アッシュSide
俺は周囲の気配を探り危険が無くなった事を確認すると振り上げていた剣を下し、ゆっくりと
「ちと制御に失敗したか」
なるべく抑えたつもりだったんだがな…。
と、俺は頭上に空いた大穴を見て
ローレライの一部が身体に入っているためか使う譜術の威力が上昇しているのはいいが、どうも
さらに
こうも力が強くなり過ぎると今回みたいな事じゃ無い限り使いようがねぇな。
「おい、怪我はねぇか?」
俺は思考を打ち切りコボルドの全滅を確認した後、最後に2人へと無事か確認を取るとエドナと爺さんは未だに呆けた感じだったがしっかりと返事をした。
俺は返事を聞くと、なら帰るぞと言い返し3人で廃坑を後にした。
「…エドナッ! ユルバンッ!」
「おおッ! よくぞ御無事で」
村へと戻ると入り口でずっと待っていたのかロドバルド男爵夫人と執事の男が帰ってきた俺らに駆け寄って来た。
「奥様…。申し訳ありませぬ。儂は奥様の命に逆らったどころかコボルド1匹打ち倒すことも出来ず、尚且つ敵に捕まりエドナ様と騎士殿を危険な目に遭わせてしまい申した。儂は名誉挽回と仇討ちの事ばかり考え自分の力不足をまったく考えておりませんでした。どんな罰でも受けましょう」
「いいえ。あなた達が無事でなによりです。罰なんて…」
「おい。話しは屋敷に戻ってからの方がいいだろ。俺は大丈夫だが爺さんはボロボロでエドナに関しちゃあこんなんだ」
このまま放っておくといつまでも問答しそうな雰囲気の夫人と爺さんに俺は口を挟んだ。
さすがに外の馬は逃げ出していて廃坑から村までは歩いて戻ってくる事になり、その為2人はヘトヘトでエドナに関しては途中から俺が背負ってやるはめになった。
本人は別に大丈夫と言い張っていたがフラフラと足元はおぼつかなく、少し歩くたびに転びそうになったりと放っておけばその内に転んで怪我をすると思い無理矢理背負ってやった。
最初はブツブツと耳元でウザったく文句を言っていたが途中から言葉は途切れ途切れになり、そして村に着く少し前には寝息しか聞こえてこなくなった。
「あ、そうですわね。では屋敷に戻りましょう」
俺の言葉に夫人は同意し、屋敷へと移動した。
屋敷へと戻ると夫人は執事の男にタオルの用意を命じ、そしてエドナを俺から預かり部屋へと寝かしにへと行った。
俺と爺さんはそれぞれの部屋に行き、用意されたタオルで体の汚れを一通り落としてから俺は客間へと戻った。
「ああ騎士様。この度はコボルドの討伐に加えユルバンを救っていただいた上にエドナ共々無事に帰還させていただき本当にありがとうございます」
客間に入ると夫人がすでに戻っており、俺の姿を見るや深く頭を下げ礼を言ってきた。
「いや、別にたいした事じゃない」
「いえ、此度の事は本当にどれだけの礼を尽くしても感謝し足りない程です。出来れば私個人からの報酬と言う事でお礼の品を渡したいところですか…」
「だからそんなもんは……いや、そうだな。報酬を渡したいと言うんだったら代わりに少し聞いておきたいことがある」
夫人の言葉に俺はふとこの村のとある事を、そしてこの先の事を聞こうと思い至り、それを報酬として貰いたいと言い返した。
「聞きたいことですか? いったい何を…」
「いつまでこの茶番を続けるつもりなんだ?」
「……茶番。一体何のことですか?」
「麓の街で聞いたんだが今から10年前、この村はコボルドの群れに襲撃されて村人は皆殺しにされたらしいな」
「…ッ!?」
「それ以来この周辺にはコボルドが住み着き
「…………………」
「…そしてこの村の農産の様子をみたが、どう考えても村人全員が生活をしていくには絶対的に足りていない。行商も来てなく農作の数も少ないにも関わらずこの村は栄えている。村人の行動も変だ。普通畑仕事なんかはそれなりに早い時間から作業し始めるもんだが、今朝方村を飛び出た時に畑が見えたが、誰1人として居なかった」
「そこまで気づいておられたのですね…。分かりました。全てを話しましょう」
俺の疑問に夫人は観念し言葉を漏らし、そして夫人はこの村の真実を話し始めた。
今から10年前、突如として現れたコボルドの群れが村を襲ったそうだ。
襲ってきたコボルドの数は多く、爺さんや夫人、村の男共が奮闘しようとも数で圧倒された。
そして何とかコボルドを追い払う事ができたが、その時にはもう村の人間はエドナと夫人と爺さんだけしか生き残りがいなかった。
しかし生き残ったとは言うものの、夫人はエドナをコボルドからの攻撃から守るために重傷を負い、エドナはまだ7歳の子供。そして爺さんも昏倒しておりいつ目覚めるか分からない状態だった。
こんな状態では無事に街まで行けるかどうかも怪しく、かと言ってこのままではいつ目が覚めるか分からない爺さんと幼いエドナを残したまま自分は死してしまう。
そして爺さんが目を覚ました時、爺さんとエドナ以外の皆が死んでしまっていると知ったら、その心には生涯ずっと後悔と事績の念で苦しみ続ける様な傷が出来るだろうと。
夫人は考え、そしてある事を実行した。
土系統の優秀なメイジであった夫人は村人のガーゴイルを大量に作りだし、そして平和な…、それこそ誰一人の怪我も犠牲も無い、いつも通りの平穏でのどかな村を作り出した。
「そしてこの村の全てのガーゴイルの核となり夫人の代わりとなる私を作ったのを最後に本当の私は息を引き取りました。それから10年、私達はユルバンとエドナの為だけにこの村を維持し続けているのです」
「…なるほど、な」
全ての話を聞いて俺はレプリカの事を思い出し、何とも言えない気持ちとなった。
もちろんこいつらの存在理由はあいつ等とは全く違く、重ねるべきでないとは分かっている。
俺は軽く頭を振り、余計な思考を追い出し本題の答えを聞くために夫人に促した。
「……私たちは所詮はガーゴイル。私たちは夫人の最後の命の下、いつまでも2人を偽り続けます」
「…老い先の短い爺さんはともかく、エドナを騙し続けるには無理があるんじゃねぇのか?」
「あの娘には、時が来たら話すつもりです」
夫人は悲しそうな表情でそっと顔を伏せて呟くように言った。
多少の予想はしていたが、こうも予想通りの答えを出されるとはなぁ…。
さて、どうするか。これ以上はどう考えても余計なお世話以外なんでもねぇんだが……ったく、こう言うのは俺のキャラじゃねぇってのに。
「時がきたら、か。なら丁度いいじゃねぇか。今がその時かもしれねーぞ」
俺は内心大きくため息を吐いて軽く頭を掻き、顔を伏せている夫人へと言い返した。
「え? どういう…」
「おいお前ら。盗み聞きしてねぇで出てこい」
「やっぱりバレてた」
「その…不作法をお許し下され」
俺が扉へと向いて声を掛けると少しの間の後、ゆっくりと扉が開きエドナと爺さんがバツの悪そうな表情で姿を現した。
「あ、あなた達ッ!? いつから…、ど、どこから話を……」
「…アッシュがこの村の事を自慢気に語り始めたところからよ」
誰が自慢気だ! と言い返してやりたかったが、一々こいつの言葉に反応して話しの腰を折るのもバカらしい。
夫人はそんなエドナの答えを聞いて顔を青く染め、そして爺さんの方へと顔むける。
「すみませぬ。儂もお嬢様と共にほとんどを…」
「ユ、ユルバン。これは、違うのです。本物の夫人はあなたを悲しませたくなくて…」
「奥様、いいのです。おかしいとは思っておりました」
夫人はユルバンの寂しさを帯びた表情に動揺し何か言い訳のような事を言い始めるが、全てを言い終る前に爺さんが発した言葉に目を見開き、凍り付いたかのように固まった。
「気づいて、いたのですか?」
「気づいていた…のかもしれませぬ。奥様の言う通りで儂は真実を受け入れられずに村の異常に気づいておきながらずっと目を反らし気づいていない振りを続けていたのでしょう」
「ユルバン…」
「ですが、此度の事や先ほどの御話しで多少なりとも気持ちの整理が出来ました。ご心配していただき感謝いたします。でも大丈夫です」
爺さんの言葉を聞いた夫人は顔色を戻し次いでエドナを見た。
「わたしは最初から知ってたし」
「…分かりました。ユルバン、エドナ、付いてきてください。騎士様もどうかご一緒に」
夫人は2人の言葉を聞くと覚悟を決めたような表情になり、俺たちを連れて客間から移動し始めた。
夫人に連れられ屋敷を出て、裏手の森の中へと入りしばらく歩くと突如として森の中に在るには不自然に開けた場所へと出た。
「ここは、墓地か」
俺は目の前の綺麗に墓石が並べられた広場を見渡して小さく呟いた。
「ここには10年前に亡くなった村人たち全員が眠っています。そして…」
ここに本物のロドバルド夫人が眠っています、と広場の一番奥。他のよりいくらか立派な墓石の前に俺たちをと案内した。
「…ッ。奥…、様」
「……ん」
墓の前で爺さんは震える声で絞り出すように声を出し、エドナはぐっと爺さんの服を握り顔を俯かせた。
そして2人はゆっくりとした足取りで墓の前まで移動し膝をついて手を組み黙祷を捧げ、俺も2人の後ろから礼儀として目を瞑り小さく黙祷を捧げた。
「これからどうするつもりだ?」
色々とあったがコボルド討伐と言う任務を終えた俺は村の門の下でエドナと爺さんに尋ねた。
「そうね。お爺ちゃんと一緒に村を出ようと思うわ」
「いいのか?」
「未練なんて山ほどあるに決まってるじゃない。でもお爺ちゃんと私だけでこんな山奥の村の復興なんて無理。そりゃあお母さま程の魔法の腕が良ければこの村の大量のガーゴイルを自在に操ってどうにか出来るだろうけど、わたしはそう言う細かいのは苦手なのよ」
「爺さんは…」
「確かに寂しい事には変わりは無いですが、儂はお嬢様の従者として付いて行くだけです」
2人とやはり故郷を捨てる事に寂しさを感じていて表情に陰りはあったが、かと言って悲壮と言う感じではない様子だった。
まあ直ぐに吹っ切れと言うのは無理だろうからな。
「そうか。……とりあえずコレを渡しておく。何かあればそれを持って城へ来い」
俺は出発前に書いた手紙をエドナに渡した。
「…? 何これ」
「紹介状みたいなもんだ。必要ないなら捨ててもらっても構わん」
「あなた、顔に似合わず相当のお節介ね」
うるせぇ。この顔つきはもうクセみてぇになってんだ、そう簡単に戻るかよ。
「ふんっ。俺はもう行く」
「あ、ちょっと待って」
俺は踵を返して歩きだそうとしたら、エドナが待ったを掛けてきた。
「あ? なんッ!?」
エドナの声に振り向いた瞬間、唇を塞がれた。
俺がいきなりの事に驚き固まっている間にエドナはすぐに俺から離れる。
「今のはわたしがあげられる最高のお礼よ。一生大切にしなさい」
離れたエドナは驚いている俺をドヤ顔でそんなふざけたことを言ってきやがり、そして俺が何か言い返す前に屋敷の方へとっとと去って行った。
「ったく何考えてんんだあいつは」
「…………」
「おい、なんだその目は」
「いえ、別に何でもありませぬ」
妙に生易しい目を向けてきた爺さんに睨みを利かせた後、俺は大きくため息をつくと再度踵を返して帰路へと就いた。
今回のアッシュ編終了。
書いていてアッシュが世話焼きすぎだろと言う気持ちでいっぱいだったけど、もうしょうがないよね。