にかけて突き破って出て来た。尋常じゃない剛の業だ。恐らく人ではない何かだ。伝えなきゃオシオやみんなに。

 

「へびがみ....ま、ほう、へんい.....」

 

戦闘向けじゃない為吉の使える唯一の魔法を唱えた。

手全体が巻貝になる。死にていの体で親指を吹いた。すると重低音が辺りに響き渡る。それはあまりにか細く大きくはなかったが芯のこもった音だった。

そこで限界を迎えた為吉はこと切れる。

 

 

 

 

 

 

9   

 

「....為吉?」

 

目を覚ます。

いま確かに一瞬だけど為吉の手笛が聞こえた。

聞き間違えるはずがない。あれは俺達狩人が教えた技だ。

危険を知らせるためのシグナル。

為吉はその技を一番上手く扱えた。何かあったんだ。

 

ちらほらと他にも広場で寝ていた人達が起きてきた。

俺と同じ狩人達だ。やはりあの音を聞いたのだ。

 

「みんな起きろ!」

 

眠っている者達を呼び起こす。

何だ何だと騒ぎだす村人達。もう朝かぁ?とぼやいている。まだ状況が分かっていない。だが状況は待ってくれない。何かがこちらに向かってくる。凄い速さだ。しかし森の獣や魔獣といった気配ではない。もっと陰気な感じだ。

 

「.....オシオ」

「ああ、何かがこの村に入って来てる」

「かがり火を燃やせ!」

 

嫌な気配だ。

どこに何がいるのか良く分からない。かがり火によって周囲が照らされてゆく。

その正体が現れた。

 

「何だあいつら!?」

 

そいつらは音もなく気づいたら周囲の屋根に立っていた。ざっと30人はいる。

黒の法服を纏っている。影法師だ。黒い弓矢で武装している。

そいつらは予告もなく攻撃を始めた。黒色矢を村人たちに向かって撃ってきたのだ。唐突に広場は戦場になった。

こちらも弓矢で応戦する。

 

「敵襲だー!戦える者は広場に集まれー!」

 

——カンカンカン!村中に警鐘が鳴り響く。

ようやく集落全体に危険が伝わる。驚愕と悲鳴が村中から聞こえる。

次第に戦力が広場に集まって来る。

影法師が一人また一人と討たれていく。

 

「ぎゃあ!」

「田村!」

 

だがこちらの戦力も削られていく。敵は手練れだ。

一人やられ続けて二人が黒色矢の餌食になる。

もし奇襲が成功していたらと思うとぞっとする。

何も出来ず俺達はやらていたかもしれない。

為吉が門番としての役目を果たしてくれたおかげだ。

恐らく彼らはもう奴らの凶刃にかかっている。

 

「彼らの死に報いなければならない!勝つぞ!」

「応!」

 

同僚の狩人達が応える。

士気が上がり矢の精度も上がる。またひとり影法師を倒した。

このまま射続ければ勝てる。

それを阻止せんと影法師が動いた。

何か壺の様な物を投げ入れていく。地面に落ちた瞬間、煙が立ちのぼり。瞬く間に視界が白く染まる。

 

「煙幕か!」

 

射るのを止める。

このままでは同士討ちになる。

煙が晴れるのを待つ。周囲を警戒するオシオが叫んだ。

 

「来るぞ抜刀せよ!」

 

白煙の向こうから影法師が踊りこんできた。

敵の凶刃が閃く。シオも鉈を抜いて応えた。

鍔迫り合いが起こる。敵の得物を見て驚愕する。

 

「白い牙!?」

 

それが同じサーペント種の牙で作られた武器であると直ぐに分かった。

コレを使うという事は敵は俺達と同じ日本人か。

 

「どこの集落の人間だ!なぜ俺達を攻撃する!?」

「.....」

 

敵は何も答えない。代わりに斬撃を浴びせてくる。

シオは驚異的な反射神経でそれらを躱していく。森の獣に比べれば遅い。時おり鉈で弾き返す。剣と剣がぶつかり合う度に鈍い音が響き合った。

そこで自分の体に違和感を覚えた。

 

....なんだ?右手が変だ。

 

感覚がおかしい。

不調ではない、むしろその逆。鉈が軽くなっていく、その感覚はどんどん進行していき。鉈を振る速さが増していく。

 

「......っ」

 

敵の表情は伺えないが明らかに焦りが生まれている。

まるで羽だ。重量を感じられない。

もう敵と俺の攻守は逆転していた。俺の振る鉈の速さに追いつくのに必死だ。

そして決着が着く。俺が振るう只の袈裟切りを受けられず斬られる。肉を断つ感触があった。致命傷だ。敵はおびただしい量の血を流して倒れた。

明らかな体調の異変は俺以外の狩人達にも起きていた。

俺ほどではないにしろ動きが俊敏になっている。

肉体そのものが変化しているのだ。

 

思い当たる理由は一つしかない。

あの魔獣の肉だ。あれを食ってから強くなっている。だが魔獣なら今まで何度も生きるために食べて来た。こんな事は今までない。

やはり只の魔獣ではなかったのかもしれない。

そしてこの襲撃。ただの偶然か?

それとも......。

 

「シオ考えてる暇があるなら手を動かせ」

「っすまない」

 

考えるのは後だ。今はここから敵を一掃する。

それが先だ。シオは地面を蹴ると凄まじい速さで敵の眼前に迫る。

敵が構える暇もなかった。一撃で敵の体を両断する。

 

「すげえ!」

「なんか力が湧いてこねえか?」

 

あまりの強さに狩人ですら目を丸くする。あんなに強かったっけ?

シオの超人っぷりに首を傾げ、否、自分自体が強くなっているのだという事に気付き始めた村人達は攻勢を強める。

 

「ば、馬鹿な!牧場の人間如きが何故これほどの強さを.....!?」

「....知らねえよ!」

「しまっ.....!」

 

恐らく頭目と思われる影法師を狩人が切り倒した事で戦闘は終了した。

広場にいる者の無事を確認し合う。

手当が必要な怪我人と亡くなった者がいないかを手分けして調べた。

シオは敵の調査をする狩人の元に駆け寄った。

調査班の轟川だ。

 

「シオ.....コレを見てくれ」

「これは.....!」

 

敵の正体は人間ではなかった。変身が解けて本来の姿を取り戻したソレは。

 

「.....蛇神族」

 

白蛇の亡骸を見てオシオはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。