キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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息抜きの重要性を100文字以内で述べよ。配点:採点者からのよしよし

「疲れ、た……」

「お疲れ様です……あなたも、私もですけれど……本当に、極めて」

「カヤちゃんは代行に就任。私はその裏で大暗躍……あぁもうやると決めたことに文句は言わないようにしているのに最近はどうも愚痴が漏れる!」

 

 私とカヤちゃんはここ一週間というもの、天地がひっくり返るような仕事量に忙殺されていました。

 

 なにせ、突然頭がすげ変わったのですから。想定される治安の悪化は連邦生徒会長失踪の時よりは著しく小さかったが、それはあくまで連邦生徒会長の失踪が事案として大きすぎたのが諸要因。これ以上の治安の悪化は見逃しがたく。

 

 かといって、私が動く訳には行かない……私には私で、やらなくてはならないことがあったのだ。

 

「ルカ……聞くのは心苦しいのですが、『アレ』の完成進捗はどうなりましたか?」

「あぁうん……75%、ってところかなあ……動かそうと思えばイケるってカノハは言ってた。あと、残り10パーセントくらいで止めるのは事前の計画通り。それ以上やると『全知』が勘づく」

「つまり、あとは細部と……後付けパーツですね」

「そうなるねぇ……予算を惜しみなくぶっこんで、人員は気にしなくてもいい、カノハも本気……建造もそりゃ早いよ。現代の一夜城は空を飛ぶのがブームなの?」

「さすがに、それは……治安についてはどうなって?」

 

『アレ』と呼称されているモノについては、現在カノハが建造を行っている最中だ。

 

 足りない人手を作業用ドローンや、カヤちゃんの連邦生徒会長代行就任を利用して、キヴォトスを我らが手中になどとほざきながら暗躍しようとした身の程知らずのバカ共(カイザーコーポレーショングループ)から徴発した人員で補えることを聞き、工期一月を目安にすると言って笑ったカノハは今もなお建造作業の責任者として建造を続けているようです。

 

 とにかく、『アレ』が完成するまでは、私もその近辺の警戒を特級レベルまで引き上げる必要がある……だから、シズクとカナデ、それに元アリウス……現『祈り手』部隊に、信頼を置きたくもないが使える駒としてのカテゴリに矯正局局長鴇巣ミル、そしてカヤちゃんの私兵であるところの『FOX小隊』を加えた、キヴォトス有数の実力者たちを各地に回らせています。

 

 けれど、最も大きかったのは。

 

「治安悪化に関してはカイザーに公的、裏面両方から打撃を与えたあたりから尾刃公安局長……カンナちゃんがめちゃくちゃ頑張ってくれてる。やっぱり揺さぶられてたみたいだねぇ」

「やはりですか……私が聞いたのでは尾刃さんに圧をかけてしまいます。前任の公安局長がカイザーと癒着しているのは知っていましたが、尾刃さんは付き合い方というものに苦慮していたようですね」

「クリーンな組織を目指していたみたいだからねぇ。……やれやれ、私たち、逮捕されちゃうね? カヤちゃん」

「まあ、部下に手を噛まれるならそれはそれでしょう。……しかし、噛みちぎられるような柔らかい肉ではないつもりですが」

 

 尾刃カンナ……前任公安局長のカイザーコーポレーションとの癒着の関係の事実などをカイザー本人から脅しの材料に使われ、難しい立ち回りを余儀なくさせられていたようですけれど、懸念を取り払ってさえやれば世界を駆け喰らう『狂犬』に戻る。

 

 現在は本人も現場に出ての巡回や、新配備となった武装を利用したほぼ単騎によるテロリストの制圧など、武勇に物を言わせた成果を大量に出しており、事務処理をこちらで請け負った成果が大いに出る形となっています。

 

 やはり、『公安局の狂犬』の二つ名は伊達では無いようです。表立っては彼女を論功行賞として褒め讃え、裏の実績を公安局に押し付けることも不可能ではないでしょうからね……。

 

「まあ、とにかく……一区切り、ですかねぇ」

「カヤちゃんほんと大変そうだったよね……」

「えぇまあ、今までで一番死ぬかと思いました……連邦生徒会長失踪にあたっての諸々の方が楽だと思ったのはさすがに異常です! しかもこっちは金も人も適切に動かすだけじゃ足りない、完全に動かし切らなければ! クイーンを端から端まで動かすような豪快な動きを要求してくる割には適切なタイミングでキャスリングするみたいな頭脳的プレイングも要求してきますし……もうほんとキッツいですよ、これ……ワンマン執政なんてシステムがそもそも大大大失敗ではないですか!!」

 

 カヤちゃんは連邦生徒会長代行の一時就任にあたって、クロノススクールを始めとしたメディアへの対応や情報工作、各室長への通達などを行う業務の他、防衛室を回し続ける必要があった。ある意味、多忙度合いでは瞬間風速でリンを遥かに上回っていたのだ。

 

「ある意味、現場で動けばいいだけの私たちと違ってカヤちゃんは心臓部、打ち手……駒を大局的に見て、動かさなければならない立場だもんねぇ……ブレインって気軽に言うけど大変なんてもんじゃあすまなさそう」

「えぇまあ……しかし、それも一旦今日で終わりです。そう遠くないうちには先生に例の件の検討に行きますが、今日から何日か……建造が終わるまでは一旦休みですね」

「じゃ……そうだねぇ、適当にぶらつこっか?」

「分かりましたよ……そうですねぇ、パスタでも食べに行きましょうか」

 

 そんな会話を交わしながら、私たちは連れ立って連邦生徒会の本拠を後にして、街中に出て……先日美食研究会が訪れて爆破しなかったとあるパスタ屋を目指す。その途中で、どこかに電話をしていたカヤちゃんが、電話を切るなりこう言い出した。

 

「ねぇるーちゃん、思えばあなたと狐のみんなって会わせたことありましたっけ?」

「……思えば、ないかもしれない。カ……じゃない、ぬいちゃん」

 

 偽名の代わりに愛称で呼び合うのにいささかなれない私は一瞬カヤちゃん、と言いかけて、とっさにぬいちゃん呼びにすることに成功した。嬉しい。と思っていたら、カヤちゃんがむぅ、とふくれた。

 

「むう。それではいけませんね、るーちゃん」

「は、はぁ……? それはどうして?」

「同じ名字に、なるのでしょう?」

「っっっっっっ!!!」

 

 ダメージが、カウントストップ。ふいうち、急所、フルダメージ、安定値の最大上振れ。瀕死、というやつだろう。だが、死んでも蘇る。カヤちゃんのためなら!! あっやっばまた死ぬぅ! 

 

「みっ」

「……死んで、蘇って、死んだ……?」

「は、はぁっ……さ、3回死んだ……」

「えぇ……と。ま、まあとにかく、なにか考えておいてください……そのうちに」

「は、あ、うん!!」

 

 などということがありながら、店に着く。店の前には、1人の生徒が待っていた。

 

「紹介しますよ、るーちゃん。私とwin-winの関係でいろいろやってくれてる子達のリーダーのユキノちゃんです」

「紹介に与った、七度ユキノです。あなたの話は室長からよく聞いております……同じ防衛室直下の小隊の隊長同士、良い関係でやっていきたいと思っています。よろしくお願いします」

「これはご丁寧に……こちらも、そちらのお噂はかねがね聞いています。テロリスト等鎮圧に特化した技はなかなか私には真似出来ない部分も多く、参考にしています。是非今後ともよろしくお願いしますね」

「さて、親睦を深めるという部分もありますので、中に入りましょうか。今日は私持ちですのでユキノも遠慮せずに食べてください」

 

 そうカヤちゃんが微笑みかけると、ユキノさんはちょっと困ったような顔をして、冗談気味に笑って言った。

 

「参りましたね、上官の奢りともなると少し選ぶのが難しい」

「それは安いものを選ぶ的な意味合いですよね、ユキノ?」

「まさか。普段の苦労もあるんです、高い物食べたっていいでしょうよぬいちゃんっ!」

「あはは……おふたりは本当に仲が良いんですね?」

「「それはもちろん!」」

 

 ユキノさんの冗談に、カヤちゃんが乗っかり、私も乗っかって3人で笑う。散々話しながらも、メニューに目を通して、ユキノさんは結局一番人気のミートソースをチョイス。

 

 カヤちゃんは少し視線を迷わせてからボンゴレビアンコを選んで私の前にメニューが回ってくる。

 

「じゃ、私は……そうだねぇ、たらこスパにするよ」

「珍しいですね? るーちゃんと言えばペペロンチーノ狂いではないですか」

「失礼なぁ。私だってたまにはペペロンチーノを脱却する時はあるんだよ」

 

 そう、私は実は大の辛いもの好きで、普段だったら間違いなくペペロンチーノか唐辛子を用いた辛いやつならなんでもとか言っていたのだが……今日ばっかりは話が別だ。

 

 カヤちゃんの目線が2つの写真の合間で迷っていたので、メニューが来たタイミングで見ている写真の位置を当てはめて見たら、ボンゴレビアンコの隣にあるパスタがたらこスパだったのだ。

 

 これは間違いなく、たらこも美味しそうだけどボンゴレビアンコだな、という選択の仕方。まさか、私がカヤちゃんに妥協を許すわけがあるか? いや、ない。間違いなく、無い。

 

 カヤちゃんにはたらこも食べてもらいたい。だから、私が頼んであーんする、ついでに間接キス需要も満たせる。なんだか思考が暴走しているけれどまあいい。

 

「では、今しばしお待ちくださいー!」

 

 店員さんが注文を書き付けて去っていくのを見届けてから、なんでもないような歓談をする。部下がどうだという話になった時は、私もユキノさんも饒舌になった。ユキノさんが部下の語りをするため口を開く。

 

「部下……小隊員はみなとても優れている。副隊長は判断力に長け、狙撃手は技巧があり、観測手はオールラウンダーに動く能力も規範意識もどちらも兼ね備え、板挟みになることがない。そちらの小隊員にはなかなか勝てないだろうが……」

「えぇまあ……トリニティ正義実現委員会の今を創った女傑、ゲヘナ歴代史上最強の風紀委員長、ミレニアム屈指のエンジニアと並べると凄まじいのですが……如何せん、チームワークというものはまるでなく。私が出て、まとまるかどうかですよ。そこばかりは我々は我の塊ですので……」

「つまり、小隊としてのまとまりは薄いのですか?」

 

 私の返答を聞いたユキノちゃんが看取り手のまとまりに疑義を呈するのもわかるが、それとこれとは別なのですよ。

 

「いえ、そういうことでもないのです。ようは、上から出た指示には従う理由があるのでキッチリやる、というところです。オフでお互いにあんまり深々関わらないビジネス関係……とはまた少し異なりますけれど、そんな感じですね」

「なるほど……それは、なにか理由があって関わらないのですか?」

「カナデは余計な情を持たないためにプライベートに踏み込まない、とかそんな感じでしたねぇ。残りはカナデのスタンスに合わせてるだけです」

「なる、ほど……余計な情、か」

 

 ユキノさんが考え込むのを、私は制止する。

 

「いいんですよ、ユキノさん。この考えに至るのは、私たちが裏の中でもトップクラスに闇闇しいところで動いてるからです。無駄な情は闇の深層も深層だと邪魔、ってだけなんです。仲間意識としての最低限のところだけでいい、という話ですね。まとめて壊滅するよりは、誰かが何かを持ち帰った方が価値があるのが裏の最奥というものなので……」

「……そういったところでも、あなた方はやってこられたのですね」

「うーん、まあ多少は?」

「るーちゃんにはいっぱい頼んでますからね……」

 

 笑えない話だが、笑う他ない。まあ実際、裏工作とかそういう部分はだいたい私がやってきたのだが、やってきた私が言うんだから信じて欲しい。ここまで足突っ込まなきゃ多分こんな考え必要ないから、本当に!! 

 

「まあ、とにかく。まとまりがあって仲が良いのはいいことだと思います。そのために戦術が狂うならともかく、狂わないなら円滑なコミュニケーションに繋がりますしね。私たちとはまた違った、良いまとまり方をしている、ってだけだと思いますよ?」

「そうですか……いえ、ひとまずありがとうございます」

「正直聞きますけど、小隊のみんなのこと家族レベルでお好きですよね、ユキノさん」

 

 ユキノさんはその言葉に頷いた。

 

「そうですね……小隊は家族のように思える時も、確かにあります」

「それ、大事にした方がいいですよ……私はアイツらのこと大嫌いなので」

「じゃあなんで、小隊を……?」

「アイツらをまとめられるのが私しかいないからですよ。決まってんじゃないですか」

「っは、ははは……! むちゃくちゃですが、しかしそういうものですか?」

「えぇまあ、そういうもんですよ。我々は何もかもむちゃくちゃですので」

 

 ユキノさんは、しばらく楽しそうに笑った。そうしてから、にこやかな笑みのまま口を開く。

 

「あー……すみません、落ち着きました。やはり、考えが違うが気が合う相手というのは面白いですね」

「同感ですよ……楽しいです。話がとても」

「むー、置いてかないでくれます?」

「「すいません室長殿!」」

「ハモらないでくれますかぁー!? なんでそんな息ぴったりなんですかぁー!?」

 

 対面のユキノさんと顔を見合わせて、笑う。どうも、彼女とは良い付き合いができそうだった。

 

 

 




・七度ユキノ

SRT消滅後、カヤに拾われる。主に裏工作等はルカが担当していたため、主に防衛室からの出向として公安局などで治安維持に尽力し、民衆の英雄としての表向きの姿を消しながら、小隊行動をしていた。

カヤにこれでもかってくらい支援をしてもらったにもかかわらず、恩を返せず切歯する部分があり、カヤへの忠誠心を小隊全体がある程度持っている中でもトップクラスの忠誠度を誇る。具体的に言うとルカよりちょっと低いくらいの忠誠度。カヤには親しく接されており、上官に加え恩人だからと硬く構えていた心の城壁はとうに崩されてしまっている。

メンタリティが万全で、迷いなく行動指針を決定できる状態になっている。

ニコ、オトギ、クルミの3人はそれぞれオフに予定があったため来れなかったが、たまたまユキノは暇だったためカヤの呼び出しに応じた結果、貴重な友人を得ることになる。
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