キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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動向/導抗

「先生」

「ルカ……」

「ご消沈のようではありませんか」

 

 先生……いや、もう1週間後には元先生となる男はこちらに目を向けてから、笑顔を作った。

 

「いや、そんなことはない。つくづく思っていたんだ……私には、大きすぎる責任だったって」

「ひとつ、お伝えしておきましょうか。意気消沈の最中で申し訳ありませんが……あなたと、あなたの座すシャーレの復活を目指す集団が現れました。……我々は、これを排除。首謀者を処刑する予定です」

 

 先生の目が変わった。諦観から、まだやることが残っているとばかりの焦燥へ。

 

「…………誰が、それを?」

「聖園ミカを武力統率の旗頭に据え、ブレインは正体不明ながら極めて効率的に兵を組織しています。噂によれば、七囚人の一部や、ゲヘナの問題児等も身を投じ、戦力は極めて膨大なものになっているそうです」

「止めなければ……君たちが勝つにしろ、ミカ達が勝つにしろ……そこには私が望まない犠牲が……!」

 

 立ち上がろうとする先生の額を、指で抑える。立てなくなった先生は、何故とばかりこちらを見やるが、それにため息ひとつ。

 

「馬鹿ですねぇ。あなたはここにいる他ないのです。……戦争の内容が、貴方の身柄をかけたものである、ということはです」

 

 私は懇々切々と、聞き分けのない子供に言って聞かせるかのように語る。

 

「トリニティが満願成就してあなたの身柄を私たちから回収すれば、次に起きるのは協力したゲヘナ学園やその他の生徒からの反発……つまりは、トリニティVS先生を獲得したいその他の学園の内乱に発展します」

「そんな馬鹿な……」

「愛されてますねぇ。……この戦い……というより、これ以後ですか。これ以後、私がやるべきことは」

 

 私は、反吐が出そうになるその言葉を頑張って口に出した。

 

「例え幾度命を落とそうと、貴方になにもさせずに貴方を守ることなんです」

 

 実際のところを言うと、状況はそんなに悪くはない。トリニティで蜂起した武装勢力『UISS』……United in SCHALE Students(シャーレ生徒連合)は、トリニティ、ゲヘナの先生派とでも言うべき部分の生徒たちと、七囚人の一部……どこで知り合ったのか、ワカモだけでなく、『慈愛の怪盗』も身を投じているらしい。

 

 しかしながら、この勢力に身を投じないことを選択したシスターフッドやそもそも未だに無言を貫いているゲヘナ風紀委員会、正義実現委員会ら秩序側の影響もあり、現在より多くの戦力を招聘すべく、手を回しているとのこと。

 

 この場合に限っては、空崎ヒナ、剣先ツルギ両名が積極的に敵対していない状態である、という現実が極めて胸に染み入るものがある。

 

 いくらカナデやらシズクやらがいようと、私ひとりではヒナ相手に何時間かかるかしれたものではないし、ツルギ相手では千日手なのだから。

 

 ミレニアムからは抗議の手紙一通と、直接抗議に来たセミナー代表の早瀬ユウカをあしらった以上に何かが起きているわけでもなく。

 

 それが不穏に思えた私は、ミレニアムの周りを洗いに洗った。ミレニアムから出た一台の大型トラックが、UISSの本拠となっている拠点に出入りしているのを確認したことで、ミレニアムの一部過激派は支援を軸に活動していると判明した。

 

 レッドウィンター内部では、クーデターの機運が高まっているようだ。相変わらずだ、とも思うがやり手のブレインがレッドウィンターにはいる。彼女の手先口先ひとつだけで、矛先がこちらにも向きかねないことは認識しておく。

 

 新生SRT特殊学園では、Rabbits小隊が酷く今後について悩んでいる様子であった。

 

「不安ですか? 月雪小隊長」

「っはっ、す、すみませ……」

「その歳で板挟みの目に遭うとは不幸なこともあったものですね……ねぇ、シャーレにはお世話になったのですよね?」

「は、はい。私たちRabbits小隊は先生に返しきれない恩があります。しかし、それは任務の……」

「いいのですよ」

「え?」

 

 月雪ミヤコには、メンタルケアをした。彼女たちは恐らく離反しうる駒だ。だがしかし、離反するにしても本人たちの心がまとまっていて欲しいし、やるならさっさとしてほしい。だから、こちらの考えを先に伝えておくのだ。

 

「次に起きるであろう争いは、我々が先生を守り、キヴォトス内部で内乱が起きないようにするための防衛戦です。キヴォトスの平和を思うのであれば我らの元につきなさい。……強制はしません。新生SRTの発足は、明日です。最後に話し合って、結論を伝えてください」

 

 秩序か、先生か。板挟みにあうのは辛く苦しい。ならば、いっそどちらかに振り切って欲しい……致命的なタイミングで離反されるよりは、先に敵味方をハッキリさせておきたいのが、ルカの性であった。

 

「それでは、まるで」

「構わない、と言っています」

 

 翌日、月雪小隊長は、本戦闘に本小隊が関与することは悪影響を及ぼすとしてRabbits小隊全員を一時的に休養状態に置くと伝えに来た。

 

「なるほど……ただ、見るに徹すると?」

「……ハッキリ言えば、答えが出なかったんです。ですが、そのままで戦うのは……きっとバカのやることだと思いました」

「……わかりました。Rabbits、あなたがたの任を一時的に解き、休養に入ってもらいます……また会える日を待っています」

「はい……よろしく、お願いします」

 

 もう一方の治安維持の片翼、ヴァルキューレでは、生徒たちの辞任が相次いだ。ボイコットであるという。

 

「これでは動くに動けません……UISS関連だけでなく、市民のデモの抑圧にも出ている状態で、この人手不足です。悔しいですが、ヴァルキューレは戦力としてカウントできません。単体戦力としてなら、私が居ますが……まあ、大したものでは無いと思います」

「いえ、十二分です。はい。ほんとに。公安局の狂犬が居ればそれでいいです」

 

 十二分すぎるので、あまり何も言うことがなかったのがいい思い出だ。

 

 大まかにまとめると、連邦生徒会ではなく地方自治が浸透しすぎたが故に、連邦生徒会の抑える力がない現状、武力行使による現状変更が罷り通ると思われているようである。

 

 それに、裏に潜むとされる特殊部隊も数は少ないのだから、と。戦いは数である、という言葉を本気にして数を揃えているのだろうか? 分からないが、とにかく、今日もUISSは巨大化を続けていた。

 

 

 

「本当にこれでいいかな……?」

「今さらです。私は割り切りましたよ、聖園さん」

「ハナコちゃんはそういうところ、強いよね……」

 

 トリニティ、UISS本拠地、執務室。ミカとハナコ、それに幾人かの生徒が集められていた。

 

「さぁて!それでさ。今日集めたのは言うまでもないよね? ……どっちにつくのか、決めて欲しいんだよね☆中立なんて、日和ったこと言わないで、さ☆」

 

 集められた生徒たちは、中立を表明した分派や、組織のリーダーである。

 

「例えばぁ……シスターフッドはどうする気なのかとか聞きたいなぁ?」

「何度も申し上げていますが、聖園さん。私共シスターフッドは、武装する手を持ちません」

「知ってるよ? その慣例ができたのはあなたの代から。1個前の代、エルさんの代は戦闘組織だった……できないとは言わせない」

 

 サクラコは真っ直ぐに向けられた強い意志の目を真っ直ぐに見返して、それでも、と言葉を紡いだ。

 

「それでも、これは我々シスターの総意です。争いなき世に救いあれ、と」

「そっか……じゃ、正義実現委員会は?」

 

 座っていたツルギが躊躇いなく立ち上がる。

 

「くだらん。話にもならん……先生の奪還、シャーレの復活……そこに、正義はない。私は、お前たちを止める側だ」

 

 そう言い放って、ツルギはミカを視線で逆に貫いた。ハナコが代わりに次にとばかりナギサを見据える。

 

「……ふむ。フィリウス派は?」

「本当に、正気でやるつもりなのですね?」

「えぇ……先生を我らが手中に取り戻し、このキヴォトスの指揮を取っていただきます。今の連邦生徒会は、はっきり言って信頼できない。パテル派、ゲヘナの万魔殿、ミレニアムの3つの情報網から、次に施行される法律が銃と爆弾の規制であることが判明しています。今や我らにとって手放せぬものを、今更どうやって手放すというのですか? ……現実が、見えていません」

 

 ナギサはその言葉に、頷かざるを得なかった。カヤたちの語る未来は、理想的だが、理想以上のものではない。SRTは強い。だが、トリニティとゲヘナとミレニアムの三校体制に耐え切れるとは思えなかった。

 

「確かに、その通りです。しかし……」

「躊躇ってるの? ナギちゃん。らしくないよ?」

「……っ。しかし、しかし……!」

「引き金を引くのが怖い? そうだよね、これは戦争になっちゃう……だから、みんなの協力を得て。一日で決着をつければ……それは戦争じゃなくて、戦闘で終われるよね☆」

「違います、戦争は動かしたものの量と質でもって決まるのです……! キヴォトスで、連邦生徒会にクーデターなど……!」

 

 ナギサは、懊悩した。結局、見かねたハナコが話を次に持っていき、ナギサは会議の最後まで結論を出すことは無かった。続くサンクトゥス派はセイアが完全非干渉を宣言した。会議終了と共に、考え続けるナギサと共にツルギの近くに固まって帰っていく面々を見送った後、二人は語り合う。

 

「…………ま、いっか。ナギちゃんは多分こっちに来るね。とりあえずは……嫌いだけど……ゲヘナをはじめいろんな人が戦力として集まってる。ミレニアムからは一部の過激派が武器も資金も供与してくれてる……。ハナコちゃん、あとは何が足りないの?」

「一応、当初の想定通りならこれで押し切れます。あとは、号令ひとつですよ」

 

 ミカは、楽しそうに口角を上げた。

 

「迎えに行くね、王子様」

 

 

 

 一方、ミレニアムセミナー執務室。

 

「それで、計画は順調なんだろうな」

「勿論。舐め腐ったことをされたなら、それ以上で返してやるわ……」

「トリニティとゲヘナに攻めさせて、脇から先生をかっさらう……かっさらうまではやれるが、守るとなるとそんな上手くいくとも思えねぇが」

「そうね。だから、エリドゥを利用するの。エリドゥはハッキリ言えば先生抜きでは攻略できない類の施設なのだから」

 

 ミレニアムの最強……美甘ネルとユウカ、そしてセミナー会長たる調月リオが話していた。策は、資金供与等を指示してトリニティの過激派を動かし、その脇からC&Cを投入するというもの。

 

「つまりなんだ、先生を抑えたやつが勝てるなら出し抜いて要塞に放り込めば勝てるアタシたちが最も有利だってことか?」

「軍事力もこの手なら温存できるわ。任せるわよ、ネル」

「はっ……任せときな」

「この手は上手くいっても、いかなくてもいいわ……上手くいかなければ、それはそれで策があるの。任せたわ」

 

 ミレニアムの狙う漁夫の利は、成るのか、否か? 

 

 

 

 さらにそのまた一方で、ゲヘナ風紀委員は揺れていた。次から次へ、トリニティに向かう問題児たちに、先生の身柄の強奪を目指すよう指示するマコト。

 

 治安の維持、マコトへの対応、このキヴォトスを巻き込む大動乱の予感の前でそんなことをしているのが風紀委員である。

 

「しかし……どうしましょうか、委員長」

「どうするもこうも……とりあえず、出征はするしかない……でも、私たちが聖園ミカのクーデターに加担する訳にも行かないわ。考えられる手は全部考察しないといけない。アコもこれが終わったら方策決めに付き合って……」

「はい。おまかせください、委員長」

 

 ゲヘナ最強は、未だ向く向きすらも決めかねていた。

 

 

 

 UISSの正式な連邦生徒会への宣戦布告に至るまで、残りわずか。

 

 世界の流れを見切ったカノハは全員と情報を共有。看取り手に全てを指示した。

 

 カナデとシズクは迎撃へ。ルカは一定時間まではゲリラ戦を行い、その後にエリドゥへ向かうことになっていた。

 

「んー、たまんないな。恐らくこの武装蜂起と宣戦布告を契機にして、様々なところが便乗して蜂起するだろう……そこら辺は、SRTと祈り手に任せたけれど……いけるかな?」

 

 カノハは悠然とモニターたちを見渡す。同じようにモニターを見渡しているであろう対局者たちに届くことは無いと知っていても、届かねぇかなあ、などと思いながら笑いに笑い尽くしていた。

 




溢れ出る道の可能性がそこにある。
何を通してか、君たちは我々を観測している。

であるならば、君たちも知るように、道は幾度も分岐し、折れ曲がっていることが分かる。我々は、我々自身で観測と分岐を繰り返してきた。それらが分かっていれば。



君たちは、とうに、我々だ。



さて、まずは新しい我々を歓迎し、そして語ろう。

肝要なのは、『選択』に他ならない。
それも、俯瞰する者たちからの『選択』に他ならない。

大いなる者の意思により、ただ一人の意思が決定されることがあるのは、当然のことだ。

さあ。匣の中より、『選択』せよ。

『選択』せよ。秩序の担い手、悪魔たちを睥睨する『最強』の道筋を。

  • 誇り高き想いにより、ゲヘナに留まる
  • 恋慕せし『先生』を取り戻す
  • 先人と秩序を守るため、D.U.へ向かう
  • すべてを放棄する
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