ハンドラー・レイヴン   作:ばばばばば

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感情の無い強化人間C4-621はどうしても分からなかった。

自身が選択したと言われてもその意味も価値も知らなかった。

それを理解するのに必要な感情は既に燃え尽き灰となっていた。




ハンドラー・レイヴン(転)

 

 

 ハンドラーを探る。

 

 

 そうは言っても俺達が何か積極的にハンドラーの周りを嗅ぎまわるわけではない

 

 そもそも別に敵対したいわけではないのだ。

 

 その手段も比較的平和、といえば聞こえはいいが消極的な調査に留まっていた。

 

 

 

 各々の体の調整を終え、ブリーフィングルーム……、というよりは俺達3人のガレ―ジの中間地点にある溜まり場という方が近いかもしれない

 

 そこに俺達は集まり、各々好きな場所に座りながら顔をつき合わせていた。

 

 

「調べてみたが、ハンドラーの調べ物で気になるものをいくつかピックアップしてみた」

 

 

 713から端末にデータが送られるので俺と712はその内容を確認する。

 

 

「あぁ? なんだこれ? コーラルの観測機の手配に…… 他にもいろんな陣営のコーラルについての情報……、別におかしくはなくねぇか? 俺達はコーラル探してんだからよぉ」

 

「それならこの分布データで事足りる。こんな専門的な……、コーラルの波形データまで必要とは思えんな、それに企業が調べつくした跡地に大金を積んで観測機を置くのは不自然だ……まるでコーラルの中から別の何かを探しているようだとはおもわないか?」

 

「よくわかったな713」

 

「なに、ハンドラーの仕事を少し手伝った時に確認しただけだ」

 

 

 俺の理解度も712と大差ないが、713が不可解という部分も気になるため余計な口出しをせずに黙っている。

 

 

「私もあれからそれとなく、ハンドラーに昔の話を聞いてみたが……、ハンドラーはコーラルを用いた強化人間だったようだな。第四世代だったそうだ」

 

 

 俺も強化人間である。

 

 現在の強化人間にいたるまでの沿革は記憶の中に持ち得ていた。

 

 情報伝達物質としての側面があるコーラルを用いることで人間の情報処理、デバイスとの適合率をあげるという試み

 

 その実験は夥しい犠牲のもとで実を結んだと聞いたが、皮肉なことに後の世代の後にその実験を礎にコーラルを用いることなく、より安全で効果的な技術が発展したのでコーラルを用いた強化人間の技術は廃れたという。

 

 

「何がしたいかは分からないが、ハンドラーとコーラル、因縁は深いというわけだ」

 

「つったって、それがなんだって話だろ?」

 

「ほぉ、言うじゃないか712、では君の成果を聞こうか」

 

「あー、オレの方は前回の依頼でぶつかった傭兵を洗ってみた。どうもこっちに来たバトルジャンキーと711の僚機だった奴、……あとは通信してきやがった男、何者かは分かったぜ」

 

「さすがだな712」

 

 

 情けない話だが、調査ということで多くの情報をもたらした者は、言い出しっぺの俺でなく712と713だった。

 

 なんならハンドラーからの情報を得るのは本来713でなく俺の役割であったので、俺の肩身は狭い。

 

 

 712の語った3名の情報はこうだ。

 

 

 まず一人目、712を墜としかけたAC乗りは企業付きの傭兵

 

 かなりの腕利きでその力に目を付けた有力企業によって囲い込まれるほどの実力者だが、企業に拘束されてやりたい依頼や好きな機体のアセンブルが出来なくなるからと、独立傭兵の立場に拘る変わり者

 

 来歴からも分かる通り、なによりACに乗って戦うことを重視しているようで、今の企業に居るのも単に条件が一番よく、任務も彼好みのものを宛がってくれるからという理由だけらしい

 

 

「コイツもハンドラーを知ってた。……言いたきゃないが、ハンドラーを引きずり出すために俺を墜とせたのに嬲ってやがった、気色わりぃ奴だったぜ」

 

「しかし、ハンドラーとのつながりは謎のままだな」

 

「知らねぇよ、ただ強い奴と戦いたい、そういう望みなら、どこかの戦場でウチのハンドラーとかち合って狙われててもおかしくはねえだろうな」

 

 

 二人目は、前回の依頼である封鎖機構の重要拠点襲撃で俺の僚機となった女性だ。

 

 こちらも独立傭兵、星外でもそこそこ名の知れた女傭兵で圧倒的な高火力武器を好んで使う、ちなみに自身のACや武器も改造する技術屋でもあるらしく、このルビコン3には少し前に自前の改造艦で堂々密入してきたのだという。

 

 

「ACネームがシンデレラだぁ? はっ、かわいらしい名前じゃねぇか、とんだメルヘン女だな」

 

「なかなかにかわいらしい名前だが、機体は四脚でミサイルや爆発物に偏っている。敵を粉微塵にしてそれを被った灰被り姫(シンデレラ)をかわいらしいと呼べるかはその時の君の度胸次第だろうな」

 

「あ?」

 

 

 713の軽口にすぐにでも712が噛みつく気配を感じた俺は、話題の軌道を修正させる。

 

 

「しかし、これも接点が不明だ……、会話の内容からもかなり深い関係だと思うのだが……」

 

「私達ハウンズを知ってて、ハンドラーが個人的に依頼を出すくらいなのだから、良好な関係であるのは確かなのだろう」

 

「ったく、無駄に顔が広いからなアイツ、だが因縁とか言い出すんだからそれなりに古い知り合いなんだろ」

 

「しかも、他にもたくさんいると言っていたのだろう? あの人の伝手や手管を教えてもらう時もあるが蛇の道は蛇だな、いまだに全容を把握しきれてない」

 

「カラスが犬を飼って今度は蛇ときたかよ」

 

「おまけに狸かもしれんぞ戦友」

 

「そりゃウチのハンドラーが正体不明なわけだぜ……」

 

 

 最後の3人目、無線でハンドラーを殺すといってきた正体不明の男

 

 調べる優先度でいうなら、わが身の危険があるのでむしろ一番に調べるべきだろう危険人物だ

 

 直接対峙したわけではないが、あの粘着質な声を今でも覚えている。

 

 

「正直、711からそういう通信があったって情報だけだったんで期待はしなかったが、実をいうとコイツの情報が一番手早く手に入った。結構な有名人だったぜ」

 

 

 ハンドラーに敵意を持つだろう通信の男は独立傭兵

 

 しかも陣営としては惑星封鎖機構だという

 

 それを聞いて封鎖機構が独立傭兵と手を組むなどと不思議に思うが、その男はある条件で惑星封鎖機構と協力関係を結んでいるらしい。

 

 

「早い話がコイツの狙いはレイヴンだ」

 

「確かに通信ではハンドラーを狙っていると言ってたが……」

 

「ちげぇよ、レイヴンの火の方のレイヴンだ」

 

「それこそ人違いなのだろう?」

 

「いや、そりゃそうなんだが……」

 

 

 その独立傭兵はレイヴンの火を起こした本物の独立傭兵レイヴンを狙っているというのは界隈では有名らしい

 

 レイヴンの名を騙る者を片っ端から排除し、その戦闘ログを封鎖機構に売るうちにある種の下請けのような依頼関係となり、封鎖機構や独自の情報網でその名を騙る者を消すために星から星へと渡っているそうだ。

 

 

「目的は怨恨かそれとも名誉か……、知らなかった私達も間抜けだが、どうやら情報によると、俺達ではないが過去のハウンズとの戦闘もあったみたいだ」

 

「そう言われてもこっちは恨みなんざ、値段がついてたら破産する程に買ってるからなぁ……、まぁ因縁としては一番わかりやすいぜ、今まで見てきたレイヴンを騙る塵のなかで一番強ぇのがアイツだからな」

 

「こちらは偽物だといって納得はしないだろう、今後の依頼で鉢合わせる可能性も考えれば、注意しておくに越したことはないな」

 

 

 こうして情報の交換はつつがなく終わる……

 

 

「で、711、テメェの収穫は?」

 

「なにか分かったか?」

 

 

 ……そうなるだろうとは思っていた。

 

 

「世間話をしていた。体の調整ついでに、珍しくハンドラーから最近のことを聞かれたんだ」

 

「ほぉ、それは確かに珍しい」

 

「お前たちのことや、最近変わったことはないかとか、そんな他愛のない話をした」

 

「なるほど、同じ強化兵同士、ハンドラーは君を気にかけてるのかもな、私の調整の時はあっさりしたものさ」

 

「いや、俺は強化兵の失敗作だからな、ハンドラーから戦えるよう強化手術を再度受けたから、不安定な所がないかよく調子を聞かれるんだ。視覚とか聴覚とか……」

 

「そうなのか? オレも義体の関係で調整が多いが、最後に顔を見に来るぐらいだな」

 

 

 そこで一旦、会話が途切れる。

 

 

「……で、情報は?」

 

 

 しびれを切らした712に俺は耐え切れず苦渋の表情を浮かべた。

 

 

 

「……すまんなにも分からなかった」

 

 

 

「テメェの言いだしたことだろうが! 前に出ろよ!前に!」

 

 

 

 

 その後は、呆れる712、笑いながら俺を揶揄う713

 

 

 それに対して何も言い返せず黙るしかない俺

 

 

 

 いまだにハンドラーが何者かは分からぬまま

 

 

 

 

 しかし、ここはルビコン、ハンドラーにとって因縁の地

 

 その因縁はこの星で戦えば嫌にでも分かっていくこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくつかの企業側の依頼を単独で受けていく日々

 

 

 そんな中で企業から惑星封鎖機構の施設に対しコーラル観測データ奪取の依頼を受けた。

 

 このデータを解析すれば、新たに湧出したコーラル、その源泉を見つける足掛かりになると企業は考えている。

 

 どうやら今回コーラルが湧いた場所というのは、以前見つかったコーラル集積地ではないらしく、今は衝撃で吹き飛んでしまい、“文字通り何もない”とは713の言だ。

 

 

「今日は久しぶりにテメエと組むな711」

 

 

 そんな任務での僚機は712

 

 最近の俺達ハウンズはそれぞれが独立傭兵のライセンスを偽造しているため個々人での活動が増えていたが珍しい協働だ。

 

 ひょっとすると、ハンドラーが俺達を独り立ちさせるためにあえてやらせているのでは?

 

 そんなことを勘繰ってしまう所だが、今回の依頼は別口で依頼されていた713と組むことが出来た。

 

 

「LCは確実、場合によってはそれ以上もいるらしい。ハンドラーも封鎖機構とは鉢合わせたくないだろう、増援が来る前に手早くやるぞ」

 

「まっ、そもそもアイツに頼るなんざごめんだ。俺達で全部ぶっ潰してやろうぜ」

 

 

 全部を潰すといっても、作戦目標はデータの吸い出しだ。

 

 敵に一応の撃破ボーナスが指定されているが、目標を違えない様に712に釘をさしておく。

 

 

「んなことわかってんだよ、まぁ気楽に行こうぜ、久しぶりに本気が出せるってもんだ」

 

 

 

 

 襲撃をかけた目標地点、すり鉢状の立地である採掘場跡地に作られたコーラル観測所は深い穴の中心に棒を立てた様な構造になっており、その穴の斜面に渦巻くように道があり、そこにそって防衛施設が存在していた。

 

 目的の観測データはその穴の底の観測機から奪取しなければいけない。

 

 

 712と組むなら大体のフォーメーションは決まっている。

 

 

 基本的に俺が前、712が後ではあるが俺達の距離は近い

 

 俺たち二人で組むなら、二機が並んで中距離で着かず離れずで戦うスタイルを好んでいた。

 

 

<襲撃だ! 所属不明AC二機! 通信送れ!! 迎撃部隊を配置しろ!>

 

 

 大きなすり鉢状の周りを渦のように這う道を俺たち二人は疾走する。

 

 敵迎撃部隊はそこそこの練度であると、射撃の正確さと部隊の展開速度からも見て取れるが、さすがに俺達には及ばない

 

 

「帰りが面倒だ。 全部潰せるならそうするぞ」

 

 

 足を止めずに敵の防衛線を突破しにかかる。

 

 712と俺の射撃はブースターで過ぎ去る間に敵MT部隊のことごとくを壊滅させながら侵攻した。

 

 

「盾持ちは俺がやる」

 

「あぁ」

 

 

 一瞬の取捨選択、互いに息を合わせて装甲の薄い射撃対象は攻撃を被らせず、逆に堅牢な敵には火力を互いに集中させて撃墜させていく

 

 

<クソ! 相手はかなり強いぞ!進行が早い! どこの企業の部隊だ!? >

 

 

「へっ、やっぱり、テメェとやるとやり易い、このまま止まらずに行くぞ」

 

「……いや、敵のLC機体が出てきたぞ、しかも片方はLC高機動型だ」

 

 

 前方の基地のガレージから二体のLCが飛び出してきたのが遠巻きに確認できる。

 

 相手もこちらを確認したようで、LCは進行上の道を塞ぐように立ち、高機動型は穴の中央に浮遊した。

 

 

「……相変わらず、インチキみたいなジェネレーターだ。攻めづらい場所に陣取られたな」

 

「相方を壁にして自分は安全な所から鴨撃ちを決め込むつもりだぜ。だがまぁ俺達には悪手だ」

 

 

 高機動型の方はこちらへ牽制射撃のレーザーを撃ってくるが一切スピードは緩めずに、俺達は道を進む

 

 

「712は削ってくれ、俺が合わせる」

 

「あいよ」

 

 

 道を塞ぐように立ちはだかるLCは後ろに引きながら射撃を行ってくるが、ここで正直に足を止めるつもりはない。

 

 

 俺がブースターを加速させ、その推力を加算させた射撃と共にLCに突っ込む。

 

 真後ろに下がろうとした機体が俺の射撃を直に受ける。

 

 まずいと感じたのだろう、相手の機体は狙いを散らそうと、後ろでなく左右の上に機体を振るが、その動きでは彼我の距離は縮む一方だ。

 

 

 突っ込んだ勢いのままに俺はレーザーブレードを振りかぶって見せた。

 

 

 <っく!!>

 

 

 流石は高い機体に乗せてもらっているだけはあるのだろう、相手はこちらを避けるように回避のためにブースターを吹かす。

 

 

「へっ、間抜けめ」

 

 

 俺がエネルギーの放出を抑え横に回り込むと同時にその後方から712の射撃が突き刺さる。

 

 

<ちゅ……、中尉殿……! 助け……!>

 

 

 無駄だ。

 

 この機体と機体がぶつかりかねない距離で優しい上官は俺ごと巻き込んで撃てはしないのだから

 

 俺は態勢を崩したLCを中央の機体との盾とするように、本命の斬撃を放った。

 

 

<おのれ……!>

 

 

 俺がこれから来るだろう射撃を避けるためにブースターを吹かすのと、後ろから来た712は足を止めることなく機体の残骸を乗り越えるのは同時だ。

 

 俺と712のフォーメーションは止まらず崩れず、そのまま最奥の観測所へと進んだ。

 

 

「わざわざ一対一でやらせてくれるんだから、ありがてぇ話だ。安全地帯からオレ達を止めれると思うなよ」

 

 

 僚機を失った機動型はそれでも距離を保ったまま、俺達への足止めの射撃を加え続けていた。

 

 ずいぶん悠長に見える。

 

 

「……時間稼ぎに注力しているようだ、やはり増援が来る可能性が高い、急ぐぞ」

 

 

 幸いにして射撃を避けながら進行上の敵を排除し進むことにそこまで時間はかかっていない、この分なら想定の時間内には観測所に辿り着くことはできるだろう。

 

 

「データの吸出しは予定通り俺が、足止めは任せた712」

 

「あぁ、テメェは俺の後ろに隠れてな」

 

「終わり次第すぐに加勢する」

 

「なら終わったらすぐに帰ることになるぞ711」

 

 

 穴の底にある観測機、そこにたどり着いた俺は目標に取りついて、データの吸出しを始める。

 

 

<もう逃げられんぞ貴様ら、この観測所から生きて帰れるなどとおもうなよ……!>

 

 

 もちろん高機動型LCはそれを許さない。

 

 明らかにその銃口はデータ吸出しの有効範囲内しか動けない俺を狙っていた。

 

 有効な手だ。

 

 俺はせめてもと観測機を間に置くようにして身を守ることに集中するが、敵の機動性も相まってこのままでは良い的だろう。

 

 

「やっとこっちに来やがったぜ、これでようやくぶっ叩ける」

 

 

 いや、712が相手でなければその狙いは実に有効だっただろうというべきか

 

 

 空を飛び回るLCに正確な一撃を加えられ、敵は初撃で当てるとは思っていなかったのか、驚いたようにブースターを吹かす。

 

 

 その機動性を活かして離脱可能な中遠距離から敵を圧倒するのがこのLC高機動型の基本運用なのは見て取れる。

 

 相手はその機体構造の特性に従ってこちらの不意を突こうとしているのだろうが、残念、相手が悪かった。

 

 奇策抜きの純粋な中距離間の撃ち合いで712に挑んで勝てたことなど俺の記憶にはない、俺は余計な援護射撃はせずに弾薬を温存し、反撃の機会をうかがった。

 

 

<この機体についてくるだと……!>

 

 

 敵が止まった俺を撃破することに囚われる限り、712は自身の有用性を最大限発揮できる距離で敵の装甲を削り続ける。

 

 いっそ俺に対して接近戦を持ち込めばいいと思うが、敵の機体は高性能ゆえの盲点なのか、距離を取ることに固執し続けているようだ。

 

 

 敵の動きに焦りが見える。

 

 当然だ。自身の装甲が一定の速度で、確実に限界に近づき、彼我の天秤が傾き続けているのだ。

 

 相手には確実な敗北の予測が立っているに違いない

 

 

 <くっ……、これ以上は限界か……!!>

 

 

 敵が翻そうとする。

 

 

 そのチャンスを逃さずに、俺は肩武器を放った。

 

 敵も俺を忘れていたわけではないだろうが、今まで息をひそめていたこちらの挙動に僅かに動揺がみえた。

 

 

「っち、余計な真似すんじゃねぇよ」

 

 

 俺の射撃は当たらなかったが、その隙を丁寧に拾った712の一撃は、敵の姿勢を完全に崩した。

 

 

<たかがAC、ごときに……! コード65E……、送信……>

 

 

 712の次々に放たれる弾幕に俺の援護射撃が加わり、敵の高機動型LCは爆散した。

 

 

「……データの奪取完了、712行くぞ」

 

 

 俺は通信を行いながらも足を止めず、712もそれについてくるが少しむくれた様子だ。

 

 

「最後にケチがついたな、気分よくやらせてくれってんだ711」

 

「悪かった。だがこちらの方が早いし確実だった。あのまま距離を離されてついてこられても手間だろう?」

 

 

 敵の防衛部隊は全滅、道に転がる残骸を見送り、そこから立ち上る煙と共に撤退する。

 

 

「まぁ、手早く終わった。さっさと帰投するか」

 

「増援の可能性がある。まだ気を抜くな712」

 

「つっても、企業共のたてた作戦予定時間は半分切ってやったんだぜ、こっちの出した予想援軍到着時間も余裕だ」

 

「可能性はゼロじゃない」

 

 

 正直、作戦結果は上々だ。

 

 封鎖機構の高機動型LCを見た時は流石に緊張したが、上手く対処したといえる。

 

 ルビコンにきてから俺達の実力が伸びていることは純粋に嬉しかった。

 

 

「相変わらずかてぇな、追加報酬を交渉してもバチは当たらねぇぐらいに仕事は順調だったろうが」

 

「……まぁ悪くはなかった」

 

「へっ、だろ? やっぱりテメェと組むとかみ合うぜ、前言ってたが自由になったらやることねぇんだろ? だったら俺と組んで……」

 

 

 ちょうどこの坂をもう一回りすれば地表にでられる。

 

 712と周りを警戒しながら進んでいる時、レーダーに反応が二つ出る。

 

 隠れようともせずに穴の上に二機、それもおそらくACと思われる反応があった。

 

 

「712……、やはり気を抜いて調子に乗るべきではなかったな」

 

「オレのせいではねぇだろ、……仕方がねぇやるぞ711、さっきのじゃ消化不良だった、さっさとコイツらを……」

 

 

 暴れたりなかった。

 

 そう言いたげに712は笑うが、途中でその言葉を止める。

 

 

 

<犬どもが穴の底から這い出してきたようだな>

 

<へぇ、もう来たのか……、今期のハウンズはやるな、俺もやりあいたくなってきた>

 

 

 封鎖機構の援軍がACとは不自然だ。

 

 しかし、その以前一度聞いたことのある声を耳にして俺は気づいてしまう。

 

 

<契約は守れ異常者、破るならお前への報酬は達成されないものと思うんだな>

 

<まぁ、勿体ないが片方は前にやった。仕方がない見てるだけにするか…… >

 

 

 

「……711、ハンドラーに状況を送れ、あの野郎! 前に話したイカレ野郎だ……!!」

 

「もう送った。3分で来るそうだ。……俺も隣の奴の声に、どうやら聞き覚えがある」

 

 

 敵は以前に出会ったことのある者達。

 

 一人は俺に趣味の悪い通信を送ってきた男、もう一方は712が撃墜されかけた男だ。

 

 

<また会ったな犬、悪いがお前らはここで死んでもらう>

 

 

 敵が一機のみで降りてくる。

 

 

「気を付けろ711、上のあいつは相当の手練れだ。もう一方も……、噂が確かなら相当やるぞ……!」

 

「あぁ……、二人で当たるぞ」

 

 

 こちらに接近する敵、ならばもう一方は後衛かと警戒するが、なぜか上の一機は距離を離したままこちらを見降ろしている。

 

 

「一機で俺達を相手にするつもりか……?」

 

「気に食わねぇな……」

 

 

 意図は不明だが、二人がかりでこちらに仕掛けてこないなら遠慮はしない、このまま数の優位をもってあたるだけだ。

 

 

 敵の機体は逆関節に実弾系のライフル、肩にはプラズマミサイルと実弾系のランチャーを乗せていることがうかがえた。

 

 装備も良く、堅実な構成、対ACを意識した装備を固めている。

 

 おそらく空中戦で射撃を加え、確実な隙を見せたなら肩のランチャーで仕留める気なのだろう。

 

 

 

「712二人で追い込むぞ」

 

「はっ、上に陣取るつもりなら俺が撃ち落とすだけだぜ」

 

 

 

 敵はブースターを使わずその足で斜面を器用に蹴りながら近づいてくる。

 

 精緻な機体操作にその操作技術の高さがうかがえた。

 

 噂に違わぬ強敵、時間稼ぎのつもりでやり合う余裕がある相手とは思わない方がいいだろう。

 

 

 敵は距離を取りながらプラズマミサイルをこちらに打ち込んでくる。

 

 712が反撃の射撃を行っているが悠々と避けらている様子を見るに遠距離での撃ち合いはこちらの消耗にしかならない。

 

 

「っち、このせめぇ道で避けづらいもん撃ちやがって……!」

 

 

 この道の狭さにただでさえ避けにくいが、敵は空中を自在に使える。

 

 ライフルの範囲内に誘い込んでいるつもりだとしても勝負に乗るしかない俺達は接近を試みた。

 

 

<ククク……、同情はするが飼い主を恨むんだな>

 

「くっ……」

 

 

 何とか懐に潜り込もうとするが、敵の立体的な機動力でなかなか近づけない、なにより712と協働させないための位置取りが上手い

 

 なんとか712の方に追い込もうとするが、一対一の距離を維持し続けている。

 

 

「オラァ! 落ちやがれってんだ!」

 

<そこそこやるようだな、だがそれだけだ>

 

 

 敵は狙いすました712の射撃を紙一重で躱すと、逆に砲撃を行う。

 

 なんとか、機体をずらしたが、712の頭部は、その衝撃ごと吹き飛んでいた。

 

 

「グッ……、テメェ!」

 

<粗野なようでいい狙いをする……、この感じはⅠg型か、……今までのよりは上等だが不憫なことだ。ここで死んでしまうとは>

 

「あ゛ぁ゛! 何言ってやがる!」

 

 

 勝負の均衡はギリギリ……、いや、こちらが幾分か劣ってる。

 

 攻撃が効いていない訳ではない、決定的な隙さえあれば仕留められる可能性はある。

 

 ……だが、二人生きてというのは、高望みと言わざる得ないほど、目の前の敵は強かった。

 

 

<へぇ、今のよく避けたな、前より動きがいい、腕も上げてるがそれだけじゃないな、あぁ……、隣の奴か?>

 

 

 勝負の最中、上にいるもう一機が、まるで観戦してるかのように呟く。

 

 

「あぁ!? テメェも余裕こいているんじゃねぇぞ!」

 

「712、目の前の敵に集中しろ……、いいか? “目”の前に集中するんだ」

 

「……あぁ」

 

<ククク……、まるで狂犬だな>

 

 

 言葉とは裏腹に712の動きは冷静だ。

 

 その表層は怒っているようで何時だって芯は理知的な男であると知っている。

 

 

「もう一度俺が抑える」

 

<また同じことの繰り返しか?>

 

 

 突出する俺へ712は援護射撃を行うが、頭部のセンサーを失った機体ではめくら撃ち

 

 それでも直撃する弾もあったが敵は容易に避ける。

 

 

 俺は相手に何とか接近しようとするが、相手は逆関節の脚部の地面を蹴ることで生まれる瞬発力を十全に生かし避け続ける。

 

 

<……お前もなかなかしぶとい、上手く育った猟犬のようだが……、解せんな……>

 

 

 ひたすらにブースターを吹かし、同じく壁面を使って何とか近づこうと必死な俺に敵は語りかけてくる。

 

 

<お前は誰なんだ?>

 

 

 突然の問いかけ、しかし、この高速戦闘で白んだ俺の集中はそれに答える余裕はない、なにより……

 

 

「いい追い込みだぜぇ……711」

 

 

 このチャンスに712と俺は全神経を集中させていた。

 

 712の正確な射撃が次に踏み込む予定だった足場を崩す。

 

 

<センサーなしで当ててくるだと……!?>

 

 

 俺達、ハウンズは共通のヘッドパーツを使用し、協働を前提に情報も共有もできるため、712は俺のセンサーを簡易的に使用できる。

 

 もちろんそれで当てられるほどの技量を俺は持っていないが712は別だ。

 

 

「当たらねぇと高をくくったなバッタ野郎……! やれ!711!」

 

 

 既に態勢を崩した敵に向かって突貫した俺はレーザーソードを胴体に叩きこむ。

 

 

<グゥッ……!>

 

 

 俺の攻撃は半ばまで当たった。

 

 しかし、敵は避けられないとみるや、逆に俺の機体へ逆足を向けると、その脚力でこちらの機体ごと後ろに押し出した。

 

 

「ガハッ……!」

 

 

 機体にかかる衝撃で少なくないダメージを受けながら俺は吹き飛ばされる。

 

 

<……なめるなよ>

 

 

 俺の斬撃を敵は上手く反らしてコアのバイタル部は避けたようだが、少なくないダメージを受けたようだ。

 

 動きのキレが悪い、胴体側面のブースターがいかれたと見ていいだろう。

 

 

 

 互いに痛み分け、しかし相手の優位性であった機動力に陰りが出始めた。

 

 

 勝ちの目は十二分にある。

 

 

 一瞬の膠着状態の中、聞こえたのは楽し気な呟きだった。

 

 

 

 

<あぁ一方の目を使ったのか、なるほど、そういう動きもあるのか、面白い……>

 

 

 まるで独り言のような呟きは、この戦場で異常さを際立たせる。

 

 

<お前たちの戦い方、まさに複数なのに一匹の猟犬という感じだ……、この地の底で多頭の番犬というのがおもしろい……>

 

「クソッ……!」

 

「っち、来やがるのか」

 

 

 戦いの最中、上に居た敵に動きが見える。

 

 この均衡を明らかに崩す敵の援軍に対応する手は俺達にはない

 

 

 だが、その俺達にとっての死の宣告に異議を唱える者は意外な所から現れた。

 

 

<こっちを見るな、こいつらは俺の獲物だ>

 

<あぁ、そうだったな>

 

 

 そう言いながらも、上の敵は全く意に介した様子もなくこちらに向かって動き出そうとしている。

 

 

<貴様……、やはり獣に言葉など通じんか、もういい、やはりお前は危険だ。殺してやるぞ>

 

<あぁ、このままやりあいたいな……>

 

 

「クソが! 訳分かんねぇことほざきやがって!」

 

「……場合によっては三つ巴で戦うことになるのか」

 

「上等だイカレ野郎ども、纏めて鉄くずにしてやる。いくぞ711ィ!!」

 

 

 目まぐるしく変わる状況

 

 敵の仲間割れでさらなる混沌に陥ろうとしていた戦場で

 

 

 

 

『711、712、無事か』

 

 

 

 ハンドラー・レイヴンは現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反応は劇的だった。

 

 

〈危うく一番面白い所を逃すところだった〉

 

〈相変わらずだなハンドラー・レイヴン、また犬を飼ったようだが、何度でも殺しに行ってやる〉

 

 

 俺達のハンドラーへの生存報告に先んじて、二機の通信が重なる。

 

 

 それに何の返事を返すことなく、ハンドラーは俺達に向かって加速した。

 

 

〈ん? あぁ、じゃあやろうか〉

 

 

 無視された形となった敵は、それに気分を害することなく並走する。

 

 

 そこからの動きは……、次元が違うとしか言いようがなかった。

 

 

 目の前の敵に集中しながらも、後ろで繰り広げられる戦闘に目を奪われかけてしまう。

 

 

〈いいぞ……もっと、もっとだ……!〉

 

 

 思えばハンドラーの戦いというのは常に余裕があった。

 

 敵を圧倒する上で、優雅とさえ言える余裕が、それが隔絶した実力差ゆえにおこっていた。

 

 だがもしも、ハンドラーに届きうる刃、ハンドラーの敵足りうる存在が現れた時どうなるか

 

 

 つまりハンドラーの本気とはどれほどのものか

 

 今、それが目の前で繰り広げられている。

 

 

〈おい、よそ見をする余裕があるのか? まぁ……分からんでもないがな〉

 

 

 お互いがお互いの物理的死角、意識的死角に潜り込み、確実に息の根を止めようとする殺し合い

 

 目まぐるしく変わる位置でお互いを決して見失なわず一撃を与えるための高速戦闘

 

 優雅さなど欠片もなく、互いに喰らい付く様は、傍から見れば触れるもの全てを削りとる嵐だ。

 

 

<さて、足止めの囮が生きてるうちに貴様らを殺さねばなら……>

 

 

『C4-621 これよりハウンズに合流する』

 

 

 機械の肌を震わせるような轟音の後、いくつかの爆発音が響く

 

 

<……あれだけ息巻いて、時間稼ぎにもならないとは……>

 

 

 後ろで敵の機体が達磨のように転がっている。

 

 

「……あれ、マジで使う用だったのかよ……」

 

 

 あんなもの、誰が使うのだと笑い合い、きっと無駄に武器を揃えるハンドラーの収集趣味だろうと話し合っていたあの規格外の兵器

 

 

 そんなバカげた杭打ち機がきゅらきゅらとネジ回しのように射出機に戻されていく様をただ茫然と眺める。

 

 

<犬を殺した後に貴様に消えてもらおうとも思っていたが、……フン、手間が省けた>

 

 

 無謀だ。

 

 そう思った。

 

 俺たち二人に手こずるようじゃ、目の前のこの人は絶対に倒せない、先ほどの敵でさえ飛びぬけた実力者であったはずだ。

 

 

 なのにハンドラーには勝てない。

 

 

 目の前の男もそんなことが分からないわけではないだろう。

 

 

「……お前に、いっても無駄だろうが、ハンドラーは本物のレイヴンじゃない、その名前は偽物だ」

 

 

 つい出てしまった言葉、感傷ですらない空虚な言葉だ。

 

 

「知ってるさ、だがな、こいつがレイヴンの火を起こした紛れもない偽物だ」

 

「なに?」

 

「頭のめぐりが悪い奴だな、こいつは偽物の名前でルビコンを燃やしたんだ」

 

「それは」

 

 

 

 

 次の瞬間、機体が吹き飛ぶ。

 

 胴の下から突き上げるように打ち出された杭は、ACのフレームを容易に歪ませ、はるか遠くに吹き飛ばした。

 

 

<ククク……、どうしたハンドラー……、なにをいまさら……、いや、そいつ……、はっ、なるほどな、お前がそうか>

 

 

 先ほどのように逆脚で衝撃を殺したのか、まだ息のある男は俺に向かって絞り出すように呟いた。

 

 

<……犬、この飼い主は止めておけ……>

 

「お前は一体……」

 

 

『奴の言葉に構うな711』

 

 

 ハンドラーはそのまま帰還するつもりなのか、そう一言だけ言って穴の出口へと振り返る。

 

 

 その背中に声をかけるように、息も絶え絶えに男は問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、教えてくれハンドラー・レイヴン、俺はスッラだったか? アンタは俺から何かを分かることが出来たのか?」

 

 

『なにも』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンドラー・レイヴンには謎が多い

 

 

 いや、というよりはあの人は謎を生み出すための情報が余りにもないというべきなのだろうか

 

 人が生きる。

 

 そこに理由や意味など求めても仕方がないとは言えど、人間である以上、好き勝手にそれを定め、各々生きていくものが人間である。

 

 

 だが、ハンドラーは……

 

 

 

 

 

 

 

 ハンドラーのいるモニタールーム、そこに俺達3人は揃っていた。

 

 

 

 作戦中のことについて聞きたいことは山のようにあった。

 

 

 本物のレイヴンであったハンドラーの目的、敵がこちらに投げかけた謎の数々

 

 その言葉の一つ一つを確認していくと、ハンドラーはただこのルビコンにコーラルを求めて来た訳ではないと、俺でも分かる。

 

 

 なぜコーラルを灼いたのか、どうしてまたルビコンに訪れたのか、敵が俺達のことを知っているのは何故なのか、他にももっと疑問は尽きない

 

 

 そして俺達の議論が白熱し、言い争いになってかなりの時間が経った時

 

 俺達の足は自然とハンドラーの元へと向かっていた。

 

 

 ハンドラーは無言の俺達を見ても、いつもの灰のような色のない目をこちらに向けるだけだ。

 

 

 当然一番に聞いた。

 

 本当にコーラルを灼いたのはハンドラーなのか

 

 

『そうだ』

 

 

 あまりにもあっさりとした物言いに、なにかハンドラーには理由があったのではないかと問うと

 

 

『理由はない』

 

 

 星系ごと灼き、星々に致命的な汚染をまき散らしたとされるその主犯は事も無げにそう言い切った。

 

 

 

 

 712はハンドラーの意味を理解しようとした。

 

 

「おい、ハンドラー、テメェ何で戦ってるんだ?」

 

『理由はない、これ以外の方法を知らない』

 

 

 

 713はハンドラーの意味に共感しようとした。

 

 

「人は過去の積み重ねの思いで今がある。あなたにはそういった自分を動かす熱はないのか?」

 

『改造前の記憶はない、改造後は特定の記憶に執着する感情がない、思いはない、記憶という記録だけがある』

 

 

 

 

 

「しかし、ではなぜ俺達に意味を与えようとするのでしょうか?」

 

『そうされたから』

 

「それはあなたが、俺達にそうしたかったということでしょうか?」

 

『違う』

 

 

 

 俺はハンドラーに意味を問いかけた。

 

 

 

「では俺は聞かなければいけない、貴方は俺達に何をさせたいのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   感情の無い強化人間C4-621はどうしても分からなかった。

 

   自身が選択したと言われてもその意味も価値も知らなかった。

 

   それを理解するのに必要な感情は既に燃え尽き灰となっていた。

 

 

 

            ならばどうするか

 

 

 

 

 

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