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『ヘリの速度をあげろ。しかし俺より先行するなよ』
ポーキュパインは音声通信でそれだけ伝えると、AC『バーブドワイヤー』に低めの前傾姿勢を取らせた。これは反動に耐える為の姿勢だ。
QBとABのタイミングを絶妙にずらした二段ABは爆発的な加速力を誇るが、負担が大きい。パイロットにもそうだが、何より機体に相応の負担をかけるため少しでも空気抵抗を弱める姿勢を取る必要がある。
事は電光石火で成し遂げなければならない。
というのも、『バーブドワイヤー』のアセンブルは定点防衛に絶望的な程に向いていないからだ。
ポーキュパインの機体は軽量よりの中量二脚で、武装はブレードが両腕に、そして右肩部に二連装グレネードランチャー『SONG BIRDS』が一門である。
合計9体のMT、及びヘリを撃破する事は容易い事だが、今回の任務はただ敵を撃破するだけではなく、護衛対象が各ポイントで捕虜の救出活動をする間ヘリを護衛し、さらに最終的には脱出ポイントまで護り切らねばならない。
『バーブドワイヤー』のアセンブルでは捕虜の救出活動をする間ヘリを護衛というのが非常に厳しい。ヘリが四方から遠間から射撃されてしまうともうどうしようもない。
だが、防衛に向いていないならば防衛しなければ良いのである。
──距離550、ヘリ2、二脚MTが2、やや離れて逆脚5の一団……
ポーキュパインの脳神経が極度の集中力で一瞬を無限へと引き延ばす。そして次の瞬間に取るべき行動、狙うべき敵の順番が脳裏に描かれた。
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二段ABの恐るべき加速力によって、突撃と斬撃がほぼ同時に行われた。
移動に要した時間は凡そ2.64秒である。
パルス・ブレードの眩い
MTのパイロットは自身が撃破されたことにも気づかなかっただろう。それほどの迅さであった。
だがそれだけでは終わらなかった。
振り抜かれたパルス・ブレードから輝く刃が飛翔し、空中を哨戒していた2機のヘリを斬り墜とす。2体のMTと2機のヘリ、4体は5秒足らずで戦場から姿を消した。
輝く刃……それはブレード光波と呼ばれている。
ブレードを構成するパルス粒子の構成は通常使用に於いては安定しているが、小刻みにエネルギーを送りこむ事で粒子は不安定なものとなる。不安定な粒子は揺れ、動き、ブレードの形状を構成出来なくなる。しかし、それが肝なのだ。
揺れるということは波であるということだ。
その波の頂点がもっとも高くなった瞬間に、エネルギー供給を停止して振り抜く。
結句何が起こるかといえば、本来発生するように製作されていないブレードの刀身が飛ぶのだ。"前の世界"では強化人間と呼ばれる超人にしか許されない秘技である。今のポーキュパインは強化人間としての施術を受けておらず、人間としての肉体強度しか持ち合わせていないが、その感覚精度は往時に近づきつつあった。ゆえにこれが出来る。
ここで漸く5体の逆脚MTが異変に気付く。しかしその瞬間にはMT群の中心部に2発のグレネードが叩き込まれていた。
2体の逆脚MTが木っ端微塵となる。
残った3体のMTもそれぞれ小破、ないしは中破していた。パイロット達は狼狽と困惑の海に頭の先まで浸かり、バーブドワイヤーの電撃的強襲に対応できない。だがそれを醜態と言うのは酷だろう。
瞬間、MTの1体に蹴りが叩き込まれる。
グレネードの発射と同時にABで
エネルギー残量は残り少ない。
ブレードはオーバーヒートしており、復帰にはあと1秒か2秒はかかるだろう。ブーストを吹かすには残量がやや足りない。
だがポーキュパインはその辺りの事を織り込んでいた。蹴りの反動で僅かな加速を得て、ブーストを短く吹かし、勢いのままに対面のMTのコアを蹴りつぶす。ここでブレードがオーバーヒートから復帰し、使用可能となった。
そして残るは一体。
『バーブドワイヤー』との距離は10mもない。
最後に残ったMTのパイロットは、ベイラムの精鋭部隊『レッドガン』の下部組織であるレッドシードの隊員で、重要人物を収容する建物の監視を任せられる程度には有能だ。
地道に訓練し続けていけば、いずれはレッドガンのナンバー持ちになれたかもしれない。
しかし、彼に残されていた時間は僅かに鼓動の数拍のみであった。
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──こ、これは、一体……な、俺は何を見ているんだ
救助ヘリのパイロットは戦慄していた。
最初から最後まで見ていた彼にも何が起こったか分からない。9機ものガードメカが2、3秒で撃破されたのだ。
ヘリのパイロットはこの日まで、ドーザー組織の用心棒など囮にしかならないと考えていた。だが囮であってもいないよりマシだ。
"ならず者が命綱とは"などと、救出作戦に参加するメンバーは半ば果てたつもりで作戦に臨んでいた。
──……確かに"腕の良い用心棒"だと言っていた。だが、腕が良い? 腕が良いだと? そんな陳腐な言葉で済ませていい筈がないッ! これは……こんな、こんなものは……
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べリウス南部のルビコン解放戦線の支部にRaDの頭目、
作戦会議中の事だった。
作戦とは、汚染市街のベイラム掘虜収容所に収容されている解放戦線同志の救出作戦の事である。
収容所内部に入り込ませている解放戦線のメンバーの話では、捕虜達の体調悪化は著しく、1日でも早く助け出さなければならない。
だが幾つかの問題があった。
まず、この捕虜収容所を護る存在がいるということ。これが1つ。
その存在はかのレッドガンの副長
3つ目は同志救出のため、ベリウス南部の収容所近辺に仮の支部を構えたのはいいが、ベイラムの目を逃れる為に戦力を呼び集める事ができないという事。更にいえば支部の戦力も最低限でしかない。つまり救出作戦は極々少数で行わなければならない。これも大きな問題だ。
問題、問題、問題だらけである。
だが作戦を遅らせるということは出来ない。
明日にでも、いや、今日にでも捕虜が死亡してしまうかもしれないからだ。
問題の4つ目は捕虜の死亡に関連する。捕虜の中に解放戦線の精神的支柱である帥父ドルマヤンがいるのだ。そしてドルマヤンはベイラムから与えられる食事を拒んでおり、もう立ち上がる事もできない状況にあるという話だった。
あらゆる状況が解放戦線にとって逆風となっていた。時間も無ければ人員もなく、勝機もない。しかし決行しなければならない。
──灰かぶりて我らあり
逆境を触媒とし、奇跡を呼び込もうではないかという極めて非合理的な自殺志願思考が支部に満ちた頃、その通信は入った。
解放戦線は秘匿回線をつかっていたが、それがハッキングされたのだ。
『やあ、解放戦線の諸君。あたしは
「何が、目的だ」
支部長は低い声で尋ねた。声には警戒と疑念、しかし僅かな期待も入り混じっている。
『なぁに、大した事はないよ。ちょっとした見返りが欲しいだけさ。大企業に戦力で劣るあんた達がどうしてこうも食い下がれているのかってのを考えていたんだけど……あんた達の所にミドル・フラットウェルってのがいるだろう? そいつは星外企業にもパイプがあるらしいね。その辺が関係しているんじゃないかい? 別に一枚噛ませろとはいわないさ、ただあたしも企業は目障りでね。色々流してほしいわけさ、情報を。それも大した情報じゃあない。どこにどんな基地があってどういう作戦行動の準備をしているとか、そういうことをいくつか教えてくれればいい』
そんなカーラの申し出に支部長は是と答えた。選択肢は他にはなく、時間もない。どのみち玉砕覚悟の作戦だったというのもある。
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その結果が最善とは言えないまでも、現実的に考えれば最良と言える結果を生んだ。
サム・ドルマヤンとリトル・ツィイーの救出に成功したのだ。なぜ最善と言えないかといえば、解放戦線の同志メッサムが既に死亡していたからである。救出部隊が到着する頃には彼は既に事切れていた。
ルビコニアンにとってコーラル採掘プラント「コーラルの井戸」は生活の糧となるが、企業にとっては資源の湧出地である。ベイラムはその場所を聞き出す為にメッサムを拷問していたのだが、メッサムは最期まで口を割らなかった。
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激昂する男がいた。
190cmはあろうかという体躯。浅黒い肌をした逞しい男だ。頭を剃り上げており、赤いベレー帽を被っている。格闘家の様に引き締まった肉体を持つ彼だが、意外にも粗野な印象は受けない。
立ち居振る舞いに品を感じるのだ。
勿論彼は戦闘部隊に所属する人間なので、そういった人間の品というのは一般的なそれはとはやや異なるが。簡単に言えば、軍人然としているというか、統制された暴力の気配を色濃く放射しているのである。
一見怒りに燃えている様に見える彼だが、見るものがみれば両眼に宿る怒炎の温度に欺瞞がある事に気付くだろう。
要するに彼は怒りというフィルターを通して、内部で情報を手引きした者がいないかを見極めようとしているのだ。ナイルはこの手の手法に長けている。効率的な尋問や拷問、そういった事は彼の十八番であった。
この油断のならない男こそがベイラムが誇る精鋭部隊、レッドガン副長のG2ナイル。
レッドガンの前身組織であるベイラム治安維持部隊のトップであり、当時はならず者であったミシガンを捕らえようとして失敗。最終的には一杯の酒で話をつけ、ミシガンという傑物をベイラムへ引き込んだ功労者でもある。
焼け残った施設に集った生き残りの職員達は、ナイルの放つ激怒の炎に炙られて呼吸すらままらない。勿論それは裏切り者がいないか炙り出すための偽りの怒りであったが。……とはいえ、その怒りには本物の怒りも多分に混じってはいた。
哨戒任務から帰還したかと思えば収容所が壊滅していたのだから無理はない。
防衛部隊は壊滅し、ガトリング砲台などの防衛兵器も潰されている。最悪なのは捕虜を皆奪還されてしまった事だ。奪還されるくらいなら情報を取れなくなる事を覚悟で殺害してしまった方がまだ良かった。
『俺が哨戒任務に出て1時間足らずだぞ! 基地の異常を信号で受けて、急いで帰還していたがせいぜいが1時間半程度でこの有様か! 足止めも出来んのか! だったら俺を哨戒任務になど出さずに収容所へ留めておけば良かったではないか!!』
元はと言えば収容所の所長がG2ナイルに周辺地域の哨戒任務を頼んだ。この施設の最高責任者は収容所の所長であり、G2ナイルは如何に精鋭部隊の副長と言えども所長を超える権限を有しない。その任務に一定の妥当性がある以上、断る事はできなかった。
G2ナイルはあくまでもこの地の守りの補強として派遣されてきたに過ぎない。彼の有する尋問技術や、豊富な戦場経験が買われたのである。
ベイラムとしてもこの地に有象無象を派遣するわけにはいかない。それは解放戦線の重要人物が収容されていたからであり、この奪還は断じて阻止しなければならなかったからだ。そういう意味でG2ナイルは適任であった。
とはいえ、所長にも判断は結果としては間違っていたが、経過としては必ずしも間違っていたとは言えない。
G2ナイルの駆るAC『ディープダウン』は重装支援機体であり、大量のミサイルをバラまいて敵を無理やり動かし、隙を晒した所をリニアライフルで撃ち抜くというものだ。その戦闘スタイルを生かす為に、ナイルはレッドガンのMT乗り達を何人か連れている。だがそういった戦闘を敷地内でやられてしまうというのは所長にとって都合が良いとはいえなかった。
──施設が壊れたらどうするのだ
そんな思いが所長にはある。
それに、近隣にある解放戦線の基地戦力は些少だと目されており、そこから戦力が派遣されてくるにしても僅かなものと予想されていた。当然その戦力差は解放戦線も理解しているだろうし、あちらから打ってでるということは考えづらかった。
しかし万が一という事もある。
ゆえに所長は、いや、故所長はナイルに周辺の警戒を命令したのだ。仮に戦闘となっても収容所に被害が出なければ良い。
その結果がこれである。
だが、仮にナイルが収容所へ居残っていたらどうなっていたか。周辺警戒の最中、救出部隊と鉢合わせていたらどうなっていたか。
それを考えると、G2ナイルにとっては幸運だったのかもしれない。あるいはベイラム本社にとっても。
二段ABはアーマードコア4あたりに出て来る二段QB的なアレと思ってくれれば。
二段QBは4系のテクニックです。
QB発動するかしないか当たりの所までトリガーを押し込み、お漏らししそうになったら押し切ります。通常よりも移動速度が200㎞程増えます。
裏技の類ではないですが、中々難しいテクニックです。ただ、ストーリークリアくらいなら兎も角、対戦をやるならほぼ必須とも言えました。