すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとシキはノイズを倒し、ビイトとライムからインプリントの方法を学ぶ。
二人はスタッフが何を買うべきか忘れている事に気づき、
彼に「停電」と「ラーメン」をインプリントする。
スタッフはヒューズを買う事を思い出し、A-EASTの停電を修理する。
こうして、ネクとシキはA-EASTを探索できるようになるのだった。
スタッフがヒューズを購入し、やっと停電が直る。
ネクとシキは、スタッフの様子を見に、ライヴスタジオに行った。
「どうですか?」
「ああ、なんとかなりそうだ……。これでよしっと……」
別のスタッフがヒューズを取り付け、ライヴスタジオの停電を直した。
「直ったんですか?」
「ああ、ブレーカー上げてくれ」
「はい! いきます!」
「あれ? ダメだ……また落ちた」
スタッフがブレーカーを上げようとすると、修理していたスタッフが何かに気付く。
ヒューズを購入にしたにも関わらず、停電は直っていないようだ。
「えっ!? どういうことですか? 直ったんじゃないですか!?」
トラブルが起きたと思ったスタッフは、停電を直しているスタッフのところに行った。
「どうしたんだ? トラブルか?」
「分かんない……。もしかして、ヒューズじゃなかったのかな?」
「! おい! 奥になにかいるぞ!」
「えっ!?」
その時、ネクが何かに気付いた。
ライヴスタジオの奥に、何かが潜んでいたのだ。
しかも、何かはネクとシキに対し敵対的で、間違いなくそれは、ノイズだった。
「……気をつけろ! 来るぞ!」
ネクがシキの前に立つと同時に、蝙蝠型ノイズがネク達に襲い掛かってきた。
「攻撃が効かない!?」
蝙蝠型ノイズに攻撃したが、暗くて何も見えず、サイキックがまともに通じない。
「ネク、蝙蝠は光に弱いから、私が上に行くね!」
「……分かった」
蝙蝠型ノイズに光を当てるのは、シキの役目となった。
シキは黒猫のぬいぐるみと共に上に上がる。
「多分、あの蝙蝠が光を遮ってるから、全部倒せばいいんじゃないかな?」
黒猫のぬいぐるみは回転しながら左側の蝙蝠型ノイズを攻撃していく。
ノイズが消えていくと、スタジオに光が点灯した。
やはり、光はノイズが塞いでいたらしい。
同じくシキは左側にいる蝙蝠型ノイズを攻撃し、光を点灯させていく。
「これで大丈夫だね。ネク、合流するよ!」
シキは飛び降りてネクと合流する。
強い光が当たったおかげで、蝙蝠型ノイズが動けなくなっていた。
ネクは精神を集中し、炎を発生させて蝙蝠型ノイズを焼き払う。
シキも黒猫のぬいぐるみを蝙蝠型ノイズにけしかけた。
ある程度ダメージを与えると、蝙蝠型ノイズは再び上空に飛び去る。
「ネク、私が明かりをつけるまで逃げてて!」
シキに言われた通り、ネクは蝙蝠型ノイズから逃げる。
「何とか、間に合わせないと……うっ!」
シキは小さな蝙蝠型ノイズの攻撃をかわしつつ、蝙蝠型ノイズを黒猫のぬいぐるみで倒す。
「うっ、かなり痛いな」
一方のネクは、見えない蝙蝠型ノイズの攻撃を、少しずつ受け始めていた。
ネクの身体に少しずつ傷がついている。
「待ってて……ネク、絶対に間に合わせるから」
今頃、ネクはあの蝙蝠型ノイズからダメージを受け続けているかもしれない。
シキはそう思いながら、必死でノイズを攻撃する。
「よし、間に合った!」
何とか時間に間に合わせて蝙蝠型ノイズに光を当てる事に成功した。
シキは飛び降りてネクと合流し、ネクはパワーが溜まった白いバッジを使う。
「これだ!」
ネクは正しいカードを次々と選び威力を高める。
素晴らしい判断力によって威力は上昇していき、
ネクとシキのサイキックは蝙蝠型ノイズに命中。
こうして、蝙蝠型ノイズは倒れるのだった。
「ふぅ……終わったか」
何とか蝙蝠型ノイズを撃退したネクとシキだが、二人の身体はボロボロだった。
「びっくりしたぁ! 急に出てくるんだもん! でも、今のが主だよね?」
あの蝙蝠型ノイズを倒せば、ミッションは終わる。
そう思っていたシキだったが、手のタイマーはまだ残っていた。
しかも、制限時間はあと26秒しかない。
「違う! タイマーが止まらない!!」
「うそっ!! 今の、主じゃないの!? 本物はどこ!?」
「まずい……時間が!!」
制限時間は残り13秒。
このままでは、ネクとシキは消えてしまう。
最大の危機を迎えた、その時だった。
「ツメがあめぇんだよっ! 主はコイツだ!!」
二人の背後から、聞き覚えのある少年の声が聞こえてきた。
少年――ビイトはスケボーに乗って金の蝙蝠型ノイズに体当たりし、消し去った。
「ビイト、ライム!?」
「どうやら間に合ったみてぇだな」
「うん、タイマーも消えたよ! ミッションクリアだね」
ビイトがA-EASTの主を倒した事で、ネクとシキの手からタイマーが消えた。
今度こそ、ミッションを達成したのだ。
「えっ!? どういうこと?」
「あれ!? 直った……」
「本当ですか!?」
どうやら、停電を起こしていたのは、A-EASTの主――蝙蝠型ノイズだったようだ。
それを撃退した事で停電も直ったのが証明だ。
「ああ、これで照明がつくぞ」
「じゃあ俺、他のスタッフに知らせてきます」
スタッフは停電が直った事を、他のスタッフに報告しに行った。
「照明も直ったみたいだな」
「人が集まっちゃいそうだね。ひとまず表に出よう」
ノイズが見えるのはネク達参加者だけのようだ。
トラブルが起きてはまずいので、ネク達はライムと共にライヴスタジオを出た。
「そっか……大きいコウモリを倒してオシマイ! ……じゃなかったんだね。
ふたりが来てくれなかったらアウトだったよ……ありがとうね」
ビイトとライムがミッションをクリアしてくれた事で、何とかネク達は消えずに済んだ。
シキは助けてくれたビイトとライムにお礼を言う。
「ったく……おめぇらちゃんと情報集めてねぇだろ。
人の話はちゃんと聞けよな、ヘッドフォン」
「ふふふ」
「ん……なんだよ……ライム」
「実はね、ビイトは小さい金色のコウモリをずっと探してたの。
で、見つからなくってピンチになった時に、シキちゃん達が大きいコウモリを倒したの。
そしたら……」
ネクとシキ、ビイトとライム、互いに利害が一致した事でミッションをクリアできたようだ。
結局、ネク達が戦っていたのが、
A-EASTの主である金の蝙蝠型ノイズなのだ……とネクが呟くと、ビイトは彼に怒鳴った。
「だあぁぁぁあ! おめぇ! 分からなかったくせにエラそうに言うな!
思いっきりビビりまくってたくせに!!」
「うん! ビイトもね!」
「だぁ~! ライム、余計なこと言うな!」
「うふふふ」
「ふふふ」
シキとライムの女性二人が、ネクとビイトのやり取りを見て笑う。
今まで険悪だった雰囲気が、ある程度和らいだ。
「ケッカオーライだろっ!?」
「……フッ」
「おい! おめぇ、今、笑ったな!! おめぇだけには笑われたくねぇ!」
雰囲気が良くなったところで、777のライヴが始まった。
「ライヴも無事始まったみたいね。あれ?」
「どうした?」
「そういえば……どうしてあの人と777さんとお話ができたんだろう……」
他人との関わりを拒むネクが、何故彼らと話したのか、シキが疑問に思う。
「アイツが死神だからだ」
「ええっ!?」
「おまえ忘れたのか? 羽狛さんから言われただろ」
777が死神である事は、ネクはご存じだった。
『いいか、よく聞け。とにかく、この渋谷はおまえ達がいた渋谷じゃねぇ。
コンポーザーが管理する「死神のゲーム」のための渋谷だ。
おまえ達がどうなろうと周りには見えないし聞こえない。だから、誰も助けてくれない。
生きのこるためにはパートナーと協力するしかない』
ハネコマがこの「もう一つの渋谷」についてネクとシキに説明する。
ネクがノイズに襲われた時、誰も来てくれなかったのは、
そもそもネクの存在が一般人に認識できなかったからなのだ。
『おまえ達を認識できるのはゲームの関係者だけだ』
『関係者って、参加者と死神と羽狛さんってこと?』
『ああ』
『俺……どうしてこんなゲームに……』
ネクは、死神のゲームに巻き込まれた事で、不快な感情を胸に宿していた。
実質、パートナー以外に認識できず、そのパートナーもネクは関わりたがらないため、
事実上、ネクは孤独に戦っていた。
ハネコマは真剣な表情で、ネク達に説明を続ける。
『参加者はみんな共通の理由でRGからUGに来てる。
自分のイチバン大切なもんをエントリー料として徴収されてな』
死神のゲームの参加者は、皆、ある特徴を持つ。
エントリー料とは、参加者の最も大切なもの。
渋谷で目覚めたネクに記憶がなかったのは、記憶がエントリー料になっていたためである。
つまり、今のネクが最も大切にしているのは、他でもない「記憶」だったのだ。
『……大切なもの?』
『……でも、戻ってくるんですよね?』
『勝ちのこればな』
『……できなかったら?』
『エントリー料は没収……さらに……存在を抹消……だな』
ご存じの通り、死神のゲームに負ければ消える。
エントリー料どころか、自分の存在すらも。
ハネコマから話を聞いたネクとシキは、改めて、死神のゲームで生き残ろうと考えた。
「そういえば……羽狛さん、言ってたよね。参加者と死神以外は私達が見えないって。
だから、何がおきても誰も助けてくれないって」
「……」
777がネク達を認識できていたのは、彼が死神だから、という理由だった。
「ボク達……最後まで生きのこれるかな」
ライムに戦う力はなく、ノイズとの戦闘はビイトが担当していた。
死神がけしかけるノイズは強力なものも多く、このまま生き残れるのか、
ライムは不安になっていた。
すると、ネクが落ち着いた口調でライムに言った。
「生きのこる。ぜったいに……」
ネクは死神のゲームで生き残り、記憶を取り戻す。
それが、今のネクの目的である。
ビイトはそんな彼を見て、口角を上げて言った。
「……フン、ヘッドフォンにしちゃ……いいこと言うな」
「ねぇ、やっぱり私達ってイイ感じじゃない? あらためて提案!!
明日からは協力してミッションやろう!
今日のミッションはお互い協力したからクリアできたんだよ?」
「ボクも賛成! 4人揃えば『鬼に金棒』だよね? ビイト」
「……ライムがいいなら俺はかまわねぇけど……」
「もちろん、ネクもいいよね?」
一度は拒否してしまった、ビイトとライムの協力要請。
シキはもう一度、ネクにそれを提案した。
(いいも何も……今の俺には……UGは……分からないことだらけだ。
俺自身のこと……死神のこと……分かることといったら……
コイツらは敵じゃないだろうってことぐらいだ)
何故自分が死神のゲームに参加したのか、そもそも死神とは一体何者なのか、
そもそもネクは一体何者なのか。
記憶を徴収されたネクは、その全てが分からなかった。
「ちょっと、ネク。羽狛さんに言われたこと、忘れちゃったの?」
(パートナーを信頼しろ……。羽狛さんの言うことは分かる気がする……。
こんな不条理な渋谷ならば、なおさら……。だから……今は……)
死神のゲームで生き残るためには、提案を断るわけにはいかなかった。
「足……ひっぱんなよ」
ネクは、熊型ノイズと戦った時にシキに言った事を、もう一度言った。
「よしっ! じゃ、決まりね! 明日からよろしくっ!!」
こうして、ネク、シキ、ビイト、ライムは、共に死神のゲームで生き残る事を決めた。
明日からはこの四人で行動するのだ。
その頃、どこかの酒場では、眼鏡をかけた金髪の女性が、
サングラスをかけた黒髪の男に報告していた。
「本日の参加者消滅数は6名です」
「そうか……」
「今までの参加者消滅数ですが、予想より1日早く過半数に達しました」
「東沢はなかなか順調のようだな」
「はい」
男が言う「東沢」は、この死神のゲームでミッションを出している人物のようだ。
そして女性は、男に対して忠実なように見える。
「本日の報告は以上になります。明日は定例会議が予定されています。
時間に変更はありません」
「ああ……ご苦労。フッ……」
「どうされましたか?」
「……いや、なんでもない」
男が含み笑いを浮かべた事に女性は疑問を抱くが、男はすぐに首を横に振った。
「明日からゲームがどう動くか、見物だな……」