「私は」
倒れ行くルカをその両手で愛おしそうに抱きとめたミルは、先生の、その場の生徒の驚きを一身に受け止めながら小さく笑った。
「気に食わないんですよ、先生。この物語の結末が。幼い頃から洗脳された少女のテロリストに許しを与えて終わり、などという陳腐極まりない結末が。お姫様の強欲が最悪の一歩手前を招いたのに、それを許そうとする貴方が」
そして、と言いつつ、ミルは抱きかかえたルカの額に己の額を当てた。ルカの頭にヘイローは既にない。
「それを誰もおかしいと思わない今が。それに抗おうとするご友人がただ『力不足』故に諦めねばならないような今が。憎らしい……気に食わない。納得できない」
故に、と。ミルはこちらに、今まで見た誰よりも、覚悟を決めた視線を向けた。
「あなた方は気に食わないことがあればその手にした銃で解決してきた……私も、今この時だけはそれに習いましょう。私はもはや法の番人の元、命を預かる者にあらず……ただ、失われた秩序を求める者です。今、眼前の歪んだ秩序を焼き祓う」
ミルは、その手の放射器をこちらへ真っ直ぐに向けて。
「ご友人には、こんな姿は見せられません。……悪いですが、彼女には眠っていてもらいます」
「……睡眠弾か」
「ご名答、ツルギさん。では……いやまあもう捨てちまおう。じゃあ、始めようじゃねぇか」
ミルの口調が変わる。礼を尽くす少女のそれから、粗野粗暴を感じさせる荒れ狂うソレに。
「テメェら、『
高らかに吼えるミルに、ツルギは笑う。
「本性はそっちか……お前、相応に無理した猫の皮を上に着て今までやってきたもんだなぁ?」
「アタシはブラックマーケットの端っこ、スラムの出だ。でもね、大切な仲間と出会って、優秀なブレインをヘルメットの中から引っこ抜いて……今ちょっとした立場を手に入れてる。その立場のために、我慢我慢と思ってやってきたんだがよ……アタシにはやっぱり『
その場の全員が極めて曖昧な表情を浮かべる。鴇巣ミルにとっての『アレ』は大人しくしている方だったようだ。癖が強い女かと思ったが、まだマシな方の癖、というのはなんというか、結構来るものがある。これがインパクトだろうか。
「あぁ、それと……紹介するぜ。アタシ、まあそこの
バタバタと荒々しく、素早く。なれど規律に従って展開する兵たちが、こちらに銃を向ける。ミルが声を張り上げた。
「テメェら気張れ! 相手は一級モンだぞ、退かせりゃ勝ちだぞ! テメェらは何だ!?」
「「「ウチらはボスの腕、足、銃!!」」」
「普段ならそうだが今だけは違ぁぁぁぁぁうッ!! アタシらは、生まれも始まりも違ぇが、皆いつかの『
先生たちを囲む、銃口。震えなく、恐れなく、大人に反抗する少女たち……ミルは、その中から2人の少女が進み出て、先生に歯茎を見せるような笑みを浮かべた。その手に、既に彼女の相棒はなく。
「改めて元矯正局局長、現先生に抗う大罪人……鴇巣ミル。先生、テメェのくだらねぇ『
「局長……いいや、ミル。もういいんだな?」
「あァ……許可する。全部壊せ、俺らは炎だ、燃やすべきものが全部
ミルの傍の少女もまた、先生に声をかける。
「あなたはお初じゃないかもしれないな。テレビでわたしを見た事くらいあるんじゃないか? 副局長兼広報官代表……あ、元か。ま、とにかく私は『天津イラ』。よろしくするのもこの戦いだけだけどね……Drop Journeyシステム、正常に起動。ミル。いつでも行ける」
「オーケーだDJイラ、久々にテメェの作るビートで俺たちは戦場の音のひとつにノる……任せたぜ」
後ろまで下がったイラが展開したのは、DJ機材を彷彿とさせるようなテーブル、装着したのはヘッドホン。
「本番はここだ、盛り上がってこ──っ!!」
イラの叫びに呼応して、『マレブランケ』たちはその声を張り上げる。先生は、その勢いに負けることなく告げる。
「その答えを私は尊重したい……でも、今はそういう訳にも行かないんだ。ウソでもエゴでも、救える人はいる。真実だけがこの世の全てなんかじゃない……間違いが結果として最善なことだってある。だから……私は君たちを理解するために、今は戦うよ」
「……ッ! おおおおおっ!!」
「キヒャッハァ!!」
飛びかかるミルに、ツルギが応戦。その身体に浴びせかけるようにショットガンを2発、大きく蹴りで下がらせるとミカがそこにサブマシンガンを浴びせかける。即興の連携に見合わぬ凄まじい威力、なれども煉獄の悪鬼を統べる者はなによりも『強く』なければならない。
「だいぶ痛ェじゃねぇか、なァ!」
「おっかしぃなぁ、アレそんなに威力低くないよ? どういうタネがあるんだろうね」
「よく見ろ。通ってない訳では無いようだ……『治ってる』」
「なるほどね……じゃ、私は撃つよ」
「巻き込んでくれるなよ……! ヒャァッハァァァァァッ!!!」
「自信はないなぁ、あはは☆……もう聞こえてないか!」
今度は飛び込んで行ったツルギに優しい光がまとわりつく。光の出処を探らんとしたミルが目にしたのは、祈る金髪獣耳のシスター……伊落マリー。
「余所見してる場合か、壊してやるぞォ!!」
「チッ……Hey DJ! オーダーだ! Lowボリュームをブチアゲろ!!」
「おっけ──ーいっ!!」
キュルッキュルとイラが手元のスクラッチを回すと、動き出していた『マレブランケ』の動きがシスターフッドとの交戦から一転して後衛を潰すための近接突入戦へシフトする。
尖りきった陣営の先端がシスターフッドの戦列の先端に触れ、突き崩すように雪崩込む。己の犠牲を厭うことなく、次なる戦士の為に道を作り出す。
例え己が倒れようが、どの道矯正局で終わっていた人生。元の世界に一時でも戻れた喜びが、苦しさを、痛みを忘れさせる。ミルへの恩は彼女らの中で崇拝となる。不良として暴れていたあの日の歓びは今なお彼女らの中で息づいている。
例え凶悪犯と呼ばれても。例えカス以下と嘲られようと。この檻から出れば貴様なぞ、と。そう思っていたから耐えてきた……檻は、もうない。
そう、彼女らは再び、人を傷つけるこの一瞬を。心から。
「今、楽しいかァ!?」「盛り上がってますかぁーっ!!」
「「「楽しい……!!」」」「「「いぇーーーい!!」」」
待ち望んでいたのだった。
次回か次次回、流れを断ち切ってコラボ回を出します。よろしくお願いいたします。本編とは一緒くたにはしない予定ですが。
文字数今回短めでしたがどの程度が良いんでしょうね?
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3000字(今回くらい)が読みやすい
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5-6000字(いつもの)が読みやすい
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もっと長くあれよ!!