キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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マコトとの会話の詳細ログを保存したデータがあった。私もあんまりあの日何を言ったか覚えてなくてあんな風に話したけれど…まあ、実際はより酷かったというわけだ。……のちのち、責任は取りに行くつもりでいるから頼むよ。

相羽カノハより、隊長白崎ルカへ



『脅迫』

「やあ、御機嫌よう」

「いきなりとんだご挨拶もあったものだな……貴様は何者だ」

 

 飛行船からその身を踊らせ、ヒーロー着地のように地に膝を突いて降り立った女はその長身をゆらりと起き上がらせる。

 

「これは失礼……私は相羽カノハというものだ。カナデが世話になっている」

「……紋独先輩の縁者か?」

「まあ、古い友人さ。気にしないでくれ。……で、話があるんだよぉ……羽沼マコト議長?」

「私に貴様と話すことはない」

「くくっ……より良い武器が欲しいとは思わないか、なんてねぇ?」

 

 マコトはその言葉を聞き、眉を顰める。見たことの無い女、見たことの無い飛行船、自分に持ち掛けられた取引。それは不審すぎた。

 

「何を企んでいる、相羽カノハ……?」

「まあ、単刀直入に言うけどぉ……キミ、とんでもない『オイタ』してるよねぇ?」

「ッッ!!?」

 

 いつの間にか耳元まで近づいていたカノハによって囁かれた、マコトの計画の露見の事実。

 

「アリウスと手を組んでぇ……トリニティを潰そうってぇ? それはよくないんじゃないかなぁ……ねぇ?」

「……分かった、分かったぞ。お前、全てを知った上でここに……!」

「その通りさぁ……ハナからキミは選ぶ側じゃない。私が選ばせてやってるんだよ」

 

 マコトは歯を食い縛った。自身にとって最悪の未来を予見したから。

 

 

 

 

 重苦しい空気だった。2人にしろ、とイロハに言いつけて人払いをさせ、イブキをサツキらに任せて入った執務室の応対スペース。女……カノハは人当たりの良いはずの顔を極悪人のそれに歪ませそこに座っていた。

 

「……何を目的に、ここまで来た」

「決まってるじゃないかぁ……余計なことされたら困るから、さ」

 

 カノハは口角を吊り上げる。

 

「キミの企んだ全てのこと……見なかったことにしてあげてもいいよぉ? でもさぁ……その代わりエデン条約には一切キミは妨害をしない。そして、今からエデン条約が結ばれて3ヶ月経つくらいまではキミは風紀委員会にも手出しをしない……どーう?」

「なぜ風紀委員会を……?」

「あの子たちが頑張れば、割とエデン条約の最初期の混乱は抑えられると思うんだよねぇ」

「……分かった。だが、この条件を私が確かに果たしたところで貴様に私の弱みを握られ続けるのは変わらん……ここで確約して見せろ。この件は闇に葬るとな」

「くく……いいよぉ」

 

 そうして、マコトもまた口角を上げて、付け足す。

 

「どうせ、録音しているのだろう? これもまた、葬っておけよ」

「へーぇ……いいよ。まあまあ賢いじゃないかぁ……さすがに議長って名乗ってるだけはある……分かった。看取り手全体にこれは共有されるけどぉ……誰にも口出しはさせないって誓ってあげるよ」

「キキッ……それでいい。ひとつ、確認させて欲しいことがある」

 

 マコトは、ひとつ、そのままに質問をした。

 

「もし、私がそれを破ればどうなる」

 

 カノハはつけていたメガネを外し、胸ポケットに差していたメガネをかけ、脇に抱えたノートパソコンを開き、マコトの方へ向けて置いた。

 

 その画面の中に映されたのは。

 

『よーし! しゅっぱつだーっ!』

『あまりはしゃぐと怪我をするわよ、イブキ』

『だいじょーぶ!!』

「イブキ……?」

 

 イブキをカメラの主眼に捉えた、映像。

 

 そして、思わず顔をはね上げカノハを見やると、カノハはその手にボタンを持っていた。

 

「……待て、なんだそのボタンは!?」

「わかるよね、羽沼さぁん……裏切り者には誅罰を、なれども……まさか、自分だけで済むなんてぇ……あまぁい、あまぁい話がないことは」

「まさか、イブキを巻き込むつもりか……!?」

 

 カノハはにこやかに、狂ったような笑みを浮かべた。それは、肯定の笑み。

 

「あぁ! そうだとも! キミはキミ自身もひとつのコマに出来ちゃう! だから自分の犠牲を許容できちゃうかもしれない……だから、取り返しのつかないヒトの人生も一緒くたに壊れる状態にしないとね!!」

「イカれている……正気か? 私が手を出さずとも、この条約は自然に消滅するような、微かな灯……それを成立させることになんの意味があるというのだ」

「あはは……面白いことを言うじゃないか。それは、キミがこの条件を提示される前の前提に過ぎない……キミの妨害がなければ、風紀委員会はその全てを内政の方面で発揮する。黙って見てろ、私が要求するのはそれだけだ。キミは大した役者さ。だが、より相応しい役者がそろそろ登る頃なんだ」

 

 自分の破滅で済むならば、それは自分の失敗ゆえに、マコトは己を生贄に捧ぐ。だが、しかし。その生贄の共連れが、イブキの未来だというのなら。マコトは、止まらざるを得なかった。

 

「じゃ、その内容でおーけいだね? ここに印を押しておいてねぇ……」

「良いだろう……覚えておけよ、貴様。この日のことは忘れんぞ」

「大いに結構。静かに楽園が築かれた後、またゆっくり話そうじゃないかぁ……ねぇ? その時は、『はじめまして』ってことで」

 

 その言葉と契約書を残して、カノハは立ち上がる。

 

「数日はゲヘナに滞在する……宿まで出せとは言わないよ、こっちで見つけてる。それじゃあ、また会おうね。羽沼マコト議長?」

「二度とごめん被りたいところだ……!」

 

 2人の梟雄はかくして別れ、記録はここで終わった。

 

 

 

「んもーっ!! なんで敵作ってるんですか!!?」

「ノリだよ、ノリ! あんまり意味はなかったんだ」

「……あなたもたいがい私のこと言えませんよね」

「私ほどノリで生きてる生物を私は知らないよ」

 

 ルカの怒りの声が響き、飄々とそれを透かすカノハ。

 

 ルカは改めて頭を抱えた。『夢を叶える』際に、確実にゲヘナ内部での仲間割れは起きない……その事実が酷く重くのしかかってきたような気がした。

 

「まあ……とりあえず、これで黙っててくれるならいいですかね……」

「あっははは! あー、はっはっはっはっ!! はーっ、はーっ……ふひひひっ!! 面白いなぁ!!」

「いつか本気でブン殴りますからね……とりあえず、落とし前です。ゲヘナに治安維持に行ってもらいますからね……」

「そのくらいはするとも…ははははっ!!」

 

 ルカの心からの諦めの声に、カノハは狂ったように爆ぜる笑いを披露していた。

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