キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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始章
この世界における【死刑】のありようは何がヤバいか説明せよ 配点:20点


 トリニティ郊外、とある公園の真下。地下施設に踏み込んだふたりを待ち受けていたのは、1人の少女と先程まで人と呼べたはずのモノとむせ返る血の香りだった。

 

「ハスミ、構えろ」

「はい、委員長。正義実現委員会です! 手をあげなさい!!」

 

 正義実現委員会委員長、ツルギが2丁の銃を構えながら、隣の副委員長、ハスミへ呼びかける。ハスミもまた、スナイパーライフルを構えて2歩後ろに下がった。戦闘態勢だ。手を上げず、剣とショットガンを手にする少女に、ツルギは問いかけた。

 

「お前、殺しをやったな?」

「この事案の容疑者であると思われますので、同行を願います」

 

 続いたハスミの言葉に首を振り、少女は答える。

 

「同行は拒否します。私は、各学園生徒会及びそれに相当する組織の主より信託を受け、連邦生徒会長によって任命された正義の執行者です」

「その役目は、トリニティ正規の治安維持組織である正義実現委員会が持つべきものではないのですか?」

「いいえ。貴女たちは未だ手を汚さぬ高潔な光。私は……なんと例えますかね? 汚泥、とかですかね? あぁ、そうだ……あなた方はトリニティの。であるならば、ティーパーティーの聴聞会が慈悲であると知っていますか?」

 

 ツルギがショットガンを構えながらその言葉に軽く反応する。

 

「ティーパーティーの聴聞会はそれを行った時点で最高の刑罰が矯正局送りで確定する……すなわち、如何なる罪であろうと肉体に危機は及ばない故に、慈悲。そういう話なら、聞き飽きるほど聞いたが」

「えぇ。ですが……ごく稀に、聴聞会すら行われず、矯正局送りの処理をされる生徒がいるでしょう?」

「1人だけ、送ったことがあるな」

「それは私がこの手で処刑しています」

「「は?」」

 

 私は左手に持ったショットガンを横に、右手に持った剣を縦に構え、胸の前で十字を作る。倒れ伏した生徒に黙祷を祈り、彼女の流した血が流れとなり私の足を濡らす。

 

「改めて名乗らせていただきます。2年ほど前まではトリニティ総合学園所属、現連邦生徒会防衛室直下組織【看取り手】所属、【刑執行人】白崎ルカです。矯正局預かりにすらできない、危険な罪人を秘密裏に処刑する役目になります」

「……お前の存在は、誰が知っている?」

「トリニティでは現在容態が悪化しているホストの百合園セイアを除けば代理の桐藤ナギサだけでしょう。トリニティではホストにのみ伝えられる存在ですからね。ここで貴女たちに知られてしまったのは致命に近いのですが、貴女がたと一戦するわけにも、逮捕される訳にも生憎行かないので……こちらから上へ報告し、説明の場でも設けましょう。その時にでも」

「待て。……矯正局預かりとなっているが、名目はこちらの生徒のはずだ。お前を逮捕する権利が私たちにはある」

 

 彼女が立ち去ろうとするのを塞いで、ツルギはそう言ったが、少女は首を横に振った。

 

「いいえ、いいえ。貴女に私を逮捕することはできません。なぜならば、連邦生徒会長の失踪から数えてきっかり3日前に、私の執行人への着任と同時に、矯正局送りになった生徒はその学籍を剥奪し、期間終了後に学籍を再取得するものとする法が出来たからです」

「なに……!?」

「つまり、ここにいるのはトリニティの学籍を持たない生徒です。あなた方の学園の生徒ではありません。私を逮捕する特権を持つのは連邦捜査部シャーレの長であられる先生と、連邦生徒会の会長を代行するリン行政官のおふたりですが、おふたりとも連邦生徒会に所属されていますので他室……防衛室ですね。そちらへの捜査は特殊な手続きが必要となります。……そのような遅滞した手続きで、私が捕えられるのでしょうか?」

「連邦生徒会長は、その在り方をお前に求めたのか? 安息の地すらも奪われてなお、罪人を、禁忌とされるほどに忌まれている処刑でもって裁き続けるような悲しい生き方を?」

 

 執行人はそれには答えず、静かに呟く。

 

「『真に罪を有する者を、逃さないためにはどうするか』……決まっているでしょう。殺せばいいのです。殺した結果追われることになったとしても、真に罪あるものを殺せばいいのです。そうして、最後に私はキヴォトスを出るでしょう。……それは、私たちにとっての死を意味しますから。最も罪深き者は他ならぬ私。私すら私の手によって死に絶える……そうでありたいものです」

「……では、あなたの目的とは、自殺なのですか」

「部分的にはそうですね。……その前に殺さねばならぬ7つの悪と、討たねばならない4つのオカルトはありますが……まあ最終的な目的はキヴォトスで最も黒く染まった私を私自身が殺すことです」

 

 7つの悪。それについて、ハスミには思い当たる存在がいた。そして、それと戦っていた存在を、ありありと思い出す。

 

「七囚人……ですか?」

「その通りです。本来は、私が着任してから1週間後に刑を執行する手筈でしたが、連邦生徒会長の失踪とそれによる混乱の間に脱獄されてしまいました。痛恨の極みです」

「では、あの日、ワカモと戦闘していたのは……!」

「私ですね。あの時は援護ありがとうございました。結果として取り逃す形になりましたが……」

「……そうですか」

 

 そう、ハスミは先生が着任したあの日、謎の生徒とワカモの交戦に謎の生徒側の手助けになるように狙撃支援を行っていた。先生の指示ではあったが、まさか支援した存在がこのような者であったとは思わなかった。後で報告しなくてはと意識を固めていく。

 

「まあそれはそれです。とにかく、あなた方は私に手出しできず、私はあなた方と戦う要素がない。従って、この場はお開きです。後処理はこちらの者でしますので、一旦お帰り願えますか?」

「くっ……」

「そうか……ハスミ、帰るぞ」

「ですが……!」

 

 ツルギの手のショットガンの、握り手が歪んだ音がした。

 

「ハスミ……私だって、怒りは分かる。だが、落ち着け。ここは、退かなければならないタイミングだ。少なくとも、正義実現委員会としては、な……」

「やはり、噂と違い、こちらの調査通り理性的な方ですね。トリニティの上層では最も話がわかる女、と私の中では記録していますが……その評価に狂いはなさそうです」

「抜かせ。次会った時はシャーレの剣先ツルギとしてお前を仕留める……覚悟しておけ」

「楽しみではありませんね。では、お疲れ様です」

 

 

 

 

 

 去っていく2人の、怒りに満ちた背を見送る。そして、後処理のために扉を閉めて、一言。

 

「こっっっっわ……えぇ……ツルギさんの相手とか死んでも嫌だ……やっぱこれ貧乏くじすぎますよね? 恨みますよ会長……」

 

 弱気に満ちた言葉だった。それでいいのか、白崎ルカ。

 

「しかもこれシャーレの先生とも敵対しますね? 最悪ですね……このキヴォトスで、学籍なしの連邦生徒会の所属ってだけで大変なのに、先生のサポートなしで七囚人及びゲマトリアを討て、というのですか会長……? 無理ですよ?」

 

 もっと弱気だった。先程が100パーセントではなかった。

 

 実際、白崎ルカは強い。かなりぶっちぎって強い。オールラウンダー的な強さ、それぞれのジャンルを仕上げて戦うハイスタンダード。故にこそ、特化型は怖い。それに有効な戦術をぶつけても、尖りきった性能には削り切られる可能性があるからだ。

 

 そして、各学園の最高戦力はだいたい、特化型だった。

 

「無理ぃ……ヒナ、ネル、ツルギ、ホシノ、どれも敵に回したら2回は死ぬ……」

 

 せっせと自分が処刑した生徒の周りを掃除する。血を拭き取り、消臭剤を適当に過剰にぶち込んで、死装束をしていた生徒の体を持ち上げて傍にある白い箱に入れる。ついでにボタンをポチッとな。

 

「よっと……!」

 

 白い箱……棺桶を持ち上げて、ドアを開き……

 

 

 

 ジャキッっと、周囲から銃の音が一斉に聞こえた。

 

「やあ」

Oops.(マジですか)

Most Welcomed.(待ってたよ、歓迎しよう)……なんてね」

「時間を、かけすぎましたか。お早いですね、連邦捜査部シャーレのみなさん」

「君には生徒殺害の容疑がかかっている。……なにか言い分は?」

「一切、否定しません。ただ……逃走は試みようかと」

 

 一斉に周りからの殺気が高まる。銃撃が始まる、その瞬間。

 

「えいっ」

 

 投げられた手榴弾。それも、4つ同時。

 

「「「!!」」」

 

 フラッシュバンがひとつ、スモークボムがみっつ。走り出す私を目で追えている存在は無い。感覚で追っかけている怪物は2人。ならば、ここで撒く。

 

「悪いんですけどね……」

 

 さらにひとつ、爆弾を叩きつけるように投げながら簡単装着マスクを装備。ついでにもひとつオマケしとくね、ツルギさん。

 

「うわぁ!? す、すごい匂いです主殿!!?」

「ヒヒ……ッ!? これは! 先生!!」

 

 鉄片手榴弾。盾になれるのはツルギさん、あなただけでしょうし、完全に初速に乗った。完璧だ。

 

「シャーレの先生、あなたに恨みはありません! また別に機会を設けてゆっくり話しましょうとも!」

「くっ……! 待て! 待ってルカ!!」

 

 走る。私の背に背負った白い棺桶に、ビシビシと銃弾が当たるが硬く閉ざされた扉は私を守ってくれている。

 

「……これから、どうしよっか……とりあえず、埋葬からか」

 

 

 

 完全にしてやられた。私はそう思った。

 

「白崎ルカ……生徒殺しの処刑人。連邦生徒会長の隠された最後の施策……あの子が、そうなんだ」

「せ、せせせ先生、ご無事ですか?」

「ツルギ、怪我は?」

「っ! こ、この程度なら……もう治っていっていますので……!」

「ありがとう。ごめんね……見失っちゃった、か」

 

 ツルギに礼を言いつつ、白崎ルカという生徒について考える。彼女はある意味において、非常に手を出しにくい存在だ。

 

 彼女の犯した罪は、罪として扱うにはあまりにも難題が過ぎる。故にこそ、外から来た先生は彼女のいる意味を理解してしまった。

 

 死刑というものを他者に委ねなければならないキヴォトス人の耐久性の高さが、彼女を殺人を犯した者にしてしまったのだという理不尽を思い。

 

 なぜ、よりにもよって生徒に死刑執行の任が与えられ、その責任を果たし続けることになっているのかという憤りを感じ。

 

 ツルギから聞いた通りならば、「4つのオカルト」は間違いなくゲマトリアのこと。なぜ、彼女がそれを知っているのかという疑問を抱き。

 

 楽しみを知らず、苦しみ続け、訪れる悲惨な未来を直視して、死をその目と進み続けた道の後ろに刻み続ける惨めとも言える生の終わりを自殺で飾ろうとすることに対する、悲しみを知る。

 

 なにもかもがぐちゃぐちゃになって、私はどうすればいいかに迷った。通信が開く。ヒマリだった。

 

『先生? 全知たるこの私の誇る素晴らしい相棒が、彼女の背負った棺桶に発信機をつけることに成功しています。今、信号を表示しますよ』

「本当かい? エイミ、ありがとうね。ヒマリ、任せたよ」

『ええ、ええ。この超天才清楚系病弱美少女ハッカーにお任せを……おやここは……霊園、でしょうかね? トリニティ外縁部、ここから10分前後の霊園に反応があります』

 

 シャーレの当番に来て、私と一緒に来てくれたイズナとエイミ、それにトリニティのすぐ集められるだけの戦力となるみんな。

 

 彼女達の中から、人を選び抜き、声をかけた。

 

「ごめん。マリー、エイミ、イズナ、ツルギ、ハスミ。私と来て貰える? ヒマリはオペレーターをお願い。護衛としてもそうだけど……正義実現委員会としては、知りたいでしょ? 彼女のこと」

「……そう、ですね。気を利かせていただき、ありがとうございます」

「では、行きますよー!」

『信号は細かく揺れています。今から向かっても間に合うかは分かりませんが……これは、なにをしているんでしょうかね。想像通りでないことを祈ります』

 

 霊園に移動すると、彼女の姿はなかった。

 

 信号はまだ出続けていて、それはまだ柔らかい土の下から出ていた。

 

 その上に、小さく置かれた無骨な、名前の刻まれていない碑には。

The Sin was atoned For.(成した罪は償われた)Rest In Peace.(今は安らかに眠れ)」の文字が、優れた技とは言えない、されど幾度となくやってきた慣れを感じる技で彫り込まれていた。

 

 誰もが言葉を失う中で、先生は拳を握り締める。

 

「生徒が、生徒を殺して、埋葬するだって……!? こんなことが……あっていいのか……!? 白崎ルカ、私は、私は君を絶対に闇から引きずり出してみせるからね……!」

 

 先生が来たことに気づいて木陰に隠れたルカは、その決意が決まった先生を見て確信するのであった。「3日後くらいにはカヤさんがとんでもない目に合うな」と。つくづく貧乏くじを引く自分以上に貧乏くじ引いてるな、あの超人……と他人事のように思うことにしないとやってられない。

 

 イズナが追撃することを恐れて血のついた服を処分し替えの服を着たが替えがフリッフリのワンピースしかなかったルカは、見られても困るのでそっとその場を後にするのであった。

 

「いやマジで後ろ盾の防衛室潰れたらどうしましょうかね、私……」

 

 

 

 

 




尖ったテーマで書いていますので、ご批判等あればすべて受けます。それはそういうものとして書き始めました。

ですので、皆さんの思うことを存分に書き連ね、そして楽しんでいってください。何卒。
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