ダンジョンに運命の人を求めるのは間違っているだろうか   作:干した干物

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演者

その後の顛末をただ無感情に聞くことしか出来なかった。

 

ソファーに座った僕。

少し女の子らしい貫頭衣型のワンピースを着ている。

そしてぼんやりとした生気のない眼差しで彼女――ヘスティアを眺めた。

 

「そうだカナミ君!じゃが丸くんは食べるかい!?」

 

ぎこちない笑みを浮かべてヘスティアは僕にそれを差し出した。

 

「ありがとうございます。」

 

もはや定型文と化した言葉を口にした。

僕はそのコロッケのような食べ物をのっそりとした動きで受け取るが、口へ運ぶことはなかった。

 

―あの後、ちょっとした騒動になったらしい。

頭から血を流した僕をヒーラーの元まで運ぼうとした際、何故か野次馬が集ってきた。

それによってなかなか前に進めなくなったヘスティアとベルは周囲に土下座して懇願したそうだ。

…お願いです、通してください、と。

 

 

コツコツと足音が響いた。

既知感のある音だった。

 

来たのは当然…、ベルだ。

 

ベルは僕を避けるようになった。

僕が近くにいると顔を盛大に歪めた後に下を向く。

 

あれ以来、僕に一言も言葉を掛けることは無くなった。

 

そんな僕やベルを見かねてヘスティアは言った。

 

「今日はバイト代が入ってきてね!…外で食べに行かない?」

ほんの僅かな悲しさを含んだ声色だった。

 

―豊穣の女主人―

 

大きな看板が掲げられている酒場だった。

 

冒険者という荒々しい人達ばかりで、活気に溢れていた。

テーブル席は空きがなく、カウンター席に僕達は座った。

 

店長らしき体格のよい女性が軽快に笑う。

コップに注がれたエールを片手に客は豪快に笑う。

その場所はみんなが笑顔だった。

 

「そんなしみったれた顔してんじゃないよ!」

 

と一喝。

 

そして、ドンっとスパゲティが入った大きな器が置かれる。

 

「食べな!!」

 

そう言い放った。

 

「ありがとうございます。」

 

口から漏れ出るかのようにお決まりの言葉を吐いた。

 

しかし、その女性は僕をじっと見つめたままで。

 

「…食べないのかい?」

 

厳つい風貌でそう言うから脅している様に聞こえた。

 

「………。」

 

それ以上を口にすることは出来なかった。

 

痺れを切らした女性はスパゲティを絡めとったフォークを僕の口に押し込んだ。

 

口にスパゲティを入れられて、視覚では食べ物が入ってきたことを認識出来ていた。

けれど、舌がその食べ物を食べ物として感知せず。

…味は無かった。

まるで異物を押し込まれているような感覚で胃から胃液がせり上ってきた。

みっともなく吐いた。

口に入れられたスパゲティと胃液をぶちまけた。

 

「カナミ君ッ!!大丈夫かいっ!!」

 

ヘスティアが僕の背を優しくさする。

ベルは顔を歪めたままその女性に謝り、雑巾で吐瀉物を掃除していた。

 

その後、お会計をしようとヘスティアは財布を取り出して青ざめた。

 

「…足りない。」

 

もう何度経験したかも分からない臓腑を鷲掴みにされる感覚。

ダンジョンでミノタウロスに襲われて迷惑を掛けて倒れて迷惑を掛けて、看病をしてくれてヒーラーの元まで連れて行ってもらって土下座をして安くないお金を払って優しくして背中をさすって吐瀉物を掃除して…。

 

まともには受け止められない。

 

けれど、ほんの僅かに残った虚栄心が最後の箍となる。

 

ぐちゃぐちゃに擦り切れて見下げ果てたもの。

それらを直視せずに前を見た。

前を見続けて滑稽なまでに浅はかな物に手を伸ばした。

 

「僕を…、ここで働かせてください。」

 

そして女性が鼻で笑う様に言う。

 

「あんた、働けんのかい?」

 

僕の空虚な瞳はただ女性を眺めていて。

 

「お願いします。何でもします。」

 

土下座をしようと膝を床に着けた。

 

ヘスティアとベルが泣きそうな顔になった。

 

そして僕は女性に蹴り飛ばされた。

ヘスティアとベルは女性に非難を向けるよりも先に必死の形相で僕に駆け寄った。

 

「…何でもするって言ったな。…たっぷりしごいてやるよ。」

 

踵を返した女性は、やはり顔を歪めていた。

 

 

 

 

☞☞☞☞☞

 

 

 

『演技』は得意だ。

 

内心を隠し、与えられた役に沿って動く。

この人物はこういう性格だから。

登場人物にはそれぞれ決まった役割がある。

 

扱い易いようにキャラクターはいつも単調で。

使い勝手の良いようにそれら駒を増やしていって。

そして出来た劇はまるで人形劇場。

 

僕達はその人形を演じていた。

演じて演じて、無駄な部分は削ぎ落とした。

削いで削いで、後には人形として理想的な部分しか残らない…。

 

「こちら、大盛りジューシーパスタと焼き塩々ももでございます。ご注文にお間違いは無かったでしょうか?」

 

人でごった返しの酒場。

今日はいつもより人が多いそうで。

 

「カナミっ!厨房に入りなっ!」

 

「はい!分かりました!」

 

料理を作ったり接客したりで忙しかった。

 

ようやく店じまいとなった頃には同じ店員が地面に突っ伏して伸びていた。

僕は水で満たしたコップをその店員に差し出した。

 

「にゃぁー。おみゃーは使える奴だにゃー。」

 

水をゴクゴクと飲んだ後、再び地面に倒れた。

 

「あんたが使えないだけさね!」

 

店長――ミア母さんが無慈悲に一喝する。

 

「ところであんた。」

 

僕に向いて、ミア母さんは続ける。

 

「私がこんなこと言えた立場じゃないけど。…早くあいつらと仲直りしな。」

何かを考える演技をする。

深く傷付いた様を隠す演技で。

 

「…はい。」

 

空っぽの心で傷心の弱者である僕を演じて頷いた。

 

 

教会に戻るとベルとヘスティアがいた。

 

ベルはただ下を向いてこちらを見ようとはしない。

ヘスティアは空回り気味の明らかに無理をしているテンションで僕を労う。

 

「ヘスティア様。僕もダンジョンでお金を稼ぎたいので恩恵を刻んでください。」

 

僕の肩をトントンと叩いていたがその言葉を聞き、動きが止まった。

 

「ヘスティア様?」

 

無理に取り繕っていた笑顔が消えた。

そして覗くのは震えた声。

 

「…駄目だよ…。…そんなこと。」

 

対し僕は困った顔で笑顔をつくってヘスティアに向き直った。

 

「…僕は冒険者になってみたかったんですよね。」

 

つらつらとそんな言葉を述べた。

 

「だってみんなの憧れじゃないですか。ダンジョンで一攫千金。夢がありますよね。」

 

「で、でもっ!」

 

そう簡単には引き下がらない。

 

「大丈夫ですよ、ヘスティア様。危険に思ったらすぐに引き返しますから。」

 

そうじゃない。と口を開こうとしていたがそれは成されなかった。

 

 

その後、恩恵を刻んでダンジョンに訪れた。

右手に持つのは支給品の安っぽい剣。

左手にはステイタスの写し。

それらを眺めた。

 

 

アイカワ・カナミ

 

Lv.1

 

力︰I 0

耐久︰I 0

器用︰I 0

敏捷︰I 0

魔力︰I 0

 

《魔法》

 

《スキル》

 

弱者潔癖(イデアリスト)

 

・取得経験値の超高補正。

 

・恩恵外能力間の(ギャップ)を排除。

 

 

継当主役(ゲステュス)

 

・演技を通して得られるあらゆる熟練度の超々高補正、並びに発展アビリティの出現。

 

 

 

紙から目を離し、無様にも気絶したダンジョンを見遣る。

 

人の行き来に目を落とした。

緊張した面持ちで入る人に生気のない様子で出ていく人。爪先から頭まで豪勢に装備を施している人に反して僕のように基本的な武器だけで挑む人も。

…あまりにも人が多かった。

まるで誰かがダンジョンという存在を人々の生活の基盤に落とし込んで依存させてるような感覚に陥った。

 

ダンジョンに入るとそこはもう別の世界だった。

初めてこの世界で目覚めた時と同様にぼんやりとした光が辺りに漂っている。

 

そして、緑の化け物―ゴブリンが襲いかかる。

 

ゴブリンは鋭い爪を持っている。

白黄色に濁って不潔な印象を抱いてしまう爪。

それを走りながら振り回した。

 

けれど、恩恵を受けてからの僕はそれがあまりにも遅く感じてしまって。剣の一振で首を断ち切ることができた。

 

経験値:20/100

 

お決まりのように経験値が入ってくる。

 

「ははっ…。」

 

…これはゲームだ。

登場人物は主人公以外が全員NPCで。

主人公は全てに於いて優遇されており。

ラスボスを倒してみんなハッピーエンド。

最後にはエンドロールが流れて。

 

「あはははっ!!」

 

これは楽しい愉しいゲームだ。

 

剣を振るった。

血飛沫が舞う。

 

経験値:40/100

 

外の世界は厳しくて辛い。

だから画面を眺めた。

 

経験値:60/100

 

化け物がいた。

だから暗い部屋でコントローラーをひたすらと握った。

 

経験値:80/100

 

もう誰も僕には期待しない。

本来僕に向けられる眼差しはあの化け物に注がれていて。

画面の世界にのめり込んだ。

 

経験値:100/100

 

化け物が僕の部屋に入ってきて後ろから画面を眺めている。

ただ何も言わずに。僕も何も言わずに。

両親は結局、その化け物にも愛情を注ぐことはなかった。

同情心は湧かない。その代わりにひたすらとRPGを画面の外から操作していた。

始まりの画面。エンドロールの画面。何度も繰り返した。

後ろの化け物は、それを無言で眺めていた。

 

経験値:120/100

 

「あれっ…」

 

レベルアップしない。

いつもならここでちょっとしたSEやBGMなんかが流れて。

ステータスも上がって倒せるモンスターも多くなって。

…ここから楽しくなっていくとこなのに。

 

経験値:185/100

 

幼い頃は果敢にも化け物に挑んだりしていた。

人間とは思えないような成果を叩き出すそれに尻込みしてもまだ、希望は溢れていて。

そしてその大きすぎる思い違いは一つずつ丁寧に叩き潰されることになる。

 

経験値:310/100

 

短距離走で負けた。

二歳も年上でクラスで一番速かったけれど、そんなものは通用しなかった。

バイオリンで負けた。

同じように習い事をした期間は僕が圧倒的なのに。

ピアノで負けた。

同上。

 

経験値:580/100

 

演技で負けた。

憧れの両親を目指して一番に頑張っていたのに。

 

『はぁ。』

 

僕に勝った感想だ。

それが許せなくて。

見返したくて、頑張って頑張って頑張った。

けれどそれ以上に化け物は二歩も三歩も前に進んでいた。

 

 

経験値:860/100

 

心の底から祈った。

どうか。どうかお願いします。

結果を下さい、と。

血のにじむ様な努力をした上で願掛けをした。

…だが化け物が嘲笑う。

 

そして、もう無理だろうと諦めてしまった。

 

経験値:1140/100

 

ある日、化け物が僕に魔法を見せてきた。

それに年甲斐もなく興奮してしまって。

これならばゲームをずっとプレイしている僕が有利な気がした。

化け物が教える通りに頑張った。

久しぶりに頑張った。

けれど、日数を重ねる毎に生まれた焦燥をひた隠しにするようになって。

数ヶ月経った頃にはもうはっきりと理解出来てしまった。

 

『僕に妹のような才能はない』と。

 

 

振り下ろした剣がモンスターの表皮に刺さる。

強く押しこんで体を断ち切る。

それと同時に剣が折れた。

 

剣を眺めた。

折れて残った刃のそこらじゅうに罅が入っていた。

貰った時の新品だった頃はキラキラと光り輝いていたのに。

もうその姿はどこにもない。

 

「…もう戻らないと。」

 

剣が無くなってしまえばもう戦えない。

なのでこれ以上進むことは無い。

 

ただしそれは後ろに敵が固まっていなければの話だけれど。

 

「くっ…」

 

シルバーバックの集団だった。

その集団も僕を認識したのはその時だったようで。

 

血のように赤く塗りたくられた眼球がゆっくりと僕を見た。

 

肉食獣特有の鋭利な牙を見せ付けるかのように、ゆっくりとこちらを嘲笑うかのように口を開けた。

ドロリとした不快感の塊である唾液をダラダラと零す。

 

―勝てない。

第一に剣がない。

あったとしても三体をまとめて相手取ることは難しい。

 

どうすれば切り抜けられるか。

それを考えたいのに相手は悠長に待ってはくれなかった。

 

両手を握り締め、頭上へ伸ばす。

弓なりに体を後ろにしならせた。

真っ白な長い体毛で包まれているはずのその体に、夥しい量の圧倒的な筋肉がミチミチとはち切れんばかりに躍動する様が見て取れる。

弦を引いて引いて極限まで力を込めた後のように、それが放たれた。

真っ直ぐ単調に僕の全身よりも大きな両腕が振り下ろされる。

 

それをただ眺めた。

 

きっと抵抗したとしても生き残れる確率はそう、高くない。

ならば…。

妹がいた頃はただ毎日を無気力に生きてきた。

学校でも周りに溶け込んでいる演技で目立たずに無難に過ごした。

 

ほんの少し。ほんの少しでもこの先に希望が欲しかった。

 

両親の関係は元々冷めきったものだった。

お互いの利害関係の上で成り立ったパートナー。

父親に縋り付いて、泣きながら叫び声を上げる名前も知らない女の人を何度も見てきた。

 

妹が何かの賞を取った時、母親は手作りだと言ってカレーを振舞った。

僕も一緒に食べていて、その温かさを感じていた。

その途中、ゴミ箱にレトルトカレーの残骸が捨ててあったのを目にしても笑顔で美味しそうに食べた。

 

日本中でほんの僅かの富裕層しか住めない超高層マンションの最上階。

そこには幼い僕、独りで。

ガラス張りの壁に叩き付けられた雨をぼんやりと見ていた。

 

この世界に来て、ほんの少しだけどやっぱり、期待していたのかも知れない。

誰も相川進と相川希の息子、相川陽滝の兄として僕を見ないから。

だからやっぱり期待してしまう。

 

でも、呪縛は僕を離さない。

幾ら世界が変わったところで僕自身になんら変わりはないから、結局のところなんにも変わらない。

 

もし…。

もし、このモンスターの攻撃を受けて死んだとしたら。

 

どうなるんだろう。

 

何が起こるかは分かりきっている。

けれど、昔望んだほんの少しの希望さえも叶えられないのならば。

…もう、消えたかった。

 

目を閉じた。

 

眼前の大きな白いゴリラがいなくなった。

視界が真っ暗になって雑音が鳴り響いた。

 

モンスターの咆哮に空気の流れる音、僕の心臓の音、呼吸の音、そして何かが空気を押し切る音。

 

僕の身体は無意識にその攻撃を避けた。

 

振り下ろされた巨大な拳に対し、身を捻って触れるか触れないかの距離分、離れた。

 

「あっ…」

 

表層ではもう生きたくないなんて考えているけれど、僕の無意識は、本能は、スキルは浅ましく泥を啜ってでも生き延びようとした。

言外にお前の本質はこうだ、と言われているような気がして。

別に死にたい訳じゃない。生きるのが辛くなっただけだ。

なのに、僕の顔には歪な笑顔が張り付いていた。

 

丸太のような腕が襲い掛かる。

僕の顔を掴んで握り潰そうと顔の何倍も大きい手を伸ばす。

 

真っ黒で硬質、まるでアスファルトのような掌が眼前に迫った瞬間、体を大きく真後ろに逸らした。

そのまま手は僕の腹上を流れて伸びきった頃、僕は体を捻った。

右足を大きく広げ、体重の全てをそこに乗せた。

同じように上半身を右へ捻り、右肩が地面に触れた時にシルバーバックの伸びきった腕を掴んだ。

腕にしがみつく様にがっちりと両手で掴んで、上半身を元に戻そうと力を込めた。

捻れたゴムが元に戻るように勢いをつけて半回転した。

足も地面から離れ、勢いに乗って綺麗に一回転する。

 

“ゴキッ”

 

関節の大きく外れる音が鳴った。

 

「グォオオオオオ!!」

 

唸り声を上げながら二歩、三歩と後ろに下がる。

その様子を見て残りの二体が同時に突進してきた。

 

片方は上から叩き潰そうと腕を上げて、もう片方は側面を狙うように横薙ぎに腕を振るった。

 

また、触れる寸前で勢いよく二体の合間を縫うようにして飛び出した。

振り下ろした方は上半身がつられて下へ大きく下がった。

そして、横薙ぎの手が片方の頭部に命中する。

 

「グァアアアア!!」

 

その瞬間、三体ともがその場で直ぐには動けなくて、十分に逃げることが出来た。

 

それでも、モンスターはそこら中にいる。

シルバーバック三体以上のモンスターとぶつかった場合、今度こそ命が危ぶまれる。

 

だから。

 

【スキル】

 

 

 先天スキル:月魔法1.01 魔力操作1.00 格闘術2.26

 

 

 後天スキル:剣術1.03 感応1.01 演技1.24

 

 

 固有スキル:???

 

 

『表示』を行い、使えそうなスキルを調べた。

 

 

後天スキルの剣術と演技は今は役に立ちそうにない。

そして感応。恐らく、これの影響で先程のモンスターから攻撃を受ける直前に避けることができたのだろう。

それだけではなく、相手が体をほんの少しでも動かした瞬間にどういった攻撃が来るのかが直感として解った。

更にあの時、どうすれば相手を怯ませられるのか。その最適解が瞬時に頭に構築された。

 

そう考えるととんでもないスキルだが、今はこの出会うことを前提(・・・・・・・・)としたスキルよりも索敵系のスキルが欲しかった。

 

続けて固有スキル。

 

怪しげに???と表示されている。

それがどんな代物だとかどんな効果かとかは分からない。

でも、物語のお約束だとこういった効果の分からないスキルなんかは後々重要な役割を果たす事になったりするが…。

でも、今は使えそうにない。

 

最後に先天スキルを見る。

 

格闘術。

剣術、感応と同じく今は必要ない。

 

魔力操作。

文字通りだと魔力を操作出来るスキルだが使い方は分からない。

そもそも、今まで魔力を使ったことなんてないからそれは当然だけれど。

 

月魔法。

…希望があるのはこれだ。

 

スキルに表示された魔法という部分。

そして下記の

 

【魔法】 

 

 月魔法:ディメンション1.01

 

という文字。

 

 

ディメンションという言葉は確か、寸法や次元といった意味で。

だから、もしかすると索敵に使えそうな効果があると考えた。

 

 

「――月魔法《ディメンション》!」

 

 

その名前を叫ぶと急激に五感が研ぎ澄まされる。

同時にそれ以外のよく分からない感覚が周囲の情報を拾っていく。

一瞬にして半径6メートルまでの空間を認識出来た。

 

「…これだ!」

 

まさに思い描いていた理想の魔法だった。

自分でさえも漠然とあったらいいなと思い描いていた索敵魔法。

そしてそれが完成された形で発動した。

 

たまたま危機的な状況に陥って、そして感応とは異なる効果範囲が長距離にわたるものを望んで。

索敵系の能力が欲しいなんて思っていて。

 

…あれ。

 

これって、

 

「あまりにも…」

 

 

 

―――胡散臭い(・・・・)

 

 

一瞬、そんな言葉が脳裏を過ぎったが頭を振り払う。

 

 

ディメンションは素晴らしかった。

地形に障害物にモンスターに、それらの全てを見逃すことがなく、正確に頭の叩き込んでくる。

まるでゲーム内で未知の道を歩いてマップを作成する時の様に。

 

それ以降、一切の戦闘を行うことなくダンジョンの外へ出ることができた。




貫頭衣ワンピース → 治療を頼んだヒーラーのお下がり。

罪悪感塗れのベル君( )。
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