璃月の奇人   作:喫茶

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四話

――あの日、外は雨が降っていて、なんとなく気分が上がらない日だった。

その日も一年ほど先の仕事を執務室で片付けていたのだが、扉から慌てた様子で部下の一人が部屋に駆け込んできた。

 

「こっ、刻晴様!大変です!実は――」

 

その部下が言うには、帰離原の街道に宝盗団が現れたとのことだ。

ただの宝盗団ならば千岩軍を派遣すればそれで終わりだが、今回の宝盗団はそうはいかないらしい。

なんでも、その宝盗団はヒルチャールやアビスの魔術師、つまりアビス教団の者たちと手を組み、その街道を通る商人や旅人を襲っているそうだ。

帰離原と言えば璃月港と望舒旅館、さらにモンドともつながる重要な街道であり、そこをふさがれてしまっては璃月港に大きな影響を与えかねない。よって迅速に処理する必要があるが、アビス教団の者たちと組んでしまわれていて、一般の千岩軍では返り討ちにあってしまう。

そこで神の目をもち高い戦闘力を有する刻晴に白羽の矢が立ったというわけだ。

 

「成る程、状況は理解したわ。……それでは、今すぐにでも出発しましょう」

「了解しました!」

 

時は一刻を争う。今はまだ小さな被害しか出ていないらしいが、これで大きなキャラバン隊などが襲われてしまったら、隣国モンドとの外交問題にすら発展しかねない。

 

「……ところで、刻晴様お一人で行かれるつもりですか?」

「ええ、そうよ。……敵は非常に強力。中途半端な味方は逆に足手まといになってしまうもの」

「そうですか。……決してご無理はなさらない様にお願いいたします」

「分かっているわ」

 

いくら宝盗団とアビス教団が手を組んだとは言え、所詮は数が増えただけ。少し時間はかかってしまうかもしれないが、余裕で勝つことができるだろうと、その時はそう考えていた。慢心は失敗に繋がると、あれほど気を付けていた筈なのに。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

目的の場所まではすぐに到着することができた。帰離原は平原が多く、見晴らしが良い。

しかし、街道の両脇に、大岩などの障害物が有ることもあり、その辺りは宝盗団の絶好の隠れ場所となっていることだろう。被害が報告された場所の近くを中心に、そのような隠れることのできる場所を捜索することにした。

 

……すぐに見ただけでは分からないが、あそこの岩に元素の痕跡が確認できる。雨のせいで痕跡が消えかかってしまっているが、完全に消える前に見つけることができて良かった。

あそこから襲う相手を見極めているのか。とりあえず遠くから本当にいるのかを確認することにする。

 

「ギャハハハハ!あの商人の奴ら、こんなに金目の物を持ってやがった!」

「ああ、本当にな。……これも全部、アンタらのくれたあの装置のおかげだ」

「イヤイヤ、全テ我々ノ、ト言ウワケデハアルマイ。……コレモオマエラノ実力ガ有ッテコソノモノダロウ」

「はっ、嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか」

 

アビスの魔術師と宝盗団が話している。……装置、とは何のことだろうか。警戒しておこう。それに、たしかアビス教団とは地上の人間文明を憎んでいるとの話だったが……何故宝盗団と手を組んでいるのだろうか。宝盗団には文明が無いとでも言いたいのか。

 

「なぁ親分、ところであいつらは何してんすかね?」

「……俺もヒルチャールの考えていることは分からん」

「アア、今ハ雨ノ時ノ踊リヲ踊ッテイルミタイダナ」

「じゃあさっきの踊りは?」

「アレハ昼ノ時ノ踊リダ」

「なら朝踊ってたのは朝の時の踊りか?」

「イヤ、アレハ寝起キノ時ノ踊リダ」

「じゃあ朝の時の踊りはないのか?」

「寝起キノ時ノ踊リト朝ノ時ノ踊リ、ドチラヲ踊ルカハヤツラノ気分シダイダ」

「へぇ……」

 

奴らの後ろにはヒルチャール達もいる。それも数も中々多い。

 

「厄介ね……」

 

さて、どう攻めるか。やはりまずはヒルチャールの司令塔であるアビスの魔術師から攻めるか。それとも――

 

「おい嬢ちゃん、こんなとこで何してんだ?」

 

慌てて後ろを振り向くと、そこには宝盗団の男が立っていた。まずい、後ろを警戒していなかった。

 

「なんでここに――ってその見た目、アンタもしかして七星の玉衡か?」

「ええ、そうよ。私は刻晴。……あなた達を捕えに来たわ」

 

まあいい、多少不意を突かれたが、このまま戦ってしまえば良いだろう。

 

「はッ、玉衡様がこんな田舎にわざわざ来やがってご苦労なこった!おいお前らぁ!俺たちのために七星の玉衡様が来てくれたぞぉ!」

「おう!今までの千岩軍の奴らじゃ弱すぎてつまらなかったからな、ちょうどいいぜ!おいアンタ、装置を起動してくれ!確かあいつは雷の目だ」

「了解シタ」

「私の神の目?一体どうして――」

 

そう考えていると、アビスの魔術師が小さな杭の様なものを取り出し、地面に突き刺した。すると、辺りに炎が立ち込めていき、赤く染まっていく。

 

「――ッ!?まさか!」

「おや、これが何かわかったみたいだな。……そう、これは炎元素を辺りに充満させる装置。

……こんなところで雷元素を使ったらアンタ自身も吹っ飛んじまうぞ?」

 

成る程、これはまた面倒な物だ。状況はかなり不利。ここは一度撤退したほうが良いだろう。

そう考え、装置の範囲から逃れようとするが――

 

「これは……元素の壁?」

「そうさ、この装置は炎元素で結界を作る機能もあるからなぁ!逃げられねえぜ!」

 

まずい、逃げることもできないとは。一体どうすれば――

 

「おいお前らぁ!玉衡は元素力を使えねぇ、全員でかかれ!」

「オマエラモダ!行ケ!」

 

そう言って宝盗団とヒルチャールたちが一斉に襲い掛かってきた。

 

「どうやら……やるしかないみたいね」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……くっ!」

「玉衡……元素ガ使エナクトモ、コレホド善戦スルトハナ。ダガ……行ケ!ヒルチャールノ王ヨ!」

「おっと、俺も忘れてもらっちゃあ困るなぁ!」

 

ヒルチャールや一般の宝盗団はあらかた倒した。……だが、あの宝盗団のリーダーの男、強い。あの身のこなしは千岩軍でも隊長と同じくらい強いかもしれない。だがそれだけではない。

あの男は――

 

「おらおらどうしたぁ!何も神の目ってのはお前ら専用の物じゃねぇぜ!」

 

そう、元素力を使ってくるのだ。あの男の神の目は炎。装置から生み出された炎元素も使って威力を上げてくる。それに加え――

 

「グヴォォォォオ!!!!!」

「ハァ、ハァ……はあっ!」

「フム、ヒルチャールノ王ヲ相手ニココマデ食イ下ガレルトハ。……ダガ、ソレモココマデダ。ヤレ」

 

その言葉に反応して、ヒルチャールの王が腕を振り上げる。ああ、もう終わりか。何を間違えたのだろう。あの時、少しでも連絡役の部下を連れてくればよかったのか。それとも他の神の目を持つ者とともに来れば良かったのか。しかし今となってはもう遅い。これで――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリン、と音がして周りの炎の結界が破れた。

 

「ふっ、はあっ!」

「ナンダ、誰ダ!」

「ふぅ、何だいこの火は。全く、私にこの力が無ければ危なかったじゃないか」

「キ、貴様……!氷ノ神ノ目カ!ヨクモコノ装置ヲブッ壊シテクレタナ!」

「おや、この石は神の目、と言うのかい?まあいい、そこの紫色のお嬢さん?こいつらが悪者かな?」

「え、ええ、そうよ……」

「ふむ。見るからに『悪』という見た目だからね。やはりそうか」

「おい!何だテメェは!何者だ!」

「おや、名乗るときはまず自分から、と習わなかったのかい?まあいいさ。お嬢さん、こいつらをやっつければいいのかい?」

「そうよ。……それじゃ、覚悟して頂戴。貴方達を守る杭は、もうないわよ」

「クソ、コウナッタラ…………ヒルチャールノ王ヨ!我ラヲ逃ス迄時間ヲ稼ゲ!逃ゲルゾ!」

「あ、おい!勝手に逃げるな!俺を置いていくな!」

「あら、神の目を持っているくせに情けないじゃない。……それに、貴方も逃がさないわよ?」

「それじゃ、私もやるかねぇ。……はぁっ!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

それから彼女と協力してあの宝盗団のリーダーの男とアビスの魔術師を倒した。あの男は神の目を持ってはいたが、あの杭が無いとそこまで強くもなかった。アビスの魔術師は逃げようとしていたが、私が雷元素で攻撃して気絶させておいた。

そして助けてくれた彼女。とても強力な氷元素の使い手だが、あまり元素力の操作に慣れていない様子だった。もしかすると神の目を授かってからまだ日が浅いのかもしれない。

 

「ふぅ、こんな感じかねぇ」

「貴方……助けてくれてありがとう」

「いやいや、困っている人は見過ごせないのさ。……ところで君、名前は何というのかい?」

「私は璃月七星の玉衡――刻晴よ。名前くらいは聞いたことあるでしょ?」

「うむ。すまないが一つも単語の意味が分からなかったねぇ」

「え!?」

 

話を聞くと、彼女は気づいた時にはどこかの水辺にいたらしい。そして手元には氷元素の神の目が有ったと。それに、『璃月』も『モンド』も、果ては『テイワット』すら知らないと言う。一体どうしたことか。

あと彼女がどこかの地名らしき単語も言っていたが、どれも聞いたことのない物ばかりだった。

 

「はぁ、困ったものだねぇ」

「全く……私が言いたいわよ」

「ハハハ、それもその通、り……」

 

そう言うと彼女はその場に倒れこんでしまった。

 

「ちょっと貴方!大丈夫!?」

「あ、ああ……目覚めてから丸一日何も食べていなかったからかねぇ……」

「そ、それは……よし、急いで何か食べに行きましょう!」

「そうしてもらうと助かる……」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「――それから私たちは急いで望舒旅館に向かって、彼女に食事を食べさせたのよ」

「タキオンさんに、そんなことがあったなんて……」

「ふむ、確かに彼女がどこから来たのかは聞いたことがなかったが……まさかテイワットではない所から来たということか……」

「ええ、私も未だに聞いたことがない何処かから、ね。……それじゃ、食事も終わったことだし、私は帰らせてもらうわ」

 

出されていた料理も、いつの間にか無くなっている。

 

「はーい、まったね~!」

「また今度お会いしましょう」

「また来てくださいねー」

 

「ええ、それじゃ」

 

そうして刻晴は去っていった。




・おまけ

「へぇ、ここが君の言っていた望舒旅館というところかい?なかなか雰囲気のある建物じゃないか」
「そう。それじゃ、早く食事を頼みましょうか。……すみません、エビのポテト包み揚げを二人前お願します」
「おいおい、勝手に私の分まで注文しないでおくれよ」
「いえ、私が二つとも食べるのよ?」
「えぇ……」
「すみませんお客様、その料理は現在材料を切らしてしまっていて……」
「なっ、なんですって!?」
「いやいや、そんなにショックなのかい?」
「ショックなんてものじゃないわ。……あの完成された味に見た目、そしてポテトがエビを優しく包み込むあの感じかもう――」
「えー、私はとりあえずこの四方平和と言うのを頼む」
「かしこまりました。……そちらのお客様は……」
「――それだけじゃないわ。そのポテトとエビだけじゃなく、それをさらに上から包み込む油にも――」
「……申し訳ないが、また後で注文を取りに来てもらってもいいかい?」
「……分かりました」
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