「どっっっっっせえええええい!!」
耳をつんざくクラクションの音をかき消すように、鋭く響く勇ましい叫び。
記憶と心に刻み込まれていたあのカッコいい声が背後から迫ったかと思えば、次の瞬間、オレは時速60kmのスピードで宙空を舞っていた。
けれども大型トラックに全身を打ち付けられた結果ではなく。
自分よりも背の低い少女に抱えられ、走った勢いそのまま、地面と平行に跳躍した結果だ。
子どもの頃、調子に乗ってブン回した遊園地のコーヒーカップよりもなお早くまわる景色の中、オレの視線はかろうじてその子の青く鋭い瞳を捉えていた。
(あぁ、レースのときと同じ顔だ)
などと、画面越しに覗く勇姿を間近で見られたことに歓ぶ自分がいる。我ながらあまりにも間抜けな感想を思い描いたオレは、
「フッ!」
「んぎゅッ⁉」
衝撃から庇おうと力を込めて抱きしめた
あぁ、去来するデジャヴュ。これ、二度目なんだよな。
≡≡☆
「もぉしわけ御座いませんわぁ!助けようとしてまさか締め落としてしまうなんてぇ……」
「い……いやいやだから違うって。何度も言うけど、完全に自分の不注意で死にかけてたところを、命まで救ってもらったんだ。責められるわけないよ」
どうかボロがでませんように!と心で念仏唱えながら必死に虚勢を張って答えているのがオレ、《ヤマシタ トネリ》。ここは病室。事故の後にどうも担ぎ込まれたようだ。原因はながらスマホ。先日のレースの動画を見てうっとりしていたところを車に轢かれそうになるという完全なる自業自得。---うん、記憶は万全、自分が誰で、どういう状況かもはっきりわかってる。だからこそ、しでかしてしまった事の重大さに急激にしぼみ始める心。思い描いたような大人な対応ができているのか甚だ疑問だし、そろそろそれも限界だ。俺が目を覚ましてから何往復目かの謝罪合戦の最中、実はもう本性が口をついて出てしまっていないか冷や冷やしている。
目の前で涙目の謝罪を繰り返しているのは、
メイクデビューで3馬身差、そして阪神
「しかもそれが憧れのカワカミプリンセスさんだっていうんだから最早オレは死んでもいい。……いや、将来有望なあなたの身を危険に曝してしまったんだ、死を持って償うべきでは?ごめんなさいオレはなんてことを」
「ヒェ、あ、え、えぇぇぇ⁉ちょっとお待ちに!まだ安静になさって全治一か月なんですのよ!」
ダメだった所詮は書き割りか。無理だろ。可愛いんだよ、カッコいいんだよ、憧れのヒロインが目の前にいんだよ。冷静でいられるわけないだろ。それに迷惑かけてんのに自分のプライド保とうとか、あダメだ今すぐそこから飛び降りなくては。ベッドの手すりを握って痛みに悲鳴を上げる体を引きずり起こす。その間にも慌てた彼女はオレを寝かせようと腕を握ってくるが、先立っての
「ダメだ離してくださいカワカミプリンセスさん。これからのレースはせめて草葉の陰から応援させていただきますので」
「なんでせっかく助けたのにまた死のうとしておられますの!? プリファイでもこんな展開---ありましたわ第3期13話の自ら足を折ろうとするヴィランを決死で止めるシーン!つまりこう‼」
「はぶぇッ」
醜態を晒したオレは、カワカミプリンセスの鮮やかな(というか見えない)手刀で再度意識を刈り取られベッドに崩れ落ちた。遠のく意識と視界の端に「やっちまいましたわ」とさらに困惑の色を濃くする彼女の顔が一瞬だけ見えて、やっぱり君は優しいな天使かよなどと心の手を合わせて拝む。
これがオレの人生の絶頂に違いない。
クリスマスも近づく師走の頃、オレはそう信じきっていた。
トリプルティアラ路線をバクシンする予定。