「えー……今日は皆さんに会っていただかないといけない方がいるんですよ」
そんなルカには珍しい嫌そうな顔と声で、看取り手の拠点に呼ばれた3人は出迎えを受けた。
「そんな……そんな嫌そうな顔することあります? 私今から不安になってきたのですけれど?」
「大丈夫だシズク。私はもっと前から不安だった」
「……私は昨日呼び出しが来た時点で面倒事を悟っていたとも」
3人が各々に反応を返す中、とりあえず概要を説明する、とルカは3人に告げる。
「今日皆さんに会っていただくのは矯正局局長です」
「……局長、といってもイメージがないですね。矯正局は広報官が報道陣の前に立つのが通例ですから……」
「そうですね。基本的に広報官と事務官が全てを取り仕切り、局長は我々が携わるような案件と矯正局内の反乱鎮圧などを業務にしているわけですが」
「ですが?」
「そろそろ『看取り手』がなにをしているか視察したい、と向こうから申し入れがありまして……断りづらいのもあり、仕方なく、仕方なく受け入れたのですが……メンバーとの顔合わせを盛り込まれてしまい……」
ルカの顔が歪んでいる。相当嫌なのだろう、全員がそれを目にして顔を引き攣らせる。
「……しかし、そこまで言うことは無いだろう」
「……会えば、分かります。えぇ。私は……アレが表舞台に立つ日が来ないことを願っていますが」
そんなド辛辣な言葉を呟いたルカが、さて、と立ち上がる。
「あの女は時間感覚はしっかりしている方です……そろそろ来るでしょうし、出迎えましょうか」
不安げな表情を隠せない3人も、ルカに続いて外に向かうのであった。
車が止まっている。黒塗りの車だ。黒塗りのリムジンに近いそれから、悠然と長身の女が降りてくる。身長は目測でおよそ1m75cm。カナデの身長よりもやや高く、この場では最も大きい者だ。金と黒の入り交じる独特な髪色が、ヴァルキューレの制服を若干豪奢にしたようなそれに映える、髪は後ろに括られたポニーテールだった。
彼女は、地に足をつけてゆったりとこちらに歩みくる。
そして、口を開いた。
「白崎さん、私の敬愛するご友人……私を出迎えにきてくれたのですね。あぁ、なんと友情の素晴らしき哉。ふふふ……遠方から訪ねる友を迎えることもまた一興ですし、とても素敵なことですが……やはり我慢ができませんでしたのでこちらから来てしまいました……。私からご友人、貴女の元を尋ねることができて嬉しく思います。あぁ……そうだ、どうでしょう。今晩ひとつなにかしら踊るというのは?」
「……うんまあ、相変わらずのようでなによりです……『矯正局長殿』……」
とんでもなく、キャラが濃かった。そして、ルカの言葉を聞いて、「どうかコイツが矯正局長じゃありませんように」と願った3人の願いは同時に爆散する。
そうしてルカから視線を外すと、視線がそれぞれを見つめ、その後に矯正局長はにこやかな笑顔を作った。
「そちらは……もしや白崎さんのご同輩、『看取り手』のメンバーでいらっしゃいますか?」
そう問いかける。代表していつも話し手を担うカノハが1歩前に出て、その通りだと肯定の返答をすると矯正局長は頷いた。
「貴女がたが白崎さんのご同輩だというのなら私にとっても友人に相違ありません。本来は歓待すべきですが……此度は私がゲスト。次お会いした時にでもなにかしら『サプライズ』を用意しておきましょう。とにかく、お会いできて嬉しいです。新たなご友人が一度に3人も……ご芳名をお伺いしても、よろしいでしょうか?」
その言葉に従って3人が名乗ると、矯正局長はにこやかにその手を差し伸べ、ひとりひとりと握手を交わす。その後にそのにこやかさを維持したまま、彼女はさらに口を開く。
「ご友人たち、貴女がたのような強い人がキヴォトスの治安を陰ながら守っていることにまずは敬意を。これは心付けです、気に入ってくださったのなら……感激だ」
彼女はそれぞれになにかを手渡す。銃の手入れに用いる小道具の高級品1式のようだった。
ルカはそこまで好き放題に彼女に立ち振る舞わせておいてから、3人に振り返った。
「なかなか……濃いでしょう?」
3人は返す言葉を持たなかった。
いつも通りの丸卓の茶席に、ひとりの客人を加え、5人で座る。
「さて、名乗るのが遅れました」
着座してそうそう、彼女は名乗りを上げた。
「私、矯正局にて局長を務めさせていただいている『
「あ、あぁ……我々としても、矯正局との関わりが深いことは良い結果を産むと思っている。ぜひ、今後ともよろしくお願いするよ」
「あぁご友人! ありがとうございます、えぇ是非今後ともよろしくお願い致します……なんとも感激です。良き関係はかくして生まれていく……お互いに良い結果をもたらしあえる関係も良いものです」
カノハはそれを聞いて小さな礼をし、改めて茶を飲んだ。
目の前にあるそれから視線を逸らしたかったのだ。
私の愛銃、と紹介されて彼女の席の隣に置かれたそれはランチャーだった。
ルカとミル以外は誰もがそれに目を向けていたし、それから目を逸らしていた。
「やはり気になりますか? ご友人」
「……まあ、それは気になりますよ。私は知っていますし……それが『ヤバい』のも分かってるけど残りはなんだか知らないでしょう?」
「これはこれは。失礼しました……これは2.36インチロケットランチャーM1の改良品といいますか、私独自のオリジナル品と言いますか。大まか元の武器は残っていないのでオリジナルと言った方が良いでしょう……私の愛銃の片割れ。火炎放射器と合わせる前提のカスタムをされておりまして、2丁の銘を合わせて
とんだ長ゼリフ、全員の感想が珍しく一致した。
「(長い)」
2人ほど人のことをなんだかんだと言う資格がないやつも居るが、それはそれとして長い。長かった。
そのセリフの後も茶会は続くが、ちょうど1時間が経とうとするタイミングで彼女はこう切り出した。
「さて、ご友人。今日は視察の名目で来ていますので、あなた方がどう踊るかを見てみたい……どなたか、私と踊りなど如何でしょう? 私が貴女がたと上手に踊れるかどうかは心配です……が、それ以上に興味が勝る。きっと上手く踊れたなら……あぁ、素敵だ……!」
ルカがその声に立ち上がる……のを、右腕で静止して、カナデが立ち上がった。
「友人、友人と言われては愚生、ひいてはゲヘナなりのもてなしをしなくてはな。ここは私に任せてはくれないか」
「あぁ、踊ってくださるのですか……? 状況はどうしましょうか?」
「かかってくるといい……下の大訓練場が空いている」
「承知しました……ダンスパーティーに参加するにはそれなりの服装が必要です。良い服を事前に用意してありますから、1度失礼します」
そういうと、彼女は一礼して立ち上がり、パチンっと指を鳴らす。
この間ずっと、部屋の隅で待機していた護衛らしき人々が彼女の1音でもって忙しく走り出すのを見て、「護衛じゃなくて、小間使いか……」と密かに看取り手たちは思った。
地面にカーテンを取り付けたリング、そしてなにやらいくつかの服と武装をその輪の中に入れる。そして、ミルはそこに1歩踏み入れ、特に意味もなくターンをキメながら足元のリングを投げ上げた。
カーテンが回転しながら彼女の長身を覆い隠すが、それもわずか数秒。物理法則に従い、リングは地に落ちて……
「……おお」
「……お見事ですね」
「いつ見ても魔法の類なんじゃないかと思うねそれ」
「いやどんな速度で着替えてるんだ……」
髪はほどかれることなくポニーテール……と思いきや、いくらかの編み込みが施された凝ったものに。
服はヴァルキューレの上位官の制服からヴァルキューレの戦闘衣の改造品……防弾ベストなどの重装備に付け加え、背中に巨大なバックパックを背負い、そのバックパックから機械腕が伸びている。
左手に握られているのはノズル、恐らくは火炎放射器。翻って右手はランチャー、つまり2丁揃った彼女の愛銃であった。
「私の特技、早着替えです。驚かれたでしょうか、お気に召したでしょうか? もしそうなら……あぁ、素敵だ」
キャラも早着替えしてくれない? と口から漏れ出そうになった本音をルカは必死に抑えて、早着替えした彼女をまだ目を丸くした3人と小間使いたちを引き連れて訓練場に送り届けてやった。
「ふむ……いい感じに出来てるのではないですか、ルカ。これは貴女が監修を?」
「まあ、一応はそうなっています。が、メインで開発したのは私ではなくそちらの相羽カノハですので」
「後で細かく聞かせてください……よろしいですか?」
「あ、えぇと……私は少しばかり忙しいんだ。仕様書を送るとかでどうだい?」
「構いません……すいません。こちらも配慮が足りていませんでした。そうでしょうとも、皆様の武装を一手に支えるエンジニア、それが貴女なのですからね。尊敬と愚考への軽蔑の気持ちで胸が溢れそうです」
目が死んだカノハを尻目にミルは武装を構えた。そして、悠然とそこに立つカナデに向ける。
「……お噂はかねがね拝聴しておりましたよ、『平和の人』……その暴力と獣性を理性で統率し、ゲヘナ学園をその名の元にひれ伏させたその辣腕をどうか、この私にも見せてもらいたい」
「平和は、遍く者の意思より成りて、望まれざる平穏は真の平和にあらず停滞なりと云うことを愚生はよく学んだ。愚生が齎したのは平和ではなく、停滞にすぎない……尊敬には及ばない」
「難しいことをお考えのようだ……やはり、忘れて踊りましょう。我々にはそれが良く似合う。さあ、始めましょう」
途端に零下まで凍てつくような戦場の空気に切り替わる訓練場。初手は、ミルの一手からであった。
「新しい、ご友人!!」
噴射された、炎。履き替えられた靴に仕込まれた炎の噴射口が、彼女の踏み込みをさらに強める。同時、その手に握られた放射器からも吹き出す炎がカナデに襲いかかり、重装備でありながら超高速で火炎放射の射程まで距離を詰めたミルは炎でカナデを焼かんとし……
「なかなか見事なサプライズだな、ご友人? 良い良い、褒美だ! 見せてやろう……グランディオーソ! 名に恥じず堂々と叫ぶがいい!!」
轟音、銃声。高らかに吼える。神秘が炎を切り裂いて、彼女の前に炎がわかたれる。
「……なんと!」
「驚いたか? 愚生の前に膝をつかぬものはない……炎とて例外ではない、それだけだ」
頷いたミルは破顔した。
「素晴らしい……しかし、ここからが本番であることは間違いないのですよね? ご友人」
「無論だ。退屈はさせんよ」
「では……視察開始です!」
2人の戦闘は1時間半にも及び、ミルの全弾丸及びガスバックパックのガス切れによる降伏により決着となった。
最後に「本当に、楽しかった……踊り疲れるまで踊り明かすのは、我々の間には起こり得ない未来。それを確信できてなによりでした」などと言って、ミルは車に乗って帰っていく。
カナデはつい交換してしまったミルのモモトークに、次から次へと彼女のキャラの濃い文章が刻まれるのを見て、ひとつ大きなため息をついた。誰よりも深いため息だった。
・鴇巣ミル
矯正局長。主な仕事は反乱の鎮圧及び重大犯の管理統括。七囚人の脱獄時は愛銃を封じられた狭所で狐坂ワカモ、清澄アキラと交戦し、ヴァルキューレ支給の拳銃のみで応戦、敗北した。非戦闘装備状態では学園上位層に1歩届かない程度の能力であるが、愛銃『Honest And True too』などを始めとした戦闘装備を完璧に行った状態である場合、学園最上位クラスと互角の戦闘を展開する。なお、弾切れしやすく、長時間の戦闘は不得手。
本人の性格は極めて善良かつお人好し、常識人で、人助けなども積極的に行う。しかしながら、言葉遣いが非常に独特でどこか後を引くようなイメージを持たせることや、知り合いのことを『ご友人』と称する癖などから、その通りに受け取られることは少ない。また、非常に話し出すと長く、上手いこと遮らないと話し続けることもある。
戦闘を『踊る』と称しており、アリス(名も無き神々の王女)と交戦した際ルカが『踊りましょう』と言った一幕は鴇巣ミルの影響が強い。
別に壊滅的な虚言癖だったりカヤから物を盗んだりはしていないしカヤが愛銃を組んだとかそんなことも一切ない。カヤから離反した事実もなければこれから彼女が敵に回ることも無い上『鴇巣ミル排除』とかそんなミッションは存在しない。ランカー6位とかでもない。肩にミサイルはないしアサルトアーマーはパナしてこない。
これから本編に出てくるかすら正直ちょっと怪しい。閑話だけの存在にしておいた方が、多分平和なキャラ。あんまり人気だとそれはそれでなんか複雑な気持ちになる。
今回もありがとうございました。評価感想お待ちしております。
次回更新分はメイン、仮名『よく似たふたり』です。
8万PVありがとうございます。おかげさまです。まぁもういいか、と思ったので匿名を解きました。よろしくお願いします。
Twitterも公開しますがゲームと音楽と告知の話しかしませんので…ね?
閑話『先生、今しばしお時間いただけますと幸いです』について、何とは言わないですが。
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