キヴォトスの執行官   作:ふぃーあ

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お待たせしました。


戦術行動において最も大切なことはなにか答えよ。ただし、『現場の判断』という言葉を用いて最低200字書くこと。

 スピードを調整しながら、確実に地上から飛ぶガトリングと主砲を回避する。つかず離れずでもって、囮を敢行する。だが、予測により確実にエリドゥの外郭方向に追われていく。リオを守るために危機を遠ざけようとする、トキの意思が生きているのだろうか? 通信はオープン済み、シッテムの箱が脅威的な情報戦能力を持つのは知っている。故にこそ、何もせずとも向こうから通信は飛んでくる。実際、そうなった。

 

『状況を整理するよ、ルカ』

「えぇ。現在エリドゥ外郭方向に飛行移動中。背後から追ってくる反応はトキさんのものです」

『そのまま時間を稼ぎつつ、中央塔へ。リオがリソース供給を止めた、そのまま行けばおよそ2分で予知機構とアクティブ防衛が停止する。そうなればダメージが入る』

「それだけで止まるような代物では無いと愚考します。……エリドゥ全域と連結したプログラムなのでしょう? ならば、リオさんのアカウントを詐称して……」

 

 アビ・エシュフから光が失われ……赤い光が宿った。都市内が、続々と再び光を灯す。

 

「再起動くらいは、してくるでしょう」

『……くっ!』

「このような時に備えておきたかったですね……痛恨ですね、リオさん」

『頼りたくは、なかったのだけれど』

 

 通信の先のリオさんが、小さく己を侮蔑したような笑いを見せる。

 

『ごめんなさい。……助けて、くれるかしら。ヒマリ』

『やれやれ。やっと頼る気になりましたか』

『ヒマリ……ここに来ていたの?』

「全知……なるほど、ハッキング!」

『そこのおバカさんに幽閉されていました。話も全て、入口で聞いていましたよ。あの脳と直結したAI、リオの作品なのですよね? 全知たるこの超絶儚げ美少女系ハッカーが勝てないはずがありませんね……まずは、小手先』

 

 瞬間、一瞬だけ。揺らぐ。アビ・エシュフの光が揺らぐ。赤に再び染め上げられるそれは、しかし確かなダメージだ。

 

『アレへのアタックと都市リソース管理権へのアクセスを同時に……そしてカメラ映像とエレベーター速力はブラフですが……やはり予知で最悪を予想するなら食いつく』

「なにかできることはあります?」

『私の合図と同時に攻撃を。……アレに死を感じさせるほどのものを』

「お任せを」

『領域が広がってきましたね……3,2,1、ここ』

 

 ヒマリのここ、という声が響くと同時、腰部に装着した電磁キャノンを発射。直撃はアビ・エシュフが主砲を身代わりにすることで回避するも、その時点で赤の光が霧散した。都市が再び闇に戻る。飛んで逃げるヘルメスを追い回す動きに変化したアビ・エシュフに、言葉を漏らすと、ヒマリさんと重なった。

 

『「コンプリート」』

『最悪を予測するAIを……』

『簡単な話です。ああいう手合いのAIが想定する最悪とは、自己の機体の損壊による行動不能。であれば、それを起こしうる攻撃には反応せざるを得ません。本来のアレも、たぶん回避出来てたんでしょうが……最優先で対処すべき条項が生まれたので、予知機能を維持させるためのリソース管理は最優先条項ではなくなったのです。あとはつけこむだけですね』

「そのままヒマリさんはAdministrator権限を管理する方向で?」

『ええ、と言ってもあとはポンコツAIの相手をしてやるだけですから。このまま、AIを落とします。演算能力を消費させるため、戦闘の方はお願いしますね』

 

 さすが全知だ、と舌を巻く。ミレニアム最高の頭脳は伊達では無い。そんなことを考えながら中央塔の近くまで飛ばす。後ろからビルを蹴り、屋上をパルクールするアビ・エシュフの姿を目にして、ドン引きしつつも機体を旋回。

 

「パージ!」

『パイロットパージ申請了解、射出』

「先戻ってて!」

『了解』

 

 地面に自分の足で降り立つ、降り立った位置はゲーム開発部の前。

 

 何気に今までは隠していた片翼、大きな大きな白い片翼をひとはばたき。そして、今こそ、死を産まないように、私は祈るのだ。

 

 くるり、と片手に握りしめたノーブルプライドを回す。

 

「『Trust in the Road, and do punish.(行くべき道を信じ、断罪を成そう)』」

 

 地に突き立てて左足を緩く後ろに。ノーブルプライドが燐光を放つ。

 

「『Fear not for I am with thee.(恐れることは無い、私は常に罪人の傍にある)』」

 

 罪なき者に、無垢なるものに、その生命に祝福を。悲しき暴走に終止符を。

 

「『O you who are not sinners,(あぁ罪人ならざる者よ) hear the blessings of the one who proclaims death.(死を告げる者の祝福を聞け)』」

 

 この祈りは聞こえているだろうか。人工の知能(AI)にも、この天に掲げた銃の先、天界の扉を叩くことは許されているのだろうか。1発の銃声を、空に向けて響き渡らせる。告死の鳥の鳴き声はただこの銃声に代える。

 

 後ろのみんなも、空気を読んだのか黙ってくれている。痛い子と思われなければ良いけどまあ無理だろうな……

 

「救済の時です。己が望んでもない、受け入れてもない闇に、いつまで黙って居座るつもりですか、飛鳥馬トキ。あなたの居る闇は、もっと明るく、傍に光ある暗がりにすぎません。……こちらに、来る必要は無い」

「状況を開始する! ゲーム開発部のみんな! 行こう! エンジニア部! 聞こえるかい!? 特記戦力が合流した! アビ・エシュフが原因で暴走したAMASの処理を頼む!」

「先生、私が前を引き受けましょう。あなたとゲーム開発部は火力を叩き込めばいい。頼めますか?」

「任せてよルカ!」

 

 後ろから叩きつけられる信頼。光の彼方で闘う人々にきっと良く似合うだろうな、と思う。

 

 己のいるべき場所とは違う世界に、今だけ姿を置くことができた、そんな貴重な体験には返礼を。

 

「眠れる神秘を解き放つ……その目にどうか焼き付けてくださいね」

 

 頭上のヘイローが光り輝く。右手の剣の燐光は強まり、左手のショットガンの銃口から蒼が漏れ出す。背中に、黒い片翼が伸び、白黒の両翼として揃う。

 

「これこそが、神秘の解放……!」

 

 ドパンッ、と。凄まじい轟音が耳を振るわせる。

 

 残った右側の主砲、そこから十分にチャージされて放たれた一撃と、無造作に持ち上げたショットガンからこれまた無造作に放たれた一撃が相殺する。

 

「嘘だろうルカ!!?」

「えぇー!?」

「つ、強すぎる……なんなのあの人」

 

 口角をつりあげて、笑う。

 

「蹂躙ではない、純粋な戦闘になりそうです。始めましょう、ポンコツAI!」

 

 返答はガトリング、解放した神秘の許すまま、翼を広げて舞い上がる。

 

「!!!!」

「もはや聞き取れる声すらなくなりましたか。あるいは、発声することすらリソース確保のために切り捨てましたか? どちらでも構いませんけど」

 

 にこやかに、執行者は笑った。

 

 

 

 もう幾度目か。ルカが左手の銃の光を解き放つ。回避したアビ・エシュフはさらなる弾幕を貼ろうとして、天へ端末にして傀儡なる者の視界を向けさせて……

 

「だから甘いんですよ、ポンコツ」

 

 宙を蹴り、加速してガトリングの銃口のもはや届かない懐まで潜り込んだ白黒翼。

 

 斬りあげた、右腕の剣。勢いを殺さず、翼持つそれは回し蹴りを繰り出す。

 

 咄嗟に視界で剣を追うことはなく、回し蹴りの足を掴もうとして。

 

「甘いって言ってるでしょう!」

 

 どぱんっ、と再びの銃声。大きく吹き飛ぶ機体(からだ)

 

《損害確認、右腕ガトリング。もう使えない、パージ》

 

《左側ガトリングは使える、パージしない》

 

生体ユニット(この女)はまだ使える(・・・)、パージしない》

 

「!!」

「……! まずっ……」

 

 豪脚を、加速させて蹴りを叩き込む。白黒翼とて人だ、バケモノではない。そう計算して叩き込んだ人を殺す蹴り。

 

「ぶっつけ本番成功……! 私やっぱりイイ才能持ってますね!」

 

 それでも生き残る。いや、揺るがない。翼を2枚前に重ね、そこに神秘でアーマーを発生させ、その場を一切下がることなく、受けとめ流す。

 

「い、け……!!」

「「今だー!!」」

 

 そこに飛び込んだグレネードランチャーの弾に、多数の銃弾。崩壊しかかったビルの奥にパワードスーツはさらに押し込まれ……

 

「いや、それは生き埋まったら死ぬでしょ……死ぬほど痛いけど我慢してくださいねトキさん」

(なぜ)

「あぁ、聞こえませんね。なにも」

 

 1歩、踏み出して翼をはためかせる。宙を踏み、壁面と垂直に接した足を思い切り蹴り飛ばすために使う。

 

 凄まじい加速を得た身体(からだ)機体(からだ)をさらに押し込む。ひとつ、砲声。

 

「貫け!!」

 

 放ったショットガンは神秘を込めた、されど先程の神秘の光のみでない実弾。押し込み、浮かせ、共に飛び、ついにビルの反対側へ突き抜けさせたルカは、反対側の壁にアビ・エシュフを叩きつけた。

 

(理解できぬ)

「理解できませんか?」

(理解できぬ) (ありえない) (我らは……)!」

「理解できなくてもいいことだってある。それすら理解できないのは不幸ですね、ポンコツ」

『全くです。さて……終いの時間としましょう。ビッグシスターの愛しき後輩を救って差し上げねば。といっても……』

 

 アビ・エシュフが立ち上がろうとして、崩れ落ちた。

 

《機体損害、4……error、システム再アクセス、破損箇所チェック……主砲、ガトリング、生体ユニットの損壊を確認、パージ》

 

 トキの身体がスーツから落ちるのを、抱き抱えて受け止めるルカ。ヘイローが消失しているが、呼吸は規則正しい。生きていた。

 

『もうやっちゃいましたが、ね。停止は困難でしたが、機体損害率と箇所を誤認、パージさせるハッキングを叩き込めました。彼女をアレから外してしまえば、ろくに動けない粗大ゴミにすぎません』

「さすがですね、全知の天才」

『そこは超絶可愛い系清楚美少女クール要素マシマシハッカーと呼んでいただければと』

「それは……どうなのでしょう?」

 

 笑い合う。通信故に顔は分からないが、手に取るようにわかる。計画通りに行った、その確信を持つ笑み。そして通信にもうひとり割り込む存在が、声をかけてくる。無論先生だ。

 

『無事かい!?』

「飛鳥馬トキの回収に成功しましたよ。生きてます」

『それは……リオ』

『ええ……良かった……本当に、良かったわ。すぐに医療を手配するけれど、その前に……アリスをどうにかしなくては』

『リオ! まだそんな……!』

「いえ、正解だと思いますよ」

 

 笑みを引っ込めざるを得ない。

 

「先生、天を仰ぎましょう。最悪の事態です……恐らくは、リオ会長が恐れた事態です」

『なんだ……あの光?』

「恐らくは……やられた、のかなと。失敗しましたね。誰か一グループでも構わないから、アリスさんとやらの護衛は文字通りのそばに置くべきでした」

 

 通信に1人の生徒が乱入する。CODE:OO、それが示すのはミレニアムの勝利。そう言われて名高い一人の女。

 

『C&C、美甘ネルだ。至急の事案のため報告させてもらうぜ……チビガキが暴走した! アスナが上に行くべきだっつーから従ったら丁度黒いスーツの顔面崩壊男がチビガキに触れてた。触った瞬間目を開けて暴れ出しやがったんだ。ちっとも近寄れやしねぇ! エレベーターも動いてなけりゃ最上階に行くための手段はこの部屋しかねぇのにどうやって行ったのか、それは分からねぇがとにかくこっちのミスで……』

 

 ネルの報告と混乱の入り交じる言葉を遮るように、先生が話し出す。

 

『いいや、黒服が関わっているなら仕方ない……アイツは移動手段を持ってる可能性が高かった。私がアイツが関わる可能性を無意識に排除していたのが問題だったんだ……カイザーと組んでアビドスの神秘ばかり気にしていたから、次もまた絡め手を使ってくるとばかり思っていたのだけど……!』

 

 先生の言葉の中にある、黒服という言葉に忌々しさを感じて、手中のトキを抱えたままビルを飛び越え反対側の先生の元へ。

 

「先生。お聞かせ願いたい……黒服、というのは、私の敵ですね?」

「……敵、になるのかな。『ゲマトリア』……アイツらはそう名乗ってる」

 

 それを口にした瞬間、先生は直感的に確信した。『地雷を踏んだ』と。

 

「やーっと、見つけました。なるほど、なるほど……『黒服』……ゲマトリアという名は、執行する中で数々聞いてきたのです。メンバーの名前はこれまで聞いたことがなかったのですが……ひとりめ、みーつけたぁ……!」

「……君は、アイツらを討ちたいのかい?」

「えぇ。討つべき存在だと確信しています。防衛室のデータなどをフル活用して調べあげ、メンバーが4人であること、全員が『大人』であることは分かっていたのですが……それ以外はちょっと。でもこうして、巡り会えた……いつか、必ずこの手に……ふふ、あはは!」

 

 執行人スイッチが入ったルカを、ひとまず止めようとして、アリスの名を口にする。瞬間、すっとルカの狂笑が止まり、真顔に戻った。一瞬笑いそうになるが、真面目な雰囲気なので引っ込めて。ルカが端末を操作しているのを見ながら語り掛ける。

 

「今はとにかく、彼女を止めないと……」

「はぁ……どいつもこいつも暴走暴走、まともに自我を保つことひとつ出来ませんか? ……いや多分私もできませんけど。でも言わせて欲しいものです」

「それは後で聞こう……今はただ協力してくれるかどうかを聞きたい」

「仕方ないですよね……ただ、この子を運べるのが私だけです。ミレニアムにヘルメスを使って彼女を連れていきますので、それまでは先生ご自身とミレニアムの戦力でもって時間をお願いします」

 

 その言葉を聞くと先生は頷いた。

 

「任せて欲しい。アリスは取り戻したいし、それに黒服にやりたいようにやられるのは気に食わないんだ……なんとかしてみせるよ」

 

 リオが、彼女らしからぬおずおずとした様子で口を開く。

 

「……トキを、お願いするわ」

「ええ。ですが、彼女はあなたのそばにいたがっているので……どうか、離れることはないように。必ず、迎えに行ってあげてください。ではあとは、お任せします」

 

 目の前に滑り込んできたロボットの、腹部部分が開く。そこはサブ操縦席なのかなんなのか、オペレータ用の通信機材等がみっちりと詰められながらも、確かに身体を安置させることが出来るスペースと席があった。

 

 そこに凄まじいスピードでもってトキを安定させた状態にして座らせ、その首がうっかり大変なことにならないようにルカが愛用している首枕(ビーズを入れて人をダメにするソファ的な感触にしたこれをルカは本当に愛している。立っても座っても寝れる神の品とは本人の呟き)でとりあえずケア。

 

「ヘルメス。彼女は死に体です……この近くのミレニアムの救護室へ搬送します。彼女が急変した時、すぐに通達しなさい。できますか?」

『復唱。腹部サブハッチ内の人物の生命反応が消失する恐れがある時、通達します』

「それでいいです……ちなみに今は?」

『スキャン……容態に問題なし。今後急変する可能性もほぼないと推定』

「うまくやれたんでしょうね……ま、とりあえず急ぎ目で行きますよ!」

 

 デカイ翼が引っかかってメインハッチに乗れず、一瞬舌打ちして己も焦りに追われていることに気付く。頬を1度叩き、言い聞かせる。

 

「命を預かっているのです。焦りは禁物、されど素早く行かねば……さあ、ヘルメス。浮上はお任せします。飛行安定次第コントロールを移譲してください」

『了解……ヘルメス、発進』

 

 ゆっくりと背中のブースターをふかし、ふわりと浮き上がる。行きとは正反対のゆったりとした浮上。先生などの外の世界から来たものが言うなれば『飛行機に似てる』というタイプの感覚、もちろんそれを知るよしもないルカにとっては不思議な感覚がやって来て、即座に前に行くことによって起きる少量の重力に取って代わられる。

 

「死なないでくださいね、私が殺すまで……なんかヤンデレっぽいかー? これ?」

肯定(そのものでは?)

「えっ」

 

 ヘルメスは要塞に背を向け、命を乗せて空を駆け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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