火を点けろ、掠れきった心に   作:オーバードーザー

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「料理とは奥深いものですね。栄養素が身体に行き渡ればそれでいいと考えてしましたが……私の味覚は炭化手前の肉に対して拒否反応を示しています。速やかに処理を、レイヴン」

「マニュピレーターの反応が追いつかない……レイヴン、今後貴方は投げハメ禁止です。いいですね?」

「レイヴン、何故こんな早朝から焚き火を?朝日を見ながらコーヒーを飲みたかった、ですか。……よく分かりませんが、私の分も注いでください。砂糖4ミルク2でお願いします」



CHAPTER6 感知

二人旅を初めて早二ヶ月。

現在はアーレア海からベリウス地方へ続く群島の、おおよそ3分の1を踏破したところだ。

 

ケイトの動きもほとんど人間のそれと遜色ないレベルに洗練されてきている。

指を速く細かく動かすことや力の入れ加減はまだ不得意だが、逆に言えばそれだけしか改善点が残っていない。

ACの手動操作を会得するのもそう時間はかからないだろう。

 

「レイヴン、もしエアが見つからなかったら、貴方はどうしますか」

 

夕食の後片付けをするレイヴンの背中にケイトは話しかけた。

621は少し悩んでから「お別れをして、帰る」と言った。

もちろん彼はエアと再び言葉を交わしたいと思っているが、それが叶わない確率の方が高いことも十分理解している。

 

「もし、エアが見つかったら?」

「……分からない。エアが自分をどう思ってるのか、分からないから」

 

同胞を焼いた自分を憎んでいるのだろうか。

それとも、また別な思いを抱いているのだろうか。

621はまだ、それが分からずにいる。

 

「そうですか、では──」

 

時間が経つにつれ、旅の目的地に近づくにつれ、ケイトは焦燥を感じていた。

 

レイヴンがルビコンⅢに来た理由はCパルス変異波形 エアと再び出会うため。

決して、終わりを迎える直前だったオールマインドの窮地に馳せ参じてくれたのではない。

 

レイヴンがエアの代替として自分を扱っているのではないか。なら、エアとの接触が成立した時私は──

その可能性がケイトの頭に浮上した時、初めて彼女は恐怖を理解した。

 

「──レイヴン。この身体は技研の技術で作られた義体です。恐らく、貴方以外の人間に目をつけられれば自由はないでしょう。その点、私は幸運でした」

 

また一人になってしまう。

火に焼かれて死んだ星で。

 

「この義体は人とは、人の心とは何かを理解するために製造しました。自由を奪われてしまえばその目標は達成できません」

 

来るかも分からぬ助けを待つ。

ずっとずっと、この鮮烈な体験をリフレインしながら。

 

「私は傭兵支援システム、ここまでの生活でレイヴン、貴方のことは分かってきたつもりです。だから、その」

 

つらつらとそれらしい理由を並べてきたが、とどのつまり、ケイトはレイヴンから離れたくないのだ。

それが“執着”だと気がつくまで、ケイトにはもう少し時間が必要だった。

 

「──貴方が帰る時は、私も連れて行ってくれますか?」

 

 

 

 

 

 

もう二度と、会えないのだと思っていた。

人とコーラルの共生よりも、飼い主が預けた遺産の精算を選んだ貴方が、ルビコンⅢへ戻ってくる意味などない。私はそう感じていたから。

 

ウォッチポイント・アルファ。

そこに集結しようとしていたコーラルの潮流を遡ったことで命からがら自分を維持することに成功した。

 

そうしてレイヴンが起こした火から生き残った──いや、生き残ってしまった私は気がついた。

この状況を仕方ないと思っている自分に。

 

レイヴンは第4世代の強化人間。

ウォルターに飼われるまで自己の意味すら見出せなかった彼にとって、命に意味を与えてくれた飼い主は特別な存在だ。

 

その背景を考えれば、私は彼を責めることなどできない。

苦渋の決断だったことを理解しているから。

私と争いたくなかったことも理解しているから。

感情を失ったはずの貴方が涙していたことも、全部全部知っているから。

 

……同胞の死よりもレイヴンの弁護をしてしまう時点で私はコーラル失格だ。

 

こうして一人、星の底で懐古することが私に与えられた罰だと思っていた。

そう、思っていたのに。

 

「どうしてですか、どうして貴方は」

 

嬉しいやら、悲しいやら、苦しいやら。

惑星に降り立つ懐かしいコーラルの気配を感じた瞬間、色々な心がぐちゃぐちゃになってしまった。

 

だが、今の私は遠すぎて交信することができない。

せいぜいその気配を追うことができるだけ。

 

「……レイヴン?」

 

そうして数日彼を観測し続けていると、彼の近くに微弱だがコーラルの反応が増えた。

 

「……レイヴン」

 

人型だ。

ずっと彼についていっている。

私以外のコーラルが、彼に引っ付いている。

 

……私に脳があればこの星のように焼かれていただろう。

肉体を持たぬ知性だから狂わずにいられるが、いっそ狂ってしまいたかった。

 

私には貴方しかいない、貴方しかいないというのに。

 

「レイヴン、貴方は……貴方という人は……!!」

 




エアが泣いている……♡
同胞を焼いたレイヴンに複雑な想いを寄せ……恋しがっていたのでしょう♡

しかし彼の隣に別なコーラルがいるとは……
不憫だ……♡

貴方が二人に挟まれた時、どんな調べを奏でてくれるのか……♡
素敵なステップを期待していますよ、ご友人♡
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