キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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アリスク復刻を記念いたします。


『君は無情な月の影』

『エデン条約』。連邦生徒会長の残した政策のうち、最大のものとされるソレは、トリニティとゲヘナという因縁ある2校の因縁を断ち切るためのものであると言う。そして、その裏で様々な闇が蠢く地獄でもある、というところまでが、看取り手が掴んでいる情報であった。

 

 桐藤ナギサ。当代のホストでは本来ない彼女がホストをやっているのは、本来のホストである百合園セイアが病弱なため病院に入っているためだ、という説明がなされている。

 

「よくやりますよ……入院記録の偽装までやっていやがるとは。しかし、百合園セイアはどこでしょうか?」

『私に聞かれても困るねぇ。君が知りようがないことを私が知るわけないだろう?』

「その通りですねカノハ。しかし……どうにも、キナ臭いような……」

 

 それでも、我々からできることは何もない。先日、シャーレの先生が呼び出されてトリニティに赴いたことは確認しているが、それ以上の動向は看取り手でも確認できていなかった。シズクはトリニティ外縁部などに蔓延る不良たちを撃破しては引き渡す日々を過ごしているし、ゲヘナのカナデはより過酷に働いているとか。

 

 となるとやはり……打つ手がないのでは? と思う。

 

『こればっかりはどうしようも、だねぇ。私も下手なことやってるわけじゃあないが……』

「……はぁ」

『と、いうことで』

「はぁ……」

『トリニティ全域にカメラドローン網を敷いてみた』

 

 パンッと手を叩いてひとつ指を鳴らす。これだから信頼できるのだこの女は。常に「こんなこともあろうかと」と言いたがるタイプのエンジニア、最高か? 

 

「ナイスですよカノハ! ……さぁーて、見ていきましょうか」

『あぁ、やろう。カメラの台数は膨大だから見るのには時間がかかりそうだな』

 

 そうして、3時間ほどの時間が経過する。深夜帯、不審なことをやる奴などサラサラ居ないように見えて、何故かゲヘナ生が侵入していたりなど色々ネタに事欠かないトリニティの夜を、本当のツッコミどころを求めて皿のように見ていく2人。

 

 最初にソレを見つけたのは、カノハだった。

 

『んん……? ん? コレは……?』

「なにかありました?」

『いや、今送る。コレ分かるか? 誰だ……?』

 

 白い翼を目立たぬように畳み、改造制服を身にまとっている上からパーカーを着ているのだろうか、夜闇に溶けるように1人の女が影を縫うように走っていく映像だ。ヘイローは画角的に見えていない、顔は後ろ姿だけだから映らない。しかし、それでもルカは看破した。

 

「聖園ミカ……?」

『はぁ? なんだって?』

「間違い、ないでしょう。あの畳まれた翼についた飾り……見まごうわけもありません。アレは、聖園ミカでは?」

『なぜパテル分派のトップが夜にトリニティ外縁部に向かう必要がある?』

「……匂いますね。悪意、悪徳、秩序を乱す戦乱の香り」

『……しかし、聖園ミカがなにをするつもりなのかが……』

 

 ルカの頭の中に、ひとつの資料が過ぎった。それは、かつて「ワタシ」だった時に、究極の武器として才媛に渡した石版。元々ワタシだった私が、まだシスターフッドの長だった時の微かな記憶。

 

「……んー……アリウス絡みですかね?」

『アリウスって……なんだそれは? 聞いたこともない』

「アリウス分派……というものがあるのですよ」

『……フィリウス、パテル、サンクトゥス。これ以外にもあるって? ややこしいがすぎるな』

「ええ。ひとつはヨハネ分派……『救護騎士団』の団長、蒼森ミネが会派の長となる小分派。そして……アリウス分派です」

 

 それにカノハは声を上げて問うた。

 

『なら……なぜ表舞台に出てこない?』

「……トリニティ最大の汚点、『公会議』……連合としてのトリニティ総合学園の発足時、連合合併に反対したアリウス派と、その他派閥の2勢力に別れて開かれた会議。ユスティナ聖徒会の主導により『アリウス分派への弾圧』と『追放』を決議した会議。この会議以降、アリウス分派はトリニティから姿を消しました」

『反対勢力を武力で黙らせ、追放する……凄まじいね』

 

 ルカはトリニティの最大の汚点、『公会議』とアリウス分派についてを懇々と語って聞かせる。今なおアリウスは残っているのだとルカは言った。

 

「恐らくは、ユスティナは弾圧と追放はしたが、都合の悪い場所には居て欲しくなかった。だから、アリウスのために分校を用意してそちらに逃がし、徹底的に弾圧をしながらもギリギリで死なない程度に留めた……」

『大凡人のやることでは無いね』

「全くです。この過去をもってしても今なおゲヘナを野蛮と詰ることができるのは徹底的に情報が堰き止められているからなのでしょう。コレを知っているのはそれこそ上層部でもなかなか居ないと思いますよ? なにせシスターフッドの中で厳密に管理された情報ですから。強いていうなれば……『古書館の魔女』とも呼ばれる古関ウイならば或いは我々よりも古い情報でもって悟っている可能性は高いですか」

『……君はそのアリウスと聖園ミカになんの関わりがあると?』

 

 ルカはひとつ息を吸った。

 

「聖園ミカは、トリニティ内の戦力強化のためにアリウス分派をパテル分派に事実上吸収しようとしているのでしょうか? あるいは……」

『あるいは?』

「パテル分派は「タカ派」……意外とシンプルに、ゲヘナと手を組むなどと言う条約が気に食わないので叩き潰すつもりなのでしょうかね?」

 

 とにかく、と彼女は立ち上がった。

 

「しかし疑念の芽は見つけました。あとは実地調査です。聖園ミカには悟られないよう、今日から数日張り込みます」

『……ひとつ、思いついた手がある』

「はい?」

『こうするのはどうかな』

 

 

 

 人々が地に黒い点となっていく。私たちは突発の事由でゲヘナに応援に行くことになったと昨日ティーパーティーに告げ、今日実際にカノハ開発の飛行船で旅立つ。

 

 そして、ゲヘナ領の山麓地帯にて。

 

『君のミッションはひとつ。トリニティのレーダーにひとつなりとも引っかかってくれるな、以上だ』

「かーんたんに言いますねぇ。ま、やってやりますよ」

 

 飛行船の底が開く。機載物を載せるはずのそこには、『ヘルメス』と武装ハッチ。これはカノハ開発、戦闘用飛行母船『アトラクシア』。ルカの出撃及び帰投回収用に開発した特化機であり……

 

『アトラクシア、ダミーバルーン格納。メインブースター、サブブースター、揚力完全。本艦は現在より高速進行に突入する』

 

 上部についていた飛行船を飛行船たらしめる気球が格納され、ブースターが火を噴く。そう、この飛行船は、自身も飛行する母艦である。

 

『行ってくるといいよ、ルカ』

「えぇ。……万魔殿の方は任せますね?」

『もちろん。カナデと協力してあたろう』

 

 それを聞いてか聞かないうちか、ルカはとんっとヘルメスの中に飛び込んで、起動。

 

「ヘルメス! Are you ready?」

『肯定:お任せを』

「そこはI'm ready! だよヘルメス、さあ行こう!」

 

 空の彼方に一瞬でぶっ飛んでいくヘルメスを見送るカノハは、改めてこう漏らした。

 

『以前も思ったがね、あのじゃじゃ馬をよくもまあ……』

 

 光学迷彩で青い空に溶け込み、それは飛んでいく。そうして、誰も知らぬうちにトリニティはその広大な土地の中に潜伏する執行官を抱えることとなった。

 

 

 

 その間、先生は新設された部活動の『補習授業部』の生徒の指導を行っていた。

 

『裏切り者』を探す。そのために退学させる……全員合格でのみ全員の継続した在籍を認めようというナギサに挑む先生だったが、第1回模試は不合格。第2回模試は会場がゲヘナに設定されており、温泉開発部とカナデとの本気の戦闘に巻き込まれ、試験場が消し飛ぶ憂き目にあった。

 

 なお、カナデはこのことを知ってトリニティにいる先生と補習授業部にそれぞれ謝罪の手紙を出すなど心から詫びていた。温泉開発部は……まあいつも通りだったと言えば良いだろう。

 

 夏合宿の間に、先生はいくつもの『本心』に触れた。

 

「私が、トリニティの裏切り者だ」

 

 そう告げた白洲アズサは、全てを明かす。自分がナギサのヘイローを壊すために来たこと、補習授業部は彼女の拠り所になったこと、だから今は2重のスパイとしてナギサを守ろうとしていること。

 

 それを聞いていた先生と、1人を除く補習授業部は協力を約束し。

 

 もう1人……『才媛』は、ポツリと皆の前で語るのだった。

 

「私には……私には、隠し持った武器があります。それさえあれば、この身をティーパーティーの一席とすることも不可能でないような、そんな武器が。私は、皆さんのことをとても……えぇ、とても大切に思っていますから。……使います。使わせてもらいます」

「……その武器って?」

「『情報』です。切り札の一手……これで、私はわずかな時間を、世界で一番大切な時間を稼ぎ出します。先生……お願いしますね」

 

 ハナコは、既に、シスターフッドの長の元を訪ね、第3回試験前日に、彼女の想定する最悪を、最高にするセッティングを施していた。

 

 そして、明かされたアリウスの計略を防ぐべく、補習授業部は立ち上がる。

 

「楽しかったですよ、ナギサ様とのお友達ごっこ♡」

「あ……!?」

 

 道中でナギサの精神が灰になるが如き悲劇も起きた。然しながらそれは問題にあらず、ナギサを安全な所へ隔離することに成功した先生たちは、アリウスを迎撃する準備を整えることとする。

 

「トラップ、設置完了。あとは引きながら迎撃を繰り返す……遅滞戦闘になる。正義実現委員会が動くまでが、私たちが耐えるべき時間だ」

「その辺の指揮は私に任せてね。……さて、来たみたいだね」

 

 アリウス分派の生徒たちが姿を見せ、圧倒的な物量に徐々に徐々に押し込まれゆく中で、待てど暮らせど正義実現委員会がやって来ないことに焦りを募らせる。

 

「くっ……ここじゃあ、もう引き場が無い!」

「分かってます! でも……!」

「……やはり、この計画は」

 

 そうして、天使が舞い降りる。アリウスの人波を掻き分けて現れた、聖園ミカ。ハナコは彼女の前で、明確に言い切った。

 

「アリウスとの融和……そのためにティーパーティーのおふたりを排除する。それがあなたの目的だった……だから、正義実現委員会には戒厳令を出し、こちらに来れないように封じ込めた……そうですね?」

「黒幕登場、って感じかな! ハナコちゃんだっけ? うん、やっぱりいい読みだね! でも、読みだけじゃ物事はどうにもならないよ?」

「分かっているつもりです」

 

 ミカは静かに激さずに、心底不思議そうに問う。

 

「なら、どうするのかな?」

 

 次の瞬間、酷く乾いた銃声が響き渡り、ミカの後方のアリウス生が倒れた。

 

「……誰かな。こんなところに戦力がいるなんて聞いてないよ? 正義実現委員会は締め切った、シズク先輩は外縁部に偽の情報で釣り出したからどんなに急いでも間に合わない……なら、誰?」

「このトリニティで、唯一ティーパーティーの影響を受けないモノ……ですよ」

 

 大聖堂の方角から現れるシスターたち。先頭に立つ彼女は銃口から硝煙を燻らせ、悠然と『己こそがこの者たちを率いるのだ』とする自信と、静かなる激情を場に示す。

 

「シスターフッドは現在の状態はトリニティを揺るがしうる危機と認識しています。政治的不介入の立場ではありますが、シスターフッドは本戦闘にトリニティの存続及び防衛を行う中立勢力として武力でもって介入いたします」

「歌住サクラコ……じゃあ、シスターフッド……? 政治不介入をこのタイミングで破るの? どうして……浦和ハナコ、あなたは何を支払ってそれを動かしたの?」

「……先輩の遺産とでも言えばいいのでしょうか?」

 

 その言葉に聖園ミカは分からないなぁ、と呟いた。

 

「……あなたと関われる先輩なんて居たかなあ?」

「こればかりは、あなたにも分からないようなこと、ですから。……私たちの勝ちのようですね」

「だとしても、止まれない。セイアちゃんを手にかけた以上は……」

「『百合園セイアは生きている』……えぇ、生きていますよ、聖園ミカさん」

 

 サクラコの呟くように言ったその言葉を耳にした彼女は、目を丸くして片手を驚きのあまり脱力させる。

 

「…………え?」

「病院に居る、というのも嘘ですが……死んだ、というのも嘘。彼女は今、信頼出来る護衛に連れられて安全な場所で療養しています」

「そ、っかぁ……そうなんだぁ。良かった……」

 

 聖園ミカが『降伏する』という言葉を口にしようとした、次の瞬間。

 

 ズドォォォォンッと、鳴り響く轟音が世界を割るかのごとく劈く。

 

 真っ先にアリウス生がその方角に走り出す。サクラコが手を振り上げ、アリウスを追うべくシスターフッドが、それを追って先生が、先生を追って補習授業部が、酷く躊躇って聖園ミカが、同じ方角に走り出す。

 

「いったい、何が起きた!?」

「分かりません! しかし……あの方角は……」

「分かっている、古聖堂だ……『スクワッド』がいる場所だ!」

 

 その会話を耳にしたシスターフッドの面々が走りながらの伝言ゲームでもって、先生らに『スクワッド』なる存在を示すと、アズサが走りながらも悲痛な顔をした。

 

「『アリウススクワッド』……やっぱり来ていたんだな、サオリ」

「アズサ! 概要だけでいい、教えて欲しい!」

「アリウススクワッドはアリウスの少数精鋭部隊の中での最高峰戦力。恐らくは、本作戦の指揮官を聖園ミカ共々担っていたか、超極秘の任務を影で遂行していたか。居ないから不審に思っていたところなんだ!」

 

 先生は頷いた。確かに、そんな超精鋭が部隊としているのであれば、居ないのは些か不審であったから。そして、足を早める。トリニティ内にもうひとつ、アリウスに対抗しうる勢力がいるかもしれない、という純粋な事実に気がついたから。

 

 そして、その勢力が今ここにいるのであれば、それはきっと、待ってはくれないだろうから。

 

 

 

 時を爆発の以前まで遡る。

 

「……姫、それで終わりか? ……よし、これで複製が使えるはずだ」

 

 深夜の古聖堂、エデン条約の調印を先んじて行う荒業によって、『ユスティナ聖徒会』の複製の顕現を戦力として活用するというアリウスの作戦が、ここに遂行されていた。

 

 遂行者はアリウス特記戦力『スクワッド』……錠前サオリを隊長に据えた4人である。

 

「混乱に乗じて潜入、混乱に乗じて脱出。作戦行動は速やかにだ、戻るぞ」

「「了解」」

 

 手話ですらない、サムズアップを返した仮面の少女にサオリはわずかにマスクの下で笑みを浮かべ、3人の返答を確認してその踵を返そうとした。

 

 彼女が『ソレ』に気づけたのは、ソレが凄まじい何かを秘めているからに他ならず。彼女はその『ソレ』に、『殺意』という概念を定義していた。

 

「……なにか来るぞ備えろ!!」

 

 サオリの警告に反する、軽い音が響く。

 

「ごきげんよう。今宵はいい夜ですね」

「貴様……何者だ」

「申し遅れました。連邦生徒会防衛室直下『看取り手』……白崎ルカと、申します。あなたがたをこの場で拘束させていただきますので……抵抗できるものならどうぞ。最速で捻り潰します」

「(目的は、達成済み……撤退出来ればそれでいい)」

 

 無言の中に、一瞬の逃げの思考が過ぎった瞬間、ルカは左手を上げた。

 

 左手に握られていたのは、リボルバー……この場ではただひとりしか知り得ないが、シズクの愛銃『クアッドバレット』を構成する『約20丁の一揃え、同じカスタムを施されたリボルバー』のうちのひとつである。……クアッドとは、果たしてなんなのだろうか。

 

 とにかく、彼女はよく整備されたリボルバーをもって、あさっての方向に……入口の方向に、弾を撃ち込んだ。

 

「……? ……!!」

「なっ姫!?」

 

 全員の背を押した、最後尾の仮面の少女は、最後に己が身を投げ出してどうにかそれを回避した。

 

 轟く爆音、入口に仕組まれた爆弾が、さらに仕組まれた別の爆弾と連鎖して古聖堂を完全に崩落させないが、けれども古聖堂の入口を塞ぐように1部だけ崩落させる。

 

「私、こんなのばっかりですね。逃げられないが、逃がさない……ふふふ、じゃ、始めましょうか」

 

 リボルバーを胸元にしまい込み、ショットガンを背から取り出す。

 

「……どの道、白崎ルカは危険要素だった。ここで排除する他ない……やれるか?」

「リーダーが言うなら」

「は、はい……」

 

 4人が各々に武装を構える。

 

「最近こんなこともできるようになりまして。『神秘封印:一部解除』」

 

 そう呟くように言うと、背中の翼が白黒にあらず、黒一色に伸びる。

 

 2枚の黒羽を伸ばし、ステンドグラスの前に広げる。サオリらアリウススクワッドを影で覆い隠し、サオリはその前で銃口をルカに向ける。

 

「さあ始めましょう。制限時間は未設定、私が倒れるか、あなた方が囚われるか……存分に楽しんでいってください」

「……スクワッド……戦闘行動を開始する!」

 

 戦いが、始まる。

 




次回閑話『矯正局長の視察』です。

最後のアレは1枚絵スチルになるヤツです。
翼を広げて影をアリウススクワッドに落とすルカと、銃を向けてそれに抗おうとするサオリのスチルとかそういう感じです。

彼女はシスターフッドの長にして看取り手として連邦生徒会に属する身、基本的に情報が揃えばいつでもエデン条約編の黒幕にたどり着ける。

エデン条約編最速解決RTAすら見えていたので非常に難産でしたが、とりあえず頑張って書くので息抜きを書く許可を頂ければと。

評価と感想はモチベになるので何卒宜しくお願いいたします。
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