感情の無い強化人間C4-621はどうしても分からなかった。
自身が選択したと言われてもその意味も価値も知らなかった。
俺はいつだってこの人の相手をするヤツに同情する。
≪ッ……!≫
カタフラクトの拡散レーザーがノロノロと狙いをつけている。
その砲の先をしっかりとみてハンドラーはゆったりと回避する。
あれなら俺達にも容易に避けれるのではないかと勘違いする程のあくびの出る戦闘
横から見ればそのようにしか見えないが実態は全く違う
「クソっ……、いいとこどりかよ、レイヴンの奴……気に入らねぇ……!」
「……まぁ悔しくはある。結局はハンドラー頼りとは情けない」
極まった技術が傍から見ればあまりにも陳腐に見えるように、敵の狙いを察知するハンドラーの初動が早すぎてレーザーの狙いが遅く見えるというのがこの異様な光景の正体だ。
カタフラクトが近づこうが、逃げようがピッタリと同じ位置につくハンドラーの機体、それがこの音速に近い高速戦闘であまりにも緩慢に見えるほどと錯覚してしまう異常事態
その距離でどう攻撃しようともするりと余裕をもって避けられる。
これがどんなに相手の心を蝕むか想像できるだろうか
≪ハァ……、ハァッ……! ク、クソ!≫
相手の操縦に先ほど自分達と戦っていた時の冷静さは無い。
カタフラクトの相手を揺さぶるためにわざとらしい動きが、何より自分が揺さぶられているのだと傍から見ると手に取るように分かる。
カタフラクトはハンドラーに破れかぶれの突進を行い、何とか接近するとエネルギーソードを、まるで周りを薙ぎ払うように振りぬいた。
バカげた馬力を持つキャタピラの超信地旋回と桁外れの出力を持つブースターによる超高速の回転切り
普通なら背筋を凍らせながら緊急回避を行うだろうその致命の一撃をハンドラーはふわりと上で避けると、リズムよく横にブースターを吹かせて回避する。
その跡地に通り過ぎる拡散レーザーと主砲の一撃、おそらく上に避けることを見込んだ相手の二段構えはとっくに読まれていたのだろう。
自分の意図が確実に読まれている。
その思考にカタフラクトのパイロットが行き着く前に、ハンドラーは突然、獣のように動きを加速させた。
≪ヒッ……!≫
カタフラクトの動きが硬直する。
今、相手は機体ではなく、心が崩れた。
致命的な隙を晒すカタフラクト
この結果だけ見ればまだ機体を回避させるなり出来ただろうと、後から好きなように言えるだろうが、それは余りにも酷だ。
ハンドラー相手によくあそこまで緊張の糸を途切れさせなかったものだとすら俺は思う
ハンドラーの近接武器が轟音を響かせながら、敵前面部の装甲のつなぎ目を抉った。
破断し溶解する装甲は弾け飛び、中で態勢を崩したコアの機体が露出する
『今だ 畳み掛けろ』
その言葉にカタフラクト周囲を旋回していた俺達猟犬は敵の弱点に群がり、喰らいついた。
「だぁっ!! 俺だってあんな奴が出ると分かってりゃ ぶっ潰してやれたんだよ!!」
「フフフ、それは言い訳だろう、情けないぞ712」
「んなこと分かってんだよクソが、イラつくぜ……!」
俺達は今、ハンドラーが手配したガレージの中で仮想空間による模擬戦を行っていた。
相手は改修型カタフラクト、俺達は先日の状況を再現しながら、問題点を洗いながらのシミュレーションを何度も繰り返していた。
結果として、相手の撃破は一度目の挑戦で達成したが、712は不機嫌そうに当たり散らしていた。
気持ちは分からないわけでもない、シミュレーションには相手の迫るような感覚や敵意が薄い、大抵はデッドコピーであるそれに勝ったところであの時の強敵に勝ったと言えるものではないのだろう。
「……だが、動きは分かった。次はやれる。ハンドラーの手は煩わせない」
俺は決意を込めて呟いた。
ハンドラーはあの後『よくやった』と褒めたて『まずは休め』と言って出かけて行ってしまっている。
休めと言われて、あの忸怩たる作戦内容で休めるほど鈍感でも、激戦によって疲弊する程に繊細でもない俺達はこうして自己研鑽に努めていた。
「つうか、アイツは今何してんだ? こっちは退屈してるっつーのによ」
「“密航者には身分証が必要だ”と言ってただろ、企業に身分をでっちあげて貰っているのさ」
今回の惑星ルビコンの密入には企業の援助があった。
俺達が独立傭兵として惑星封鎖機構の防衛網に穴をあけたと同時に物資の輸送や人員の補充が行われる予定のはずだ。
現状で独立傭兵である俺達が独断で破った包囲網に大っぴらに惑星ルビコンに出入りできない企業がたまたま物資を落とす。
なんという詭弁だと思わないわけではないが、それが政治というものなのだろう。
「案の定、物資の受け渡し地点で大規模な戦闘がおきたらしいぞ、企業が独立傭兵に大金をバラまいて惑星封鎖機構と戦ったらしい」
この短い間にどうやってそこまでの情報を仕入れたのか、なんでも器用にこなす713は端末を弄りながら俺達にそう教えてくれる。
「ひょっとしたらその偽名義も、その戦闘でやられた中でそこそこの傭兵から貰えるよう企業と話がついていたのかもしれないな」
「別に今の名義で構いやしねぇだろ」
「ランク外からだとロクな依頼がないぞ、戦場跡地でコソコソと廃品を拾う様な仕事から始めるつもりか? 成り上がるまでにどれだけ時間がかかるか……」
一瞬、それも皆となら面白そうだとも思いかけるが、確かにそこまで時間はかけられまい
「あぁ? だったら猶更、わざわざ他の奴の名義を借りる理由はなくねぇか? 俺達ハウンズの名前はそれなりに売れてるだろ」
「……まぁ、確かにそうだが、私達ハウンズの名を出すことになると……、ハンドラーの名前も出るだろう? この星でレイヴンの名は余りに都合が悪い」
「別に構いやしねぇと俺は思うがな」
「……そうなのか?」
強化手術により俺の記憶は断片的だ。
知っていることが歯抜けかつ連動していない、たしかレイヴンの名は不吉な名前ではあったはずということは覚えているがその原因は判然としない
「まさか知らないのか戦友? コーラルに引き起こされた大災害、その二度目の名は首謀者の傭兵の名前が付けられ、その傭兵の悪名は遠く、開拓惑星の隅にも広がった」
713はそこで言葉を区切った後にこういった。
「名前は“レイヴンの火”だ」
「レイヴンの火……」
「とんでもねぇ大悪党だよ、噂じゃ自分でコーラルが湧いたと企業や傭兵をこのルビコンに集めた後、まとめてドカン、何がしてぇのか全く分からねぇ、異常者だぜ」
俺はハンドラー・レイヴンの姿を思いだす。
戦場を渡り、その戦火を無感情に見下ろす表情を
もしかして、いや、ひょっとしてではあるが……
「フフフ、何を考えているか分かるよ戦友、もしかしてハンドラーが本物のレイヴンじゃないかって考えているのだろう? 」
「それは……」
「その後の消息は聞かないが、惑星封鎖機構が未だに桁外れの懸賞金をかけてるあたり、まだどこかで生きてるという噂もある」
「まぁ、悪名にゃ違いねぇが企業や惑星封鎖機構相手に単騎で翻弄してやったんだ。ありがたがってつける木っ端傭兵はそりゃいるだろうぜ」
それはそうだろう、だがしかし……
「アイツが虚栄虚心でそんな名前つける感情なんてありはしねぇってか? まぁオレもそう思ったぜ……、だから面倒なんでオレは直接聞いてやった」
「……君にはデリカシーが少し必要だと、あの時に君の隣で聞いてて思ったよ」
「テメェも隣で興味ない振りして聞き耳立ててただろうが」
俺達も組み始めた時は相手の過去は詮索せず、俺にいたっては語る過去すらなかったが、ハウンズの僚機として背中を預ける内に、俺達は少しずつお互いの過去を知ることとなる。
そんな中でも、あの人は自分を語らなかった。
それを無用な詮索は不要との意思表示だと勝手に思っていたが、聞かれていないので言わなかったのだとしても、あの人なら不思議ではない。
「まぁ、聞いてみたんだ。テメェもしかして本物のレイヴンか? ってな、そしたら“いや本物のレイヴンじゃない”って即答されたぜ」
「私も、ならどうしてレイヴンの名を使っているか聞いてみたら“盗んだ名前がたまたまそうだった”とのことだ。あの人らしいよ、まったく……」
「コイツ……、何がデリカシーだ。あの時は俺を押し退けて聞きやがって、お前もやっぱり興味深々だったじゃねえか……」
いつの間にか俺達はシミュレーション機から降り、小休憩を取っていた。
話す内容は我らがハンドラー・レイヴンについて
「そもそも。アイツのこと何も知らねぇからな、俺なんて勝手に義体を付けられて、借金を返済しろだぜ? ふざけた野郎だぜ」
712は人数分淹れたコーヒーをブリーフィングルームの机に置く
コーヒーを淹れるのはなぜか器用な713よりも712が上手かった。
「いいじゃないか、その高性能な義体のおかげでこうしてフィーカの味も楽しめるわけだ」
「オメェ、この舌のオプションだけでどれだけの金がかかったと思いやがる……」
コーヒーに限らずこの手の嗜好品は貴重だ。
ハンドラーは合成品でなく、こうした紅茶や酒といった高級嗜好品をストックしていた。
初めにそれを見た712はバレないようにちょろまかしてやると笑っていたが、一向に使用されない未開封のそれを見て、彼はしびれを切らしてハンドラーにいつ使うのか聞いたが“使うのを忘れてた”と本当に今思い出したかのように言うので712は愕然としていた。
「こんなにいいもん揃えておきながら何の興味もなかったんだぜアイツ、俺がそれを怒ったら“なら今から消費する”ってあの木星仕込みの高級ボトルを一気飲みしやがった! 楽しみ方も分かんねぇのに嗜好品なんざ買うんじゃねぇ!!」
我らがハンドラーは優秀だ。
企業とのパイプ作りや根回し、作戦の立案や分析、必要機材の各種手配、俺達にその手腕を指導し、時には俺達の顔を売ってくれながら、あれだけのことを一人でこなす姿には畏怖と尊敬の念を俺はいつだって感じている。
「“わかった丁寧に使う”といって淹れたフィーカも……ひどいものだった。合成品のインスタントのように砕かれた豆が攪拌されたあれ……、勿体ないからと一口だけ口に含んでみたが……」
「あぁ、あの時ほど、味覚のONとOFF機能がついているオレの舌の高性能さを感謝した日はねぇぜ」
「……砂利を溶かした泥」
「いいえて妙だな戦友」
「……あぁ、まさにそれだ711」
しかしそれ以外のこととなると俺達はハンドラーの無頓着さを心配せずにはいられない。
「……聞けば、あの嗜好品は以前の知り合いが持っていた物を真似ただけだそうだ」
「あぁ? そうなのか?」
「あの後、ハンドラーの過去を少し聞いてみた。昔ハンドラーは私達のように飼い主がいたらしい」
「初耳だな……、ってオメェ抜け駆けして色々聞いてるんじゃねぇか!」
「なら、ここで話を止めようか?」
「……ちっ」
「よし、では続けよう」
713が語ったのは、ハンドラーの過去
強化人間として見限られたハンドラーはその飼い主に買われ、仕事相手として組み、そして戦いの末に自由となり、今に至ったという断片的な話
「……まぁ、あの人にしては饒舌だったよ」
ハンドラーが過去、どんなところで何をしていたかというのは話さなかったとのことで、余計な解釈はいれずに713はハンドラーが発した言葉のみを俺達に伝えた。
ハンドラーの端的な言葉から見えるその飼い主という人物はどうやら相当なお人好しらしい
“自分を買い戻せ”
“よくやった621”
“今は休めそれが仕事だ”
“この仕事をやり遂げられるのはお前しかいない……!”
“自分の選択に従え”
「その人は……」
「“死んだ”いつも通りの無表情でそう言ったよ」
どこかで聞いたことのあるような言葉達、それを聞くと不意に胸が痛んだ。
「あー、じゃぁなんだ? アイツはその意思を継いでこんなことやってんのか」
「そこまでは聞けなかったな」
「使えねぇな、そこはもっと突っ込めよ」
「君と違ってデリカシーがあるからさ」
意志を継ぐ……、そこまで聞いて自分はハンドラーのあの感情の抜けた目を思い出す。
「本当にそうなんだろうか……?」
「あぁ?」
「何かあるのか戦友?」
「いや……」
自分の形を持たない疑問が口から洩れたが、それ以上の考えはないので押し黙るしかない
「まっ、関係ねぇ」
712が冷えたコーヒーを流し込むと立ち上がる。
「オレはただ。早くオレを買い戻して自由になる。そんだけだ」
そういうとシミュレーション機体の方へ歩き出す
「あぁそうだな、私も自由になり、そして成さねばならないことがある。まずは人の身よりわが身だ。休憩はここまでにしておこう」
713は置かれたカップを片付けながら薄く笑った。
この時、なぜか俺は先ほどの疑問の答えの端に触れた気がした。
712も713も未来を持っている。
いつか自由を手にいれた後に為すべきこと
俺は? 俺はどうだ?
いつか自由を手にいれたとして、俺は何を選択すればいい?
「おい、テメェら木偶相手はもう飽きた。次は模擬戦するぞ、早く来い」
「711、一緒に洗うからカップをくれ」
動き出した二人に置いて行かれぬよう、俺は目の前のコーヒーを機械的に飲み干す。
712によって丁寧に淹れられたコーヒー
「む……」
時間がたって際立つその酸味が嫌に舌についた。
俺達はハンドラーが不在の間をシミュレーションの訓練に明け暮れた
「やはりやるな戦友……!」
「ちっ、うっとうしいぜ!」
俺達ハウンズには大まかな役割分担がある
712は攻撃的な口調とは裏腹に落ち着いて標的を仕留める中遠距離の射撃が得意だ。
今も冷静な観察眼で敵を正確な射撃で削り取っている。
713はどれもそつなくこなせるが、同じく涼やかな態度とは真逆のスタイルが得意だ。
近距離への急襲からの獰猛な一撃が得意の格闘戦が際立っているといえるだろう。
俺は……、どちらでもない、712のような距離を取る冷静さも、713の一瞬で肉薄する勇猛さもない。
どちらつかずの中距離で前にも後ろにも寄る曖昧な立ち位置だ。
実際に二人に一対一で戦うなら俺の戦績はかなり低いというのがこのハウンズ内での実力差だ
冷静に攻撃の目が来る前に距離を取る712と、一瞬の駆け引きに持ち込もうと近づく713の拮抗した戦いを見ていると、ゲートの方から足音が聞こえる。
『仕事の時間だ711、712、713』
今回の仕事内容は惑星封鎖機構の施設への襲撃
コーラルの湧出にはその源泉といわれるものがあり、企業はそれを躍起になって探しているが、調査を行おうにも封鎖機構の妨害により調査拠点を広げられない
よっていくつかの企業が合同でその複数拠点に攻勢をかけ、相手の戦力を削るというのが今作戦の目的らしい
企業先導の作戦といいながら、この作戦には独立傭兵にも多く声がかかっている。
まずは機動性の高い傭兵で混乱させるという説明だが、明らかにこれは相手の戦力をはかると同時に露払いをさせる体のいいデコイだろう
しかし、独立傭兵の運用としてはこの扱いが妥当とも思う自分がいる。
報酬は撃破した機体によっても追加で支払われる。
活躍すればそれだけ名は上がり、重要な作戦にもアサインされるようになると考えればちょうどいい依頼だ。
「しかし、担当する襲撃目標は分かれたな、まぁ今の私達は別々な名義の傭兵な訳だから仕方がないが……」
「ククク、一人だと心配かぁ?」
「あぁ、君が一人だと心細くないか心配に思ったのさ」
何時ものように軽口を叩く二人であるが、一人での作戦に俺は本当に不安を抱いていた。
『作戦と配置を確認した。今回はそれぞれ単独で作戦を遂行しろ 単独といっても他の独立傭兵もいるはずだ 上手く協働するといい』
作戦直前のハンドラーの声かけ
個人で依頼を受ける機会も勿論あったが、ここまで大規模なものは初めてだ。
『712と713の場所は近い、状況を報告し必要なら言え、すぐに向かう、711は本当の意味で単独となるが、心配するなお前ならやれる』
712はハンドラーの手など必要ないと息巻き、713は誰が一番稼げるか勝負しようと笑っている。
それを見て、作戦を目前に余計なことを考えるなど猟犬らしくないと情けなく思うが、ハンドラーの手綱が遠くにあることをどうしようもなく不安に感じてしまう。
「戦友、君なら上手くやれるさ」
「いつもみてぇに僚機を使い倒すんだろ? 心配なんざしてねぇよ」
僚機達の軽口に答えるため、口の端を何とか持ち上げると、俺達はそれぞれの作戦目標に向かった。
俺の割り振られた目標施設は封鎖機構の重要施設である燃料補給基地
事前のブリーフィングではMT部隊が中心という説明であったが、それ以上の敵がでる可能性が高いとハンドラーは見ていた。
強敵との戦闘も視野に入れ、俺は再度、自分を猟犬としての意識に切り替えていく
「ふぅん、アンタがそうなのかい?」
無線から流れる女性の声、右前方から合流する機体の影をセンサーは感知している。
幸いにして自分は一人ではない
「僚機とはいえお互い独立傭兵、協働は必要かい? まぁ私の爆撃には巻き込まれないでおくれよ」
機体を確認、ミサイル主体の4脚
「問題ない、俺は俺で前にでる。やりたいようにやってくれ、巻き込まれても恨まない、それは巻き込まれた奴が悪いだろう」
「へぇ、アンタ面白いねぇ、まぁお手並み拝見と行かせてもらおうかい」
互いを確認しているうちに、すぐにでも目標地点に到着する。
〈ACが2機接近! MT部隊を出せ!!〉
高度を低く取り、敵のMT部隊の第一線の一部を集中攻撃、その穴から敵の後方深くに切り込んだ。
〈まず単騎できたぞ! 火力を集中させろ!〉
敵陣を分断、浮足立った第一線はこちらを包囲しようと銃口を向けるが弾幕にそこまでの圧はない、回避に徹して第二線を削るための射撃に努める。
「援護射撃を頼む」
「おいおい、アンタ、威勢よく飛び出したはいいけど頼むよ」
〈待て二機目が! おい前だ! 前を向け! ミサイルだ回避しろ!〉
敵第一線は上空からのミサイルに悉くを撃滅された。
爆発音を聞いた瞬間に第二線へ、同じように一点突破を試みる
貫くべき場所は対空砲台だろう
足を止めずに砲台を破壊し、さらに次の防衛線へ
〈集中砲火だ! まずは出しゃばりを潰せ!!〉
「援護射撃を頼む」
「全くしょうがないねぇ……、まぁ私は稼がせてもらえるからいいけどさ」
後方の部隊と防衛隊の第三陣に挟まれながらの集中砲火
これは流石に分が悪いため牽制射撃のみに留めて距離を取る。
〈待て! 一体にかかりきりになるな! ミサイルを迎撃しろ!〉
〈た、対空砲台はすでに潰されました!〉
後方から爆発音が響く、第二陣はミサイルで壊滅、弾幕が薄くなった。
「アンタ動きを見るにそこそこやるようだけど……ってまさかアンタ、囮のつもりかい? ハハッ! さっきあったばかりの私を使うのがずいぶんうまいじゃないかい!」
〈先頭のACは陽動だ! 後ろの攻撃役をやれ!〉
敵の砲が揺らぐ
その瞬間に敵の部隊に喰いついて、噛み千切る
腕に装備したブレードが無駄にならなかったことに安堵しながら敵中心で回りを薙ぐ
「役割を固定化させるつもりはない、作戦は臨機応変に対応すべきだ」
〈な、なんだコイツッ! 急に動きがッ!〉
敵防衛部隊の全滅を確認
「防衛力は削いだ。俺は西側をやる。増援が来る前に貯蔵燃料を叩く」
「ハッ……、アーハッハッハ! やっぱりアンタ面白いね! 流石猟犬、集団での狩りが得意みたいだねぇ、笑っちまうほど遊びがないよ!」
敵が消え自由になった空を浮上し、標的を破壊した時、ちょうど反対側の重要施設も破壊された。
「はいはい、こっちも終わったよ、まったく楽な仕事だよ」
「では直ちに帰投する」
作戦終了、目標地点からの離脱を開始
作戦自体は滞りなく終了した。
俺達はその場から離脱する。
このままそれぞれ独自の回収地点まで撤退する手筈であるがなぜか彼女はこちらについてきた。
「それ以上近づくな、……ピックアップポイントは別のはずだ。余計な意図を疑われる前に帰投しろ」
「冷たいことをいうねぇ……、傭兵同士、ちょっと親交を深めようとしただけだよ、ほら」
武器をスタンバイモードに移しているのを確認する。
ハンドラーも協働しろといっていた。
ここで顔を繋ぐことにも何か意味があるかもしれないと俺は判断する。
「何か用か」
「いやなに、ちょっと依頼主に伝言を頼みたくてね」
「伝言? 依頼主? 何を言っている」
「ある匿名の依頼主に頼まれてたんだよ、援護に行けないから自分の犬を一匹面倒見てくれってね」
「面倒? なにを……、いや、まさか俺のフォローを依頼されてたのか?」
作戦中、引っかかる言い回しがあると思っていたが、どうやら隣の彼女はハンドラーと繋がっているらしいと俺は気づく
「まぁ私の方の仕事は失敗だね、アンタ相当動けるし、むしろ助かったよ、作戦遂行のための最良の行動、アンタ他の奴と違って本当にハウンズらしいハウンズだね」
「そこまで知っているのか……、すまない失礼な態度をとった」
「気にしちゃいないよ、それにしても、あの人が過保護とはいえここまで目にかけられてるなんて、あんた相当お気に入りってわけだ。妬けちゃうね全く」
「……いや、ハウンズで一番弱いのが俺だ。一番心配だっただけだろう」
「マジかい? アンタら今3人いるんだろ? いや、今期のハウンズは本当に優秀……」
彼女がそこまで言いかけた時だった。
〈……逃げ足の速い奴らだ〉
帰投中、広域放送ギリギリでノイズの混じった音声を拾う
〈おい犬、きこえてるのだろう。ククク……、貴様の飼い主に伝えておけ、じきに殺しに行くとな〉
ざらついた音声からでも分かるねっとりとした声色、問いかけに答えて位置を晒すことはしないが、それでもその内容に反応しないわけにはいかなかった。
「こいつ……なぜ俺達を知ってる……」
「この声は……、チッ、本当に女が腐ったみたいなやつだねアイツは……」
「……なに? 知ってるのか?」
「まぁ、気にしないことだね、アンタのハンドラーは気が多い、あの人の自業自得というヤツさ」
「待て……」
「さて、そろそろ行くよ! 通信のアイツみたいな奴がここには何人もいる! アンタも気を付けるんだね!」
「それはどういう……」
「ここはルビコン! アンタのハンドラー・レイヴンの因縁の場所! きっとこの時を待ってた奴らは多い! アンタもきっと選ぶときが来るよ!」
俺達はこの星で姿を隠しているはずだ。
だというのに話を聞くに彼女も通信の向こうの人物もどうやらハンドラーに気が付いている様子に、俺の疑問は尽きない。
俺は彼女にその真意を確かめようとするが、既に距離を取り始めている。
「私はアンタが気に入った! 少しハンドラーと似てる。お互い傭兵だけど敵対しないと願いたいものさ! じゃあね!“アンタが笑えることを祈ってる!”ハンドラーにはそうよろしく伝えといておくれよ!」
「……クソッ、……説明しろ」
思わず712の悪態がうつってしまう
とにかく疲れる依頼だった。
俺は早く皆と合流するために回収地点へと可能な限り急いだ。
俺はガレージで他の部隊の被害状況を知った
帰投すれば各自作戦は成功……と思われたが712の目標地点には凄腕の敵ACがいたらしく、僚機も落とされ、ハンドラーの増援がなければ危うい所だったらしい
それを聞いて俺は心胆が冷たくなり、急いで無事を確認しようと走るが、奥から何時もの言い争いの声が聞こえて力が抜けた。
「これで3人揃ったな……、いや、今回も己の力不足をやはり感じたよ、惑星封鎖機構のLCが出てきたときは、正直冷や汗をかいた」
「おめぇはそれでもやり遂げたからマシだろうが……、たくイカれた野郎だったぜ……、とんでもねぇ調子の外れた戦闘狂野郎だった。クソがッ! オメェがいたならやられなかったつーのによ……!!」
二人の目線が俺に集まる。
安堵と緊張の繰り返しで俺は心あらずのまま適当な相槌を打つ。
「お前が勝てないのに俺が勝てる訳ないと思うが……、いや、とにかく生きててよかった712……」
「712はそういうことを言いたいわけじゃないと思うが……、まぁそんなところも戦友の魅力さ、こちらも気疲れした。君とならもっとうまく飛べたのに窮屈だったよ」
「あぁ……、713も無事でよかった」
「聞いてねぇなコイツ……」
「いや、すまない、俺も少し疲れたんだ……、そうだ肝心なことを忘れていた」
ここで俺はようやく作戦の時に起きた出来事を思い出す。
そのことを仲間に伝えた後、遅れてきたハンドラーに伝えると
『そうか』
と一言つぶやいてその場を後にした。
「いや、そうかじゃねぇだろ、もっとこう……、普通なくねぇか?」
「隠してる……わけではないと思いたいが、あえて俺達に言ってないことがあるな」
「……探る、か……?」
その一言に目を丸くして驚いた様子の二人、だがおかしなことをいうが、その二人以上に驚いているのは俺だ。
「おっ、おぉ、らしくねぇじゃねぇか711、いつもハンドラーハンドラーうるせぇオメェが……」
「いやしかし、どうして、フフッ、どういう心変わりだ戦友?」
なぜこんなことを言ってしまったのか俺は分からない
そう、俺は何一つ分からない
俺とは何なのか
俺がどうしたいか
俺が何を選びたいか
「探る……、そうじゃなくて、俺は分かりたい……、理解したいんだ。あの人を……」
きっとそれを知れば俺自身のことも分かるんじゃないかと、そんな捻じ曲がった確信が俺にはあった。