ヒューマギアと人間の埋まらない溝の部分についての考察風妄想。

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だいぶ前に書いたけど諸般あって置き場が無かった奴です。
実写だからどうしても認識が引き摺られるけどそもそもこうじゃない?という妄想を社長と滅亡迅雷にぐだぐだ喋らせました。
肌色濃度が高かったりやや直球気味な話題があるので、現実から離れてオマケアニメかアメコミの絵で想像して貰えると助かります。



そもそも性別はない

 飛電インテリジェンス・来図メンテナンスセンターは、品川エリア内で活動するヒューマギアの点検、修理を一手に担う「ヒューマギアの総合病院」である。この日、イズの定期点検を兼ねて同施設を視察していた飛電或人は。ちょうど滅亡迅雷.netの4体が揃って「クリーニング」に訪れていると聞き、嬉しい偶然にホクホクと顔を綻ばせて予定の変更を希望した。

 

「刃様、飛電社長がメンテナンスへの立ち合いを希望しております」

「ああ──すまん、手が離せないので勝手に入ってくれ」

 

 係員のヒューマギアに案内され、唯阿の許可を得てメンテナンスルームに入室した或人は。今日思い付いたばかりの激ウマギャグを披露しようと大きく腕を──振りかぶる寸前になって、おやと首を傾げた。

 

「──あれ? 4人とも居るって聞いてきたんだけど」

「迅ならまだ洗浄中だ」

 

 見慣れないヒューマギア素体の脚部を弄り回していた唯阿が指し示した先では、確かにヒューマギア用全自動洗浄乾燥機が稼働している。もう一つの作業台ではツナギを腰巻きにした雷電が、人工皮膚だけを纏ったヒューマギアを相手に何やら作業をしていたので。或人は先にそちらへ足を向けた。

 

「そっか、雷電と滅は──」

 

 調子はどうだ、と尋ねようとしたヒューマギアはこの場合どちらも明るい髪色であるはずなのだが。覗き込んだ作業台に乗っている頭部がどういう訳か黒い。

 

「あ? 滅はあっちだぜ」

「悪いが今は主電源を落としているから話せないぞ」

 

 雷電がこちらを向いたおかげで台の上の全容を把握した或人は、絹を裂くよりはやや濁った悲鳴を上げて一足飛びに後ずさった。

 

「ンだよ社長」

「な、は、さっ──だ、駄目でしょそれは!!」

 

 ──作業台に乗っているのは滅ではなく亡であった、それ自体は別に問題ではない。

 亡はかつてZAIA JAPANに、今はAIMSに提供された事になっているが、機体そのものはずっと飛電製を使っている。よってその整備に関しても飛電インテリジェンスが責任を持って全うするべきというのは、ヒューマギア事業を一括して担う会社である以上当然の話である。

 ここまでの理屈に何の問題もない事は或人も重々承知しており──それが実施された結果として。人工皮膚1枚きりの亡を雷電が弄り回している、という光景が出来上がった事に倫理的な大問題があるのではないか、と直感した結果が先程の絶叫の正体である。

 

「簡易検出での人工皮膚の形成確認に問題が?」

「いや、だからって兄貴はダメでしょ! なんで唯阿さんが滅で兄貴が亡なの? 普通逆でしょ?!」

「何を言っている。滅と迅の機体はZAIA製、雷電と亡は飛電の製品なんだから、お互い自社製品の点検整備を受け持つのがこの場合の『普通』だろう?」

 

 当事者である雷電と亡は言うに及ばず。唯阿にすら、暴走する元同僚を見る時の様な視線を向けられた或人は。この空間において自分の感性が少数派である事を悟り頭を抱える。

 

「うーん、超音波洗浄って凄いんだね。あ、ゼロワンも来て──あれ? 何かあったの?」

 

 悪い事は続くもので。メンテナンスルームに微妙な空気が漂う中、湯上り気分で乾燥機から出て来た迅の出立ちもまた、目に毒な人工皮膚1枚きりであった。

 

「うわああ! 迅! 唯阿さん! 隠して!!」

 

 反射的に唯阿の視線を遮ろうと飛び出した或人は。しかし一歩踏み出した足が地面に着く前に襟首を捕まえられ、近場の椅子へと手荒に押し込められた。何事かと目を剥けば、犯人の雷電は先程までは身に付けていなかったライダースジャケットとパラシュートハーネスを纏い、雷電ではなく「雷」としての顔で仁王立ちをしている。

 

「どうやらこいつは、カミナリ落とすだけじゃ意味がねえみたいだなァ?」

 

 関節の代わりに人工皮膚をギチギチと鳴らす雷の背後では、相変わらず何かを着ようという意思のない迅と亡がのんびり話をしている。唯阿に至っては付き合いきれないといった調子で、素体から取り外した脚部を持って1番遠い作業台に移動していた。元の作業台に乗っている素体にはみるみる人工皮膚が形成され、やがて片足の無い滅がのっそりと起き上がる。余計に肌色の面積が増えた室内に、或人は心の底からイズを連れてこなかった自分の判断を褒め称えていた。

 

 

「──なるほど。雷が亡の、刃唯阿が迅の人工皮膚を目視する事に問題があると」

「腹筋崩壊太郎は沢山の人に見られてるのに、なんで僕と亡は駄目なんだよ」

 

 話が頭に入らないのでせめて何か着てくれ、という或人の懇願から素体保護用のケープを渋々被り、雷と亡から事の仔細を受信した滅と迅の第一声がこれである。

 

「だから腹筋崩壊太郎のアレはそういう芸風だし、下はちゃんと履いてるからオッケーなの!」

「僕達はそれが仕事じゃないからダメだって言うのか?」

 

 そーじゃなくてさぁ! と身悶える或人が椅子ごと回転しているのを静観していた雷が、唐突に片足でその動きを止めにかかった。先程までとはモジュールの点滅パターンが変わっている事から、何かしらの演算処理が終わった事は確実だ。

 

「社長はよォ。俺らは社長と同じ雄個体で、亡とバルキリーは雌個体だと思ってんだろ」

 

 配慮もオブラートもない火の玉、もといカミナリストレートを喰らった或人は感電でもしたかのように声もなくばたつくしかない。麻痺した言語野がどうにか絞り出した「唯阿さん」という救難信号は、呼ばれた本人の「私は構わないから続けてくれ」という言葉ですげなく切り捨てられた。

 

「最初に言っとくけどよ。亡が使ってる外装は旧世代型の汎用中性モデル、その辺の事務員型ヒューマギアと変わらねえ、飛電で言えば昴が使ってんのとほぼ同じモンだぞ?」

「えっ? いや宇宙飛行士型と一般普及型は色々仕様が違うからって、それでボディ交換したの兄貴でしょ??」

 

 共通規格の素体にラーニングを施す事で、多種多様な仕事内容に安定して対応できる事が強みのヒューマギアではあるが。実の所特殊な現場で働いている一部のヒューマギアは、その仕事に合わせた特別なカスタムを施されている。特に大気圏外という過酷かつ人間の助力も得られない環境で働く宇宙野郎シリーズは、専用の合金フレームや冷却システムといった、主にコストの関係で一般のヒューマギアには使われていない仕様が組み込まれていた。消防士型ヒューマギアでの失敗に対する反省会や、記憶に新しい宇宙野郎雷電の復帰に纏わる話し合いでその事を何度か聞かされていた或人は。暴論としか思えない雷の言い分に矛盾ではないのかとツッコミを入れる。

 

「そりゃ素体の話で社長が気にしてんのは外装の話だろ、大体俺がボディ交換して見た目が変わったか?」

「えっ? それは確かに、モジュール以外はあんまり、変わってないような……」

「あれ? 雷兄ちゃん前に『新型のボディは軽くて加減が難しい』って言ってなかったっけ?」

「じーんー、話がややこしくなるからちょっと黙ってろ」

 

 迅からの横槍で再びクエスチョンマークが可視化されそうな反応を見せる或人に、作業台に腰掛けたままの亡がすっと手を上げた。並んで座る迅との対比もあるのだろうが、どうしても華奢な印象が拭いされず或人は視線を彷徨わせる。

 

「雷、これは実際に見せた方が確実かと」

「……ったく。しゃーねえ、ちょっと待ってろ」

 

 おそらく無線通信でデータのやり取りをしていたのだろう、雷と数秒程見つめ合っていた亡は。その後さらに数秒間モジュールを忙しなく点滅させていたかと思うと、徐に己の顔を手で隠す。

 

「──或人社長、この姿はどうでしょうか」

 

 指の向こうに転身システムが稼働する際のノイズが現れ、次に姿を現したのは、宇宙野郎昴の顔だった。

 

「えっと、昴?」

「転身システムを応用して、顔の外装のみを宇宙野郎昴に変更しました」

「あ、声は亡のまんまなんだ……」

「声も変更可能ですよ──「これでどうかな、他に違和感はある?」」

 

 声までも昴の物に変更した亡がケープの裾をたくし上げても、或人は先程の様な居心地の悪さを覚えなかった。

 

「うーん……なんかちょっと、痩せた気がする?」

「それが素体の差です。私も昴も汎用中性モデルに変更を加えず使用していますが、昴の素体は宇宙活動用ですので物理的な規格の差が体格の差異、この場合『私の方が痩せ型に見える』という違いに繋がりました。規格の差異は内部処理への影響が特に大きく、滅や雷の様に大幅な仕様変更が発生した場合、動作最適化の為に再ラーニングが必要となる場合もあります。雷が素体の変更を希望したのもその為です。そうですよね、雷」

「空冷一本なんてやってられっかよ。──とにかく、社長がこいつを女性型だと判断したのは、単に顔がそう見えてたっつー社長の主観。そこまでは納得したか?」

 

 今度は隠す事なく顔を戻した亡に、或人は消極的にではあるが肯定を示した。その反応にひとまず溜飲を下げたらしい雷に、もう良いだろうと迅が口を挟む。

 

「そもそもさ。男性型で括ってるけど僕と滅と雷兄ちゃんでも全然見た目が違うのに、女性型とか中性型とか名前が違うだけで扱いが変わるって、それおかしくない?」

 

 迅の素朴だが答えに窮する質問に、それまで殆ど反応を見せなかった滅が口を開いた。

 

「人間に限った話ではないが、多くの動物において同族の複製行為は本能として個々に課されている。雄雌で大幅に規格が違うのはこの為だ。そして我々ヒューマギアは外装や機体を変更する事が容易だが、人間にそれは難しい」

「ああそっか。僕たちはその気になればイズの外装や雷兄ちゃんと同じ機体を使えるけど、人間じゃそうはいかないもんね。そもそもの前提条件が違うのか」

「女性の身として言わせて貰うが、子供を産んで育てるというのは準備段階を含めてとにかく負担が多いんだ。ヒューマギア普及黎明期において、真っ先にナニーやシッター型のヒューマギアが検討開発された程にはな……尤も、今の所製品化できたのは保育士型までの様だが」

 

 ここにきて会話に加わってきた唯阿が、滅の脚を失った関節部分を平然と覗き込みながらやれやれと溜息を吐く。当の滅も当然の様に受け入れているので、或人はなんとも言い難い顔のまま沈黙を余儀なくされた。

 

「父親型ヒューマギアに関しては、デイブレイク以前の段階で社内倫理委員会から運用テスト中止の勧告がなされたと聞いている」

「第三者としては妥当な判断と言うしかないな」

 

 関節内部をライトで照らしながら片手で通信端末を操っていた唯阿が、一仕事終えたという風に思い切り伸びをする。

 

「滅の左足だが、変形した大腿部の内部フレームが膝のモーターを破壊していてな。幸い股関節側に問題はないので、左足全体の交換で対応する様今パーツの手配をかけた。詳細は追って連絡するが夕方まで掛かると考えてくれ。或人社長、済まないがヒューマギア運搬用の車椅子を借りていくぞ」

「あー、それはいいんだけどその。唯阿さん的にはどうなんです?」

「どう、と言われても──流石にヒューマギアの前で着替えをする気はあまり起きないが、それは画像流出の懸念からであって外見がどうこうは無関係だな。女性型男性型の違いなど、結局の所はそのヒューマギアを必要とした人間の都合だろう」

 

 あまりにあっさりとそう言い切る唯阿に、或人は「そう言えばこの人こういう人だった」と出会った頃の事を思い出して顔を引き攣らせた。

 

「私は一度AIMSに戻るが、亡は元の予定通りこのまま休暇を取ってくれ。滅もパーツが届くまでは自由にして構わん」

 

 では失礼する、と一言残すなり颯爽と出ていく唯阿をすっかり見送ってしまった或人は。完全に孤立無援となった事を悟って思わず生唾を飲み込んだ。

 

「……えっと、とりあえず。見た目の話はこう、俺が勘違いしてたって事はわかりました」

「まだなんか納得してねえな」

 

 雷電に図星を刺され、或人は自分の疑問がどうやったら伝わるのかと必死で言葉を選ぶ。

 

「えっとこう、滅とか迅は──さっきの話で言うと亡もか? ──スカートは嫌とか、そういう抵抗感はないの?」

 

 ろくろを回す、と言うには些か忙しのないジェスチャーと共に絞り出された問いかけに。ヒューマギア達は一斉にモジュールを点滅させ黙り込んだ。

 彼らがデータ処理をしている時特有の、薄らとしたノイズ音が暫しその場を支配する。

 

「──ラーニングしないと動きにくそうなのはわかる」

「私も迅と同じ結論です」

「可動域の問題については、一般にタイトスカートと呼称される形状でなければ以前の服装とそう変わらないだろう」

 

 30秒というヒューマギアとしては長考の類を経ても、各自の意見はやはり運動機能だけに注目した内容であった。膝から力が抜けてよろめく或人に、雷電は鼻で笑う仕草をする。

 

「……ちなみにですが、兄貴のご意見は」

「俺か? あんな巻き込み事故の誘発しかしねえ物、人間の笑い取る以外の使い道ねぇだろ」

「そっかぁー」

 

 雷電すら概ね機能面についての話をする辺り、さては男女観の前にオシャレに対する関心があんまり無いな? と唯阿が聞けばため息を吐きそうな事を考えた或人は。この後に有料オプションである私服風ユニフォームのデータを勝手に支給した廉で、副社長からついに厳重注意を受ける事になるのであった。




雷兄ちゃんは人間との付き合いが長いので自分が女物を着る=女装扱いされるという情報をラーニングしてそう。
あとヒューマギアって素体の見た目から考えると足の間に変なオプション付ける余裕なさそうですよね。

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