キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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赤は赤でも。遅くなり申し訳ございません。


(あか)(あか)(あか)く』

 空に浮かんだ、バケモノが作り出したその巨大な『眼』を、そしてそれから放たれた『眼光』を、バシリカの中にいたベアトリーチェは見ていない。だが、直感として感じ取った濃厚な『死』のイメージに、ベアトリーチェは己のプライドすらも一時忘れ、その身を即座にその場から離れさせた。

 

 その後、貫かれたバシリカの元あった位置から、本来あるべき瓦礫のひとつすら『何も落ちてこない』ことで、やはり自分は正しかったと安堵する。

 

「……消し飛んだ? まるで、最初からなかったかのように、ひとつの欠片すら残すことなく……?」

 

 空いた口は、扇子で覆う。もはやこれで確定した、殺せていない。どころか、切り札を相手は隠し持っており、これから己が殺す……あるいは、逃げおおせなくてはならない『死』は、すぐそこで待っているということ。いざ助かっても、これでは先は短い。

 

「しかし……ここで私が終わる訳には行かない。私は『崇高』に至り、生徒たちを導くのですから……!」

 

 ベアトリーチェの手に握られた、ベアトリーチェにとっての希望。それは旧き『戒律を守りし者』(ロイヤルブラッド)の血を重ねて束ね、黒服とゴルコンダの『成果』を応用して組み込んだ秘薬。

 

 名を『ブラッドティアー』という。

 

 それを、躊躇いなくすべて投げ上げる。

 

「お、おおおおおおっ!!!」

 

 その身を変じさせ、枯れた木を彷彿とさせる怪物へ。そして、花開いた頭部を天へ仰がせ、落ちてきた『ブラッドティアー』を天に開いた花弁で受け止めて……

 

『ッッッッ!!!!』

 

 開いた花が勢いよく閉じた。

 

 それによって齎された、変化は劇的に。細き幹、体の基幹は太く大きく。根の数は数えずとも優に3倍を超え、地に強く根付く。伸ばした枝は赫の花をつけ、増え、咲き誇る巨枝となり、その体躯自体もまた伸び伸びと伸長していく。

 

 その変化……いや、『進化』の最後に、その瞳を幹、花、至る所より開かせて。

 

『断罪とやら、この私の前でほざいたことを後悔するといいでしょう。アリウスに法はただひとつ……そう、私そのものが法であるからには、この場の罪人は、ただひとり!』

 

 飛び込んでくる、『朱』い死神、あるいは原典により近い原義における『天使』を『赫』い大樹となったベアトリーチェは見据えた。

 

「それだけの図体、やっとやる気になりましたか!? ベアトリーチェ!!」

『そう、あなたを、私が裁くのです!!』

 

 朱の天使、赫の大樹。今ここに、両者は邂逅した。

 

 

 

 駆け抜ける足音、その数は数多。シャーレの先生が率いるシスターフッドを主戦力に、多くの先生に同調した者が後々から合流することで膨れ上がったその勢力は、カタコンベをブチ抜かんとばかりに進軍して行く。

 

 ミカがどこかに電話をかけたかと思えば、走り出してから10分もかけずにツルギが『戒厳令が解除された』という旨をもって追いつくという力技で合流し、サクラコが部下に命じさせ放った信号弾は後手詰めとして救護騎士団を呼ぶことに成功する。

 

「こ、こっちです!」

『マッピング精度、82.8%……もう少しです、先生!』

「改めて思うけど、馬鹿みたいに広いねほんとに!」

「ミカの言いたい気持ちは分かるけど!」

 

 先生もさすがに走り続けるのは結構キツい。まだ若いという自負こそあれど、誰よりも年配ではあるのだ。年配であるが故に、疲れから足を止め、足元を見て……

 

「っ!?」

 

 弾かれるように、その場から飛んだ。横にいたシスターフッドの団員が弾かれるように転倒するのを回避するため、抱きとめて自分が衝撃を主に受けるように動く。

 

「わーお……じゃなくて……なにそれ!?」

「……木の、根?」

 

 足元から生えてきた木の根が、人の形を成す。切り離されたそれは、赫い木人。その手を木人が翳し、その掌に開いた穴から種を連射し始めた。

 

「敵か……!」

「ひぃっ!? ……こんな化け物はアリウスにはいませんでしたぁ……!?」

「……後天的に生まれた怪物。嫌な予感がする……!」

 

 連射された種を、後方から走るツルギは軽やかに背を低くして回避。そして、跳躍し……

 

「先生の行く道を阻むなら、壊れろォ!!」

 

 両手のショットガンを一度に2発、さらにもう一度2発。その場に倒れた木人が、ちぎれた木の根に立ち返る。

 

 ツルギは今得た己の感覚を、周囲の人々に聞こえるように口にする。

 

「敵はそのまま材質は木、銃による攻撃は極めて有効、キヴォトスの平均的な耐久とほぼ同じくらい……ただ、2発目の時点で1発目を撃ち込んだ部分が再生する。最速で仕留めろ……それか、焼け。頭が潰れた時点で停止するかは次で確かめる」

「ありがとうございます剣先委員長!」

「これだけ揃えばお前らなら戦えるな?」

「勿論です、剣先委員長。シスターフッド内で共有致します!」

「頼むぞ」

 

 代表して礼を述べたシスターフッドの3年生は周りの子を集めて伝達隊を組織、先生の伝達と内部伝達の両面で照らし合わせることで情報の確度を担保する手を打つ。

 

 トリニティは良くも悪くも『組織性』の学園だ。組織外の先生が突然最上位に立ったとしても(この状態でそんなことを考えられるかは別として)最上位からの情報の確度に不安が残る、といわれるとどうともならない。故にこそ、彼女は確実に回せる情報で先生の情報に信頼の印をつけたのだ。

 

 そうしているうちに、前方から複数の木人が現れる。

 

「どうやら次のようだよ!」

「シスターフッド第2隊、射撃用意!」

『はい!!』

「撃ちなさい!!」

 

 色々な武器が入り交じる、射撃の嵐をツルギは見つめて、声を張り上げた。

 

「口径がデカいか、貫通力のあるピアッシング弾ほどよく通る!

頭を抜けば止まりもする! 貫通力の高い武器を持っているものは前に出ろ!」

 

 その言葉を聞いて、即座に隊列を切り替えての斉射。良く統率の取れた軍隊だな、とツルギは思った。エルの『教育』の賜物である。

 

「まだまだ湧いてくるはずだ……こんなところで止められる訳にはいかないね、突破する!」

『はい!!』

 

 先生の指揮の元、また生まれ落ちた木人たちに生徒は銃口を向けた。

 

 

 

『刑死を、忘KY……エラー、エラー、エラー、エ』

 

 ぐしゃり、となにかを潰す音。バチバチっと迸った電光に少しの痛痒を受けたような顔すらせず、退屈そうに空を見上げていた女は席を立った。

 

「局長? どちらに向かわれるおつもりですか……?」

「このキヴォトスに……私の大切なご友人と互角に張り合える者がいるようでして」

 

 室内はどよめき立った。局長の、大切なご友人。それは一人しかいない。

 

 キヴォトス連邦生徒会の執行官、白崎ルカ。それと対等に渡り合う者……あるいは真髄を出させたもの。いったいそれはなんなのだろうか? という疑問でもってざわめく室内にあって、1人歩み出す。

 

「しかし……私が向かうのは政治的にもやはりよろしくないでしょうか……まあ、いいです。いつも通り、私はこの座を賭けましょうとも」

 

 女は、近くに座っていた女……副局長、と記された札の立つ席に座っていた女の肩を叩いた。

 

「私がもし、この座を追われたら頼みますよ」

「ご冗談がお上手ですね局長。あなたがこの座を追われるわけがありません。貴女には、私もいるのです」

「そうでしたね……いろいろと手配と揉み消し、頼みましたよ副局長。後でなにか、厚くもてなしをしますので」

 

 巨大な火炎放射器とタンクなどの弾薬類を込めたパックを背負う。戦闘衣に身を包む。それらの動きを特技たる早着替えで終えると、彼女は連絡先に最近追加された『紋独カナデ』の文字をなぞり……

 

『何の用だ、愚生はそれなりに忙しいぞ?』

「ご友人、急場の用件です」

 

 

 

 進軍の状態は良くない。

 

「キリがない……!」

 

 この一言に尽きた。木人をいくら倒そうが、地面に張った根、壁に張った根が木人を供給し、進軍スピードはそれまでの10分の1以下にまで低下した。

 

「できる限り無駄撃ちは抑えても……このままでは、奥に辿り着くまでに枯渇します!」

「弾丸は大丈夫です、救護騎士団が車を戻して補給物資を持ってきてくれます!」

「それならなによりだ! ……でも、この状態はちょっとマズいね……!」

 

 正義実現委員会が合流し、さらに人数が増えてもなお、進軍スピードは戻らない。即ち、湧くペース、量が格段に増えているのだった。

 

 その時、先生にしか聞こえない声がして。

 

『先生! 新着のメールが届きました!!』

「……この状況で必要な情報だね!? なんだい!?」

『紋独カナデさんからです!』

 

 その名は、目指す先に居るであろう彼女の同輩。今はゲヘナで忙しくしているであろう彼女からとは何事か。よもや、救援の要請かと身構えて。

 

『そちらに、愚生の友人が向かいます。なにやら大事なそうで……上手く使ってやってください、とのことです!』

「……友人?」

 

 助っ人が来る、と言われ、先生は思わず口に出して首をかしげ……

 

『先生! 後ろから高熱源の反応ありです!』

「……車じゃなくて!!?」

『はい!!』

 

 本日2度目の横飛び、そこを通過していく地を滑るような動きのソレ。

 

「先生、ご無事ですか? あぁ、ご無事なら良かった……さすがにうっかり先生を轢き殺してしまったともなれば、私も手向ける花のひとつ以前に無事で済むことがないでしょうから」

「火炎、放射器……?」

 

 噴き上げる炎が、舐めるように木人を焼き払い、根を燃やす。

 

「この地下墓地は不思議なことに、ところどころに外界に繋がる排気用口があります。最も、外から閉めることが可能なようでして完全なものではありませんが……少なくとも、私がここで炎を用いる分には大丈夫、という計算で回していますから、窒息については問題ありません。恐らく、最初から通行に使用すること、及び毒ガスなどを抜くことも想定しているのでしょうね」

「そうなんだ……じゃなくて! 君がカナデの友人?」

 

 目の前の戦闘用装備に身を包んだ彼女は、そこであぁ、と呟いて。

 

「これはこれは……自己紹介が遅れました。私、『鴇巣ミル』と申します。今はただの『鴇巣ミル』として来ておりますので、深く聞いてくださいませんようにお願い致しますね」

「あ、うん、よろしく……協力してくれるってことで、いいのかな?」

 

 ミルは頷いて、その手の火炎放射器と、ランチャーを構えた。

 

「なにやら来てみれば、殲滅戦は私の得意とするところ。お任せ下さい、先生。五分でカタをつけて差し上げますので」

 

 バシリカの最奥の『朱』に『赫』、そして今、『赫』の根を焼かんとする『緋』……誰も知らないが、実は3()目だったその赤色は、高らかに自信をみなぎらせる。

 

「さあ……踊りなど知らなさそうな見た目ではありますが。あなた方も感じ入るままに動いて……どうか私と、踊ってください!」

 

 言葉と共に、真っ直ぐに。目の前に炎を解き放った。

 

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