キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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お待たせ、しました……


後回しがもたらす悪影響について自分の考えを述べよ。尚、解答欄は解答用紙裏面である。

「あぁもう、面倒な! 本当になぜこんなことを起こしたのですか!!?」

「何度も言っているでしょうご友人……納得いかなかったんですって」

「それで済むならのわけないです! あぁもうほんとどうするんですかコレ!? 監視をつけますっつったってそんなの出来る人材の余裕があるわけないじゃないですか!!」

 

 ルカは高らかにキレていた。あの、見なかったことにした戦いから一夜。ルカはミルとイラの主犯格2名に対する処遇を如何様にしたものかと頭を抱えざるを得なかった。

 

さらに積み重なる書類仕事……トリニティに出したシズクを回収してそちらに当たらせているが、量が無尽蔵なのでどうしようも無い。

 

 いや、何とかしようと思ったら別になんとかはできるのだ。できなくはないのだが……それを、やりたくない理由がある。それを明かすのは、ルカの最優先たる目標……『不知火カヤの夢の達成』に大いに支障が出るが故。

 

「……仕方、ないかぁ……」

「なにをするつもりなので?」

「電話」

 

 電話の先、繋がったのは。

 

『やあ、隊長殿。ご機嫌はいかがか──』

「至急、戻りなさい。あなたが呼んだヤツのせいで大変なことになったので」

『あー……マジで?』

「大マジです。なんつーことをしてくれやがった状態ですので、今日の午後には来なさい」

『……恨むぞ、ミル』

 

 ゲヘナに出向していたカナデとの電話が切れる。スピーカーモードにしていたから、その声はミルにも届いており……ミルは苦笑していた。

 

「なるほど……カナデさんを私につける、と?」

「その通りです。シズクはイラにつけます……これは昨日中に確認が取れてるのであんま気にせずともですね」

「厳重な警戒だ……さすがに私ともなればですか? ご友人」

 

 ルカは楽しそうに話すミルを一発張り倒したくなる気持ちに駆られた。だが、それをとにかく理性で抑え込み……また電話のコール。

 

「はい、白崎です」

『もしもし、ルカちゃん』

「室長!? どうして……今日は休みじゃ?」

『いえ、その……休みを貰ったのはいいですが、ルカがいないといささか何をして良いのか分からず……ひとまず声を聞こうと思いまして。今、昼休憩の時間かと思っていたのですが?』

「いやその……例の見なかったことにしたヤツの『ツケ』が回ってきたので……休みがないんです」

『あっ』

 

 通話口のカヤちゃんは、黙り込んで、深く呼吸を2度してから……

 

『そ、そうですか……私、今から向かいますから。書類仕事とかはあの事務所の私用のデスクにまとめておいてください……まさか、使うことになるなんて……』

「……いいの? 私もまさかカヤちゃん用とかふざけて作ったデスクが使われるなんて思わなかったけど……まあいいか」

 

 増援を宣言されたルカは嬉しそうに頷いてから、『看取り手』事務所のシズクとカノハしか聞けないのに施設中に放送できるとかいう謎の無駄な内線を引っ掴んで高らかに叫ぶ。

 

「全体連絡! 我らが室長様が書類仕事の増援です!!」

 

 モモトークが2件。

 

『うるっっさいよ!! 君の酷使のせいでノーブルプライドだって割と繊細な作業を要求されてるんだぞ!!?』

『ルカさん! 書類仕事に増援があるのは嬉しいんですけどそれはそれとして声が大きすぎませんか!? ねぇ!!?』

 

 ごめん、とシンプルな気持ちで落ち着きながら、ルカは改めて目の前の彼女たちを見た。

 

 礼儀正しく座り紅茶を嗜むミルと、壁によりかかり腕を組むイラ……ルカはここでキレた。

 

「っはーっ!! 化けの皮っていざ中身知ってる状態で被られるとムカつくぅーっ!!!」

「落ち着いてください『執行官』殿……」

「イラ。ご友人のお怒りに言葉を差し挟むと長くなるのです。黙って瞳を閉じた方がいいですよ」

「理解されてるのも腹立つゥー!!!」

 

 ともかく、業務に戻る……一般の職員や街の人はなにがあったかすら微塵も知らないが、ともかく戻ることにこの後なる2人に、臨時職員として矯正局に助っ人扱いで派遣されることになるシズクとカナデがつけられることとなり、無事奥の手を使わずになんとかできたルカは、次に治安維持の側面の確認をすることにした。

 

 トリニティはシズクがすでに看取り手のオフィスにいることから察されるとおり、正義実現委員会だけで回るのでシズクは定期的に出向してはツルギたちと模擬戦をするくらいの仕事量だったのだが、ゲヘナはそうは行くまい。それからさらにカナデを取りあげようというのだから、もうもうもうである。

 

「こちら白崎です、申し訳ありませんが行政官か委員長にお繋ぎいただきたいのですが」

『少々お待ちを……あ、天雨行政官、委員長! お電話です!』

 

 風紀委員会に電話をやると、1年生だろうか、元気よく繋ぎ変える声が聞こえ、その数瞬後。

 

『お電話変わります。ゲヘナ風紀委員会、行政官天雨です』

「あぁ、天雨行政官。こちら防衛室直下『看取り手』白崎です。そちらの治安状況の確認を致したく……」

『前委員長のおかげで暴徒発生後20分以内に現着、対応が行えたりなど、様々ありましたから、案件の発生率自体がゲヘナには珍しく減少傾向にあります。……何か問題がありましたか?』

 

 ここまで色々カナデのお世話になってきた、という天雨アコ行政官にこんなことを言うのもな、という気持ちになりつつ、ルカはこう言わざるを得なかった。

 

「その……ちょっとした事案で今日から調印式までの間、紋独がそちらを抜けざるをえなくなりまして」

『えっ』

「……心中、お察しします。以前そちらに向かわせた技術士をこちらがある程度片付き次第送ります……ウチの所属なので、戦闘能力もそこそこはありますから……」

『あぁ、あの万魔殿を黙らせた……なるほど。分かりました……何日、耐えれば?』

「3日くらいあれば……どうにか持たせてください」

『分かりました。委員長には私から伝えておきますか?』

「すいませんが、お願いします……」

 

 アコと行ったゲヘナの治安確認。その電話が終わったルカの、瞳だけを見据えていたミルは、一言。

 

「ご友人。私が言えた口では無いですが……休まれた方がいい。……全部、スピーカーモードにしていましたよ」

「ッはァ……もう、いいです……貴様らもどの道共連れですからね。えぇ。私がある程度事を進めた時にはこっちに引きずりこんでやりますから、そのつもりで。暴れさせてやりますよ」

「……本当に、申し訳なかったで──」

「謝ったら絶対許しません、殺します」

 

 本気の殺気がルカから解き放たれていた。疲れから来る、ガチの殺意だった。

 

 

 

 しばらく経った後。

 

 カノハの作業場で、カノハとルカは話し合っていた。

 

「で、結局何したんですかあなた。万魔殿から風紀委員会への干渉がぱったりなくなったレベルで減ってるとか、天雨行政官曰く『黙らせた』って聞きましたが?」

 

 その言葉を聞いてカノハは普段のニヤニヤとした笑みを極悪人の相貌に歪めた。とてもじゃないが『法治主義』サイドの人間とは思いたくなかった。

 

「あぁ、なに。お話しただけだよ……何も不思議なことはしていないとも。私の監視網はここにも張り巡らされていることと、難しい話し合いだからと席を外させた小さな子……イブキちゃんだっけ? あの子をピンポイントで追いかけて監視するカメラの映像を見せつけただけだ。このカメラが何か、コレが自由に移動出来るなら。どういうことが出来るかも無論分かっているだろ? とね」

 

 ルカは無言になった。世間一般に、それは人質を取った脅迫というのであるからして。しかもイブキといえば、まだクレヨンで絵を描くなど、愛らしい子供の面が酷く強い、万魔殿で可愛がられている生徒ではなかったか。

 

「つまりあなたは、11歳のロリを人質にとってマコトをゆすった、と……?」

「いやぁ? ハッタリだらけだからね。人質に取ったように錯覚させた、が正解だよ。ふふふ……ひとつカメラを遠隔起動の爆薬で爆破したので、それがイブキの傍にもあると想定すると何も出来なかったのだろう。心中察するよ」

 

 この外道が……とルカは内心で思いつつ、コイツに免罪符を与えたのは他でもない己とカヤなのだとわかっているが故に呆れて肩を落とした。どの道脅迫はしているからアウト、という真実にルカが気付くのはいつになるだろうか。

 

 ともかく、ルカはせめてもの抵抗に、一言。

 

「倫理観はどこに行ったのですか……」

「んん? そこの工具箱の二重蓋の下じゃないか?」

 

 綺麗にかわされた。




見なかったことにしたツケは、酷く巨大で。それでも寄り添う者がいるから、ルカは割り切って全てを託した。

聖園ミカのメンタル問題……まあ多分、先生ならなんとかなるでしょ!!

なるにはなるのだろうが、我が子は極めて図太いのだなと。改めてパンドラの匣の中に潜むソレは思った。
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