ポーキュパイン異聞   作:埴輪庭

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 ◇◇◇

 

 621はレッドガンのナンバー持ち2名と共にガリア多重ダムの襲撃任務に参加していた。

 

 ここはルビコン解放戦線の重要防衛拠点であり、発電施設を備えたライフラインとなっている。故に守りについては相応の防衛戦力が投入されている。今回の作戦ではそこを叩くという事になっていた。

 

 作戦目標は4つの発電施設のすべてだ。

 

『これよりベイラムグループ専属AC部隊レッドガンによる作戦行動を開始する! 突入しろ! 役立たずども!』

 

 ミシガンの作戦開始の合図を聞き、G4ヴォルタとG5イグアスがABで先行した。その後を621の機体が追随する。

 

 前方にはMT部隊が展開していたが、流石にレッドガンのナンバー持ちだけあって手際よくこれらを片づけてしまう。

 

 最初の発電施設前に展開していたMT部隊の最後の一体をイグアスが撃破し、621の機体へと通信を飛ばす。彼には621に言わねばならない事と言ってやらねばならない事があったからだ。

 

『独立傭兵かよ。野良犬の世話をしろってのか、レッドガンも舐められたもんだ……といいてぇところだが……っておい!?』

 

 しかしそんなイグアスを無視して621はABを起動。そのままイグアスの頭上を超えて発電施設へ蹴り飛ばす。動かぬ目標に弾を使う必要などないと判断しての事だった。弾を撃てば撃つほど金がかかる。621は現在、とある理由によりCOAM()を必要としているのだ。

 

 十分な速度と重量が乗った蹴りを受けた発電施設は爆散し、621は次の目標に向けて翔んでいく。レッドガンの二名が僚機である事など眼中にもないといった風情であった。

 

 ◇

 

『なンッ…………っだあの野郎!! 舐めやがって!』

 

 イグアスが激昂する。協調心の欠片も見られない621の振る舞いが癪に障ったのだ。

 

『まぁ落ち着けよ。奴には借りもある。少しくらいは大目に見てやろうや』

 

 ヴォルタが言うと、イグアスはケッとチンピラの様に吐き捨てた。しかし借りがあるというのは事実で、ヴォルタの言葉には反論をしなかった。

 

『アップルの野郎が奴に見逃されたのは知ってるがよ、あんまりふざけた様な真似を許すつもりはねぇぞ俺ァよ』

 

 アップルとはレッドガンの下部組織、レッドシードの隊員であり、才能に溢れた青年である。イグアスやヴォルタより年下で、素直な気質のボンボンだ。ベイラム本社の幹部の息子という恵まれた境遇でありながら、レッドガンに憧れを持ち入隊したという背景がある。

 

 当初はどこのボンボンが、といびってやるつもりでアップルに近づいたイグアスなのだが、その毒気のない犬コロぶりに絆されてしまった。これは本人は決して認めないものの、レッドガンではイグアス以外の全員が了解している事でもある。

 

 イグアスには621に言わねばならない事と言ってやらねばならない事がある。

 

 言わねばならない事とはつまりは礼だ。通常、AC同士の戦闘はどちらかの死を以て決着がつく事が多い。ACで殺し合っておいて、勝敗がついた後に「いい戦いだったね!」と勝者が敗者を見逃す事は普通はない。

 

 だからアップルが621に見逃された事は僥倖中の僥倖で……素直に礼は言えないまでも、礼っぽい何かは言わねばならない……とイグアスは感じている

 

 対して、言ってやらねばならない事とはつまり "舐めてんじゃねぇぞ" である。アップルは目をかけている後輩で、才能もある。

 

 しかしそれでも所詮は候補生に過ぎず、レッドガンの正規隊員には及ぶべくもない。候補生一人を倒したからといって舐めてんじゃねえぞ、とイグアスは621に言いたかった。

 

 それら全ては彼女によって無視されたが。

 

 というより、イグアスは彼女が会話ができない事を知らない。故に彼は621の事を挨拶一つも出来ないクソ野良犬だと思っている。

 

 ◇

 

『あの野郎の魂胆が読めたぜ。俺らに掃除をさせるつもりだ。MT相手にビビってやがるのか? 仮にもウチのナンバーをつけている癖によ。舐めやがって……』

 

 イグアスがヴォルタにそう愚痴った瞬間、621は2つ目の発電所周辺を警備していたMTを何体かパルス・ブレードで切り倒した。

 

『……そうでもねえみたいだが……』

 

 ヴォルタは呟き、イグアスは黙りこむ。しかし沈黙も束の間、次の瞬間には回線を621に繋ぎ……

 

『おい! 野良……くっ……。おい、犬コロ! てめぇ……』

 

 そこから先の言葉を紡げない。なぜならば621は仕事をきちんとし、本来死んでも不思議ではなかった後輩を助命しているのだ。イグアスは粗暴で野卑でチンピラだが、筋一つ通せない外道ではない。だから得意のイチャモンがつけられないでいる。

 

『G5! おまけとの交流に余念がないようだな! ついでに仲良く刺繍でもして、そのよく回る舌を縫い付けておけ! それとおまけに話しかけても無駄だ! 奴は口が聞けん! 分かったらとっとと仕事に戻れ!』

 

 そこでG1ミシガンからの喝が入る。

 

 ミシガンはウォルターから621の事情を聞いている。しかしそれは621にとっては弱点ともなるセンシティブな事情であり、可能な限り秘しておくつもりだった。だがG5イグアスが執拗に絡むのを確認して少し情報を開示したのだ。

 

 ──奴の性格からして無視されていると誤解すればまたぞろ悪絡みをするかもしれん。イグアスも中身がまだまだガキだ。もう少し絞りあげてやる必要があるか

 

 ミシガンはそんな事を思いつつ、舌打ちをした。

 

 ◇

 

 三つ目の目標は高台にあった。

 621は迷う事なく機体を上昇させ、発電施設に蹴りを放つ。護衛のMTの相手も程々に、3つ目の目標からやや北西の崖にむかってABを吹かした。

 

 最初とは逆に、ヴォルタとイグアスが621の後背を追随する。防御力に長けるが鈍重な機体を駆るのがヴォルタ、ヴォルタよりは足回りは良くバランスがとれた中量機体を駆るイグアス。

 

 621の『LOADER4』はイグアスと同じ中量機体だが、行動の迷いの無さがレッドガンの二人よりも621を先行させる要因となっていた。

 

 ──『良いか、621。大事なのは優先順位だ。目標が明確である場合、道中の障害物のどれを撃破すべきかを考えろ。放置しておくには危険な相手は優先して排除しなければならないが、しかしそうでもない小者は捨て置け。大切なのは目標を達成することだ』

 

 ハンドラー・ウォルターの至言である。

 

 この教えはハウンズ部隊の全員に行きわたっており、だからこそ強化人間とはいえただの四人の部隊が方々で恐れられた所以でもあった。"ハウンズに狙われたら最後" というのは、ウォルターと敵対した多くの者達が一度は聞く厄言なのだ。

 

 ちなみに621にこの心得を言葉として教えたのはウォルターだが、戦闘スタイルとして叩き込んだのは部隊でもっとも優秀な猟犬であった617だ。軽量級のACに乗る彼は、目の覚める様な電光石火の強襲を得意とし、特にブレード捌きでは部隊で最も巧手であった。

 

 621を妹の様に可愛がっていた好青年……。しかし"あの作戦" で機体ロストし、帰らぬ存在となってしまった。その作戦では619、620も生体反応がロストしている。

 

 しかしハウンズ最後の一人である621の中にはいまなお部隊の教えが息づいているのだ。

 

 ◇

 

『聞こえるか! 強欲な略奪者ども! 我々ルビコニアンが屈することはない!! 鉄の棺桶で送り返して……ッ!?』

 

 などと言い放つ解放戦線のACに蹴りを放ち、621は流れる様にブレードを振るう。敵を目の前にして口上を垂れるなど、先制攻撃をしてくださいというようなものだ。

 

 勿論相手もACである以上、その程度では撃破には至らないが、そのACのパイロットであるインデックス・ダナムはAC乗りとしては未熟も良い所であった。有効打を受け、機体がスタッガー(よろめき)状態となり、一時的に操縦を受け付けない状態となる。

 

『ACが混じってやがる。だが残念だな、あの犬野郎は足癖が悪りぃんだ。おい、ヴォルタ』

 

『おう。奴さんが混乱している間に仕留めさせてもらうか。ああなっちまうとMTと大差ねぇ。時代遅れのゴミだ』

 

 621の速攻スタイルにだんだんと慣れてきた二人は、スタッガー状態にあるインデックス・ダナムのAC『バーン・ピカクス』に攻撃を集中させてそのまま削り切ってしまった。イグアスもヴォルタも元はチンピラであり、複数で一人をタコ殴りにするのは得意中の得意なのだ。

 

 インデックス・ダナムはゲリラ指導者の一人で、人望もある解放戦線の重要人物なのだが、AC乗りとしての才能は全くなかった。

 

 AC乗りとしての才能とは操縦技術だけではない。判断の早さ、見切りの早さも重要である。例えば、相手がAC3機でこちらが1機しかいなかった場合。余程の実力差がなければ嬲り殺されるというのは自明の理である。だから普通は逃げるし、逃げられないならばせめて逃げたふりをして周辺のMT戦力を集中させるよう立ち回るべきだ。

 

 勿論それでも嬲り殺されるだろうが、数秒、数十秒は寿命が延びる。たったそれだけの時間生き永らえても何になるかという話ではあるが、それでも万が一、億が一、敵機に対しての買収工作が成功し、2vs2となる可能性もないわけではない。

 

 炎上する『バーン・ピカクス』を暫時馬鹿を見る目でみていたイグアスだが、ふと崖上を見上げる。4つ目の作戦目標が爆破されたようだった。

 

『役立たずも役立たずなりに役立つことが証明された! 遠足はここまでだ!』

 

 ミシガンからの通信がはいり、作戦が終了する。

 発電機が全て破壊されてもいずれは復旧されるだろう。だがそうなれば再度破壊してやればいいだけの話だ。……少なくとも、G1ミシガンはこの時点ではそう考えていた。

 

 §§§

 

 とある高台から二機のACがダムを見下ろしていた。

 

『ベイラムが先に仕掛けたか』

 

『先をこされたわね』

 

『二人とも、聞こえますか。そのまま解放戦線に打撃を与えることに意味はないと判断します。撤退してください』

 

 男の声、そして女の声。いま一つは、オペレーターの女性の声だ。だがどこか作り物めいている。

 

『……分かっている。帰投する』

 

 男の声色には何か陰鬱なものが混じっていた。

 女は返事すらしない。

 

 男女共に、そのオペレーターとは知己であった。仲も良かった。彼ら四人は死線をいくつも潜り抜け、そして信頼を積み重ねてきたのだ。彼ら四人は特別な友人だったとすら言えた。

 

 全ては過去形である。

 

 黙りこくっていた女はコックピットの中で目を伏せる。

 

 ──ああ、ケイト。全てを解き放てば本当にもう一度……貴女に逢えるのかしら……

 

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