本編はry。ホントごめんなさい。筆進むからこっち書いちゃうんだ……
「やーっと、終わりましたね……」
「本当に、今回は助かったよ。ルカ」
「主張で対立していたとしても、連邦生徒会という本元は同じです。目的もまた「キヴォトスに平和を」という点では同じなのですから手伝いくらいはします……にしても、大変でしたね……?」
「いや……うん。ごめん……私も溜め込みすぎた自覚はあるんだけど」
黒スーツの彼女は苦笑する。普段は苛烈峻厳なルカが、ほぼ敵対、なれどもビジネスパートナーという奇妙な関係の私にすら半ば本音を覗かせるほどの仕事の量だったそれを、ルカはそれでも先生の倍以上の凄まじいスピードで片付けた。
「ううん……Xデイは2日遅れ。そういうこともありますよね、クリスマスを生徒とお過ごしになった先生殿」
「……仕事を忘れたい時だってあるさ」
「それを繰り返した結果がこの惨状ですよね? ……半分敵対した人間に助けて! って泣きつく無様を1回見直した方がいいのでは……?」
ルカはその顔の苦笑をさらに深めた。実際のところ、先生はルカに泣きついたわけではない。財務調整室と七神リンからの連名で「そろそろ仕事を片付けろ」と言われてしまった先生は、ほんの気の迷いで徹夜用の珈琲をお裾分けにやってきたカヤにこう漏らしたのだ。
「はぁ……終わらない。どんな人でも構わないから書類仕事を爆速で終わらせられる人材はいないかな……一時派遣とかで。ねぇカヤ、知らない?」
カヤはその条件に当てはまる人物をただひとり、即時で弾き出した。そして、先生には通告せずに次の日に送り込んだのだ……そう、ルカである。
「……!?」
「防衛室長からの要請です。白崎ルカ、書類仕事の整理に従事致します。……誰でもいいんでしょう?」
「良いとは言ったけど……!」
かくして、クリスマスを各々に過ごす生徒たちを尻目に、ルカはデスマーチに突入した。クリスマス当日、先生を「暴動が起きるから」という理由でシャーレから追放したルカは、フルに匣の権能まで持ち出してシャーレの書類仕事、及び指名手配犯の確保、及び工場に現れた機械の殲滅、及び遊園地の謎の怪物の撃破……
「思えば、あの日はよく頑張ったなぁ……私」
「うんまあ……晩ご飯奢るから……」
「あ、いえ。お礼とかは別にほんとにいいんです。むしろ今夜は室長とご飯なので。ただあなたを責めたかっただけですので。えぇ」
実にデスマーチだった、ということを知って欲しいだけだ。とはルカの言である。
その言葉にいたたまれなくなった先生は、話題を切り替えんとする。
「そういえばルカ、去年のクリスマスはどうしてたの?」
ルカはノータイムで目を死んだ目にした。
「クリスマスは私の古巣も治安が悪くなります。ぶっちゃけそこはいいのですが……実は私の後輩に、超怪力ゴリラがいるんですよね。ソイツ、スイッチが入ると話が通じないタイプなんですが……まあ、そりゃもうバチッバチに入ってますよね。スイッチ。私のクリスマスで彼女を止める役割を他の人に任せられたのは今年が初めてです」
先生は綺麗に地雷を踏み抜いたことを理解した。彼女にクリスマスの喜びはおそらく今までで1度もなかったのだろう……ちなみにここで言う「超怪力ゴリラ」「ソイツ」とは無論言うまでもなかろうが、救護騎士団団長、蒼森ミネであることを補足する。
「……なんか、ごめん」
「ほんとですよ。……ま、次から気をつけることですね。私はこれにて……あそうだ、お礼がしたいというなら、少し7Fのピアノをお借りしたいので、人払いをお願いします」
「……7Fのピアノ……あのグランドピアノ? 分かったよ。理由は聞かないでおくね」
「えぇ。ありがとうございます」
シャーレに無事年末が訪れる。ルカはシャーレビル7F……先生の趣味なのか誰の趣味なのか小劇場に改造されたそこに置いてある1台のグランドピアノの椅子を引いて、座った。
「……」
今の開放された心のままに、力強く。荒々しく。叩きつけるような雨をイメージして即興曲を弾きあげる。
心に確かにある、愛するあの人へ愛を囁くように、しっとりとしたクラシックを奏でる。
「La……」
口から零れ出る音。普段の低い声から想像もできないくらい透き通った、高い音。ルカはそのピアノを優しく弾きながら、口から迸る旋律をとめどなく響き渡らせた。音程だけの歌を歌い上げると、入口から拍手が聞こえる。
人払いをしろ、とあれだけ言ったのに、とルカが思いながら顔をそちらに向けると、そこにカヤが立っていた。
「カヤちゃん!? どうして……仕事は?」
「ふふ……この私に、不可能はありません。夜まで待たせるのも癪でしたので……片付けましたよ」
笑うカヤ。思わず飛びつきそうになる衝動を抑えて、カヤの仕事終わりを労う。
「さすがカヤちゃん……」
「……ルカ。もうピアノは弾きませんか? まだ聞きたいですし……久々に、アレを一緒に歌いたいのですが」
カヤの希望はルカにとって最優先される事柄だ。幼い頃に、ルカの前身が解読した古代語の歌……それを、今ここに歌う。
「アレ、ね。久しぶりだなぁ……パート分けはいつものカヤちゃんからね。ワン、ツー、スリー!」
床をスリーカウントに合わせて蹴りつけて、ピアノの伴奏。小粒の音、技量を求められるソレも今のルカにとっては難関ですらない。
「『太陽、月、次の頁へ羽ばたいて』」
「『空は青く、無数の扉に満ちている』」
「『触れる「色彩」の彼方、自由はそこにある』」
「『遥かなる自由の果て、最後の道で』」
響く2人の声。2人だけの小劇場が、2人だけの世界に書き換わる。カヤから始まり、交互に響く、その声は世界を塗り替える。
「『かつて、遥か昔、幼い頃に』」
「『なんのために生きるのか? 歩む訳すら分からなくなった』」
「『訳などなくただ前へ、進めばいいのだと教えてくれたのはあなただった』」
「『心は枯れる、使わなくなれば』」
「『せめて、笑って。進んだ道を、赦してあげて』」
「『大丈夫。信じた私だけが、私になるから』」
ピアノを最後に1音、鳴らす。2人の歌が終わったその瞬間、2人は同時にお互いの顔を見ていた。なんとなく、目が合っているその今が嬉しくて笑ってしまう。
「予約は入れてあります。このまま、行っちゃいましょうか? ルカちゃん」
「……うん。行こっか。歌ったら、お腹空いたよ」
「えぇ!」
出ていった2人。扉が閉じ、暗黒に染まった小劇場。その対極に、白く明るく雪降った後の外に、飛び出す2人の笑顔。久方ぶりに、子供としての有り様を思い出したような2人は、街の外れに消えていった。
歌は繋がるもの。
ひとりでも、ふたりでも。
交互に重なる歌、重ならずとも歌。