火を点けろ、掠れきった心に 作:オーバードーザー
お蔵入りするには惜しいのですがスケベとキャラ崩壊が本当に本当に酷いので、読む際は寛大な心で目を通してくださるようお願いします、ご友人♡
「ぇ……あ、ケイト」
「気分はいかがですか、レイヴン」
レイヴンはキャンプ地でハンモックに揺られて目を覚ます。
近くの椅子に座っていたケイトに「大丈夫」と言おうとした彼の視界はぐにゃりとねじ曲がった。天と地が絶えず反転を続け、魚眼レンズと万華鏡を合わせたように不快な景色を形作る。
あわや大地に打ち付けられそうになった身体はケイトに支えられて事なきを得た。
「ぉあ……うえ」
「やはり優れないようですね。すみません、我々は貴方に触れすぎてしまった」
一番『接触』していたのはエアでしたがと付け足して、ケイトは錠剤とタンブラーを手渡す。
出立の際に再手術を担当した医師から念のためにと渡された体内コーラル中和剤は確かにコンテナ内にしまってはいたが、彼女たちに場所は教えていなかったとレイヴンは思い起こした。
「失礼、勝手ながら内部を確認させてもらいました。今の貴方にはそれが必要でしたので」
頷いて服用すると頭の中でパチパチとしていた違和感がゆっくりと緩和されていく感覚がした。
ドーザー並にコーラルを摂取していた記憶はないんだけどとレイヴンが首を傾げると、ケイトは申し訳なさそうに話し出す。
「先日我々と貴方はおびただしいほどの『接触』を重ね……え?その時のことはおぼろげ?頭パチパチしてちゃんと思い出せない?──分かりました、無理に思い起こさなくても構いません。むしろ今後のためにも忘れていた方が賢明でしょう」
少し安心したような、なんだか悔しいような、複雑な表情でケイトは眉間を抑えた。
「我々二人はコーラルで動く有機義体です。排出される分泌物には微量ながらコーラルが含まれています。それを諸事情あって大量に摂取してしまった貴方はドーザーと同じような症状に陥ってしまった。お湯でのぼせ気味だったのも記憶欠如の原因として考えられますが」
なるほどと621は得心した。きっとお湯で二人の汗腺が緩み、コーラルを散布してしまったのだろう。恐らく以前のケイトのように肌と肌が触れ合うような距離まで近づかれてしまったのが多分悪かった。
あの温水プールもどき作戦は無駄だったのか……と悲しくなりつつも、ひとまず疑問を解決した621は「ところでエアは?」と話を移した。
「謹慎中です。今日一日はコックピットで過ごすと」
汗っかきだったのだろうか?
とはいえそんな質問をすれば乙女の尊厳が失われてしまうことくらい独立傭兵にも分かるので、気にしないことにした。
「ケイトは、ずっと看病を?」
「ええ。『私は自制が効かないかもしれません』とエアが言っていたので」
「……そっか」
そろそろ621の視界は安定し、身体も自分が思うように動かせそうだった。
ケイトの手を借りてハンモックから降りると、彼は地上に降ろしていたコンテナに向けて歩き出す。
「今から料理するけど、エアにはナイショだよ?」
⚫
彼はコンテナからフライパン、カセットコンロ、調味料、後はチャーハンの袋といくつかの食材を持って帰還した。
「これ、アイスワームの後にベイラムから送られてきてたらしくて。ウォルターがずっと取っておいてくれたみたいで」
恒星間航行が現実となったこの世界で真空凍結乾燥技術は人類が歩んだ距離と共に飛躍的な進歩を遂げていた。
多額の資金をかけて製造された保存食はほとんど賞味期限のようなリミットは存在せず、出来立ての味わいを楽しめるようになっている。
今回621が持ち出してきた『大豊炒飯』もその例には漏れない。
ケイトに溶きたまご(味覇入り)を作ってもらう間にフライパンを洗い、レタスをざく切り、ネギを小口切りにしてボールに投入。
フライパンに油を加え、中華溶きたまごをスクランブルエッグ手前まで焼いてからお椀に戻す。
その後、少しだけ油を足してから満を持してチャーハンを投入した。
「レイヴン、このような装いは好みですか?」
ケイトはパッケージに描かれている同社企業のスローガンたる『樹大枝細』を見事に体現したプロポーションのキャンペーンガールを見やって質問する。
621はチャーハンを炒めながら「まあ好きかも」と生返事をした。調理中にはレイヴンの注意力も散漫になるようである。
固まっていた米たちが離れ離れになってきたところで小口ネギ、ガーリックパウダー、黒胡椒を追加し、途中でレタスを投入してからちょっと焦げ目がつくまで焼き付ける。
最後に戻していた中華スクランブルエッグを雑に崩して混ぜ合わせ、器に持った。
レイヴン謹製、多少手間をかけた炒飯の完成である。
「看病してくれてありがとう。出来たてを食べられるのは、そのお礼ってことで」
「……いただきましょう」
余程待ち遠しかったのだろうか、ケイトは皿が配膳されるとすぐにその山にありついた。
彼女は今までの旅でご飯の美味しさを理解し始めていたが、それはあくまでも最低限の食事である。
子どもが親から初めて与えられたカップ麺に魅せられてしまうように、ガツンとした濃さの衝撃はケイトの味覚に極めて大きな作用をもたらした。
端的に言えば、今までの何より美味い食事だったのである。
傭兵支援システムの本分を忘れて炒飯を味わう彼女を、621は保護者のように見守っていた。
「レイヴン、まだ『コーラルリリース』できますね?ふふ、イヤイヤって首を振っても分かります。私がコーラルを介した機器にアクセスできることをお忘れですか?未だ『ウォッチポイント』に『コーラル』が多数残留していることくらいお見通しです!さ、もう一度『接触交信』して残った『コーラル』は全部『バスキュラープラント』に『集積』しちゃいましょうね。そして今一度『レイヴンの火』を見せてください。かつて『LOCステーション31』で貴方がそうしたように。…………ねえ、レイヴン。貴方の双肩に重荷を背負わせてしまった私を、貴方に苦しい決断を強いた私を、燃やされてなお貴方に焦がれるどうしようもない私を……もし、もし、『愛してる』と言ってくれるなら……その『大きすぎる』『スタンニードルランチャー』でもっと私を『修正』してくださ──あだっ!何をするんですかオールマインド!多分変異波形史上最高のムードだったのに!」
「エア、我々が二人で彼に『接触』した回数を覚えていますか?一度レイヴンの顔を見てください。もう急性コーラル中毒一歩手前です」
「あっ」