――僕は、人類一の面倒臭がりだ。
面倒なので必要最低限の自己紹介しかしない。僕の名前は
生まれてこの方、面倒臭いと言った数はもう億を超えているだろう。
たとえ誰であっても、日常生活の中に面倒臭いと感じる瞬間が少なからずあるはずだ。僕はそれを頭の中で消化することが出来ずに、つい口に出してしまう。
例えば、今僕の目の前で山積みになっている『夏休みの課題』。
今日は八月の二十日。中学校の頃よりも多い量とそれなりに上がった難易度。頑張ればなんとかなるだろう、などと過信した――或いは面倒臭がった――結果がこのザマだ。
まさか、こんなにも早く夏休みが過ぎて行くとは思っていなかった。
だから、僕は呟てしまう。
――「面倒臭いなぁ」
と。
自業自得なのは十分に理解している。
成績はそれなりで、赤点ギリギリが一教科あるぐらいであとは六十点代をキープ。特に何かを勉強したという記憶はあまりない。面倒臭いから。
夏休み中、課題以外に何をしたのかと尋ねられても、残念ながら答えられない。
その質問に答えることさえ面倒臭いし、そもそもの話、面倒臭いから何もやっていない。ぐだぐだと家の中で引き篭もっていただけだ。
当たり前の話だが、課題をやらなければ課題は減らない。世の中の摂理というようなモノだが、やはり面倒臭いものは面倒臭い。
中学までならば義務教育であるが故に、幾つかの課題を放棄しても評定に加味されるだけなのだが、高校からはそうはいかない。
最悪、周囲の目やらその後の将来やらと一生面倒臭いことになるであろう留年という事態も考えられる。
それを避ける為には、この面倒臭い――……あぁ、考えるのも面倒臭くなって来てしまった。
現実逃避の為に、適当な服に着替えて外へ出る。
お盆も過ぎたというのに、外はまだまだ暑い。本当にもう、嫌になるぐらいには暑い。
「どっか涼しい所に行こうかなっと」
イヤホンを耳に当てて、温度を忘れるような大音量で音楽を流しながら、この辺りで最も涼しい大型デパートへ向かう。
周囲の音は聞いている方がいいのだろうが、視覚情報だけで十分だと思う。
それに聞こえてくるのは車の走行音か、何かと面倒臭そうな雰囲気漂う人々ばかり。一体いつからだろう、見知らぬ人を面倒臭いと感じるようになったのは。
大型デパートの三階。そこは様々な料理を扱うチェーン店が並び、言わば買い物後や前の憩いの場のようなエリアだ。
ここには現実逃避の為に来た訳だが特に何かが枯渇しているという訳でもなく、ウィンドウショッピングをすることも面倒臭い僕には最適で快適な空間だ。
眠れるだけ眠っておこうかなどと思ったが、残念ながら既に昨日の十時ぐらいから十二時間以上は眠っている。起きて行動するのが面倒臭くて、寝転びっぱなしだったのだ。
そのせいか頭は冴えきっており、一体何に役立つのだろうかと自問自答したくなるようなことばかりが頭の中を駆け巡っている。
「――ってば、ねぇ!」
ぼぅっと妄想の世界に耽っているうちに、誰かの声が聞こえた。
「うわっ!? って、……誰?」
目の前にいたのは、小学生ぐらいの女の子。にんまりと悪戯を思いついたような顔が、憎たらしいまでに小学生という印象を与える。
やけに親しそうに話しかけてくるのだが、僕の記憶が正しければ目の前の少女には面識がない。
「えっと、人違いじゃないかな?」
「ううん、私は大平憐斗に話してるの」
何か、嫌な予感がした。なんというのだろう、物凄く面倒臭いことに巻き込まれているような予感がしている。
『面倒臭いセンサー』というものがあるなら、恐らくは大音量で警鐘を鳴らしているだろう。
「僕は君に用事がないから、どこかに行ってくれないかな? 面倒臭いことは嫌いなんだ」
小学生なら、このぐらい言えばどこかに消えるだろう。そんな適当な思考で、冷たく端的に突き放す。何故名前を知っているのか少し気になったが、これから二度と関わらないのだからあまり気にしない方がいいだろう。執拗に関わって面倒臭いことになるのは御免だ。
「あはは、うん、いいねぇ。やっぱり君に決めたよ。ちょっとだけ私の遊びに付き合ってくれない? ――面倒臭がりの君にぴったりな、私の遊び」
認識を改めることにしよう。――小学生ぐらいの頭が非常に残念で面倒臭い女の子、に。
この子は、要するに『構ってちゃん』なのだ。その性格故に友達がいなくなり、だからこんな頭の悪そうな――平たく言えば何かのアニメのキャラのような発言をしているのだろう。誰かに軽くバカにされるなどしてまで、構われる為に。
ならば、もう少し強く言って、何なら精神面を攻撃でもして、僕に関わっても傷付くだけだと分からせればいい。『構ってちゃん』は、自分の保身の為に行動しているのだから。少しでも傷付けばまた誰かに保身されに行く。
「……頭、大丈夫? 日本語ちゃんと理解出来てる? どこかに行って、って言ったんだけど?」
最も関わってはいけない人種。こういうタイプに何度か関わることがあったが、全てこの方法で解決している。
面倒臭いことを避ける為の、ちょっとした面倒臭いことならさっさと片付けた方がいい。そこだけは、なるべく面倒臭がらないようにしている。
――だが、目の前の女の子はそれに全く影響されず、今も尚何か痛い台詞を話し続けている。
早くどこかに行ってくれないかと思う。目の前で女の子はにこにこと何かを話しているが全て無視をしておく。――あぁ、本当に面倒臭い。
半ば依存症になりかけているスマートフォンにチラッと目を向ける。
時刻は午後零時三十分。ちょうどお昼時だ。
家族連れやらカップルやらとごった返すこの時間帯なら頭の残念な子がいてもおかしくはない。
面倒臭い時間帯に来てしまったものだ。
「全然聞いてなかったみたいだね。まぁ、とりあえず、君のお決まりの定型文は、口に出さない方が身の為だよ」
パチン、と少女が指を鳴らす。
途端に視界が揺れ始め、意識が朦朧としてくる」
「……な、に、これ?」
「さぁ、君はどんな結末を迎えるのかな?」
それが多分、僕の平凡で尚且つ在り来りな面倒臭がりの最期だったのだろう。
不定期投稿。ちょっと夢のあるようなないような話。