僕達はずっと一緒だと思ってた。
物心ついた頃はまだみんなが居た。
お父さんも、お母さんも。村の人達だって。
みんな笑顔で暮らしていた。
僕はこの村が大好きだった。みんながお互いを大事に思いやり優しさに満ちていた。
だけどある日をさかいに変わってしまった。
僕は病気にかかってしまった。みんなが心配してくれたのを覚えている。
「夕刻お前の病気は絶対に治る大丈夫だ!」
その言葉を僕は絶対に信じていた。
わざわざ大都市からお医者様が診に来てくれた。もう安心だ。みんなが笑顔になる。
僕の病気が邪血病だと診断された。
「......この病気は治療法が確立されていない!しかもこれは子供に感染する!」
みんなから笑顔が消えた。
直ぐに僕達家族は村の隅に隔離された。申し訳ないと村のみんが言った。でも次第に僕達は酷い事を言われるようになった。少しずつ村が変わっていった。
両親も凄く辛そうだった。ごめんなさい僕のせいで。
そう言うとお前のせいじゃないと両親は慰めてくれた。僕は家族がいれば耐えられた。
村から少しずつ人が減って行った。
悲しそうな顔をする人が増えた。僕達はいじめを受けるようになった。
家から出られない日々が増えた。
何日経ったか分からない。ある日、父さんと母さんが言った。
「お前の病気を治すために出かけてくる。お留守番できるか?」
うん、できるよ。きっと帰って来てね。
なぜか旋月を連れて行こうとする。お留守番は僕だけ?
旋月はとても嫌がった。絶対に家から出たくない。僕から離れたくないって。
両親はとうとう諦めたのか出かける準備をする。この子も感染しているかもしれないと父さんが言う。母さんは泣いていた。
いってらっしゃい。
父さんと母さんは出て行った。
それからずっと帰って来ていない。僕達は捨てられた。
それが分かったのは我慢できずに家から出て村の中に入った時だ。
もう村には誰もいなかった。僕達兄弟は置いていかれてしまった。
どうして?分からない。
体が重い。川で水面を見た。
体中が痣だらけになっている事に気付いた。
こんな気持ちの悪い体だから僕を置いていったんだと幼心に理解した。
旋月に酷い事を言ってしまった。
「お前のせいだお前が居るから父さんと母さんは帰ってこないんだ!」
違う僕のせいだ。
僕がいるから旋月も置いていかれた。
本当なら僕一人が置いていかれるはずだったのに。
ごめんよ、ごめん旋月。酷い事を言ったね。
謝りたいよ。でももう喋るのも重くて口がうまく開かないんだ。辛くて痛くて悲しい。
旋月お前は優しいから僕のぶんまで生きてほしい。
どうか誰でもいいから旋月を助けて下さい。
あれ、なんだろう何だか温かいや。
暗闇の向こうから光が。父さん母さん?
その光に当てられて夕刻はゆっくりと目を開けた。
「お帰りなさい父さん」
「ただいま夕刻よく頑張ったな」
視界を開けて最初に見たのは父さんの面影のある人の顔だった。
嬉しそうに笑ってくれている。
この人は旋月が連れて来た男の人だ。父さんじゃない。
でもすごく安心する。何でだろう。
そうだ助けてくれたんだこの人が。眠っていたけれどずっと誰かの意思を感じた。
ずっと傍にいてくれた力強い存在。
「もう痛いところや体の重い所はないか?」
「えと......えっと痛くない体も軽いよ」
「良かった立てるか?少し危ないから俺から離れるんだ」
意識もすっきりする。体も羽のように軽い。
地面にもちゃんと立てる。嬉しい。
知らず笑顔になる。
ありがとう。その一言を言おうと振り返ると、その人が苦しそうに膝を着いた。
「ゴホッゴポッ!」
—よく見ればオシオは頭から血を流していた。
だけじゃない我慢していたのを堰が切れたかのように吐血もする。傷が深い。特に背中は見るも無残な状態になっていた。肉がはじけ骨が見えている。見せられるものじゃない。
後ろには魔猪がひかえている。あれだけしてまだ飽きないのか。
いや魔猪の前頭部も潰れていた。剛毛の皮がひしゃげ肉が見えている。巨大な鉄の壁に打ち付けていたかのようだ。お互い満身創痍だった。
恐ろしきはその執念か魔猪はまだやる気だ。
「お互いこれで手打ちといかねえか猪さんよ」
「ブモオオオオオオオオオ!!」
「.......そうか最後までやる気か」
じゃあ狩人として相手してやらないとな。
けどダメだなダメージを受け過ぎた。足に力が入らない。
魔獣を超える生命力でも追いつかない程の重傷具合に笑うしかない。
......せっかく助けてやれたのにな。
あの子の笑顔を見れないのは残念でならない。
後は頼むぞ為吉と赤法師の男。
この寂れた村が死に場所になるなんて、思ってもみなかった。
大樹と美羽も怒るだろうな。ごめん美玖無事に戻れなくて。祈りはきっとこの子に。
「いや!いや!死なないでー!」
魔猪の突進が迫る。死ぬ。咄嗟に右手で受け止めようとする。
無駄だろう。諦めて目を瞑った。
数秒後に衝撃がくるぞ。来るぞ........。
もう死んだのか俺。痛みもなかったな。魂になったみたいだ、まるで水の中にいるような......。
「......あれ?」
本当に水の中にいた。目を開けてびっくり。
水球が俺を守る様に張られていた。
これってあの魔獣の使っていたやつか。右手の痣が光っていた。
あの時、魔獣の第三の目を刺しこんだ直後に出来た右手の痣だ。
これってもしかして魔法の紋様だったのか。
左腕に付いている蛇神の斑紋様と見比べてみる。何で気付かなかったんだろ。
俺って馬鹿なんだな。
魔法を取り込むのは初めての事だ。是が非でもないよねと自分にフォローする。
そんなあほな事を考える余裕があるのか。そんなあほな事を考える余裕があった。
水球盾とでも言うべきか、その中にいるだけで外側からの攻撃を無効化する。
ズルいなこんな便利能力持ってたのかあの魔獣。
「っとこんな事を考えてる暇はないな今のうちに......!」
生命エネルギーの活性化を促す。
命の譲渡によって理解した。内に眠るエネルギーの使い方を。
生命エネルギーもとい命力を自在に引き出す事で傷の治りを早くする事が出来る事に気付いた。
他にも色々と出来る気がする。
「さしずめ命術だな、初のお披露目だから派手にいこう......命術解放『リジェネ』!」
みるみるうちに傷が再生していく。
骨は繋がれ、筋肉繊維が編まれていき、皮が再生する。
瞬く間につるんとした肌が元に戻った。
復活とともにザパアッと水球から出る。
片腕をゴキゴキと準備運動。
「調子が良い、逃げるなら追わないけど、どうする?」
最終勧告だ。
魔猪はふざけるなと言わんばかりに吠えるとこの日99回目の突進を行う。
まあ、そうだよな所詮は獣か。
命力を上げた片腕に流す。ピストルに弾を装填する様に命力を込める。
そしてオシオは迫りくる魔猪に向けて勢いよく叩き落した。祝詞と共に。
「命術解放『1tハンマー』!」
凄まじい衝撃音と共に地面が割れる。叩き落した威力の余波で魔猪が地面にめり込んだ。一撃だ。ただそれだけで凶暴な魔獣が絶命した。
代償として右手が持っていかれた。手首から先がない。それもリジェネで回復する。
痛覚を遮断するわけではないので滅茶苦茶痛かった。
これは改良の余地ありだな。
「いやあ一時は死ぬかと思ったけど終わりよければ、ヨシ!」
そうだろ少年?オシオは笑って夕刻にそう言った。
夕刻の顔に笑みが広がり。
「うん!」
「.......お?」
「......おーいシオー!」
「無事かー!?」
「おにいちゃーん!」
遠くから三人が駆け寄って来るのが見える。
夕刻はそれを見て嬉しそうにするが何かを思い出し気後れする。
背中をぽんと押された。
「行ってきなよ大丈夫だ君は打ち勝った、もう誰も君を化け物と呼ぶ人はいない君はもう自由だ」
「........旋月ー!」
小さな兄弟達は一年ぶりに抱擁を交わした。
これまでのわだかまりを溶かす様に。いや、元々そんなものはなかったのだ。
彼らの絆が病を倒す結果となった。俺達は過程に過ぎない。
村という絆は失われても、兄弟の絆、それだけは決して無くなることはない。
「そうだろ?......みこ」
いまは亡き妹のように思っていた名を呟き。
オシオは空を見上げた。遠い空のもと友人たちは無事だろうか。
彼らの無事を祈る。
14
「......来たぜ」
そう言った
第9集落の武装民兵達だ。数は百を超える。
彼らの武器を見てため息を吐く。
あれは俺達が狩った魔獣から作られた武具だ。
「結構あそこには卸してたからな」
「あそこは工房が得意で交流もしてたのに」
「それも蛇神共のせいでパアだ......!」
俺達は決して自由ではない事を知る。どんなに他里と友好な関係になろうとも。
蛇神族の決定ひとつで覆る世界だ。
争い争わせる。変えなきゃいけないこんな理不尽は。
だが今は生き残るのが先だ。
「よしポイントを超えた.......かかれ!」
号令の下に狩人達が一斉に動き出す。
横合いの山から60人からなる狩人が飛び出してきた。
直ぐに敵も気付き始める。まさかの奇襲に混乱が広がる。司令塔も指示を上手く出せないでいた。各自が魔獣の弓矢で撃ち始める。だがもう遅い。
狩人達は敵集団の横っ面を盛大に殴りつけたのだ。
奇襲成功である。
かくして第6集落と第9集落の戦争が始まった。