この世界には2種類の人間がいる。
純粋に猿から進化した人間と、クローン技術によって作り出された獣人だ。
獣人は簡単に言えば強化人間のようなものだ。人間をベースとして他の生き物の遺伝子を改良して組み込み、普通の人間には無い性質を持たせる。最初は軍が始めた実験のひとつだった。
目的は純粋なもの。効率よく人を殺せるようにするため。
いくら訓練された兵士でも所詮は人間だ。本来もつ人の力以上のものは出ない。兵器も進化していくなか、それを扱う人も進化するべきだと。
実験は様々な動物をベースとして行われた。身体能力の高い猫やイヌ科の動物、毒を使えるようにするためにヘビなど、空からの奇襲を行えるように鳥。
しかし実験を進めていくと問題が発生した。それは知能だ。そもそも頭が良くなければ兵士としては使えない。とても案配が難しい実験だった。ある実験体は言葉を発することが出来ず、またある実験体は暴走し殺処分。そういうのがしばしばあった。
軍が実験を始めて1年、ようやく最初の獣人が完成した。狼の遺伝子を組み込んだ人間だった。知能は人間と同等で身体能力は人間とは比べ物にならない。対物ライフルを手持ちで撃てるほどだった。
軍はそれをすぐさま戦闘に投入し、最初の作戦で優秀な戦績を納めると、どんどん獣人を作り戦場に送り込んだ。
この実験は成功したも同然だった。普通の歩兵ではなし得ない作戦をこなし、失敗はほとんどなかった。コミュニケーション能力もあり、他の兵士ともすぐに馴染むことができた。獣人の活躍により国に帰れる兵士も多くなり、国のなかでは実験に反対するものはほとんどいなかった。
戦争が終わり、帰ってきた獣人は軍からの支援により普通の生活を送ることが許された。あるものは人間と結婚し家庭を築き、あるものは趣味に明け暮れる、普通の人間と変わらずに生活し始めた。
それから十数年経ち、平和な共存が続くと思われたがそれは続かなかった。
ごく一部の人間は獣人を好ましく思っていなかった。つまり差別があった。昔黒人がそうであったように普通の人間と特徴が違う、それだけの理由で学校や職場で差別を受けていた。追い込まれ疲弊した一部の獣人は居場所を失い、犯罪に走るようになった。ニュースでは獣人が犯罪を犯し逮捕されると大袈裟に報道することもあった。
十数年で獣人は世界中に散らばったが、行く先々でやはり差別はあった。自分達より優れているという妬みが差別をより加速させていき、ニュースで獣人が捕まるのを見て自尊心を満たす、そういう世界になっていた。
場所は変わり日本の東京都。日本も例に漏れず獣人の差別が普通にあった。東京では獣人がスラム街を作り、そこで肩身の狭い生活をしていた。ひねくれものも多かったがその街の中だけは獣人達が安心できる場所で、皆が助け合いながら生活していた。
「腹減ったな…」
私はかなん、獣人だ。狐種と狼種のハーフ。生まれたときからこのスラム街にいる。コンクリートとトタンだらけの町。とても狭いけど活気に溢れている。みんなが助け合いながら生活している。生活はこの中でなんとか成り立っている。商人が命懸けで物流を確保しているから…らしい。街の外で買い物ができないわけではないけど、外に出ると人間が睨み付けてくるし、時には過激派がいてリンチに合う。だから一部の人以外は外に出ない。
そう、私みたいな一部の人以外は。
スラム街は全体的に生活水準が低いが、その中でも底辺がある。それは孤児だ。稼ぎもなくちゃんとした家もない。1日生き延びるのが精一杯だ。孤児のほとんどはリスクを背負いながら生活している。街の外で盗みを働き、お金と食料を確保する。そうでもしないと生きていけない、街の中でも。 何人かは体を売ってるみたいだけれど、私は嫌だ。本人はかなりいい生活をしているけど、それが羨ましいとは思わない。人間に犯されるくらいなら死んだ方がましだ。
ひとまず外に出ることにする。今日の目的はお金の確保だ。財布を盗りやすそうな奴を見つけて盗る。当たりがよければ1ヶ月は困らない。フードをかぶり、耳が隠れるようにする。なるべく顔も見えないようにしておく。手袋もして盗ったものに指紋も付かないように。移動もなるべく目に付かないように。
路地の影から通りを見る。盗りやすいのはふらっとコンビニに買い物に行くような奴だ。大体はポケットに財布を突っ込んでるのでやり易い。
っと、ちょうど良いのが来た。
「…あいつ間抜けそうだからあれで良いや」
私は静かにその通行人に忍び寄る。財布は後ろのポケットに刺さっているのを確認して、その財布を素早く抜いた。
「なっ?!」
「悪いな…っ!」
すぐさま持っていた鉄パイプで殴る。
「ぎゃあああああ!!!!!」
そして財布の中身を小銭紙幣全て盗る。
誰かしらがすぐここに来るだろう。すぐさま離脱する。逃げ切るまで安心できない。
立ち去った後ろの方から騒ぎが聞こえる。小走り気味にすぐ裏路地へ。路地も人がいる可能性があるので周囲に気を配りつつ逃げ続ける。街に入れるところまで逃げたらこっちのものだ。
「盗った感じそこそこの額盗れたと思うんだけどな…」
これで少なかったらほとぼりが覚めないうちにまたこれをやるようだ。そうなるとかなりリスクがある。
…ひとまず逃げきることは出来たようだ。あとは下水道を使って町に戻るだけ。中は臭いけどこうすれば足は付かない。ペンライトで照らしながら汚水に足をつっこまないように進んでいく。そして街の真下を示すマーク(手書き)のところから上がる。
これで稼ぎが終了だ。最後に額を確認する。
「5…6…7…8…っと、とりあえず8000円か。上々だな」
今回はそこそこ稼ぎがよかった。しばらくはこういうことをしなくて良い。
これが私の日常だった。外で金や物を盗み、それで食べ物や生活必需品を買い、雨風が凌げるところで眠る。生まれて15年間これが当たり前だと思って生きてきた。気づいたころには親は居なかったし、周りも同じような環境だったからなにも疑問に思わなかった。
これが我々“人外”の生き方。かつては同じように共に生きてきた人間から迫害され、人間ではないと差別され、ゴミ溜めに押しやられた人間もどきの人生。
続きは未定だぜ