キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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執行人の必要性について三百字以内で意見を示せ。ただし文中に必ず『犯罪の抑止効果』に言及し、『SRT特殊学園』の語句を用いること。

 私とはどういう存在なのだろう? 

 

 私は常にそう考えるようにしている。そうじゃなきゃ、おかしくなりそう。私は人殺しだ。そこに間違いはなく、純然たる真実。であるならば、私の生きる意味とは。

 

 悪人を殺すこと、矯正の見込めない邪悪を手にかけることが生きる意味だとして、この血塗れた道がいつか終わるとして。

 

 新たな意味が、私には生まれ得るのだろうか? 

 

 結局、そこなのだ。この道の終わりが私自身を滅ぼすことでのみ訪れると考えるのは、ただそこだけ。

 

 この世界は、誰もが許してくれないわけじゃない。誰かが、許してくれる。いつか。誰かが。でも、違うのだ。

 

 許しを得たいわけではない。ただ、責められたいわけでもない。

 

 誰からもただ赦されず、その存在をなかったことにして欲しいのだ、とは我が事ながら贅沢な願いだな、と笑う。

 

 でも、贅沢が叶わないのならせめて、多くを断ち切ったこの腕で、私自身も断ち切って。何も知らずに自己満足に浸っていたいのだ。

 

 っと……シャーレ付近、子ウサギ公園近くの茂みに今まで潜んでいたのだがようやくだ。探し回るより張り込んだ方がいいと思ったが正解だった。

 

「見つけたぞ、狐坂ワカモ」

「……私はあなたには覚えがないのですが?」

「なに、無理もない。お前の脱獄の3日前に着任した執行人だ。先生着任の日は世話になったな」

「ッ! あの黒スーツですか!」

 

 咄嗟に銃を構える彼女に肉薄してショットガンを叩き込んだ。

 

 キヴォトス人特有の高い耐久性で大きく仰け反るのみで済んだワカモへ、さらに右手の剣を振るう。

 

 ノーブルプライド。処刑人の剣、とも言われる独特な直剣は、古代の技術によって生成されたオーパーツのひとつである。ただの剣であれば生徒に傷1つ入れることが出来ないであろうが、ノーブルプライドだけは話が別だ。この剣は名を呼ぶことで起動し、祝詞を唱えることで変形する。変形まで行ったノーブルプライドは、刑を執行する時にしか使わないが。

 

「ノーブルプライド!」

『UNLOCK』

 

 蒼光が刀身から漏れ出す。本能的に危機を察知したワカモが、その手にした小銃の銃剣でもって受け流そうとして……

 

「なっ!?」

「児戯に等しい!」

 

 銃剣を切断する。しかし咄嗟に大きく後ろ飛びをされ、本人への攻撃は通らなかった。

 

「あなた……なかなかどうしてやり手ではないですか。あのお方とも1戦したと聞きましたから、場合によっては殺そうと思いましたが……考えが変わりました」

「どのように?」

「今ここで、確実に殺します。あなたは、あのお方の……先生の、敵になるから」

「正解です……犯罪者の身柄担保なども行えるシャーレは私の敵ですからね。殺し合いましょう、狐坂ワカモ」

 

 銃撃と肉弾戦を繰り返す、狂気の戦いが始まった。

 

 

 

 その頃、公園内。RABBIT小隊との時間を過ごす先生に、シッテムの箱OSであるアロナが報告を行っていた。

 

「ねぇ、今銃声がしなかった?」

『先生! 銃声が聞こえますか!? その近くにワカモさんの反応があります! それと……未確認の反応ひとつです!』

「っ! ごめんみんな! 近くに戦闘している生徒がいるから私は少し離れる!」

「え〜、どうしたのそんないきなり?」

「本当に突然だな。その様子じゃ護衛もないだろうに」

「では、我々が護衛につけば良いのでは?」

 

 先生は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ごめんね、RABBIT小隊のみんな……力を貸してくれるかい?」

「全隊員、用意を!」

「「了解!」」

「今回はヘリを用いないためオペレーターとして行動します、よろしいですかRABBIT1?」

「許可します。そのように」

 

 3人が武器を取る。1人はヘッドセットを装着、機器を操作する。

 

 わずか2分後、完全武装した隊員3名と先生は子ウサギ公園から飛び出していくのであった。

 

 しかし、それでも辛うじて間に合った、というのが彼女の強さの証明だった。

 

 燃え盛る市街地。車が炎上し転がる、ワカモのいつか見せてくれた光景(メモリアルロビー)のような街中に、ワカモのつけた面を遠くに放り捨てながら、ワカモの背を踏みつけ、銃口をねじ込む執行人が居た。咄嗟に、ミユの名を呼んだ。

 

「ぐっ……!」

「私の勝ちのようですね。……ここで執行しても構いません……!? 邪魔が入る!!」

「なっ!?」

「ここですね!!」

「しまっ……!」

 

 スナイパーの弾丸、手にした剣で迎撃するも、緩んだ拘束をワカモに抜けられる。

 

「はぁ……SRT残党に、先生。邪魔をしないでいただきたかった」

「ルカ! ……何を考えて、こんなことを!?」

「知っているでしょう? 狐坂ワカモは大罪人。死刑ではありませんが……SRTが解体された現在は、私が主に任を負っておりますので」

「看取り手の方の仕事ではないんだね?」

「えぇ。ですが個人的にはさっさと殺したい相手ではありますね。早くその命を私に委ねてくださいと思うことも多いですよ。上から『七囚人を始末したいのは分かるが処刑にまでは足りてないからやめろ』と言われてしまいまして。今の所執行許可が降りているのは申谷カイに対してのみです」

 

 申谷カイ、という名を聞いて、呟いた。

 

「薬物関連の犯罪を起こしたんだったっけ?」

「ええ。薬物の元となる素材を梅花園やその他子供を利用して運搬していた事件はシャーレが解決してくださったと記憶しています」

「なぜ、彼女にだけ執行許可が?」

「お気づきでしょうが、この世界の主年齢層は若い。薬物は若年層に極めて高い効果と依存性を与えやすい。そういった意味で、外よりも薬物は厳罰化されているのです。……死刑も有り得るほどには。先日処刑した彼女は薬物依存者でして、申谷カイに近いブローカーから薬物を購入、及びトリニティ内の薬物取引の枢軸となった人物でした。矯正局局長はこれを良しとせず、申谷カイ及び各学区の薬物取引の軸となる人物に極刑を言い渡すこととしています」

 

 長いセリフを一息で言い切り、息も切らせずに私に「ご理解頂けますか?」と問いかけ首を傾げるその姿は、どこかヴァルキューレに近いものを感じるな、と私は思った。

 

「とにかく、君はワカモの身柄が欲しいんだね?」

「ええ。頂ければ即時撤退します」

「彼女の処遇は連邦捜査部シャーレがすべて請け負うこととなっているんだけれど」

「ふふ……そういうと思っておりました。隠匿はよくありませんね、先生?」

「匿うわけじゃない。正しく未来ある償いをさせる、それだけだよ」

 

 私の言葉に、しばらくルカは言葉を選ぼうとしている様子だった。そして、今までで最も長い言葉を吐き出す。

 

「甘やかしているのでは無いですか? 自分にもっともらしく誠意という言葉でもって理由付けをして。大人の裁決だからと周りを勢いで納めさせて。私はそれを認めません。ですが、この世界はそれを許容する。してしまう。そちらのSRTの子たちも、正義は本当にその大人の傍にだけあるのかをよく考えるといいですよ。……無茶を通し、法を砕き、幸せを求める姿は正義と言えるのか。法によって生まれた道理を貫くことこそが、本来我々に求められる姿なのですからね」

 

 ワカモは、今まで無言を貫いていた。懐から仮面を取り出した。徐に銃を向ける。

 

「私から言うべきことはひとつです。負け惜しみと思ってもらっても構いませんが。法によって敷かれる正義では、守れないもの。笑顔。未来。それを、シャーレの先生は守っておられる。あなたが間違っていないように、先生もまた、間違っていない」

「ワカモ……」

「……ふむ。つまり、人道に悖る正義をお持ちと。これはこれは。人道でもって法を無視する……これは危険です。無法地帯を生む要因になる。復讐は許容されない。取り返すことは認められない。全ては法の名のもとに動かなければ、平和は戻らないのです。確かに、人道的な目からすればあなたは間違っていない。だがそれがかえって罪。支持する無法者を増やす愚かな罪です。法によっていずれあなたを裁く時が来る……シャーレの先生などという席がいずれ無くなった時が、私という死神を迎える瞬間」

 

 プレッシャーが膨れ上がり……霧散する。

 

「ですが、今はまだその時では無い……話が逸れました。ワカモの身柄、どうします? ダメです?」

「あぁ」

「ならば力づく、というのは法の道理に反します。これ以上はシャーレの先生がいる関係で行えませんし、下がる他ありません。シャーレの先生。あなたの特権に屈し、私は彼女の捕縛を諦めます。ですが……カイテンジャーの逮捕にはご協力を願います。一応、防衛室の方から正式な依頼を回しておいたのですがご確認は?」

「してるよ。協力者あり、の協力者は君?」

「もちろんです。では、3日後はよろしくお願いします」

 

 丁寧に頭を軽く下げると、くるりと背を向け、飛び上がるルカ。

 

 せり出した看板の上まで跳躍し、さらに跳躍してビルの頂上へ。人外の運動能力に絶句する面々を見下ろして、ルカは去っていった。

 

「はぁ……向こうに交戦の意思がなくてよかった。ワカモ、無事?」

「無事かと言えばそうでは無いと返すことしかできません……敗れました。とてつもない相手と言わざるを得ませんでした」

「ですが、アレはいずれ討ち果たす敵と言えるでしょう。でなければ、あなたが討ち果たされることになる……シャーレと不倶戴天の関係にあるのがあの生徒です。どうか、ゆめゆめお忘れなきように」

 

 RABBIT小隊の面々に帰ろう、と告げようとして、悩むミヤコが眼中に入った。

 

「ミヤコ、帰ろう」

「そ、そうですね。全隊員、帰投準備。作戦は無事終了しましたが、帰投まで戦闘状況を継続します」

「悩んでる? あの子の言葉」

「ええ。ですが、私たちはSRTです。考えを変えてはなりません。ひとつの思いとして、受け止めています」

「そっか。良かった。変に気に病むのもよくないよ。正義は、ありようで、いくつでもあっていいものだからね」

 

 

 

 ルカはビルの屋上を跳ね回りながら、徐々に高度を地上寄りに落としていく。そして、通信を開いた。

 

「そちらは防衛室だね?」

『ルカさん。仕事はどうですか?』

「カヤ様が出てくれるなんて。仕事は……ま、最悪1歩手前ってところかな? 先生にだいたいは割れたし……カヤ様には事前に話した通り、連邦法22条に則った捜査拒否権を行使して欲しいかな。財務室と法務室に話を通しておいたから、拒否権行使に正当な理由ありと認める室が3つ以上で成立するはず」

『えぇ、分かりました。では、あとの簡単な処理はこちらで行います。本日は帰投してください……ここからはオフですよ』

 

 切り替える。自分を、仕事からオフに。

 

「うぇぇぇ……」

『吐きそうじゃないですか。やっぱり、本音は厳しいですか?』

「ワカモの反応探知してSRTの残党諸共に先生が突っ込んできた……」

『……心中、お察しします。ルカちゃん』

「カヤちゃ〜〜ん……分かってると思うけど、次はあなたの番なの〜〜……ごめーん……」

『ええ、ええ。任せてください。超人からの置き手紙、必ず果たします。私の理想……銃を用いない、学生のための街をキヴォトスの中に作る……いつかは、それをキヴォトス全てに広げる夢、かならず叶えるために。こんなところで潰れてはいられませんので!』

 

 カヤとルカは幼なじみである。

 

 先んじてカヤがその身を連邦生徒会に投じ、その頭角と手腕で防衛室の次期室長が確定したタイミングで、連邦生徒会長が出したひとつのアイディア。そこに、自らの幼なじみを躊躇いなく推薦した不知火カヤは、推薦した人材の有用性もあって、地盤をさらに強くした。

 

 さらに、ルカがメンタルサポートを行い続けることで、「超人になる」を目標とせず、「超人の理想を引き継ぐが、超人にはなれない」と考えさせることに成功している。ルカはしれっと、カイザーの陰謀を阻止することになっていた。

 

 ちなみに、FOX小隊はSRT再建のためという名目でカヤに従っているが、カヤ本人からしてヴァルキューレに編入しないことを選択した元SRT生のための支援を惜しみなく行っているために、忠誠度がマッシマシになっている。なんのバグなんだ。

 

 代わりに財務室のアオイや代理のリンなどからは「金遣いが荒い」などと小言を貰うようになったが、その小言のおかげでコミュニケーションが増えて仲自体は良好だというのだから面白いものだ。

 

「そうだよね! ……そうだ! カヤちゃん! 聞きたいことがあるの!」

『なんですか? ルカちゃん』

「カヤちゃんが次暇な日、いつ? パフェでも食べない?」

『今、明日を空けました。行きましょうルカちゃん』

「え!!?」

 

 割と暗部に幼なじみをブチ込んだ自覚と罪悪感、そしてそれでもなお明るく生きる最愛の友の願いである。カヤに断る選択肢は最初からない。そう、全ては自らが地獄に引きずり込んだ友のために。ひたすら、愛が、重かった。

 

 

 

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