璃月の奇人   作:喫茶

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一話

――璃月には、一人の奇人がいる。

 

 

曰く、彼女は馬より早く走る。

 

曰く、毎日のように部屋を爆発させる。

 

曰く、尻尾と獣の耳が生えている。

 

 

有名なものだとこのあたりだろうか。無論、奇人と呼ばれるほどなのだから、言おうと思えば噂などいくらでも出てくるだろう。

キリがないので今回は割愛させてもらうが。

 

とにかく、これはそんな彼女の話である。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「君と食事をするときは、君はいつもそれを頼んでいるねぇ。

本当にそんなに美味しいのかい?その……、エビの何とかっていうのは」

 

「エビのポテト包み揚げ、ね。まあ、かなりいい味ではあるわ。これがエビの最も正しい調理法であると思うくらいにはね。」

 

「はっはっは、料理に正しいことなんて存在しないと思うがね」

 

「まあそうね。……でも料理にも間違いがあることは分かるわ。例えばそう、あなたが作った蛍光色に光るサラダとかね。

あれならまだ酸っぱい杏仁豆腐のほうがましよ」

 

「全く、ひどい言い方じゃないか、それにあのサラダは意外とイケる味だったぞ?」

 

「あれを食べたの!?……やっぱりあなた頭おかしいんじゃない?

あと問題は味じゃなくて見た目だから。あんなんじゃ食欲が全く湧かないのよ」

 

「ま、もともと効率的に栄養を摂取するために作ったものだったからねぇ。見た目には期待していないさ。

結局のところ普通に食べたほうが早い気がしてきて実験は中止したんだが」

 

「やっと気づいたのね。……たまにはこうやってしっかり食べないと、体に悪いわよ?」

 

「おや、ご心配ありがとう。

……それでは食べ終わったことだし私はこれで――」

 

「待ちなさい。話はまだ終わっていません。

いつも言っているし、あなたも分かっているとは思うけど、

…………あなたの部屋の爆発、どうにかできないものなの?」

 

 

そう言われ、今立ち去ろうとした彼女が、分かりやすくめんどくさそうな顔をした。

 

 

「はあ、爆発したことの被害はしっかり自分で払っているし、他人にも迷惑はかけていないからいいだろう。

もっともそのせいで私は常に金欠だがね?」

 

「そういう問題じゃないの。近隣住民の騒音被害はもちろん、そんな爆発が毎日のように近くで起こっていたら安心して生活できないのよ?」

 

「璃月七星の玉衡様は、そんなことにも口出しをするのかい?今は私の金欠だけで済んでいるから良いじゃないか」

 

「これは璃月七星として、でもあるけれど、一人に友人としての忠告よ。

素直に受け取ってくれるとありがたいわね。……期待はしていないけど」

 

「そもそも私だってやりたくて実験を失敗させているわけではないし、爆発させたくてさせているわけでもないさ。

ま、前向きに検討はしておくよ」

 

「まあ分かっていたけれど残念ね。

それじゃ、私も仕事が残っているからこの辺で帰らせてもらうわ」

 

「私にはいつも休めと言ってくるくせに、君も人のことを言えないんじゃないか?

そんな仕事漬けの生活をしていたらいつか本当に倒れてしまうよ?」

 

 

そうね、お互い様だわ、といって彼女は去っていった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

帰り道、彼女は一人の男に絡まれていた。

 

「なあ、俺ともっと楽しいことをしないか?」

 

「ははは、断る!」

 

「君はいつもつれないね、そんなに早く断らなくてもいいじゃないか。

まだ内容すら言っていないだろう」

 

「これだけ何回もさそわれていたら、君が次に何を言うかくらいわかるさ」

 

「ふむ。それでは…………俺と勝負をしないか?」

 

「断る!」

 

「はは、残念だな」

 

 

最も、男に絡まれているとは言っても、ナンパではなく、ただの一般通過みんなのお財布戦闘狂タルタルに勝負にさそわれているだけだが。

 

 

「君からは強者の匂いがする。きっと俺も満足できる、素晴らしいひと時になると思うんだが」

 

「そんなひと時はきっと来ないから安心してくれたまえ」

 

「ま、まためげずにさそうとしようか。じゃあな」

 

「ああ、私はもう会いたくないがね」

 

 

流石にひどいなあ、と笑いながら走っていく男。

その後ろ姿を見て、彼女はこう呟いた。

 

 

「そういえば彼、なんて言う名前なのだろうねぇ?」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

彼女の家は、璃月港を見渡せる場所に位置する一軒家である。

璃月は地価が高く、一軒家というだけでもかなり高いのだが、その上この立地である。この家の持ち主はある程度の富裕層であると考えるべきであろう。

実際は持ち主である彼女は入ってくる金も多いのだが、実験失敗の爆発の修繕費等で出ていく金も多く、常に金に困っているのだが。

 

閑話休題。

 

とにかく、彼女はその家に帰ったのである。しかし、ここで問題が一つ発生していた。いつもならこうしてたまの外出から帰ってくると、朝まで実験を続け、何なら二徹、三徹は当たり前、といった感じで起きているのだが、その行為を行えなくなるような存在の出現である。

 

 

「あ~!やっと帰ってきた!もー、遅いよタキオンさん!」

 

「いや、ここは私の家だし、そもそもどうやって入ってきたんだい?」

 

「え~、そんなのどうだっていいでしょ!タキオンさんはほっておくと何日も寝ないから、私が寝かせに来てあげたの!」

 

「君はそういって一週間に一回は来るねぇ。まあいいさ、今日はしっかり寝ることにするよ」

 

 

どうやら彼女は諦めてちゃんと睡眠を取ることにしたようだ。もう客のほうも食事をとってきたらしく、あとは風呂に入るだけのようである。

しかし客のほうは彼女と話すのがよほど楽しいのか、もう何分も最近あったことを話している。

 

 

「それでね~、香菱ってばまーた変な料理作ってたんだよ?確か料理の名前は“カエルと夕暮れの実のソテー、スライムゼリー風味”だったかな?

まあ“清心とスライムの液体の炒め物”よりはおいしそうだったけど。」

 

「彼女の料理は基本美味しいんだがねぇ。たまにとんでもない料理を作ってしまうんだよねぇ。

……それと堂主殿、こんな頻度で来ていて、仕事のほうは大丈夫なのかい?」

 

「だいじょーぶ、だいーじょーぶ。最近新しい人が入ったからね。ちょっとくらい私がいなくても往生堂は回るはずだよ?」

 

「新人育成でより大変そうだが……まあいいか、そろそろ風呂に入らないか?」

 

「入る―!」

「では、君が一番風呂で――」

「やだ!一緒に入るの!」

「ええー、別に二人で入っても――」

「絶対ヤダ!」

「…………しょうがない、じゃあ一緒に入ろうか」

「やったーーー!ふふふ、よし早く来てー!」

「全くもう、そんなに急がないでおくれよ。

……何がそんなに楽しみなんだか」

 

 

どうやら、堂主と彼女は一緒に風呂に入ることになったようだ。

 

 

「あ、タキオンさんそのゴーグルみたいなやつ外しちゃいなよー、

お風呂まで付けていく意味はないでしょ?」

「ああ、これのことかい?これは実験の時に目を傷つけないようにつけているんだがねぇ、

めんどくさくて外してないだけだよ」

「見えにくそうだけどちゃんと見えてるの?」

「ああ、黒くて視界が悪そうに見えるが、こっちからはちゃんときれいな視界になっているさ」

「へぇー」

「ははは、興味なさそうな返事だねぇ。ま、目を守ることは大事なことだからねぇ、いつも付けていてもいいだろう?」

「うーん、でもタキオンさんせっかく綺麗な顔なのにもったいないよー」

「まあいいじゃないか、早く入ろう」

「うん!」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ねえタキオンさん、起きてる?」

「ああ、どうしたんだい?」

「……明日の朝、一緒にご飯食べに行かない?」

「外に食べに行くということかい?別に構わないが……」

「よし!決定!じゃあおやすみなさーい」

「ええ……」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

朝。所謂一日の始まりといったものだ。

 

璃月の朝は早く、商業の街と言うのだから、日が昇りきっていない明け方の頃から既に人は働き始めている。

 

まさに勤勉、といったところだろうか。最も、働きすぎで倒れそうな半仙や紫髪の七星には休んでもらいたいものだが。

 

しかしこの一軒家の寝室にいる二人というと、だらしない姿で寝ている。

 

どれくらいかというと、小さいほうは大きいほうに抱き着いて涎を垂らして寝ている。なにか「ぜぇいん、あにょよゆきぃ~」とか言っている。実に幸せそうな笑顔である。

 

大きいほうはというと、一般的には美しいと言われるであろう茶色の髪を寝ぐせでボッサボサにし、ダボダボの服を着ながら眠っている。風呂に入ってから髪を乾かさずに寝るからである。仮にも乙女としてどうなのか。

 

おや、大きいほうが何やら起き始めたようだ。

 

「う~ん、あと30分……」

 

もう昼前である。朝と言えるかも怪しい。普段からしっかりと寝てほしいものだ。

 

しかしこの璃月の朝に似合わない二人は、朝食を食べる約束をしたはずなのだが、どうやら昼食になりそうである。

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