あと今回以降からはずっとガールズラブ要素があります
彼女は外から流れ着いた一冊の本を閉じた。自前で淹れたコーヒーが冷めきるほどの時間を読書に割くことが許されるほどには、今の彼女には時間があった。それは珍しいことだが、彼女を心配したある少女が彼女の代行として動くことで成り立つ貴重な休みであった。
「ふぅ……にしても、あの子はどこからこのような本を仕入れてくるのでしょうか? 暴力的で、残酷で、救いようがなくて、でも納得はできる……この本にはそういう感想が与えるにふさわしいものですね」
眼下、街を見下ろして、少女はほう、と息をついた。それは、何度見ても飽きぬ世界。人が行き、車が行き、時に戦車が通る愛しき世界。
「結局、我々は我々の本懐を果たせずともキヴォトスは上手いこと回っている……法を置き去りにして」
机の上に閉じられた本の表紙に記された題名は、さらに上に載せられた彼女の日記に隠されて、『のオレンジ』しか見ることが出来なかった。
「思えば、色々と大変でしたね」
「そうだね、カヤちゃん」
「っ!」
咄嗟に後ろを振り向くと、ドッキリ成功と言わんばかりに笑みを浮かべたルカの姿があった。
「ルカ、来ているなら声をかけてください……心臓に悪い」
「ごめんねー。ちょっと時間できたから休めてるかなーってさ」
「おかげさまでだいぶ休めました。……本当にお互いに大変でしたね」
思い返すのは、連邦生徒会防衛室内で『機械都市動乱』と名付けられた1連の事案、その最後に起こった小規模な戦闘。
「うまくまとめてくれたカヤちゃんには感謝しかないけど……結局私たちの『当然』は今回も蹴散らされたねぇ」
「そうですね……かなり妥協に妥協を重ね、我々は銃ではなく言葉で話し合えると信じてやってみましたがもう少しやりようがあったような気もしますので。難しい落とし所でした」
看取り手ミレニアム拠点襲撃/防衛、そう室内に定義されるその戦闘は不知火カヤがミレニアム生徒会『セミナー』と先生に交渉を持ちかけることで『機械都市動乱』そのものの終結となった戦闘である。
「よくやるよねぇ。『エリドゥはミレニアムと連邦生徒会の共同管理とする』『緊急を要する際は不知火カヤもしくはその代行、あるいは連邦生徒会長もしくはその代行の許可を以てエリドゥを使用する』『それ以外はミレニアム、連邦生徒会の担当に連絡して使用する』……つまり、アレは事実上私たちも使えるわけで」
「連邦生徒会長の代行は先生ですが、これはまあ妥協点と言えます。敢えてシャーレに権限を与えなかったのがポイントですね」
カヤの交渉は、いくつかの問題ひとつひとつについて解決を求めるものだった。エリドゥは連邦生徒会との共同管理にすることを認めさせ、エリドゥの存在は『連邦生徒会が計画、ミレニアムが全面的に協賛して建造した巨大要塞』として消極的公表をされた。
「調月さんについてはごめんなさい。あちらの希望に沿う形になってしまいましたが……」
「十分。抜け出されて行方不明、とかになってないだけ全然いいよ……エリドゥのことを理解してるのはあの人だけ、居ないと困る」
「調月さんがいなくなればセミナーに吹っ掛ける、とも取れる感じに文を作っているので調月さんは逃げるにも逃げられないでしょうから、首輪をつけたと言ってもいい気がしますね」
調月リオは結局、無罪放免……というよりは、連邦法に照らし合わせての処分は行わず、自治区処理をすることとなった。これはシャーレの先生及びセミナーの『身柄引き渡しの要求』に屈した形だ。
ただ、エリドゥの管理責任者の座に調月リオを置くことと、正常にエリドゥが利用できない場合などはリオ、次点でセミナーに責任問題をふっかけるという内容の文書を飲ませたので、『自分一人では済まない』状態を作ってリオを逃がさないようには出来たはず、と2人は考えていた。
「私たちの処遇についてはカヤちゃん一切譲りませんでしたね?」
「そうですね。あちらは元より武力行使で無茶無謀を通しに来たのですから、交渉の面では強く出れません。いえ、出れたとしてひとつなのです。シャーレの力と大人のカードをチラつかせても、どちらかで不利を打ち消し、どちらかでひとつの物事を叶えるのが精一杯。なら、ふたつの無茶の片方は通させない……そのくらいはやれます」
「調月リオの身柄よりも私の方が大事……ふ、ふふふ」
看取り手に所属する生徒の通常生徒への復帰は、キヴォトスの死刑制度そのものを変えることに他ならないことだとして、彼女はそれを突っぱねた。段階的に死刑を撤廃することなど、いくつもの妥協案が先生から出されたが、それら全てをカヤは正面から譲らず跳ね除けたのだ。
看取り手は彼女の居場所であるが故に崩させはしない。その意思だけでカヤは守り抜いたのだ。
「なにかおかしいところ、あります? 私の親友……いいえ、愛する人」
「愛する人……カヤちゃん……っ!」
「えぇ、ルカ……ほら、撫でてあげますからこっち、来てくださいね?」
「はぅ!!? かわっ……きゅう……」
「ル、ルカ!?」
なおこの2人、先日D.U.シラトリ区に試験導入された『同性パートナー制度』の第一号登録者である。
この制度をカヤが通したと、楽しげにカノハに伝えられたルカはその日中に一切手をつけていなかった口座を叩き起して外の世界に言うところの『給料三ヶ月分』程度の額を引き出し、宝石店に直行した。ノータイムだった。
意志を受け取ったカヤの行動は何よりも早い。即座にシラトリ区に申請を出し、2人はパートナーとなったのだ。学生の身でありながら。
きっかけとなったのは、一言。この動乱の途中、ルカはこう言い放ったのを覚えているだろうか。
「最愛にして最高の友のために」、この言葉が今やルカのために生きてと言っても過言では無いカヤにどれほど突き刺さったか。「友」という余分な1文字はカヤの耳に入っていなかった。後付けで手に入れた理性は揮発し、人として有していた獣性と思い詰めてひた走る性根が爆発した。
その結果、疲れきって本体に戻った彼女が次の日ルカとして連邦生徒会防衛室に姿を見せた、その日中にカヤはこう堂々と言い放ったのだ。
『ルカ。生涯でただひとりの、人生を共に歩む人に……私はルカを選びたいと思うのですがどうですか?』
なお、カヤはこの時二徹明けであり、防衛室にはそれを案じたアオイとリンが居た。
『『!!?』』
『っ……カヤちゃんが告白……私に、私に!? きゅう……』
『ぁ……あぁ、あぁぁぁぁ……! 私今なんて……なんて言いました!!?』
全員パニクった。
その後気絶から戻ってきたルカが、恐らくリンとアオイをまとめて撃ち抜いたであろう恋する者の笑みでこう言い放つ。
『カヤちゃん、大好きっ!』
『かわいい……!』
『……っ!』
『えぇ……えぇ! ルカ! 私も、私も好きですから……!』
次の瞬間、胸を抑えていた2人はにこやかに笑い、顔を赤らめながら。
『『
あとは言うまでもなかろう。強いていうなれば、カヤは次の日首元を絶対に開けなかったし、ルカは春先なのにマフラーを巻いていた。
そんなわけで、恐らく世界で1番イチャイチャしてる女子2名の称号を得ている2人だが、ルカには如何せん耐性がなかった。
ルカは完璧超人だ。あぁ、そうだろうとも! 勉学、運動、芸術に料理。あらゆる分野、なんでもござれの女子力高め、だがしかし彼女は致命的なまでにカヤに弱かった。
カヤがかわいいメーター、のようなものがあるのだろうか。それが満タンになるとルカは気絶する。なお、上限が100だとするとなでなでしてあげるは60ほどのゲージ蓄積だ。効率がよすぎる。
あまりにもゲージが振り切れるとオーバーフローして無敵の甘やかしルカがカヤをめちゃくちゃ可愛がるのだが、それはカヤのみが知る話だ。
「……はっ! カヤちゃん、ごめん! また飛んでた……!」
「もうちょっとだけ慣れてきたと思っていましたが……まだ慣れませんね、突然愛する人が倒れるというのは」
「んっぐぅっ!?」
「ルカ!?」
この執行人、本当にかわいい耐性が絶無なのだった。
タイトルは2つにかかってたわけですね。リオと、同性愛。