璃月の奇人   作:喫茶

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二話

「もー、タキオンさん起きるの遅い!もうお昼じゃん!」

「すまないねぇ、だが君も起きられなかったのだろう?

かく言う君もあまり寝ていなかったんじゃないか?」

「うぐっ…………ま、まあ最近お仕事がちょーっと多くて……」

「はあ、もちろん仕事も大切だが、自分の体が一番大切だよ。

まあ私も人のことを言えるようなものではないがねぇ」

「はーい……」

 

 

やっと起きた二人だったが、約束通り食事を食べに行くことにしたようだ。

 

ただし朝食から昼食に予定を変更することになったが。

 

何故遅れたのか、それは寝坊、つまり普段からの睡眠不足である。

 

実験狂いの彼女はともかく、堂主のほうは仕事が多いのだ。

 

勿論サボっているというのもあるが。

 

ただそれを加味しても激務であろう。

 

璃月には仕事人間が多いのではないか?

 

そもそも璃月は商業の中心地であるわけなのだから、その璃月にある機関の上層部ともなれば、忙しくなるのは当然、自明の理であろう。

 

この堂主のようにサボることができるレベルならまだいい。

 

ただ某月海亭の秘書の如く、まさに自らの持てるすべての時間を仕事に使った上でさらに仕事をするような者もいるのだ。

 

……璃月の闇は深い、のかもしれない。

 

 

「あっ!…………フフフ、

……ねーねータキオンさん、あれ見てあれ!」

「おや、行秋君じゃないか、おーい、行あ──モゴッ」

「タキオンさーん、普通に声をかけるだけじゃ面白くないでしょ?

だからねー、ほらこれっ!これを使って悪戯しようよ~!」

「うん?何だいそれは?

……何やらヌルヌルしているようだが」

「これはねぇ~、昨日香菱が作った“カエルと夕暮れの実のソテー、スライムゼリー風味”の余り物のスライムの液体なんだー!

…………これをあの坊ちゃんの背中にぶち込んでやろうよ!」

「おや、急なことを言うねぇ?というか流石にひどいんじゃないかねぇ?

彼、何かしでかしたわけでもないんだろう?」

「いやいや、重雲がいつも行秋に悪戯されてるって聞くし、私が代わりにお返しをしてあげなきゃね!」

「いくら何でも無理があるだろう、それは」

「まーまー、理由なんてなんでもいいんだよ、面白ければ」

 

「成程、ところで、どうやって僕にぶつけるつもりだい?」

 

「えー?そんなのこれをぜーんぶあの坊ちゃ、ん…に……」

 

 

堂主が尻すぼみになりながら答えた。

 

どうやら悪戯の内容を本人に聞かれてしまったようである。

 

 

「ハハハ、声が大きすぎたみたいだねぇ。全部聞かれてしまっていたようだよ」

「えっ、とお……その、あ、あはは!今のは全部冗談だよ冗談!

だ、だからそんな怖い顔しないで……」

「嫌だな、僕はそんなに怖く見えるかい?

ふむ。タキオンさん達は、これからどこに行くんですか?」

「ああ、これから胡桃君と昼食を食べに行くところなんだよ。

昨日胡桃君が私の家に泊まったんだが、私も彼女も、二人とも昼前まで寝過ごしてしまってねぇ。

まだ朝食も摂っていないから、お腹が空いてしょうがない」

「成程、二人きりでお泊りか……フフッ、

…………じゃあこうしよう、僕も一緒に昼食に連れて行ってくれないか?

そうしたら胡桃、君のことを許してあげるよ」

「えっ!?……っと、その、それはちょっと困るかも……」

「おや、僕にあんなひどいことをしようとしておいて、そんなことも認められないのかい?

いいじゃないか、昼食くらい。

……タキオンさんもよろしいですか?」

「え?ああ、私は構わないが……」

「よし!それじゃあ行こうか!」

「あーあ、……せっかく二人きりだったのにぃ……」

「おや、何か言ったかい胡桃君?」

「な、何も言ってないって!」

「いやでも」

「ほんとに何でもないから!」

「ええ……」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

この男、ずっとニヤニヤしている。

 

いや、ニヤニヤ笑っているだけではない。なにか手帳のようなものにメモを書いている。

 

二人のほうを見、そして下を向いて手帳に何か書く。

 

その間、ずっとニヤニヤしている。もう気持ち悪いくらいニヤニヤしている。

 

そして、新しく面白いおもちゃを見つけた子供のような様子である。ウッキウキである。

 

 

「なあ行秋君、さっきから一体何を書いているんだい?

あと何故そんなに笑っているのかい?」

「ふふふ、お気になさらず」

「行秋お坊ちゃん、さっきからずっとニヤニヤしてて気持ち悪ーい」

「ふむ。……胡桃、君は自分の仕事の役に立つようなものを見れたら、嬉しくなるだろう?

これが正しい例えかどうか分からないが、近々葬儀を行う人たちがいる、だとか」

「え?うーん、まあそうかも」

「それと同じさ。僕は今、自分の小説に活かせる、最高のものを見ていたんだ。

そんなものを見たら、少しばかり頬が緩んでしまうのも、仕方のないことだろう?」

「だとしてもその顔はちょっと無理」

「僕としては最高の光景を見られているのだから何の問題もないさ。

……それに、君も彼女の隣に居れて嬉しそうだしね」

「うるしゃい!!!」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

さて、昼食を食べに行く三人が目指すのは、万民堂である。

 

璃月の下町・チ虎岩に位置するこの店は、この国でも有名な食堂であり、かなりの人気を誇る。

 

琉璃亭や新月軒といった高級料亭とは違い、所謂庶民料理を出す店であるが、その名物料理「黒背スズキの唐辛子煮込み」は、前述のような高級料亭に張り合える味であるという。

 

ちなみに余談だが、冒険者協会の斜向かいにある為、仕事帰りの冒険者たちがよく料理の匂いにつられてやってくるのだとか。

 

完璧な立地だ。

 

卯師匠、なかなかの商売人である。

 

 

「あ!タキオンさん、こんにちは!今日は三人で来たんですか?」

「ああ、そうだよ。私と胡桃君、そして行秋君さ」

「ま、ここのお坊ちゃんは私たち二人にくっついてきただけなんですけどね~」

「胡桃、僕が一緒に来れたのは、君の悪戯のおかげなんだけどね。

まあ未遂ではあったけど」

「ん?悪戯?未遂って……胡桃、何しようとしたの…」

「ああ、胡桃君が行秋君の背中にスライムの液体を入れようとしたんだがねぇ……

どうも声が大きすぎたようで、行秋君に聞かれてしまっていたようなんだよ」

「へぇ、……ってスライムの液体って、もしかしてあたしが胡桃にあげたやつ!?

もうっ!胡桃ったら、食材を遊びに使っちゃダメでしょ!」

「しょ、食材……?香菱、また変なのを料理に使ったのかい?」

「変なのじゃないし!ちゃんとした食材だし!

…………ま、まあちょっと失敗しちゃって、おいしくなかったけど。

と、とにかくタキオンさんと胡桃も食材だと思うよね!?」

「私は流石に違うと思うが……」

「香菱のそういうところ、早く治したほうがいいよ?」

「なんでよー!」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ところで君達、私が今から言う人物について心当たりはあるかい?」

「え、だれだれー?」

「僕の知っている範囲ならばお答えしますよ」

「ふむ。髪色は橙色で、見るからに高そうな服を着ている。

そしてムカつくほどのイケメンで、会うたびに戦いに誘ってくる戦闘狂なのだが、知っているかい?」

「それ、タルタリヤさんじゃないですか?確か北国銀行の資本家だとか何とか。」

「へぇ、そんなに偉い人なんだー」

「ふぅン、彼タルタリヤと言うのか。今度からは名前でも呼んであげようかねぇ。

……勝負は絶対にしないが」

「そういえば、戦闘狂って言ったら、この前料理修行の時、モンドですごい人にあったの!」

「すごい人って、どんなだい?」

「えっと、清泉町のブロックさんって人と料理対決することになったんだけどね、その時あたしのことを手伝ってくれた人なの!

とっても強くて、白い妖精みたいなのも連れてたんだ!パイモンちゃんって言うんだけど。

あ、それと料理も上手だったんだ!ま、あたしのほうが上手だけどね!」

「はいはいすごいすごーい。で?どこが戦闘狂なの?」

「それがね、急凍樹のせいで川が凍っちゃてたんだけど、それを見て彼女が『ふふふ、なかなか倒しがいのありそうな敵だね……!』って言いながら突っ込んじゃったんだ……」

「ええ……、大丈夫だったのかい?」

「実は、なんとそのまますぐに倒しちゃったんだよ……

倒した後も『はぁ、この程度か』って言ってたし」

「な、なかなか強烈な人だね」

「あと旅人だって言ってたから、もしかしたらモンドから璃月に来るかも」

「へぇ……その時は、私の実験に協力してくれたらうれしいねぇ」

「そ、それは無いと思いますけど……」

「まあいいさ、心に留めておくとしよう」

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