すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
死神のゲームの三日目に突入し、ネクはパートナーのシキの安否を確認する。
ネクはシキを手にかけたはずだが、彼女は生きていて、二人は一緒に出口を探す。
その後、ネクは自分が記憶喪失なのをシキに明かし、二人の絆は深まる。
そして、二人は新たなミッションがとして、A-EASTに向かうのだった。
三日目は、制限時間6時間の撃破系ミッション。
見えない壁はなかったため、A-EASTに楽に辿り着く事ができた。
「アレ? ここは……」
「なんだ?」
「あの……A-EASTってここなんだけど……」
「なんだ……最初から目的地にいたのか」
最初から目的地にいる割には、制限時間が一日目や二日目と比べて長い。
これは一体どういう事なのだろうか。
「おまえ……」
「気づかなかったんじゃなくて気づけなかったの! ほら、中、真っ暗だったでしょ?」
「……」
「とにかく予定より早く到着したし、問題ナシ! さぁ! 早く主を倒しましょう!!
って言っても……この中に主なんていた?」
「まず暗いのを何とかしないとダメだろ」
パイロキネシスのバッジは戦闘以外では使えない。
明かりになるようなものも見つからない。
このままでは暗すぎて、A-EASTの主を倒せないどころか見つけられない。
何とかして電気をつけなければならないが、この辺に知っている人はいるのだろうか。
ネクとシキは、逆立った金髪の男の様子を見る。
男は、何やら不機嫌そうな様子をしていた。
「アイツ遅っせーな、もうすぐリハだっつぅのによ」
すると、二人を見た男が声をかける。
「おっ! ちょうどいい、おーい! そこの二人」
「えっ!?」
「はい、なんですか?」
いきなり声をかけられて驚くネクと反対に、シキはすぐに男の方に駆け寄った。
「ちょっ……ま、待て……」
ネクは後れながらも、シキのところに駆け寄った。
一方のシキと男は何かの取引をしていたところだ。
「ちょ~っと頼んでもいいか?」
「あ、はい。私達にできることなら……」
「ちょ……おまえ!!」
「聞くだけ! 困ってる人って聞いてもらうだけで落ち着くものよ。
もしかしたら、手伝えるかもしれないでしょ? できなければちゃんと断るから大丈夫」
シキはネクを安心させようとする。
もし、怪しい人なら、断って立ち去るだけでいい、とシキは考えているのだ。
ネクは心の中で「お人よし」と毒づく。
他人を信頼できないネクは、些細な交流も邪魔だと思ってしまっている。
シキの考えを理解する気には、なれなかった。
しばらくすると、男がシキに事情を話した。
「俺達、この後ココでライヴやるんだけど……スタッフがどっか行って帰ってこないんだ。
ちょっとその辺、捜してきてくれねーか? 俺はココを離れるわけいかねぇんだ。
ったく、どこでサボってんだか……」
どうやら、A-EASTのライヴのスタッフが行方不明になってしまったらしい。
スタッフの特徴は、黒いTシャツに首からストライプを下げているという。
また、この男の名は
「777……あっ! もしかして、今、人気急上昇のバンド『デスマーチ』のボーカルですか!?」
「おっ! 知ってんの? うれしいねぇ……。今はまだインディーズだけどな。
メジャーシーンを駆けあがって音楽界に革命をおこす……んん……んん……ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫ですか!?」
「ああ……ライヴの準備でどなってたからな……」
777が音楽について語っていると突然咳き込む。
シキは慌てて、777を心配した。
「ちょっとノドがな……スタッフがいないからまだ準備もリハもできねぇんだ」
「う~ん、大変そうですね……」
スタッフがいなければ、777に悪影響が及ぶ。
どうやら、A-EASTの主以外にも、他の人を探す用事もできたようだ。
「スタッフが戻ればリハーサルを始めるのか?」
「もちろんだ! でないと開演に間にあわねぇ。あっ、そうだ。
おまえら、ヒマだったらスタッフを捜してきてくれないか?」
「捜しにいってあげたいんですけど……。時間がかかりそうだから……ダメ……だよね?」
ミッションの制限時間はたっぷりある。
行方不明になったスタッフを捜すくらいならば、少しくらい寄り道しても構わないだろう。
そもそも、スタッフがいなければ電気をつける事ができず、A-EASTの主を倒す事ができない。
シキのお人好しなところは評価できないが、消えなければ、それでよかった。
「分かった、捜すよ」
「え? いいの!?」
「ああ」
「ありがとなっ! 助かるぜ!
スタッフを見つけたらA-EASTに早く戻ってこいって伝えてくれるか?
俺はここで待ってるからよろしく頼むぜ!」
「分かった」
「えへへ」
「なんだよ、気持ち悪い」
「ネクも優しいトコあるのね。ちょっと見直した」
ネクが人探しを引き受けてくれたため、シキは嬉しくて含み笑いした。
反対に、ネクは訳が分からず、困惑していた。
時間に余裕があるから引き受けただけなのに。
「スタッフが戻れば電気がつくだろ……」
「あっ! なるほど! ネク賢い!!」
「それに、アイツは……」
「人助けもできて電気もついて、一石二鳥だね」
「やれやれ……」
ネクは明るいシキに呆れながらも、一緒にスタッフ捜しを引き受ける事にした。
「いらっしゃいませ~」
「えっ!? あの人……俺達のこと……」
まず、ネクとシキはゴスロリファッションの店、ラパン・アンジェリークに行く。
ちなみに、店の名前はある国の言葉で「天使のようなウサギ」を意味している。
「ほらネク、忘れちゃったの? 羽狛さんから言われたでしょ?
あのステッカーが貼ってあるところでは、姿が見えるようになって買い物ができるって」
「そうだったな……」
シキは店に入る途中、羽のような文字と髑髏が描かれたステッカーを思い出してネクに話す。
実はここは現実の渋谷、
普通の人はネク達に干渉はできないが、
特殊なステッカーが貼られた場所ではネク達に干渉できるようになるのだ。
特にこれといってほしいものはなかったため、二人はラパン・アンジェリークを後にした。
スタッフを捜すため、赤いパーカーの男に話すと、男は淡々とこう言った。
「……この道を通りたければ、今から出すノイズを倒せ」
「この先に壁があるのね」
「昨日と同じようにすればいいんだな」
壁を消す条件は、ノイズを撃退する事だった。
「ねぇねぇ! あのバッジ使ってみよ!」
「ああ……昨日、羽狛さんがくれたやつか……」
昨日、ハネコマはネクに真っ白なバッジを渡した。
今こそ、ノイズとの戦闘で使うべきだという。
場面は2日目に遡る。
「よし、ヘッドフォンの成長と努力とおまえ達の仲直りを祝して、
少しだけだが情報とイイモノをやる。忘れちまわないように、記憶にきざみこめよ」
「……あの、俺……。ヘッドフォンじゃなくて、
ハネコマはネクをヘッドフォンと呼んでいるため、ネクは渋々ながらも名前を名乗る。
普段は冷めた態度を取るネクだが、ハネコマにだけは表向きは丁寧だった。
「おう! そうか! わりぃわりぃ、ネクな! 憶えた! もう憶えた」
軽い態度を取るハネコマを、ネクは信用できなかった。
「ほら、聞きたい事教えてやるぞ。言える範囲でだけどな……」
ハネコマはこの世界の事について話した。
まず、死神のゲームとは、毎日1ミッション、7日間分をクリアするゲームである。
それはシキも、遅れたがネクもご存じだった。
ミッションを誰もクリアできなければ、消滅する。
つまり、誰かが一人でもミッションをクリアすれば参加者は消滅を免れるというわけだ。
逆に言えば、ミッションを担当する参加者がいなければ、確実に消滅するわけだが……。
また、ミッションごとに死神が参加者を採点しており、ミッションをクリアすれば点が入る。
そして7日目になれば、点の全てが明かされる。
それが、ハネコマの話した死神のゲームの内容だ。
死神は、死神のゲームを取り仕切る組織だ。
背中には悪魔のような翼が生えており、これが死神の力の源である。
主な役割はゲームの運営と参加者の試験官……つまり、参加者を妨害する役割を担う。
戦闘部隊と補助部隊に分かれている死神のうち、
壁のところにいるのは後者であり、向こうから襲ってくる事はない。
淡々とした口調も、ただノルマを出すという役割を担っているだけである。
一方、戦闘部隊は参加者を襲うのが仕事であり、
仕事以前に自分が仕掛けたノイズで参加者を消してポイントを稼がなければ消滅する。
死神もまた、参加者と同じルールで動いており、何かをするには何かが犠牲になるのだ。
また、渋谷を取り仕切るコンポーザーもいるが、ハネコマは機密事項と口に出さなかった。
「ホラ、これがイイモノ……仲直り記念バッジだ!」
そして、ハネコマは真っ白なバッジを見せる。
「なんですか? このバッジ……何も描いてないけど……どんなサイキックが使えるんですか?」
「このバッジは他のバッジと違ってひとりで使うモンじゃねーんだ。
ノイズと戦ってる時にふたりでシンクロして使うバッジだ。
ヘッドフォンとじょーちゃんのシンクロ率が高ければ高いほど、
強いサイキックが出せる特殊なバッジだ。
ヘッドフォン、おまえは他のヤツに比べて使えるサイキックにかなり幅があるみたいだ……。
もしかしたらこのバッジを使いこなせるかもしれねぇ」
「そうだよ! ネクってサイキックの才能があるんだよ!
私が使えないバッジたくさん使えるし」
ノイズとの戦いで、ネクはバッジで多彩なサイキックを使った。
シキは改めて、それをネクに伝える。
「俺の……才能……」
「ほら! 大事にしろよ!」
「使いこなせるようにがんばろうね、ネク!」
「……」
このバッジは、ネク一人で使う事はできない。
つまり、使うためには、誰かと協力しなければならない。
だが、ネクはシンクロなんてしたくなかった。
他人と協力なんてしたくなかった。
いくら強力なバッジでも、使えなければ持っている意味がなかった。
「まぁ、いくらヘッドフォンにサイキックの才能があっても、
このバッジは使いこなせないかもな~。『相当センスがないと』使えないバッジだからな~」
「ありがたく使わせてもらいます」
だが、それはハネコマにお見通しであり、ネクは生返事でバッジを受け取った。
「それと……俺、ヘッドフォンじゃなくて
「おう! そうだった! わりぃわりぃ、ネクな! 憶えたぜ! ヘッドフォン!」
今のハネコマの発言は、ネクにとっては、わざと言っているように聞こえた。
場面はA-EASTに戻る。
「それにしても羽狛さんって面白い人だったよね」
「結局……名前は憶えてくれなかったな」
「すごいバッジもくれたし、いい人だよね」
ハネコマは胡散臭い雰囲気は漂わせていたものの、
話していて楽しかったらしく、悪い雰囲気はあまりしなかった。
彼と話をすると、自然と引き込まれる感じだった。
他人との接触を好まないネクは珍しく、彼とまた話がしたくなってきたという。
ハネコマは一体何者なのか。
それが明かされるのは、話がもう少し進んでからになるだろう。