キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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治安維持組織について不必要なものをひとつ述べよ/チェック・メイトは合法的に

 暗がりから光源に照らされる何かを見上げながら我らがマイスター、カノハは口を開いた。

 

「いよいよ、完成が近づいてきたよ」

「残り、11パーセント……ここで、止めると」

「そうだ。これ以上はミレニアムに勘づかれる……ここは都合がいいが、しかしやりすぎるわけにも行かない。……全く、下手を打てないな。調月は酷くお忙しそうだったが……それもいつまで持つやら、こちらから色々な案件をこっそりと回してやったのでセミナー諸氏は忙殺されそうな訳だが1人放っておけない奴がいるよねぇ」

 

 カノハと私は、鎮座する巨大な規模を持つ建造中のソレの前に立ち、ソレの完成度とこれからについてを論じていた。

 

「明星ヒマリ……本当に、面倒な女です。彼女の尖兵たる和泉元エイミは今デカグラマトンの残存反応調査だとかなんとかで様々な場所に赴いているそうですが」

「本人は相変わらず安楽椅子探偵の真似事……いや、下手な安楽椅子探偵より精度が高い分、なお面倒なのだがね」

「この子がバレると面倒なんですよねぇ、だから上手いことやりましょうねカノハ」

 

 作業の手が止まったそれは、機械なのにも関わらず与えられている巨大な羽根を幾枚にも、己を包み隠すように閉じてそこに存在していた。

 

「……名前、どうするんですか? コイツ」

「君がつけろ」

「は?」

 

 カノハらしくもない、と驚きの声が漏れる。自分の作品には自分で作品名をつける主義のカノハが、ここまで譲歩してくるには理由があろうと思ったからだ。

 

「いやな。これは、ルカ。お前がいなければ成立しない作品……お前が核を務めて初めて起動するようにしたろう? 。なら、作品の中核と方向性を担うのは紛うことなくルカ、君なんだ。……何か、考えといてくれよ?」

「恥ずかしいことにネーミングセンスは自信がないのですが……まあ、何も思いつかなければこの子の名前は……」

 

 納得してから1秒で反射的に口に出したその名前は、カノハの猛反対により却下されたのだった。

 

 いいじゃないですか、『カヤちゃん絶対正義☆ウィング』でも!! ……さすがに、ですね……。強弁するのもやめた方がよさげです。アバンギャルドくんよりもなお酷い名前になってる気がしますので……。

 

 

 

 場所は変わる、視点も変わる。同日、先生はミレニアムの一角で誰かを待っているようだった。

 

「おや、お早いですね」

 

すいー、と電動車椅子に乗ったヒマリは、こちらにそう告げてくる。しかし、彼女の呼び出しが珍しく2文に別れるように送信されていたりと、焦りがやけに伺えて、先生は急いで飛び出してきたのだから、返しは……

 

「ヒマリに呼ばれたらね。しかも随分と慌てているような文脈で」

 

こうなる他ない。

 

「この超絶天才スーパー美少女ハッカーでも慌てるくらいはします。さて颯爽と本題に……えぇ、気のせいなら良いのですが、エリドゥ内部で使われているエネルギー量が普段より3パーセントほど増加しています」

 

ヒマリは至極あっさりと本題に入りこむが、失態は失態として認識しているのか耳が赤かった。しかしまあ、と先生は本題に意識を変える。エネルギー使用の増加、それも……

 

「3パーセントね……」

 

 3パーセント、エリドゥはその維持のために膨大なエネルギーを用いる。誤差の範囲とするには少しばかり大きいその3パーセントという数字は、しかし先生には問題ないように思えた。何故ならば。

 

「それについては確か、連邦生徒会の方で使用要請が来ていたよ。リオに聞けばより詳細な文書が出るだろうけれど、電力管理等の側面からエリドゥの一部に発電施設等の敷設を行うそうでね。そのための敷設工事をする、と」

「へぇ……エリドゥを大規模な発電施設も兼ねる場所にするつもりなのでしょうか? しかし……それをやる意味が見出しにくいですね」

「そのくらいには余裕が無い、って資源エネルギー室の室長さんは苦い顔してたよ」

「なるほど……」

 

 先日資源エネルギー室の室長が持ち込んだその案件が、先生の思考を鈍らせる。そして、先生の口からその言葉が飛び出ることによって、ヒマリの思考をも鈍らせた。

 

 2人は得てして、同じように考えていた……すなわち、『あの人がそう言うなら、そうなんだろう』と。

 

 もちろん、これはカノハの計らいであった。しかし、この策の巧妙なところは、工事は実際に行われている、という点である。

 

「事実、工事中の進捗の写真も逐一送られてきている……外装が出来るのは早そう、と言っていたけどここまでとはね」

「あら。委託はどちらにされているのかと思いましたが、レッドウィンターの工務部の方々ですか。それは早いわけです。彼女たちは何故かプリンに異様な価値を見出していますし……」

 

 エリドゥ上層では、実際にレッドウィンター工務部を主体とした工事が行われている。

 

 そして、彼の怪物……仮名『カヤちゃん絶対正義☆ウィング』は、その直下……エリドゥ中央部の最下層にて、密やかに建設されていたのだ。

 

 恐るべきは、カノハの手腕。モチベーションさえあるならば、カノハは溢れ出るモチベーションひとつで難なく全ての障害を越えていく。看取り手にとって、カノハとはすなわちカヤという船長の目的地を聞き取って、最適な進路を導き出す航海士であり、舵を切って物事を回す操舵士である。

 

 カノハとは、ありとあらゆる状況に対応出来るアイテムをそのうちに秘め、どれもが必殺の威力を内包する十徳ナイフなのだ。

 

 彼女が選択した、遅効性の毒は、既に飲み下されてしまった後だということ。それを、誰も知ることは出来なかった。

 

 

 

 またも変わる、まだまだ変わる。日時は1日後のこと。

 

 銃撃音。咄嗟に回避する。左に射撃、後ろに銃撃、発砲の反動で前に勢いをつける、そのまま蹴り飛ばして首根っこを掴み取り、盾にする……

 

「だぁ! 当たらねぇ! どうなってやがんだ……!」

「数ばかり揃えても致し方のないことですよ」

「ちいっ……!」

「落伍しておいてこの私に勝ろうとは愚かしい思い上がりも甚だしいです」

「お、覚えていやがれよ……!」

 

 三下の吐く言葉もいい所だ、と私……池杖シズクは溜息をつく。そうして、水筒の中に入れた紅茶を飲み……

 

「あんまりおいしくないですね」

 

 悲しい感想を一言。どうも自分で作るとこうなので困っているんですが、一向にどうにもなりませんので諦めています。飲めればなんでも良いのです、えぇ。

 

 カノハやルカがやるべきことをやる中で、武力組……私と、カナデ、それに新たな後輩たちや狐たちには、キヴォトス全土にまた訪れた治安の悪化に対する即応という仕事が与えられました。

 

 

「にしても、些か多いですよね。困っちゃいます」

 

 天を見上げる。この状態で、なお私やカナデには『決戦の支度をしろ』などと宣うあのワーカホリックと、かつてシスターフッドで祈りを捧げていたエルさんは正直あまり重ならない部分が多いです。

 

 実際、別の人格なのだから重ならなくても文句は言うな、というところなのですが、あの方の記憶をお持ちならあの方らしく振る舞われても良いと思いませんか? 

 

「しっかし、決戦ですか……わざわざ準備するほどの。どれほどの規模を想定して……いや、下手したら三大校全部敵に回すとか言い出しかねませんし、しっかりやりましょう」

 

 もちろんシズクや、今動いているカナデは知らない。この後、三大校と言わず、百の四分の一にも届かぬ頭数で世界に対して喧嘩を売ることになることを。

 

 

 

 最後の視点へ、移りて移る。時も流れて、3日後のこと。

 

 

 

 そこは、連邦生徒会長室。

 

 相対しているのは、私と、先生のふたりだけ。

 

「なんの用かな、カヤ?」

「先生。この度は御足労いただき、ありがとうございます。単刀直入に申し上げますが」

 

 私は、ここで布告する。先生が認められないであろう選択を示して、宣戦を。

 

「シャーレという組織全体の権限と代表たる先生の行動が、連邦生徒会の運営の大きな妨げとなっています。ついては、会長代理としてこれを連邦生徒会議会下部に置き、独立組織としての権限を剥奪したいと考えています」

 

 私から見るシャーレとは即ち、連邦生徒会の意向を断ることが出来る治安維持組織である。

 

 シャーレが時にテロリストとも言われる美食研究会などの生徒らの支援を行っていることや、七囚人などと呼ばれ出した矯正局から脱獄した囚人の一人、狐坂ワカモをシャーレ所属生徒として登録していることなど、状況的に明らかに不穏当なことだ。

 

 であるならば、これらを軸に解体を訴えることは容易であり。

 

「……これは、先日の議会で決定した、シャーレの設立の取消になります」

「……は?」

 

 これは先生へのチェックメイト。同時に、世界への宣戦布告となります。全て法の正義に従って動き、叩きつけて、詰ませて……あとは世界の流れに抗するだけの戦力で、戦うだけ。

 

 シャーレの特権を失わせたい、治安維持組織は限定したい……そういう状態なのだから、後々先生には復帰してもらいたい。しかしながら、生徒とは今に近い形で、ですが自発的戦闘などが出来ないような別の形で携わってもらえばいい……なにも、なんでも出来る権限まで持たせる必要は無いと思いませんか? 

 

「連邦生徒議会におきまして、連邦生徒会長の決定した事柄に関しては、全会の三分の二以上の決議で撤回できます。私は、前回の……つまり、私が初めて会長代理として出席した会議で、既にこの件を決議しています。すなわち、先生……」

 

 先生が固まるのをいいことに、私は立ち上がる。

 

「貴方は今、この瞬間、先生ではなくなる。……シャーレの『元』オフィスは書類の類を整理回収後、解体されるでしょうから、引き継ぎの協力をお願いします」

「待て、待ってくれカヤ……!?」

「私は今、大変忙しいんです。……それにこれは、相談ではありません。通告なのです。それでは、よろしくお願いいたします」

 

 同日午後、シャーレ解体がキヴォトス全土に向け布告され、同時に治安維持組織としてSRT特殊学園が復活することも布告された。

 

 その日の夕方、定例会見として記者たちの前に立つ私の横に、狐耳の、少女がひとり。

 

「それでは、定例会見を始めます。と、言っても、ご質問はひとつだと思います。シャーレ解体について。こちらは、シャーレの現状を鑑みた上で、治安維持組織としての側面より、その特異な特権を持つ側面が悪く働いている、と連邦生徒会全体が判断したため、この度異例の連邦生徒会長令の取消へと至りました」

「では、では……シャーレの無くなった今、先生はどうなるのですか!?」

「自動的に解職となります。また、一般の方の中生活させるのはキヴォトスにおける先生の人気などを勘案して、不適当と考えられますから、連邦生徒会ビル等に生活活動拠点を用意し、また別所の活動にご協力をいただきたいと思います」

 

 遠回しに先生を幽閉したと言いつつも、私は次の言葉を口に出す。

 

「そして、もうひとつ。SRT特殊学園を復活させます。元SRT特殊学園の生徒たちは、野に放って良いものではありませんでした。その武力が危険を齎す可能性があるなど、リスクは多く、メリットはないも同然。SRTの解体は極めて不適切と言わざるを得ませんでした」

 

 そう、不適切だと私は思った。SRTの解体は少なくとも今やっていいものではなかった、と私は常に思っていました。だから、蘇らせる。SRTは今ここに、新たな力を手にして蘇るのです、素敵でしょう? 

 

「ご紹介いたします。今は脱獄を許してしまいましたが狐坂ワカモの確保など功績は数多。この度復活を私が決めた決め手となった、英雄。SRT特殊学園FOX小隊隊長、七度ユキノです」

 

 狐耳の彼女……ユキノは、前に出て、譲られたマイクを手に取ると、感情を覗かせながらも冷徹に話し始めてくれています。

 

「ご紹介に預かりました、FOX小隊長、七度です。我々が解体されて以降、数多の事柄が起き、それに歯噛みしながら見逃す日々を我ら元SRT生は過ごしておりました。ヴァルキューレに転入した者も、組織体質により即時即応性が失われたため苦戦する日々。かくして、キヴォトスの治安は十全に守られるとは言い難い状態となりました」

 

 彼女の演説とも呼べる挨拶は、しかし誰にも遮られることは無いようですね。当然です。シャーレの代替に、かのSRTを復活させて充てるインパクトは高そうですし。

 

「そして、シャーレが我らの役目を引き継ぎ……なれど、十全に果たすとは言い難く。我らは失望の目を向けておりました。シャーレはそう、自由すぎたのです。我らの復活は、すなわち規律に従い法を絶対とする治安維持組織の再興にほかなりません。自由は法の下に成され、正義は法と共にある。再び我らが立つことでこのキヴォトスに少しでも平和が広まることを確信しております。SRT全生徒を代表し、挨拶を結ばせていただきます」

 

 拍手が疎らに鳴るのも気にせず、ユキノは上着をその場で脱ぎ、SRTの制服と、SRTの紋章を見せつけて、私の隣でSRT制服のまま直立姿勢に戻ってくれました。完璧なパフォーマンスでしたね、ユキノ。

 

「SRTは、連邦生徒会長代理が指揮権と責任を有します……発表は以上になります」

 

 質問を求めるメディアたちの手が、ずらりと上がって並び出す。それに私は仮初の笑みを作って、ひとつずつ答えてやると気合いを入れ直して、まず最初はあなたから、と指名して。

 

 会見が終わったのは、普段よりも2時間も遅れていました。ですけれど、私の胸の中は晴れ晴れしく。予想通りに届いた幾通もの手紙に、立ち向かう覚悟を決めるのでした。

 

『ミレニアムサイエンススクール』『ゲヘナ学園』『トリニティ総合学園』『百鬼夜行連合学院』……他、数多並ぶ個人、学園問わずのシャーレ解体への抗議や、あるいは撤回しろという意訳となる言葉の羅列へと、立ち向かう覚悟を。

 

 

 

 

 

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