悪魔の実とは、ハイリスク・ハイリターンな代物である。
死ぬほど不味いうえ、海に出るものにとっては洒落にならないカナヅチを背負う。
そんなゲキマズデバフフルーツでも、人智を超えた能力が手に入るならとデメリットを許容して食べる者がいるからこそ、10億ベリーを超える高値で取引されることもある。
実際、赤髪を除いた四皇──白ひげ、ビッグマム、カイドウも強力な悪魔の実を食べているし、我らが誇る海軍三大将もそれぞれ最強クラスの自然系を食べている。
だからこそ、能力者は恐れられる。
けれど、案外悪魔の実と出会えることは少ない。数が少ないのもそうだが、島同士の交流が薄いために情報が出回りづらく、下級将校程度では噂すら聞くことがないのだ。
それでも、力を求める俺は悪魔の実が欲しかった。だからこそ、あのチャンスは逃すことができなかったのだ。
海賊討伐の帰り、補給のために寄った島のことだった。
荷物の搬入の間、迎えてくれた島民たちに案内されて特産品を味わっていた俺は、この小さな島から時々仕入れに出るという老いた商人を紹介されたのだった。
島々を行き来しているとはいえ、移動距離を考えればそこまで面白いものがあるわけでもないだろうと期待薄のまま陳列棚を覗いた俺だったが、その考えは見事に裏切られた。
故郷でよく見ていた渦巻き模様のある、奇妙な果実。
形に見覚えこそ無いものの、その特徴は追い求めていた悪魔の実にそっくりで、俺の目を釘付けにした。
もし悪魔の実を仕入れることができるような人物なら、ぜひとも関係を持ちたい。いや。まずはこの悪魔の実が本物かどうか確かめるところからか?
『て、店主……これは、一体どこで……』
纏まらない思考のまま、震える声で問いかけると、老店主は何かを思い出すように首を傾げ、10分ほどうんうん唸ったのちにポンと手を叩いた。
『ああ。街の裏手にある山に生っていた変な果実じゃな』
『いや島内産かい!』
予想外の事実に突っ込みを入れながらも、記憶にある悪魔の実図鑑から照らし合わせる。が、覚えがない。忘れているだけなのか、記述がない悪魔の実なのか。
『……これはいくらだ?』
『まぁ、レアそうな果実じゃし……そうじゃな、10万ベリーで』
やっっっす、と口に仕掛けた言葉を必死に飲み込む。このジジイ、悪魔の実知らないのかよ。というかよくそんなわけのわからないものを陳列しようと思ったな。
と、言いたいことは色々あったが、これはある意味チャンスだった。10万ベリーという破格の値段で、俺が夢にまで見た能力者になれる、大チャンス。
『──買おう! その果実をくれ!』
俺はその場で購入した。チャンスを、逃さないために。
「──それで、その能力が報告にあった悪魔の実なのかい〜?」
直属の上司であり、海軍最高戦力の一人であるボルサリーノさん……またの名を大将“黄猿”の声に、意識が回想から現実へと戻ってくる。
討伐帰りの俺は規定に従い、能力を報告すべく上司の執務室に来ていた。
ただし、能力を見せられた彼の表情は、サングラス越しでも分かるほど引きつっていた。俺もきっと引きつっているが。
「…………はい。10万ベリーで売られていたので、今しかないと思って任務帰りに食しました」
「おォ〜…………まァ、なんというか……良い教訓と思うしかないかねェ……」
ボルサリーノさんが困ったように言葉を濁す。彼が中将の頃からの付き合いではあるが、どんなことでも割と直球で言ってくる彼がここまで言い淀むのは珍しいことだった。……それほど、俺の姿が滑稽だったのかもしれないと考えるのは、被害妄想のし過ぎだろうか。
「にしても、こう…………わっしの能力と似てるねぇ……」
「似てるというよりは、下位互換でしょうが…………にしても、上司と一番比較されちまいそうな能力引いちまって……ま、ご愁傷様だな」
仕事を抜け出して遊びに来ていたらしい大将“青キジ”──クザンが半笑いで慰めの言葉をかけてくる。が、その表情は愉悦の色で染まっていた。ムカつく。早く自分の執務室に戻れよ。
「にしても、面白いな。もっかい発動させてくれよ、ヒカリ大佐。次はボルサリーノと見比べるからよ」
「可哀想でしょォ、クザン」
「あの、その言葉が一番俺の心を抉りま…………あ゛っ」
揶揄いの言葉に怒りが一周回ったところで、未だ制御の効かない能力が発動した。
──具体的には、ミラーボールが出現したかのように室内が眩しくなった。
「ぷっ……面白い能力だが、使いこなすのは難しそうだな」
「お〜……クザン、わっしの部下を揶揄って遊ばんで欲しいねえ」
肩書きは海軍本部大佐、名はヒカリ。
チカチカの実の発光人間。
ピカピカ全身を光らせることができる。それが、俺の得た能力だった。
おそらく続かない。