恋愛? 仕事以外興味ないんで ←「「は?」」 周りの美女美少女美幼女達 作:鉄の掟
「あんた、本当に5歳なの……?」
「一応、はい」
あれから数十分、俺とグレタさんの目の前には完璧な状態に耕された畑が存在していた。
数年のブランクと5歳の小さな体ではあったが、たかがサッカーコート一枚分ぐらいの広さしかない畑だし、今の俺でも一時間もあれば一回耕すだけなんて楽勝だった。
完璧な畑と俺の顔を交互に見ながらグレタさんは信じられないといった目をしていた。
しかし前世の俺だったら、一時間もあればこの四倍ぐらいの畑は軽く耕せた。
自分の不甲斐なさが憎い。
「私でさえこんな早く耕せないのに……」
「またまた御冗談を」
「な、聞こえてんのね……!! じゃあ……まだ働けるわよねぇ……?」
「はい、喜んで!」
ふっふっふ、と前世で勤めていたブラック企業の上司の様にグレタさんは笑うが、まるで邪悪さが足りない。
あの人は三徹で残業を終えた社員に、溜まった自分の仕事を押し付け絶望する顔を見るのが、三度の飯より好きな人だった。
そんなこの世の悍ましい怨念を日頃から作り出していたあの上司に比べれば、今の上司は随分可愛らしくなってしまった。
まぁそんな残業も俺にとってはご褒美でしかなかったんだが。
あの人……俺が絶望するどころか喜ぶ姿が気味悪いとか言って会社辞めちゃったんだよなぁ。
その事で同僚から凄い感謝されたが、俺としては未だにあの人の元で働きたい気持ちが無くなる事はない。
正に俺にとっては理想の上司だった。
「じゃあそうね……そういえば、まだ植える種を運び切れてないよねぇ……?」
「了解です、それで種は何処に?」
「あそこ」
グレタさんは右手で俺を指差した。
いや正確には俺の後ろ……なのか? 振り返るとそこには緩やかな登り坂になっている道があり、その道の遠くに山積みになっている何かが見えた。
5歳児ゆえにまだ遠くのものがよく見えないが、きっとグレタさんはあれの事を言っているんだろう。
「かなり……遠いですね」
うし、行くか。 よいしょ。
「ふっふっふっ、そうでしょうそうでしょう!!
私は毎日あそこからこの畑まで、種が入った袋を担いで往復5キロ歩いてるのよ? どう? 流石のあんたでも根を上げ……って!!?」
往復5キロ、という事は片道2.5キロの道。
となると当然この体だと流石に時間が掛かる。
農業は1日の積み重ね、そして効率的な行動が命、グレタさんが何やら話していたが一旦仕事に戻らして貰おう。
……もしこれで上司が話しているのを無視したとか言われて怒られれば、また仕事が貰えたりして、やっべ興奮して来た。
「あ、あんたねぇ……!! 人の話は最後まで……!! き、聞きなさいよぉ!!?」
「あ、お疲れ様です」
「るっさいわねぇ……!」
グレタさんは息を荒げながら俺の隣に走って来た。
火照る顔と浅く呼吸を繰り返すグレタさんは見るからに辛そうだ、大粒の汗がグレタさんの頬を伝い顎まで来ると、左右に揺れて歩く衝撃で下へと落下した。
対して俺の方は若干汗はかいているがグレタさん程でもない。
そもそも今日は太陽の日差しこそ強いが、そこまで気温が高い気はしない、精々24度かそこら辺だろう。
それにも関わらず俺とグレタさんは明らかに暑さの症状が異なっている、もしかしたら異世界と前世の気温には幾らか違いがあるのかもしれない。
「大丈夫ですか? 汗が凄いですけど……」
「へ、へっちゃらに……決まってるじゃにゃい!」
……にゃい? 何だにゃいって、この世界の言葉なの?
いや今までそんな言葉聞いた事ないし……。
そう考えていると歩く俺の後ろでどさっと何かが落ちる音が聞こえた。
振り向くとそこには苦しそうに体を上下させ横たわるグレタさんの姿があった、これは……まずいな。
「グレタさん! 大丈夫ですか!?」
「な、何でも……っないわよ」
「何でもないって事ないでしょう!?」
脱水症状、今のグレタさんの姿はエジプトで仕事をしていた時に脱水症状で倒れた彼によく似ていた。
幸い、あの時は水を飲ませた事で彼を助けることが出来た、しかし……この辺りに飲める水はない、あるのは全て畑用に川から汲まれた水だけだ。
とてもじゃないが畑用に流れている水は飲ませられない。
姉に抱き抱えられ散歩をしていた時に、水を汲み上げている川に行ったこともあるが、流石にここからじゃとても遠くて行って帰って来たんじゃ間に合わない。
……どうする、俺。
元はと言えば俺がグレタさんの話をしっかり聞かずに歩き出したのが原因だ。
それさえしなければグレタさんは自分のペースで歩いてただろうし、こんな事にはならなかった筈。
責任は俺にある、しかし飲める水なんてやっぱり何処にも……!
「その子、大丈夫?」
気ばかり焦り周りが見えていなかった俺は、目の前に座り込んでいた少女に気付かなかった。
茶色い瞳と俺より少しばかし大きい身体。
そして白いワンピースで全身を覆った少女は、幼い見た目も相まってまるで聖書に出てくる天使の様だった。
そしてショートカットに切られた綺麗な水色の髪……水色……はっ! 水!!
「あ、あの! 脱水症状で倒れてしまったんです! 何処か飲める水があるとか知りませんか!?」
「……そう、それは大変ね」
それだけ言うと少女は曲げていた膝を戻し立ち上がると、何処かへスタスタ歩いて行く。
今も苦しそうに横たわるグレタさんを見てそれだけ……? 他人を助ける義理なんて無いって事か?
それにしたって少しぐらい何か手伝ってくれても……!
「あぁ……くそ! 何だったんだよあの子はっ!」
この異世界に来てから嫌な事ばっかだ!
家族は皆んな俺の事を働かせない様にしてくるし、やっと働けたと思ったら俺のミスでグレタさんを苦しませてしまうし!
それもこれも全部あの神のせいだ! あいつが俺をこんな異世界に送ったばっかりにこの5年間楽しい事なんて一つもなかった!
「あーもうっ! こんな事になるならいっその事あの家族から逃げ出して、何処かで思う存分仕事してぇよぉぉぉ!!」
「はい、水」
「……」
俺の魂のシャウトを聞いていたであろう水色の髪の少女は、さっきと変わらない無表情で俺の目の前にコップを差し出した。
さっきもそうだったが何で俺はこの子の存在に気付かないんだ……。
「……どうも」
「気にしなくていい」
正気に戻った俺は、少女から渡されたコップ一杯の水を寝ているグレタさんに渡そうとするが、グレタさんの手は力弱く握るばかりで、どうにも上手くいかない。
意識が朦朧としているのか? それなら多少なりとも強引に飲ませないと、このままでは重症化してしまうかもしれない。
「グレタさん、少し体起こしますよ?」
「はぁ……はぁ……うぅぅ」
「お、重い……!!」
女性に対してこういう事を口にするのは失礼な事だと分かっているが、5歳の体で10歳の女の子を起こしてるんだ、そりゃあ重い。
そんな俺の情けない姿を見兼ねたのか、さっきの少女がグレタさんの手を掴み、起こすのを手伝ってくれた。
さっきは表情が変わらないこともあって、薄情な人だと思っていたが、どうやら俺の勘違いな様だ。
「君、早く飲まして」
「は、はい……グレタさん飲めます?」
「サイトー……くん、悪いけど……飲ましてくれ……る?」
「了解です」
相当辛いのかグレタさんは自分では水を飲む事は出来ないらしい。
そうなれば誰かが水を飲ませなければいけないが、異性の俺より隣の少女に飲まして貰った方が良くないか?
チラリと隣に目で訴えても、ジトっとした目で見返された。
参ったな、女の子に水を飲ませた経験は無いんだが……まぁ多少下手でも許してくれるだろう。
「じゃあ、行きますよ……」
グレタさんの口に水の入ったコップを近づける。
しかしグレタさんは大きく息を吸って吐いている為、中々タイミングが難しい。
仕方なく俺はグレタさんの顎を掴み、口を無理やり開けさせた。
「うっ、あ?? ふぁいほー……くん?」
「……えっち」
「緊急事態なので」
口を少し開き頬を赤らめたグレタさんの口にコップを当てがい、少しずつ傾けて行く。
するとグレタさんからこくっこくっと、水が喉を通る音が聞こえた。
良かった、何とか飲んでくれたか。
「……っぷは」
「気分はどうですか?」
「まだ、辛い……わね。でも大分楽になった……」
「良かったです、じゃあ何処か日陰に……?」
グレタさんと話していると、俺の服の袖を弱く引っ張られた。
振り向くと少女が俺の裾を掴みながら、近くにある二階建ての木造の家を指差していた。
「私の家、今誰も居ないから」
「え? いやでも……」
「その子、早く休ませないと大変な事になる」
少女の言う事は的を射ている。
俺とグレタさんは今坂道の途中に居る、そして少女の指差した家があるのは坂道を登った少し先だ。
よく山を登る際には上りより下りの方がキツイという話しを聞く。
俺はそこまで感じた事はないが、恐らくこの状況なら戻るより進んだ方が、時間的にも体力的にも良いだろう。
「分かりました、じゃあお言葉に甘えて」
「うん、じゃあ来て」
「立てますか? グレタさん」
「……な、何とか」
頭一つ分はある身長差だが、何とかグレタさんを支えながら少女の後ろを着いていき、俺は坂道を登って行った。
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