いいえ、お兄さんです(´・ω・`)
『
群れを作り生息する動物の多くは自然界において単独での生存が難しいとされるモノたちである。では、同じく社会という群れを形成し、集団で生きている我々人間はどうなのか、言うまでもなく単独での生存が難しい部類に入る。
それは現代日本においても同じであり、人は一人では生きてはいけないのである。
中には、そんなことはない、自分は一人で生きているのだ、という者もいるかもしれない。
しかし、考えてもみてほしい。そう言って誇る自分が口にしている各食材や調味料を生産しているのは誰なのか、また、その住居を作ったのは、衣服を作ったのは誰なのか。そういった生活の根幹である衣食住すら全て一人で得ているという人間はほぼ存在しないといっても言いと思う。つまり、人間は群れを作らなくては生きてはいけない、少なくとも文化的な生活をおくることができない生き物なのである。
しかし、同時にその集団から排斥される者がいる事も事実である。
特に人間社会は複雑で排斥される原因が本人ではどうにもできない身体的特徴や、あるいは本人自身ではない事柄だったりする。
結論を言おう。
何故か一人も友達ができなかった。
二年J組 戸塚猛加
』
放課後、猛加は先日提出した作文の事で総武高校の職員室に呼び出されていた。
「それで、戸塚。先日私が出した課題は何だったかな?」
国語の担当教諭である平塚 静はその整った美貌を歪ませ、溜め息を吐きながら臆する事なく目の前の巨漢に問う。
「はい。高校生活を振り返って、というテーマで作文を書くことです」
「そのお題で何でこうなる? まったく君と言い比企谷と言い」
「何で、って言われても。自分の高校生活を振り返った結果を論文にしただけですが?」
「……確かに国際教養科のJ組は女子が九割を占めているし、君のその熊のような体と猛禽類のような目付きでは仲良くなるのは難しいかもしれんが……」
総武高校には、普通科9クラスの他に国際教養科というのが、一クラス存在する。このクラスは進学校である総武高校にあって普通科よりもさらに二~三、偏差値が高く、帰国子女や留学志望者が多く集っている。
「昔は、彩加と目元がそっくりだ、とか言われてたんですがね……」
猛加は中学校入学前後からメキメキと身長が伸び、体つきも良くなって、高校二年になった現在では、身長が189cmまで到達した。切るのをサボり続けて伸び放題の髪は首の後ろで束ねていて、顔立ちは悪くないのだが、鋭過ぎる目付きのせいで威圧感と恐怖が先に立つ。
「どうすりゃ、友達って出来るんですかね?」
「ふむ。君は部活には入って無いのか?」
「一応、格闘技系の部活に興味はあったんですけど。師匠から一般の試合に出るのは禁止されてるので、結局入りませんでした」
「……その師匠というのは?」
「俺の今の武術の師匠です」
「今の、という事は以前にも武道をやっていたのか。まぁ、それはいい。しかし、部活動はやっていないんだな?」
「はい」
国語教諭の平塚 静はそれを聞くとニヤリと笑みを浮かべて立ち上がり、出入り口に向かって歩き出した。
「ついて来たまえ」
「何処にですか?」
「君にぴったりの仲間がいるところだ」
※ ※ ※
Side 比企谷
俺、比企谷 八幡は訓練されたボッチである。
突如として訳のわからないまま、総武高校一の有名人である雪ノ下 雪乃と放課後の何かの部室に二人きりになるという、モテない男子なら八割が甘々なピンク色の妄想を抱くようなシチュエーションであっても、高度に訓練されたボッチたる俺はそのような幻想に惑わされたりはしない。
雪ノ下雪乃、総武高校国際教養科の二年J組に所属していて、成績は常に学年トップで運動もでき、さらに常人離れした美貌を有している。才色兼備、文武両道、おまけに噂では家まで金持ちらしい。まさに、物語に出てくる完璧超人のようなヤツ。
つまり、俺の敵だ。
俺に限って言えばここから恋だのメダカだのが芽生える青春ラブコメ展開は微塵も存在する余地などないのである。そもそも、いわゆるリア充と呼ばれる人種はボッチに対して何の興味も持っていない。彼らがボッチに興味関心を持つとしたら、それは殆どの場合、猫が捕獲した獲物を嬲るように、弄ぶ時だけなのだ。
というか、平塚先生に、ふざけた作文を書いた罰だ、と言われてあれよあれよと無理矢理ここに連れてこられて忘れていたが、そういやここ何部なんだよ。一番最初に来なきゃいけないその説明が一切されてないんだけど?
「あ、あのさ」
「なにかしら」
「いや、色々把握できてなくてさ。そもそもここは何部なんだ?」
「そうね。当ててみたら?」
俺は暫し考える。周囲を見渡し、その飛び込んでくる視覚情報の中からヒントになり得そうな情報を選択する。こうして、様々なことに無駄に頭を働かせるのはボッチの基本スキルの一つだ。他人と関わらない分一人で思索に更ける時間も必然的に長くなるからな。
そして、得た情報を集束し、最も正解でありそうなものを選択する。
「文芸部だろ」
「へぇ……。何故そう思ったの?」
少し感心したような声で問い掛ける雪ノ下に得意になって答える。
「この部屋の中に特別な環境、特別な機器が存在していない。加えてあんたはずっと本を読んでいる。つまり、答えは最初から示されていたのさ」
「そう。残念ながらはずれよ」
恥ずかしい。ドヤ顔して自信満々に答えただけに余計に恥ずかしい。
「……じゃあ、何部なんだよ?」
「ヒント。私がここでこうしている事が部活よ」
「降参だ。サッパリ分からん」
というか、その情報を基に出した答えが間違いだったのだ。実質ノーヒントと言って過言ではない。
「持つ者が持たざる者に慈悲の心をもつてこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ。あなたの問題を矯正してあげる。感謝なさい」
「こんのアマ……」
偉そうに、好き勝手言ってくれるじゃねぇか。
「俺はな。そこそこ優秀なんだぞ。実力テスト文系コース国語学年三位。顔だって良い方だ。友達と彼女がいない事を除けば基本高スペックなんだ!」
「最後に致命的な欠陥が聞こえたのだけれど……。そんなことを自信満々に言えるなんてある意味すごいわね……。変な人。もはや気持ち悪いわ」
「うるせ、お前に言われたくねぇよ。変な女」
本当に変な女だ。すると、ドアの方から声がかかった。
「いくら高スペックでも、目と性根が腐っていて、友達がいないと、残念臭しかしないぞ、比企谷」
ガラッと勢い良くドアが開き、俺をここに放り込んだ張本人である平塚先生が入って来た。
「なんの用ですか?」
「なに、君と似たような境遇の新入部員を連れてきたのさ。戸塚、入って来たまえ」
「ウッス」
俺と似た境遇って事は、そいつもボッチって事か。どんなヤツかは知らんけど、同じボッチ同士なら、仲良くも邪険にもせずお互いに不干渉を通せば良いだろう。
そんな考えの基、俺は何気なくその戸塚くんが入って来るであろうドアの方へ視線をやる。
「邪魔するぜー。お、雪ノ下もいんじゃねぇか。よろしくな」
熊のような大男が入って来た。
え……? なにこのサイズ? 明らかにこんな所で普通の高校生してたらダメな類いの人じゃない? いやいや、マジで来るとこ間違ってんじゃね? ここには段ボール好きの蛇も金髪になって世界を救うZな戦士もいませんのことよ!?
「!? ……戸塚くん、何故あなたがここにいるのかしら」
然しもの雪ノ下も一瞬目を見開いていたが、すぐに平静を取り戻していた。っていうかお前の知り合いかよ、この森の熊さん。
「何故って、平塚先生に連れてこられたんだよ。俺にぴったりの仲間を紹介してくれるってな」
「仲間……。つまり、入部希望という事で良いのかしら」
「いや、入部するのはかまわねぇけど、ここ何部なんだ? 流石に活動内容も知らずに入部はマズいだろ?」
こいつも何も知らされずに連れてこられたのか。つか、この熊さんは何でつれてこられたんだ? 仲間って何の? 世界を救う勇者のパーティでも探しに来たの? あんたのジョブはどう見たってモンクだろ!
「えっと……」
「おっと、悪い。ソッチとは初対面だったな。俺は戸塚猛加、雪ノ下のクラスメイトだ。お前さんは?」
「……二年F組の比企谷八幡だ」
「おう、よろしくな」
「お、おう」
なんだよ。十人くらいぶっ殺してそうな目付きしてるくせに、普通に良いヤツっぽいな。
まぁ、目が腐ってることに定評のある俺に言われたくないかも知れんけど。しかし、益々分からなくなった。何でこんなヤツがこんなとこで仲間なんざ探しに来てんだ?
「―――で、つまり奉仕部ってのは、学生の悩みを解決していく手伝いをする部活って事で良いのか?」
「ええ、概ねその解釈で間違ってないわ」
おっと、いつの間にかこの部についての説明が終わっていたようだ。
「OK、俺、この部入るわ」
「おい、正気か? こんな訳分からん部に自分から入るとか。どんだけ冒険したいんだよ。なに、海賊王にでもなりたいの?」
「要は、万事屋とかスケット団みたいなもんだろ? 安心しろ。俺はこう見えて腕っぷしにはちょっと自信があるんだぜ?」
こう見えても何も完全に見たまんまそうだろ。むしろこの体つきで弱かったら、虚仮威しが極まって鹿威しになるまである。……ないか。
「ま、とにかく。これからよろしくな、お二人さん」