今回からアスナの服装が変わります
ポケモン協会ホウエン支部には数か月に一度の不定期に筆頭トレーナー達の会合が行われている。カナズミ、ムロ、キンセツ、トウカ、ヒワマキ、トクサネ、ルネ、そしてフエンから支部のあるサイユウシティに集結しては様々な事について話し合っていた。ここ数日のジムの経営がどうだ、リーグ進出者の腕前がどうだ、更にはポケモンを使った犯罪の抑止力がどうだなどの話題が上がっている。
その中でカエンは会議終了後、同期で今はヒワマキジム筆頭トレーナーであるツバサと次の会合の日程を決めていた。ツバサは大の飛行タイプポケモン好きで、元はポケモンマスターを目指す少年だったのだが、ヒワマキジムに挑戦する時ナギに惚れてしまい今に至る。
「それでカエンの方はどうなんだい?最近の
「中々に悪くない。悪くないんだがアスナが……なぁ…」
カエンの悩みの種はアスナの力量にあった。ジムリーダー就任から今日までの彼女の戦績を見るに、一季節に一度の割合で三連敗を喫している。アスナはまだ実力も経験も薄い方で、彼女に易々と挑戦者を通してしまっているカエンも日々苦悩していた。
弱いジムリーダーは筆頭トレーナーが必然的にカバーしなければならず、その分ポケモンたちにかかる負担も多い。現にジムの営業終了時刻にもなると、カエンの手持ちのリザードン達も人間と同じように肩で息をする程疲労する事も少なくない。アスナもその事に関して責任を感じており、今日もフエン火山の周辺で特訓しているそうだ。
「つか、ツバサの方はどーなんだよ。ナギさん強いし、そうそう連敗なんざしねぇんだろうなァ」
「ああ。まぁ、なんてーの?ナギさんと彼女の手持ちの飛行ポケモンたちは血より濃い絆で結ばれてるから、今のところ負けは年に一回か二回に満たないかな」
無駄に格好つけて話すツバサの表情に若干苛つきながらも、素直にナギの腕前がアスナより上だと理解する。
それから程なくして、ツバサのポケナビにメールが届く。写真データ付きのメールで、ツバサは文面と写真データを一通り見ると、苦笑いを浮かべながらカエンに視線を向けた。
「なぁカエン。今日のアスナさんの予定って、知ってるのか?」
「んだよ急に。今日は一日中えんとつ山で特訓してるっての。あいつ自身、今日一日山から降りねぇって言ってるしよ……つか、それがどうしたんだよ」
「そのアスナさんなんだけど……さ、どうやら違う場所にいるみたいだ」
「……は?バカ言え何を証拠にそんなこ………マジかよ」
ツバサに証拠として見せられた写真データには、いつもの炎マークの黒いTシャツの出で立ちではなく、赤いチューブトップに胸元で縛った黒いノースリーブシャツ姿のアスナが写っていた。アスナ自身写真を撮られた事に気が付いていないのか、ミナモデパートの試着室の姿見に映る自分の格好に目が行っていた。よく見るとジーパンのベルトも合成樹脂製から温泉タオル風の物に変わっている。
メールの文面の方はカエンにこっそりと教えてやれとの旨があり、最初からアスナには内緒でカエンに見せるつもりの物であった事が窺える。
「あいつ……」
「そんな怒ってやるなよカエン。アスナさんだって女性なんだから、御洒落に気を遣うって。それに多分ナギさんが強引に誘ったんだろうけど…」
「いや、そこはいい。そこはいいんだけどなぁ……ちょいっと問い詰める」
そう言ってカエンはツバサの制止の声も聴かず、支部の外に出ると同時にリザードンを呼び出して即座にフエンタウンへ飛び立っていった。
空の彼方に飛び立つリザードンの影を見送ったツバサは、何事も無かったかのようにオオスバメを呼び出して自身もヒワマキシティへと飛び立った。
「さて、何で嘘ついたか説明して貰おうかアスナ。あと新しい服似合ってるぞ」
「あ、ありがとかーくん。じゃなかった、えーっと、ナギちゃんから誘われてて……断り切れなくてつい…」
リザードンに乗ってミナモシティに飛んだカエンはナギと別れた直後のアスナを見つけ、送り火山が見える121番道路でサイコソーダ片手にカエンは問い詰めていた。一方のアスナもカエンから手渡されたサイコソーダをちびちび飲みながらカエンの問答に応えていた。
二人の視線は送り火山に向けられており、身体は落下防止の策に身体をもたれて休んでいた。直ぐ近くではトレーナーがダブルバトルでポケモンバトルに燃えており、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
「ほーぅ……」
「うぐっ、……や、ホント!ホントだからねかーくん!」
「や、悪いとは言わない。言わないが……お前、今朝自分が何言ってるか覚えてねぇのか?」
「あはは……面目ありませんでした」
潔く、それでいて勢いよく頭を下げたアスナ。確かに強引に誘われたものの、自分で言った事を反故にしてしまった事を反省するのは問題ないのだが、そうさせてしまったカエンも厳しすぎたと呟きながら彼も反省する。
フエンに戻る前に、とアスナはベルトに留めていたモンスターボールを構えだす。
「途中でやめちゃったけど、特訓の成果見せちゃうよ!」
「よーし、望むところだ」
カエンもベルトに留めたベストメンバーから一体を選んでアスナと同じようにモンスターボールを構える。
「行って、バクーダ!」
「ゴー!エンブオー!」
モンスターボールから出た二体の炎ポケモンがその鈍重な体からの着地で大地を揺らす。
炎と地面複合タイプのバクーダは背中に小さな火山を二つ有したポケモンだ。アスナの手持ちの中ではここ一番の勝利数を稼いでいるエースポケモン。
相対する炎と格闘複合タイプのエンブオーは燃え盛る炎の鼻息を吐き出すポケモンだ。カエンの手持ちの中で最も巨体と鈍重さを誇るポケモンだ。
どちらも重量系炎ポケモン。だが、苦手とする地面タイプを複合とするバクーダ相手にエンブオーは不利であることは誰の眼にも明らかだ。しかし、ポケモンが持つタイプの相性だけでポケモンバトルは語れない。
「バクーダ、『ストーンエッジ』!」
「『ニトロチャージ』でくぐり抜けろ!」
大地を揺らして隆起現象を起こすだけでなく、更に隆起して出来た岩石を相手に投げ飛ばす。これが岩タイプの物理技の一つ、『ストーンエッジ』だ。当たれば一溜まりもないそれは、当然エンブオーには効果抜群で大ダメージを与える。
しかし、カエンはエンブオーの速さを上昇させる炎の変化技『ニトロチャージ』を指示する。使用する度に素早さが上昇し続けるのが特徴だ。
その身を炎に包んだエンブオーは迫りくる岩塊を潜り抜けてバクーダに迫る。その上素早さが向上されているので、次の技がアスナのバクーダよりも先に打てる。
「エンブオー、『ヒートスタンプ』だ!決めてやれェッ!」
「『噴煙』で迎え撃って!」
落下するエンブオー。背から溶岩石状の炎エネルギーを吐き出すバクーダ。
二つの炎がぶつかったその瞬間、小規模の爆発が生じた。火山の噴火にも似たその衝撃はクレーターを生み、カエンとアスナを煙で隠してしまう。
やがて煙が晴れて見えてきたのは、クレーターの中心で目を回していたバクーダとエンブオーの二体だった。どちらも戦闘不能状態で結果は引き分けとなった。
「あちゃー、相打ちだねカーくん。バクーダ、お疲れ様」
「ふむ…、少し鈍ったのか?」
顎に手を当て今回のポケモンバトルを一人振り返って二本目のサイコソーダを開ける。
そこから一人回想に夢中になっているカエンにアスナは苦笑いし、近くの柵に腰を置いた。
ふと、アスナは無意識の内にカエンの横顔を眺めていた。ホウエンを飛び出して旅に出た10歳の時の面影は、数年たった今もそこにいる。
思えばカエンには助けられっぱなしだったとアスナは過去を振り返る。
トレーナーズスクールに通っていた幼少期。初めて会ったのはその時だったか。あれから何年も経ったが、その面影はまだそこにあった。
「っし、帰るぞアスナ。また火山に行くぞ」
「え?」
「幸いまだジムは休暇中だ。だからその間に俺とお前のポケモンを鍛え上げる。さっきのバトルでもまだまだ足りない事が良く解った」
「え、え?」
「よーし、まだ日は沈んでない。フエンに戻るぞリザードン、えんとつ山に!」
呼び出したリザードンにアスナを伴い飛び乗って、出発の指示を出した。
リザードンの勇ましい翼が広がり、目的地へと飛び立った。
未だ状況を理解できていないアスナと共に。
続く
近い内にこの世界観におけるリーグに触れようと思います