ポーキュパイン異聞   作:埴輪庭

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 §§§

 

 グリッド。

 

 このグリッドとは何なのか。それはアイビスの火以前に惑星ルビコン3の各所に建造された巨大構造物だ。地上に突き立てられた支柱の上に、様々な設備、建築物などが一見無計画、無軌道に配置されている。

 

 元々は大規模な物資輸送を目的に作られたものであり、中層、下層には鉄道輸送網やカタパルト、上層には大陸間輸送用のカーゴランチャーが設置され、今でもその機能は健在だ。

 

 RaDのアジトはこのグリッド086の下層部~中層部に存在する。ちなみにグリッド086の上層部にはカーゴランチャーがあるが、上層部は惑星封鎖機構の監視下にあり、各種の防衛無人機や更には衛星砲による狙撃によって何人たりとも一定以上の高度へは侵入できない様になっている。

 

 §

 

 ベイラムからの依頼の後、彼はカーラに事情を聞かされた。

 

 曰く、ダブルブッキングであったと。

 そしてあの場にいたACはカーラの知り合いの子飼いであったと。なぜそれがカーラに分かったかといえば、ベイラムの依頼の仲介人を問い詰めたからである。

 

 他に誰が依頼を受けたのかという情報を企業が漏らすとは考えづらいとポーキュパインは思うが、すぐに思いなおす。

 

 以前の人生での話だが、ミラージュ、クレスト、キサラギ…こういった企業連中の依頼を受けていく中で、極秘の依頼の筈なのになぜか情報が漏れていたなんてことは珍しい事ではなかったからだ。

 

 ──本当にダブルブッキングだったのかも怪しい所だ。俺とあの機体を潰し合わせ、ひいてはカーラとその知り合いとやらを争わせようとしていたと言われた方が納得出来る

 

 そんな事を思いながら、ポーキュパインはガレージへ向かった。

 

 この場所はアジトに割りあてられた各施設の中で最も広い面積を占有する。ここは"工房"で造られた完成品置き場も兼ねており、RaDにとって重要な区画である。

 

 ポーキュパインは先日の戦闘によってACのフレームに歪みがでていないか確認しに来たのだ。それともう一つ、野暮用もあった。

 

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 ガレージには3体のAC機体が並んでいた。

 

 カーラの『フルコース』

 

 チャティ・スティックの『サーカス』

 

 ポーキュパインの『バーブドワイヤー』

 

 いずれもRaDで組み立てられた機体であり、ガレージの管理、ひいてはAC機体の管理はヤクで手元が怪しいメカニック…がするわけではなく、そのあたりの事はチャティに任されていた。

 

 ──≪チャティ・スティック≫

 

 カーラが1から造り上げた提案型AIで、RaDの実質的なブレインとも言える。カーラの突拍子もない発想を形にするのがチャティの役目だった。裏方として求められる能力を十全に有しており、データのハッキングなどで組織をサポートする。ただし、緊急時は彼自身も乗騎である『サーカス』を駆って戦闘に参加する事もある。

 

『どうした、ラミー。いや、ポーキュパイン』

 

 ガレージに据え付けられた音声システムから男の抑揚のない声が響く。機械的で平坦な音声だ。しかしポーキュパインはそんなチャティの声にどこか人間味めいたものを感じている。

 

「ラミーでもいい。呼びやすい方で呼んでくれ。用件は機体の事だ。少し乱暴な扱いをしたからな。それと肩部の武装についてボスに頼んでいた件なんだが、チャティに聞いてくれと言われた」

 

『一つずつ答える。損傷は問題ない。少しへこみがあったが簡単な板金だけで済んだ。武装については問題がある。DF-GA-08 HU-BENを両肩に据えるという話だが、難しい。チェーンガンとガトリングガンは構造的に異なる。だがお前は説明が嫌いだろう。だから省く。チェーンガンを一から設計してもいいが、案件がたまっているから時間がかかる。別の武装で代用してほしい』

 

 ポーキュパインはそれを聞いて少しだけ落胆した。前の人生で、彼の機体は両肩にチェーンガンを積んでいたのだ。ポーキュパインはブレードに強い拘りがあり、両腕にブレードという信念を曲げる気はないが、ブレードの距離に持ち込むための露払いとしてチェーンガンを使っていた。しかし残念な事に、この惑星ルビコン3には肩用のチェーンガンが流通していないのだ。

 

 その代わりにガトリングガンが独立傭兵達に人気を博しているが…。

 

「別の武装か」

 

 ポーキュパインは顎に手を当てて悩む。

 黙りこくった彼に、チャティは再び声を掛けた。

 

『悪いな』

 

 いいんだ、とポーキュパインは答え、作業台の端末を操作した。するとディスプレイには様々なACパーツのリストが表示された。

 

 ポーキュパインは一つ一つそれらを吟味する。

 悩ましくはあるが、レイヴンであるならば心躍る時間でもある。

 

 ──SONGBIRDS、か

 

 ポーキュパインの視線がとある肩部の武装に注がれる。カタログスペックは悪くはなかった。

 

『メリニットの連装式グレネードランチャーか。メリニットは星外企業だ。そしてボスは星外企業を嫌っている。しかしメリニットは別らしい。芸術は爆発だというポリシーが笑えるのだそうだ。話はそれだけだ。俺は仕事に戻る』

 

 突如チャティが話し出す。ボス…カーラの事になるとチャティというAIは何だか人間染みてくるのだ。それがポーキュパインにはおかしかった。

 

 §§§

 

 強化人間C4-621はBAWSのガレージ付貸し物件で生活をしている。

 

 といってもメインはガレージだ。ACの整備に必要な最低限の設備が備え付けらえている。また、パーツの付け替えなどは専用のAIが組まれた大型ロボットアームなどもある。それらの操作はタッチパネルで行い、621の様な不具者であってもアセンブルする分には問題はない。

 

 生活居住区もあるにはあるが、ガレージの一画に無理やり手を入れたに過ぎず、居住性が良いとはとても言えない。

 

 ちなみにBAWSとは BELIUS APPLIED WEAPON SYSTEMS の略で、ルビコン発祥の企業である。社員はルビコニアンで構成されており、"商売相手を選ばない" というポリシーを掲げている。

 

 ルビコン解放戦線といった者達も散々世話になっている地元企業だが、前述した通りBAWSは商売相手を選ばないというのが建前なので、ベイラムやアーキバスといった星外企業からの兵器発注にも応じているというのがやや皮肉ではあるが。

 

 だがなぜルビコン発祥の企業である彼等が、侵略者も同然である星外企業を相手に商売をするのか。

 

 この辺りには諸説あるものの、BAWSが稼いだ金の一部がエルカノというルビコン発祥企業へ流れている事が関係しているのかもしれない。

 そしてそのエルカノだが、BAWSから流れてきた金を使って新機軸のACパーツを開発している…という噂が耳ざとい者達の間ではまことしやかに流れている。

 

 アーキバスやベイラムといった星外企業も当然この噂を把握してはいるが、彼等は製鉄業者上がりの田舎企業に一体何が造れるものかと軽視していた。

 

 ともあれ、そんなBAWSだが商売相手どころか商売内容も選ばないようで、なんと生活居住区の賃貸・販売も行っており、621はそこで暮らしている。ちなみにウォルターも一緒だが、生活を共にしている、という程同じ時間を過ごしているわけではない。ルビコン3へ到着してからというものウォルターは方々へ足を運び、滅多に帰ってこない。

 

 621は殆どの時間を一人きりで過ごしている。

 しかし彼女はそれに対して、ウォルターに何かを言った事は無かった。言うつもりがないのか、言う機能を失っているのか、その辺りは彼女のみぞ知るといった所だろう。

 

 ただ、一人の時間がほとんどと言っても彼女はウォルターから言いつかっていることもあり、やる事が何もないわけではなかった。

 

 例えば外へ出て空を見る。

 例えば歩く訓練をする。

 例えば端末に保存してある映像…殆どが知育系のものだが、そういったものを視聴する。

 

 それらが彼女の情動をどれだけ慰撫するか、癒せるか、復元できるかはウォルターにも分からないが、やらないよりはマシだと彼は考えている。

 

 そして、その日も621はぼんやりと部屋に備え付けてある大型のディスプレイを眺めて過ごしている。

 

 ディスプレイには一面の緑が映されていた。

 明らかに惑星ルビコン3(ここ)ではないどこかなのだが、ウォルターはその映像を在りし日のルビコンだと言う。

 

 621はこの映像を何度も何度も繰り返し観ていた。一人で観た事もあるし、四人で見た事もある。彼女の先輩にあたる三人の猟犬と共に。

 

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『621、仕事だ。アーキバスグループから公示が出ている』

 

 621が映像を観始めてどれくらい経っただろうか。端末に音声データが送られてきた。ウォルターのものである。ルビコンでは基本的に依頼の類は音声データ、もしくは音声+映像データで送られてくる。それは盗聴対策が容易だからだ。リアルタイムで対策を施すより、データとして型にはめてから対策をした方がよりセキュアである。この辺は依頼のブリーフィングも同様だが、1分1秒を争う様な依頼の場合はリアルタイムでの通信が求められる事もある。

 

 621は依頼を確認した。

 公示もまた音声データだ。

 

『独立傭兵各位。これは当社系列企業シュナイダーからの依頼です。我々と敵対関係にあるベイラム系列企業大豊がテスターACを導入しました。外部アーキテクトへの委託によりアセンブル最適化を施したテスターACは熟練のパイロットに渡れば無視できない脅威となります。そこで依頼です。当該機体の輸送を狙い、これを撃破していただきたい。アーキバスグループは各位の奮闘に期待しています。よろしくお願いします』

 

 621はノータイムで依頼を受諾した。

 ハンドラー・ウォルターは猟犬の自主性を重んじているのか、命令に絶対服従というタイプではない。依頼はとってきたが、受けるかどうか任せるという様な事もある。

 

 しかし、受諾する以外の選択肢を与えないこともある。テスターACの撃破依頼はその類の仕事であった。

 

『相手は訓練生とはいえ、AC乗りだ。油断はするなよ。…ただ、前回出くわしたような奴ではない事は確かだ。アレは一体何だったのか…』

 

 ウォルターは考えるが答えはでない。

 

 ──もうしばらく実績を積んでからカーラに接触をする。その時に聞いてみるか

 

 

 

 

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