キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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新章、『エデン条約編』開始です。

本小説時系列ではパヴァーヌが最速で終わり、エデンは加速して進んでいます。


楽園より煉獄に歩を進め
『看取り手たち』


「アロナ」

『はい先生!』

 

 先生は以前から気になっていたのだけれど、との前置きをしてから、調べて欲しいことがあると告げる。

 

『調べて欲しいこと、ですか?』

「うんまあ……少しね。気になることがあるんだ」

『気になること……』

「『看取り手』。アレは一つの小隊なんじゃないかって仮説が出来た」

 

 その仮説とはこうだ。

 

 実地要員のルカ、裏方のカノハ、この2人ではとてもでは無いがキヴォトス全域をカバーアップすることは難しい。であれば、執行人という権限を与えられてこそいないものの、それらをサポートする人員がいてもおかしくはない。

 

 そして、それを証明するのは矯正局の人数の増減である、とも先生は考える。

 

 ルカが活動を明確にしている日と、していない日で、防衛局から矯正局に送られる生徒の人数の増減に明確な差が見られなかった……つまり、矯正局に囚人を防衛局管轄で送り込む何者かは、ルカあるいはエルでは無いと思われる。

 

 いっそ、カヤにでも聞いてみるかと思考を巡らせるが、機密だと断られるのが目に見えるようだった。

 

『だから、調べる……と! 分かりました!』

「恐らく、前私たちがルカに『話し合い』をしに行ったあの拠点……あの拠点に出入りはしているはずだ。頼んだよ」

『はい!』

 

 数分すると、アロナは答えを導き出していた。

 

『恐らく……ここ! この方たちです!』

「4枚の悪魔みたいな羽……ゲヘナの子かな? それにこっちは黒い制服だけどこっちも?」

『先生! 胸元に僅かに解れがあります! ここに何かを縫い付けていたようですよ!』

「そうか、正義実現委員会の制服の改造か!」

 

 先生は手を打った。トリニティ、ゲヘナによく見られる傾向で服装を身にまとう、あるいは特徴として持つ2人を先生は調べようとして……シャーレの入口のチャイムが鳴った。

 

「ヒナ、それにツルギ……よく来たね!」

「くひひ……おはようございます、先生」

「おはよう、先生」

 

 今日の当番はなんの奇遇か、ゲヘナ風紀委員長空崎ヒナと正義実現委員会委員長剣先ツルギであった。

 

「そうだ……君たちにも協力して欲しい仕事がひとつできたんだ」

「なにかしら、先生?」

「これを見てほしい」

 

 映像を改めてシッテムの箱に映す。2人に見せれば、なにかしら分かるかもしれないと思ったのだ。

 

「これは……?」

「『看取り手』がもし仮に小隊だったとしたら、という仮説に則って『看取り手』の拠点の近くの監視カメラ映像を漁ったら出てきた不審人物の映像だよ」

「……驚きました。これは……」

「ええ、私も驚いているわ……」

「ツルギもヒナも、知ってるの?」

「「先代委員長」」

 

 ツルギとヒナの声が完全に一致した。先生はその言葉に手を打つ。正義実現委員会と風紀委員会の前委員長……腕っ節には極めて自信もあろうというものだ。

 

「間違いないかな、これは……?」

「ええ、私の先代にして師匠、みたいな人ね。風紀委員会のもたらす秩序はあの人がいたからこそ絶対だった……当時は万魔殿も口すら出せなかったと聞くわ」

「……あの方にはお世話になりました……私の今の戦闘スタイルの確立以前から正義実現委員会は後方支援が手厚かったのですが……その理由が彼女です」

 

 どうも話を聞けば聞くほど『バケモノ』の四文字が脳裏を過ぎる。キヴォトス最高戦力クラスがさらに2人増えた、と思っていると、さらにもう一度チャイムがなった。

 

「誰かな?」

『あぁ……私です先生。僅かながらで構いません、お時間頂ければと。お暇ですか?』

「ルカ……!?」

 

 扉の前の応答機から聞こえてきたのは紛れもなく白崎ルカの声である。何をしに来たのか、どの面下げて来たのかと話だけしか聞いたことの無いヒナと、実際に戦ったツルギは同じ感想を抱き銃を引き抜いて構えた。

 

「いいよ、入って」

『ありがとうございます』

 

 そう言うが早いか、彼女は姿を扉から3人の前に晒し出した。

 

 まずルカの後ろに2人控えていることに気付いたのは先生だった。

 

「ルカ。後ろの2人とは初めましてだね。どちら様かな」

「まあなんと言いましょうか……『同僚』でしょうか? それとも『メイン火力』と『前貼り回避盾』?」

 

 その言葉に後ろのふたりが若干苦笑いをしている。そして、先生は仮説が僅か数時間で確信に至るその速さに苦笑い。全員が苦笑いする盤面が出来上がっていた。

 

「自己紹介をどうぞ、メンバーの皆さん」

 

 その言葉に従って、しっかりとした軸のある歩法で前に出る4枚羽の女は、目線をヒナに向けていた。

 

「空崎、久しぶりだね……強くなったらしい。我々の仕事のような世界でも君の名は轟いているよ」

「やっぱり、紋独先輩なのね」

「嗚呼そうだ。おっと自己紹介だったね、愚生は『紋独(もんどく)カナデ』……一応そこの空崎ヒナの先輩で、現在は防衛局直下組織『看取り手』にて後衛火力を担っている」

 

 紋独カナデ、と名乗った彼女は、赤と白を基調としたドレスを身にまとい、灰色の長髪を流して、その背にヒナのソレよりもなお大きいマシンガンを二つ折りにして背負い、4枚羽を悠然と広げていた。

 

 それを聞ききってから同じように前に出る者1人。なれど歩法は軸ではなくゆらりとしてとらえどころが無いもの。こちらもまた、黒髪を肩口程度まで流している。黒基調の制服はツルギが身に纏うそれと若干の類似性、すなわち正義実現委員会の制服の改造制服だった。

 

「ごきげんよう、先生、ゲヘナ風紀委員長、それに剣先さん。『池杖(いけじょう)シズク』と申します。カナデと同じ『看取り手』の前衛を務めております。今回は挨拶にうかがった次第です」

 

 2人の言葉を聞き終わると、唖然としていた様子の今日の日直2名は、恐る恐る言葉を発した。

 

「夢、なのかしら」

「信じられないか? だが現実なのだよ、よく見てみろ、君に全てを叩き込んだ女が目の前にいるぞ?」

「くひっ……ごきげん、よう」

「えぇ。その様子では剣先さんも上手くやっているようですね。良かったです」

 

 まったくもって、彼女達は少なくとも今日は友好的に過ごすようであると先生は認めた。そしてルカに問う。挨拶とはなんだろうか? 

 

「ルカ、挨拶というが……いったい?」

「あぁいえ、これからの共同任務は私だけではなく、彼女らとも行っていただきたいので。シャーレとの合同ミッションは非常に優れた練度の生徒たちをお貸し頂けるので我々としても願ったり叶ったりなのです。そういうわけで、報酬はまたある程度ご用意していますから、お時間お手隙になりましたら是非」

「なるほど……そういう訳かぁ。ところで……私は君たちが四人一小隊という仮説を立てているわけだけど、合ってる?」

 

 先生はしれっと答え合わせを開始するが、それに対して大して隠しちゃないですが、と笑いながらルカは告げた。

 

「ええ。私、カナデ、シズクの3人で前遊後の3ポジション、情報支援をカノハ。これが基本の陣形になっています」

 

 それを聞いた日直の2人と先生は顔を引き攣らせた。武名鳴り響く日直の2人である。その師匠……つまり、目の前の「トリニティ最強格」や「ゲヘナ最強」より間違いなく強い女が、組むと言ったか? この間大立ち回りをやってのけた女をセンターに据えて? 

 

「ふむ……そうだ、いいことを思いついたぞシズク」

「聞くだけは聞きましょうか」

「愚生とキミの力を示すため、シャーレ近くにいる不良武装組織『シャカシャカヘルメット団』を今からボコろうじゃないか」

「無為な暴力……! それになんの意味が……!?」

「力の誇示に決まっているだろう、我々は舐められたら負けの立場なことを忘れるなよシズク」

 

 シズクとカナデが物騒な話をして、しばらくの話し合いの後にシャカシャカヘルメット団への襲撃が正式に決まる。

 

「では行きましょうか、おふたりと先生。アイツらの戦いは見ている分にはとても面白いですので」

 

 ルカはそう言いながら、3人についてくるように促すのであった。

 

 

 

 

「ふぅー……愚生的には、放置されていた悪党などはさっさと解体するに限ると思っていたのだがねぇ」

 

 カナデは目の前に迫るヘルメット団の人壁の前に悠然とその姿を晒し待ち受けていた。人人人、人人人人。その前に、その銃身を見せつけるようにして持つ。

 

「さて、キミらの喝采を見せてくれ……!」

 

 二つ折りのマシンガンが展開され、それのトリガーを押し込むと、凄まじい轟音と共に辺りを暴力が薙ぎ払っていく。特殊なリロードシステム……半自動で弾丸を供給するベルトシステムの搭載により、弾切れという概念を一時的に忘れたその暴力の嵐は止むことを知らず。

 

「アレは……?」

「先生、アレが紋独先輩の愛銃『開幕:グランディオーソ』……名前で分かると思うけど、私のデストロイヤー(これ)の試作品らしいわ」

「凄まじい、威力だね」

「ええ。アレはありとあらゆる運用面の難易度を無視して火力を突きつめた究極のマシンガン……対人で使うものじゃないし、持ち歩くものでもない極限兵器とも呼んで差し支えないイカれた銃なのだけれど……まあ、紋独先輩に渡ったのが運の尽きかもしれないわね」

 

 そうしてぐちゃぐちゃになった盤面に、黒い制服の彼女が声を飛ばす。

 

「行っていいですか? カナデ」

「いつでも行け、当てはしない!」

「それでは……残存の皆様、私がお相手致します。優雅に、気高く、舞うように!」

 

 とんっ、と音のしない踏み込みひとつで、彼女はヘルメット団の団員の先頭まで加速する。その胸に二丁拳銃をゼロ距離でぶち込み射ち倒すと、敵陣の奥深くに切り込んで二丁拳銃で自在に暴れ回る。

 

「がっ!」「ぐぉ……!」「いたぁーっ!」

「きひひ……ご覧下さい、先生。あちら、池杖前委員長の愛銃『クアッドバレット』……私が2丁のショットガン使いなら、前委員長の武器は多数の拳銃……同時に最大4丁の拳銃を投げ上げ、撃ち込むその様は正しく『踊る銃撃(ダンス・ガンズ)』、多くの生徒の憧れです」

「なんというか……曲芸?」

「実際そうでしょうね……あぁ4丁になりましたね。アレが私たちの誇る先輩の絶技です」

 

 上に投げる。しゃがみ回り、足のホルダーから銃を1本ずつ引き抜いて発砲、銃をキャッチするついでに持ってた方を投げ上げ、発砲、拳、回し蹴り、リロードの代わりに拳銃を投げつけ何丁仕込んでいるのか分からない拳銃をさらに取り出す。

 

 曲芸とも思われるような絶技の内側で、格闘術、蹴り、至近銃撃、ありとあらゆる近接技能を行使する彼女は、確かに「剣先ツルギの師」なのであった。

 

「これからは、場合によってはこの子たちとも敵対することになる、かぁ……」

「普通に私ちょっと思いますもの、過剰戦力なんじゃないか? って。三大校のどれかくらいだったら落とせそうじゃないですか?」

「はは……やれそうだな」

 

 先生はルカと話を続けていく。ルカはルカで「なぜ面を出せる」レベルの女なのだが、先生も先生で「なぜソイツと談笑するきになる」という話なので、この場においてはもはやどっちが太いヤツとかそういう話ではなくなってしまった。

 

「ま、おふたりにはこれから古巣に戻っていただくというか、その近辺で動いてもらいます」

「となると……トリニティとゲヘナに?」

「えぇ。ご内密にお願いしますが……『エデン条約』の調印式、連邦生徒会の評議員代表としてリン室長とカヤちゃ……んんっ、室長が参加します。ですので、治安レベルは上げる必要があるんですよ」

「そこであの二人、か」

「ええ。風紀委員と正義実現委員には各学園内部よりエデン条約の遂行を優先していただき、各学園内部は古巣に戻った先輩おふたりで沈める……そういう手を打つことにしました」

 

 そしてもちろん、とルカは頬に手を当てながら笑いつつ告げた。

 

「私も、カヤ室長の護衛として参加致します。当日は要人護衛として連邦生徒会から派遣されるSRTの特殊部隊『FOX』と連携しながら『看取り手』全体で式をカバーアップする予定です」

 

 ですので、とルカは先生の目を見据えた。

 

「上手く行くよう、最善を尽くしてくださいね」

 

 そう言って以降、ルカは難しい話はナシだとそれ以降少しも政治的な要素の関わる話をしなかった。

 




紋独 カナデ
紋独奏
独奏 紋

分かりやすくて大変よろしいかもしれない……。
池杖さんの方は神話をたぐる必要があるので面倒かもしれない。

ということで私「最強に全てを叩き込んで勇退した師匠枠」スキーなのでもうこれでもかってくらい出します。ええ。

あといつも感想読んで返信までしてる時が1番モチベになってるし生きる気力にもなるので感想はドカドカください。もう食えないくらいください。えぇ。ついでに評価押しといてくれると私の昼飯が美味しくなります。お願いします。
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