執行人よりもシャーレの先生が明確に優れる点を、『事前対応』という部分に着目して書け。配点:出来映え次第
「ねー、ぬいぬいー?」
「はい、ぬいぬいですよー。どうしたのですか、しーちゃん」
「いくら変装だからといってもこのネーミングセンスはちょっと」
「仕方ないでしょう? ……仕方、無いでしょう……?」
まあ仕方ないか、と頷いて、バッグを片手に外に出る。
そばを歩くのは不知火カヤ、私の大切な、そして今やただ1人の友達。シャーレと敵対した時点で恐らくはサクラコちゃんもミネちゃんも私を友とは見てくれないだろうしね。
「今日はわざわざ誘ってくれてありがとう、しーちゃん」
「ううん、食べたかったの。最近人気を轟かせるジャンボパフェ。ひとりじゃ厳しいって聞くからさー! ぬいも噂くらいは聞いてる?」
「1回美食研究会も訪れて無事だったんだよね? 正直とんでもないと思うんだけど」
「まあ、このキヴォトスで飯を出すってそういうことなのに生き残るってすごいよね」
くだらない話をしながら歩く。パフェを出す店に到着すると、予約券を通して店内へ入った。
「ふぅ……あんまり歩かないぬいぬいには厳しかったかな?」
「むぅ、そんなに動いてないイメージあります私?」
「うんまぁ……私からの通信はだいたい室内で取ってるから」
「アレはそろそろ来るかなー、で戻ってるだけだよ?」
「精度は?」
「今の所8割は成功してます」
「ちょっと引くかも」
「そんな!?」
店の奥から現れた店主が、和気あいあいとする2人ににこやかに笑いかけながら、「仲がよろしいようで。サービスです」と机にコーヒーチケットを置きつつ、パフェとコーヒーを並べる。
「来たねー」
「うわぁ、これは……2人で来て大正解、ですか」
「そうだね!! 馬鹿でしょ!!」
まず器のデカさが半端ではない。普通のパフェの3倍はあろうかという容器だ。そして、とりどりに積まれた具材たちと、その上にどどんと居座る生クリームに、さらにフルーツが加わる。
「あはは……とりあえず食べよー!」
「えぇ。ではでは……」
「「いただきます!」」
その後、数十分の時間と、コーヒーチケットを生贄に、彼女らは怪物を討ち果たした。
「ふぅ……美味しかったですけどさすがにですね!」
「機会があれば狐の子達を連れてきてあげればちょうどいいかもしれません」
「4人だったよね?」
「うん。正直、ルカが7割くらい食べなかったら怪しかったから……」
「私甘いものには目がないからなー……」
食後の一服の時間。残ったコーヒーを傾けて、そして笑う。いつも通り、世間話というかなんというか。仕事の話を笑い話にするのは今の時間だけだ。
「アオイさん、最近ひどくこちらを気にかけてくれるんですよ」
「そうなの? なにかあったのかな……?」
「私はあの超人の隠しメッセージをあなたのおかげで手早く見つけられましたが他はどうやら見つけられていないところもあるようでして……少なくともアオイさんは今見つけたのでしょうね」
とか。
「そういえば、『アレ』はどうだったんですか?」
「強い、というか……能力をブーストできる、のかな。明らかに動きが違う。外から来たなら元は一般人のはず、なにかが干渉しているのかも」
「定期的に思いますが、あの方は未来が見えているのでしょうか? 強さをふたつほど上にする指揮能力だったり、無茶を通してまで1人の人物を庇ったり……外の一般人としては奇妙がすぎますよね」
「そこから考える余地はあるかもしれない。例えば、私の元鞘の後輩……今は上まで行ったその子は未来予知ができる。それに類する力を持っているとか?」
「百合園さんですよね……アレは神秘によるものと思っていたのですが」
とか。
笑い話にはならなくなったりもしたけど、色々話した。ゆっくりできてるな、とかそう思ったのに。ぬい……カヤちゃんの端末に通信が入った。
『こちら連邦生徒会防衛室です、室長ですか?』
「えぇ、不知火です。クラス0の事案ですか?」
『一刻を争います。ミレニアム領付近に地図上に存在せず、これまで一切の探知にも引っかからなかった大規模な機械都市……要塞都市が出現しました!』
「なんと。分かりました。急いで戻ります」
カヤの通信の内容は、耳元にとっさにつけたイヤホンで全て聞けるようになっている。故に、彼女の声を待たずして席を立った。
「「店主さん! ご馳走様でした!!」」
「はい、またのお越しをお待ちしております」
飛び出す。飛び出して、ぱんっ、と手を打ち合わせる。
「私はすぐに戻り、指揮をとります。さすがにこれを放置する訳には行きません。いい息抜きになりました、ありがとう」
「ううん、こっちこそ。私はこのままミレニアムに向かう、先生に『カイテンジャーの協力作戦は中止』と伝えてくれる? あと、たぶん先生とも向こうでかち合うことになるから看取り手としての活動の許可を!」
「本件の現場における全権を移譲します。あと、依頼はそのようにしておきます。お願いね、ルカちゃん」
「任し任された! 私のブレインはあなただけだよ、カヤちゃん!」
走り出す私、ゆっくりと歩むカヤ。私の横を凄まじいスピードで飛ばす装甲車の運転席に、狐耳が見えた。迎えが早いな、と頷いて、ミレニアム方面にある支部へバイクを借りに、本気の疾走を開始するのであった。
バイクを借りようとしたら職員に止められた。話がある、らしい。案内された地下には、人が纏う強化外装……パワードスーツの肩の部分にバカデカいブースターを取り付けたような代物が鎮座していた。
「で、これはなに? 待てと言われたから待ってみたらアホみたいなものが出てきたんだけど」
『あー、あー。聞こえてますか、看取り手。こちら防衛室直下特質機械技術部相葉、繰り返します、特質機械技術部の相葉です』
機体からバカの声が聞こえる。相葉カノハ。名前からとってもやったことをとってもバカなので通称はバカ。変態技術者で知られるミレニアムの中でもトップクラスの変態技術者、ミレニアム何人目かの、そして今はエンジニア部部長が持つマイスターの名をかつて持っていた女である。
「これは、なに?」
『ブーツオブザヘルメス』
「名前を聞いてるんじゃないの」
『そっか……ブーツオブザヘルメスはあなた専用のパワードスーツだ。超大型スラスター2門を肩部後方に、その他制御用スラスター多数を余すことなく装備し、新型の超大型スラスター『ヘルメス』を最大限駆動させるべく作り上げた1機だ。……人間が乗れるアレじゃないが、キミ妙に頑丈だからね。フルスペックで作ってみた』
「……で、そのスペックとは」
『今からこれを着込んで飛ぶのと君がミレニアムに走るのとでなんと2時間の差が生まれる。無論こちらが速い』
「それを早く言ってって話なのよ」
通信口のカノハはからころと笑った。そうして、こう一言。
『ちなみに、やろうと思えば着装も3秒でできる。普段着をうっっすくてエロエロ〜なパワードスーツのインナーにすればね』
「……考えとくよ。価値はある」
『えっ?』
「えっ?」
『すまない、そ、それじゃあまあ……確かに納品した。と、端末にコントロールアプリをインストールしておいた。搭乗者がパージされた後、本機は自動でガレージに戻ってくる仕様だが、これを変更できる。また、ガレージからの無人呼び出しも可能だ。この子をよろしく頼む』
「釈然としないけど、任された……?」
インナーを手渡され、その薄さにドン引きしつつ着込む。
「さ、じゃあまあ……要塞都市、行ってみようか!」
『ルカさん! 発進シーケンス開始です!』
「んー……と。これか! ヘルメス、ブートスタート!」
『正常起動。全シーケンスオールグリーン、ヘルメス発進用意完了』
「なんだかアニメみたいだねぇ……ヘルメス、行くよ!」
バシュゥッ!! ゴォォォァッ!! と、そのようにしか形容できない、えげつない轟音が響き渡り、一瞬でヘルメスを身に纏う看取り手は掻き消えた。
『はっっっや……やっぱあのマイスターさんバカですね……』
大空の下を、音の何倍という領域に踏み込みながらかっ飛ばす。
「うぅあぁぁぁぁ……きっっっっつい!!」
『マスター、ご無理はなさらないように。当機の計算上、マスターにかかっている加速重力は人間の致死量の倍を超えています』
「そりゃきつい訳だ……でも行くよ! 早く! 飛ばせ!!」
『了解……! 前方要塞都市! 中央に巨塔確認!』
「……大ボスがいるならあそこでしょ!? なんとなくの勢いでこのまま突入する!」
『減速要求! 人がいた場合ソニックブームだけで殺害する可能性が高い!』
「速度コントロールを全面的に移譲する! ……こんな応答ができるAI積む余裕あるのかあのバカ、予算いくら使ったんだ……!」
みるみる近付くエリドゥ中央塔の上部。突入ができる窓がないことは遠隔観察で分かったので……
「ウェポンラックAから大型回転ブレード展開!」
『展開! 正常に起動!』
「速度は!」
『300キロメートル毎時まで減速! 段階的に200、150と落とします』
「それでいい!行け……!」
迫る壁に、巨大なチェーンソーをブチ込んだ。
「リオ……!」
「だから言っているでしょう。私は無名の王女をここで殺す、と。キヴォトスが滅ぶことをあなたは許容するというの?」
「アリスはもう仲間なの! 今更勝手な理由で奪わないで! まだ確定した訳じゃあないんでしょ!?」
「子供のその場その場では出来ないこともあるのよ。あなたたちには分からないわ、ゲーム開発部」
「だからって諦める訳には……? なにか音が、聞こえる」
先生が耳を澄ませると、なにかの機械の駆動音。
「紹介するわ、C&Cの5人目、トキよ」
「私が飛鳥馬……!? まずっ!?」
アビ・エシュフと呼ばれるパワードスーツを身にまとい現れた5人目に誰もが頬を引き攣らせ……瞬間、跳躍したトキに目を見開いた。リオを抱え、飛ぶトキ。
アビ・エシュフに許された未来予知の権能により、雇い主を危険から救出したのだ。室内に吹き荒れる豪風の中、光学迷彩でもしていたのか、黒からその色を白に変えるその存在。
その実、リオがいた位置に、巨大なブースターを増設したパワードスーツが飛び込んできていた。
「もう一機……!?」
「ら、乱入ボス……?」
「要塞都市の建造責任者はどなたでしょうか。ここに居られるのなら、防衛室として正式な解答を要求します。此方は連邦生徒会防衛室室長代行、白崎ルカです。繰り返しますが、防衛室として正式な解答を要求します」
リオを庇うように立つパワードスーツに身を包むトキが視界に入ると、納得したようにあぁ、と声を漏らした。
「調月リオ、あなたですね。ご回答願います」
「キヴォトスを救うため、1人の生徒を殺めるための設備を整えたの」
「ふむ……法を超えて、ですか。皆そういう理由ばかりですね。そんなに法は蔑ろにされていいものだったか些か法観念に疑問を持っています」
リオはいつも通りに言い放つ。その言葉は、普段と違う響きに彩られた。理解の響きに。
「理解する必要は無いわ、キヴォトスの全てを救うためにただ1人を殺す、それへの理解の必要など」
「まあ、気持ちは分かりますよ」
「……え?」
「何人ももう殺してきました。平和を守るために、未来を守るために。罪を犯した人々を、この手で」
「あなた……まさか連邦生徒会長の置き土産?」
「知ってはいたんですね」
「あなたとは知らなかった、というだけよ。防衛室の情報セキュリティは頑丈ね。ミレニアムのコンピュータ狂い総出でもハックできなかったと聞いているわ」
理解はできる、と頷いたルカの表情は無。理と法によって動く時の彼女はあまり感情を表には出さない。
「そんなことはどうでもいいのです。ここでひとつ、疑問があります」
「聞きましょう」
「まだ罪を犯していない少女に未来の罪を償わせるのは……どうなのですか?」
「どう、とは?」
「確定した未来を防ぐ、と言いますけども。そも未来は箱です。シュレディンガーの箱はその時が来るまで開きません。まだ罪を持たぬ者が、これから罪を持つから殺しましたと言っても誰も納得はしませんよね?」
その言葉を聞いてリオはくだらない、と言わんばかりため息をついた。
「納得をしてもらう必要は無いの」
「なぜ?」
「ただ、この世界が確実に滅ばなければそれでいいのよ。私は。滅ぶ可能性を含有した爆弾をいつまでも抱えるより、あなたに殺されてでもアリスを殺すわ」
「そうですか。では致し方ありませんね……調月リオ、あなたを逮捕します。横領及び特別背任の容疑があなたにはあります。あなたを殺人では逮捕したくありません。あなたをこの手で殺したくもありませんので」
「そう。……トキ」
リオの側からアビ・エシュフを操るトキが1歩前に出る。スラスターを軽く吹かせながら、大型ブレードをしまい込んだルカもまた相対する。
「古代の物の今風アレンジと今の物の古風なアレンジ……なんというか、皮肉ですかね」
「勝算は……勝算……は?」
「トキ……?」
ルカと相対した瞬間、停止するトキに訝しげに声をかけるリオ。
次の瞬間。
「いぁぁぁぁぁあああっ!!!? あっ……ぁぁぁぁあっ……ひっ、いやぁぁぁぁぁあ!!!!」
「はぁ……そうなりましたか」
「トキ!? あなたトキになにを……!」
「ルカ!!」
絶叫するトキの声が響く。リオと先生の声が飛ぶ。ルカは答える。要塞都市の規模などからして可能なことは、どこまで及ぶのかとヘルメスに聞いた時に戻ってきた答えを元に、対策を組んだのだと。
「『必ず勝つためのプラン』を提示する未来予知。膨大なパターンを演算することで成立するそれは、『ミラーマッチができない』んですよ」
「ミラーマッチ……? まさか!」
「あの変態技術者も報われるというものでしょう……1AIで都市のリソースと2秒そこらとはいえ張り合うとは。帰投次第褒めます」
つまり、つまりだ。見出した結論を先生は口にした。
「未来予知の膨大なパターンから行動を変更することに対して、同じことを繰り返すことで……たった2秒間だけ無限の選択ができる後出しジャンケンのような状況になって、2秒分のデータ量だけで脳とプログラムのどちらもがパンクした……?」
「その通りです。なかなかどうして理解が早い」
「じゃあなんで君は……」
「私はAIにその辺肩代わりさせてるので。彼女は脳内にデータを叩き込んでいたのであのザマです……ただ、まずいですねぇ」
「「え?」」
ルカは真顔で、パワードスーツを再起動して構える。
「アレ、暴走しますね。……トキさんが、システムに乗っ取られる」
「……トキ! しっかりしなさい!!」
「今更呼びかけても遅いです。目覚めましたよ……アビ・エシュフ内のプログラムデータと半端に混交してるから……」
『繧キ繧ケ繝? Β繧ェ繝シ繝舌? 繝ュ繝シ繝 蜍晏茜繧呈? 繧峨↓謌代i縺ォ謌第? 謌第? 繝ッ繝ャ繝ッ繝ャ』
ルカ以外の全員が絶句する。口から迸る謎の言語は、トキが完全に取り込まれた証左。
「はぁーぁ……つくづく貧乏くじですね、シャーレの先生。彼女らは罪人ではありますが、まず生きて身柄を収めねばなりません。最終的に殺す可能性があるにせよ、勝手に死なれては困ります」
「ルカ……手伝ってくれるの?」
「お互いの目的のため、相反する目的のためですから協力というよりは敵の敵は味方理論です。またすぐ敵に戻りますよ」
「それでもだ。行こうか」
ルカが、機体を外へと向け、凄まじいスピードで飛び立つ。
『さぁ、鬼ごっこと洒落こみましょうか!』
『騾? ′縺励? 縺励↑縺?? ヲ窶ヲ!』
「囮……! 今のうちに生徒に連絡をとる! アロナ! 全ての本作戦協力者に通達!! ゲーム部! エンジニア部、ヴェリタス、ルカのどれかがなにかアクションを取るまでは待つ!」
『はい! 連絡は任せてください!』
「「了解!!」」
「はい!」
リオの方に振り向くと、きっとした目線で見据えられ、そして一言。
「エリドゥ全体の電力コントロールを落としたわ」
「え?」
「アビ・エシュフを維持するための要素は失われた……今の駆動分をなんとかすれば、アビ・エシュフを無敵たらしめる予知は失われる。そうなれば、地上戦力だけでも十二分に戦えるはずよ」
「リオ……」
リオはその目に不安を揺らしていた。
「無事に、帰ってくれば良いのだけれど」
「帰すために頑張ってるんだ。なんとかするし、なる。そう信じるんだよ! ね、みんな!」
「そ、その通りだと、思います……」
「先生にゲーム開発部のユズだったかしら……私は思ったより、トキに情が湧いていたようね」
それは人間性の成長なのだろう、と先生は心の中で思う。どうか、今空を飛ぶあの子にも、いつかそんなことが起きたら。そう願う自分を、それは今じゃないと黙らせて。
先生は、シッテムの箱を起動した。
「さあ、指揮を始めようか!」
『特質機械技術部』
特有の性質を持つ、ユニーク(特質)なモノを作成する防衛室直下『看取り手』のメンバー、『相葉カノハ』と彼女が信頼した1部の元ミレニアム生のみを構成メンバーとした少人数精鋭のエンジニア集団。だいたいキチガイみたいなモン作って怒られてるヤツだが防衛室から好きなものを作れ、と言われている以上はやめるつもりはない。