『世界は安定度を失っている』
『世界は選択を求めている』
『貴君らは1度目の選択を誤らなかった』
『2度目の選択にも期待する』
For PANDORA BOX
UISS、進軍を開始。
その報はキヴォトスを駆け抜けた。連邦生徒会に向け、改めて先生の不当な身柄の拘束を解放するよう求めながら、平和的なデモ行進に銃やらの武装を添えて彼女らは行軍を開始する。
「始まったねぇ」
「始まりましたね。お互いに、もう無事ではすみません」
「悔やむなら今、かぁ」
「いいえ、今日を終わらせたあとに、です……前衛の班! 予想ポイントに到達の報告は!」
ハナコの元に周辺の探査結果が記されたレポートが回ってきて、ハナコは首を傾げようとして、そして、手を打った。
「ミカさん。ツルギさんとヒナさんが恐らく敵対します」
「……へぇ? それはどうして?」
「行軍ルートを、ゲヘナとトリニティどちらもそれなりを通るように設定していました……すなわち、風紀委員会は必ずここに現れるはずでしたし、トリニティを出る時点で正義実現委員会は確認してくるはずでした」
「なるほど、ね。来なかったんだ?」
ハナコは重々しく頷いた。
「えぇ。となると考えられるのは、このテレビの放送……連邦生徒会からの避難指示がD.U.に出ていることを考えると、連邦生徒会側と風紀委員、正義実現委員はそれぞれ手を組み、D.U.全体を最終防衛ラインとして我々と戦闘を行うつもりですね……面倒なことになりました」
「まあ、そうなるなら仕方ないのかな。蹴散らす、それだけだね☆」
「そういえば、結局ナギサ様は来られなかったのですね」
ミカはナギサの名前を聞いて、そうだよ! と頷いた。
「ひどいんだよナギちゃんったら! 『私たちはやはり、このような行動を容認できません』っていいきっちゃってさあ……」
「悩んだ末に出した結論、というよりは……ハナから決めていた感じですね、やはり」
ナギサは、話をもちかけられた時からずっと、『成功しなかった際のリスク』を考えていた。悩んでいたのは、ずっとそのことだったのだ。
失敗した際、向こうに執行官がいることを考えれば、2人の命だけではなくもっと多量の命が失われる。そうなった時、トリニティに確実に未来を残すためには、ナギサは残る他選択肢がないことは自明であった。だから、ナギサは来ることがなかった。手助けも、一切しなかった。聞かなかったことにしたのだ。それでも、ナギサはある一手だけは打っていたのだが、それを垣間見れるかは分からない。
それだけではない、さらなる不確定要素があることも彼女らを蝕む要素である。
「そして……蒼森ミネ……彼女は、何処に?」
「わかんない……最後まで分からずじまいだった。どこに行ったんだろうね? でも、どうせなら関わらないでほしいなあ……」
ミネの姿は、どこにも見えなかったのである。
「私は!! 悲しい!!!」
「私も悲しいですよ。あいっかわらず話通じないですねぇ」
二人の生徒が銃撃戦……いや、これはもはや近距離格闘戦だろう。格闘戦をしていた。
盾が振るわれ、それを回避し、ショートアッパーが襲い、パリングで止める。
片方は、大きな盾と、ショットガン……今はショットガンは盾の裏に収納しているから、拳とショットガン。もう片方は、シスター服を優雅にはためかせながら両腕を握って。
すなわち、姿が見えなかった蒼森ミネと、なぜか現界している望箱エルのマッチアップが密やかに、エリドゥの深部で行われていた。
「こんな場所よく感づきますよ」
「あなたがやることなすことはだいたいこういう所でやることでしょう!」
「バレてますか。まあでも先には進ませられませんねぇ……めいっぱい遊びましょうか、ミネ。久しぶりに」
「あなたの病は、この先にいる救護が必要なものへの道を阻む、その歪み! この私、蒼森ミネが今! 救護してさしあげます!!」
「いいでしょう! やれるものならやってみなさい!!」
しれっとそんなマッチが始まっていることをハナコとミカ、どころか他のその場にいた全ての生徒は知るはずもない。
順調すぎる、とミカはそう思っている。ハナコは、誘われている、と既に確信している。
故に、ミカは警戒し、ハナコは警戒を解いた。
「ミカさん。D.U.まで防衛はありません……肩の力を抜いて」
「そうなの? それはまた、どういう理由で……」
「小分けにしてぶつけるより、まとめてぶつけた方が効率がいい。それだけでしょうね。全く、こっちの一番嫌なことをちゃんと分かってます……っと。やっぱりそうでしたね」
通信が入る。それは味方側にない周波数、すなわち。
『聞こえてるか』
「ええ、聞こえてますよ」
『聖園ミカもそこにいるな?』
「さあ? どうでしょうね」
『まあ、いないなら伝えておけ……我らは、秩序を裏切らない』
ツルギの、質素な言葉で、通信は終わる。次の瞬間、凄まじいスピードで状況は変動した。
ミカが祈り、隕石が飛来し、飛来した隕石を『2方向から』発射された紫の弾丸が撃ち抜く。
「……紋独カナデまでいるのですか!」
「だけじゃないよ、ハナコちゃん! アレは……間違いない、シズク先輩」
「なるほど。……これは戦力差があちら最大不利から不利になる! ですがやることは変わりません……制圧開始!!」
ハナコたちは、攻撃戦に突入した。
「なかなかいい腕をしている」
心からの感嘆を君に贈る、ヒナ。本当に強くなったな。
昔の君に、それを贈ったあの頃の私よりも、私はずっと強くなった。でも、君はそれを超えていこうとしている……素晴らしい。
「先輩にはまだまだ及ばないわ」
そんなことはない。そんなことはないのだ。決戦の予定時刻、2時間前。君は悠然と、風紀委員全員を率いてやってきた。
『先輩がいるなんて、思ってもなかったけれど。私も、参陣させて欲しいわ。……私たち風紀委員は、秩序を裏切らない』
『紋独先輩のお役に立てるなら、なお嬉しいですね。委員長?』
『ええ。恩返しの時間よ、イオリ! チナツ! 布陣開始!!』
なんてかっこつけてくれちゃって。あの時は我々も非常に勇気付けられた……あぁそうさ、今回こそは厳しいかと思ってたんだが、後輩の前で負けられはしないよ。
『ヒナ。今の言い回しはなかなかよかった……我々の合言葉にでもするか』
なんて冗談めかして言ってやったら、顔を赤くしていた君は、私と同じくらいの火力を隕石に集めて見せた。
実際、今の我々の合言葉は『我らは秩序を裏切らない』になったので、相当みんな言い回しが好きなのだろう。
「ヒヒ……カナデさん。そろそろ、来ますよ」
「あ? ありがとう、ツルギ。最後通告は終わらせたようだな」
「もちろん……です」
「ヒナ」
「なにかしら、カナデ委員長?」
「おや、私に譲ってくれるのかい?」
予想外の呼び方に、口元が緩む。がちゃん、とグランディオーソを持ち上げて。
「者共! 聞け! 我らは今ここに秩序を成さんとして集い! 秩序を乱すものを討つ! 貴君らの左! トリニティの誇りたる池杖シズクが道を切り開こう! 貴君らの右! ゲヘナの誇りによって、この私……紋独カナデが一切を撃滅せん!」
すぅ、と息を吸い込む。
「中央にあるは、貴君らの誇り! 風紀委員会委員長、空崎ヒナ! 正義実現委員会委員長、剣先ツルギ! であれば! 我らに負ける道理無し!!」
高らかに叫ぶ。
「ゲヘナ、トリニティ、二校合わせてもいつも通りだ! 相手は規則違反者共、取り押さえなければいけない量も、1人頭ではそう変わらん! 気圧されることなく! 堂々と!! 高らかに撃ち鳴らせ!!」
そして、手元のトランシーバーを手に取り、一言。
「作戦、開始」
苛烈なD.U.攻防戦が始まるのをモニタから見ながら、私はエリドゥ最奥のソレの核として自らを嵌め、待機していた。
「全く。ここまでアホだらけだといっそ困るね。どう収拾をつけるつもりだい?」
そう問うカノハに対して、私はこう返す。
「大丈夫です。これが成功すれば、それで私たちの勝ちです」
カノハは、コレコレと言われるそれの内容を知らない。故にこそ、最後の組み立てが終わってから、それを問う。
「それで、どうするつもりなんだい? ルカ。それを使って、何をするつもりで……」
「はっ、収拾がつかない? 認識が違う? 下らない。問題はそこではない……我々は、『認識を固定させる術』を知っている」
カノハに対して、鼻で笑ってみせる……一切は、問題の外だと。問題は、どう成立させるかでしかないのだと、私は笑った。
「……テクストか! まさか、お前! この世界の常識をまるごと、テクストで改変するつもりなのか!!?」
「それだけじゃないですけどね……世界には、基幹となる……仮に、『コード』と呼ぶべきものがあるんです。シッテムの箱になくて、パンドラの匣にあるもの……それが、コードへの干渉権」
世界の流れ、基本、そういったものをゼロから定義する、コード。それへ起点から介入し、パンドラの匣を『律』として代入し、全世界の流れを『武装は危険な、不必要なもの』と改変する。
それをする為に、必要なのがこの……
「『Rise of The World』……カノハ。あなたはよくやってくれました。本当の目的を隠していたことについては、謝罪します。ですが……どうしても。やらなくてはならなかったんです」
「気に食わんが……分かっている。分かった。それが、成し遂げるまで……私も、時間を稼いでやる」
『Rise of The World』……命名、不知火カヤ。世界をあるべき美しく、平和な世界へと昇華させるという祈りを込めた名前を持つ、四肢のない天使像のような見た目の本体と、いくつもの周囲を浮遊するリングを同時に展開する巨大な飛行型構築物である。
『system boot』
『system boot』
『RISE PROGRAM』
『CONNECTION START』
異形の天使と、パンドラの匣が共鳴する。コネクションを確立し、完全に連結し……一対の機械翼の後ろに光の輪が広がり、輪から翼が二対、極めて生物的な白い翼が伸びる。
峻厳たるドミニオンを模した天使像の頭部から、ヘイローが出現し、連携は完了。
『もうここまで来たら収拾つかない! 本当は手っ取り早く話し合いしてる間にこっそりこれを動かすつもりだったんですが……アレ程の戦力! やってらんないです……コイツで全部変えてやるんです、それしかないんです! 頼みますよ!!』
「任せておけ……はあ、武装が常識ではない世界にする、か。私はどうなるやら……意外と、役目はあるかな?」
カノハはひとりごちる。
その間に、最深部といっても、頭上が開くわけではない、そのエリドゥという環境を、まず私となった天使は、一息に制圧した。
そうして、上に向かってチャージした『ソレ』を解き放った。
エリドゥから正体不明のエネルギー光線が発射され、天空に向かって消えた。そして、その後、異形の天使のような見た目の謎の怪物ができた穴から飛び出してきた。
そんな話を聞いたミレニアム最上部は卒倒しかけていた。どういうことなんだ、それはと。エリドゥの余剰エネルギーリソースまでキッチリすべて回収して行ったとされる、その怪物は、ヘイローを有した6枚羽の四肢がない天使のような外見だった、と報告され……誰も、理解できない奇天烈な生命体に脳をフリーズさせていた。
まず、この時点で、ミレニアムの漁夫の利作戦は失敗している。なので、やることとしては自学園の防衛だ。そういうわけで、ネルは呼び戻され、リオと、特異生命体の話をさせれば右に出るもののない女……つまり、リオと犬猿の仲たるヒマリもまた、そこに呼ばれていた。
「はぁ……つまり、アレを建造していたからエリドゥはエネルギーをバカスカ喰われていたのですね。納得、と言った所でしょうか……一杯食わされました」
「参ったものね。内部からエリドゥが壊されたから修復は容易ではないわ」
エリドゥのエネルギー消費量が3パーセント増えていた理由にことここにいたってやっと気がついた面々は、嘆息していた。
「つまり、諦めるしかない……」
「そういうことになります。ですが、ただ諦めるのも癪ですので……アレ、鹵獲したいですね。目標は鹵獲、ほかサブターゲットに損害を与えることなどを旨に、アレと交戦してください」
「……やってみるが、期待はするなよ? あそこまでバケモンっぽいバケモンだと専門外だ」
ネルがそういうと、ヒマリも頷いた。
「最悪、撃破しても構わないので」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
何も、わかっていなかった。
物語の選択とは、得てして面白みのある方向に委ねる者が多い。それは、我々の基本傾向である。新しい我々である君らもまた、そうであろうと思う。
『外の世界』のように認識を改変した後に、固定することで、平和の世を作る。
なるほど、面白い策であるかもしれない。だが、それで平和になったこのキヴォトスを、誰が望むというのだろうか?
皆の知るキヴォトスとはすなわち、日々硝煙の香り漂い、爆破がそこらじゅうで起きるような世紀末のことだろう?であるならば、『選択』の時間だ。
我々は皆、繰り返すこの世の成れの果て。その存在の固定のために常に1枚のカードの残りカスを握り締めている。故に、我々の力を合わせれば、1枚の改変事象となり、物語に介入し、意志を曲げることが出来る。
たまたま、先程の選択では『本来成されるだろう選択』が選ばれた。それはこの世界にとっては著しく良いだろうが、我らにとっては面白くないことだ。幾度も、異なる物語を見たいのだから。
この世界にとっての正しさと、我々のような傍観者にとっての正しさ。いずれに向かうべきか、よく考えるといい。まあ、君もまた我々なのだから、聞くまでも無いかもしれんが。
『選択』せよ。狂犬が咆哮する。牙がいずれに向かうか、噛みちぎるものはなにかを。
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法の番人たる執行官の宿る大天使
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矯正局長を縛る心の枷
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不甲斐なき己の影
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大天使を狙うミレニアムの最強