すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとシキはライヴスタジオの停電を直すためにヒューズを取り付けるが直らず、
蝙蝠型のノイズが現れる。
シキとノイズが蝙蝠型ノイズを倒すものの、何故かタイマーが消えない。
その時、ビイトが現れ、金の蝙蝠型ノイズを倒してミッションを達成。
ネク達は共に死神のゲームで生き残る事を決めるのだった。
さて、その頃の酒場である。
「南師さん……9分42秒の遅刻です」
眼鏡をかけた淡い金髪の女性が、
ようやくやって来た灰色の髪の青年――
ミナミモトは赤い飾りがついた黒い帽子を被り、ボタンが八つ付いている黒い服、
穴あきデニム、銀のペンダントを身に着けている。
「相変わらず虚西サン、ムカつくねぇ……」
ミナミモトは女性に対し毒づく。
先程、彼と話した女性の名は
死神の中でも高い地位に位置する人物である。
「んなことより……このくだらない会合をやめた方が意義があるんじゃねぇか、
メグミちゃん?」
「およしなさい、北虹様に失礼ですよ」
「かまわんよ」
先程コニシと話していたサングラスをかけた男が、
女性のような名前だが、れっきとした男性である。
「全員そろったな」
「メグミちゃ~ん。な~んか見慣れないのがいっぴき混じってるみたいだぜ」
「彼は今回のゲームマスター、東沢だ。私の代行としてすべてを任せている」
「北虹様のご期待どおり、最高の料理に仕上げてごらんにいれます」
こうして、幹部(一部除く)が酒場に揃った。
キタニジが連れているこの大柄な青年、
実はミナミモトやコニシのような幹部ではない。
にも関わらず、実力が高い事から、ゲームマスター(代行)に選ばれたのだ。
また、大柄な体格とは裏腹に、料理もうまいとか。
「見た目通り……脳ミソまで胃袋なんじゃねぇか?」
「みくびってもらっては困るな。彼は優秀だ」
「はい、東沢さんは戦略性、情報力、意思、決断力、目的遂行力……参加者の減少率、
全てにおいて理想値をクリアしています。北虹様が代行を一任されるのも当然の結果です」
コニシとキタニジら地位の高い死神は、ヒガシザワの能力の高さに期待している。
彼なら、たくさんいる参加者をすぐに消し去る事ができるだろう、と。
「何より、協調性は南師さんを遥かに凌ぐ値……」
「協調性……んなもんゴミだ」
ミナミモトは幹部でありながら、協調性が全くと言っていいほどない。
まぁ、それがミナミモトの個性かもしれないが。
「さぁて、俺は行くぜ。自主制作の時間だからな」
「お待ちなさい……北虹様への報告が……」
そう言って、ミナミモトはコニシの話を聞かずに「何か」を作るために去っていった。
協調性が全くない、彼らしい行動である。
「かまわんよ、好きにさせておけ」
「了解いたしました」
「ところで……順調のようだな、東沢……」
「はっ! 参加者はすでに半分以下。最後の仕上げの段階に入りました。
デザートまでは時間の問題です」
ヒガシザワは物事を料理に例えながらキタニジに報告する。
料理は繊細さも必要なので、彼の手先もまた、繊細で器用なのかもしれない。
「手際がいいな、期待しているぞ。
君の昇格についてはすでにコンポーザーに承認を取りつけておいた」
「ありがたき幸せにございます」
「私も昇格には異論はないが……ひとつだけ条件がある」
「条件? と申しますと……?」
「ゲームマスターである私の代行として……参加者を必ず全滅させること」
「お任せあれ、北虹様。この東沢、腕によりをかけて、参加者を料理いたします」
ヒガシザワはキタニジに敬礼する。
幹部に昇格するためには、全ての参加者を消し去る事だった。
最高の料理を作るために、ヒガシザワもまた調理する事を決めた。
場面はネクに戻る。
「……ん……ここは……」
ネクは104の前で目覚めていた。
シキ、ビイト、ライムは既に104の前に集まっていたようだ。
「あ? 気づいた?」
「何してるんだ?」
「なんとなく……眺めてたの。たくさん人がいるな~って」
シブヤにはたくさんの人だかりがいる。
だが、この人だかりの中で、ネク達に干渉できる人物はいない。
「渋谷って……いろんな人がたくさん集まる街だよね……」
(この街は……嫌いだ。こんなにも多くの人間が集まる街……。
誰も彼もが自分勝手に行動して騒音を作りだす。ノイズと同じだ。
他人なんて……別にいなくても構わない……)
様々な人が歩き回る、渋谷。
そこに住む人々の声は、ネクにとって全て「雑音」だった。
ヘッドフォンを付けているのは、雑音をシャットアウトするという意味である。
「でもよ、スキャンしてみるとこぇ~よな。この人数がみ~んな別のこと考えてんだぜ」
「うん……すごいスピードでいろんな人の価値観がせめぎあってる……。
こんな街、他にはないよね」
人の考えは、人それぞれ違う。
それが、ビイトとライムに恐怖感を抱かせていた。
「渋谷って……まるで……戦場みたい」
シキは渋谷を戦場だと呟く。
この渋谷という街は、たくさんの相容れない感情がぶつかり合う。
確かに戦場なのかもしれない……とネクは思った。
「こんなに人がいんのによ……俺らのこと、誰も気づかねぇんだぜ」
「うん……ちょっとサビシイよね……」
前述の通り、渋谷を歩く人々は、参加者であるネク達には気付かない。
普通の人達にとって、ネク達は幽霊のような存在なのだろう。
だが、逆にその状況を、今のネクは煩わしく思っていなかった。
(さびしくなんかない。むしろありがたいくらいだ。誰にも気づかれない。
誰にも話しかけられない。誰にも話さなくていい。
ここは俺が望んだ街……なのかもしれないな。
7日間生きのこれ……。生きのこった後は、どうなるんだ?)
死神のゲームには、7日間生き残る事が条件だ。
だが、生き残った後はどうなるのか、ネクは考えていた。
生き残れば記憶は戻ってくるのか、と。
「!」
すると、参加者の携帯電話が、ミッションを知らせるために鳴った。
「来たぜ! ミッション!!」
「でも、4人なら怖くない!」
「……うん!」
一組だけでは難しかったミッションも、二組いれば、簡単にこなせる。
ビイトが携帯電話を開くと、こんなメールが届いていた。
トワレコにたどりつけ 制限時間はなし
失敗したら消滅 死神より
「あれ……? 制限時間がないよ……。何これ……超カンタンじゃない?」
今回のミッションに、制限時間はない。
それは時間に縛られないというのと同じだが、シキは何故そうなのか疑問に思った。
「トワレコは歩いてここから10分……。でも、制限時間がない……ってことは」
「トワレコに行くだけかよ!? なんだよ……せっかく気合い、いれてたのによー」
ライムはミッションの「裏」を考えていたが、ビイトは気付いていなかった。
「これなら協力の必要はないな……」
「……」
ネクは出されたミッションに違和感を抱く。
トワレコは徒歩10分、制限時間もない。
死神がこんなに簡単なミッションを出すとは、ネクは全く思っていなかった。
何か、他に隠されているものがないのではないか。
ネクは、ライムと同じ事を考えていた。
「そうだ! いいこと思いついたぜ!」
ビイトは、ミッションを達成するために、何かを思いついたようだ。
その頃、二人の下っ端死神はというと。
「ちょっと、狩谷なんなのよ! 今日の超ぬるいミッションは……」
「はいはい、そんなにカリカリしなサンナ。ストレスはお肌の大敵ダゾ」
ヤシロはミッションの内容に腹を立てていた。
彼女を諫めている眼鏡の青年の名は
ヤシロと同じく、死神の下っ端である。
「こんなミッションが出れば怒りたくもなるわ!
こうなったら、あたしが参加者を消しに行くわ」
参加者が消えなければ、ポイントを獲得できない。
ヤシロは自分から行動しようとするが、カリヤは冷静に状況を説明する。
「まぁ、落ちついて想像してミィ? ゲームも順調にはや4日目。ミッションはカンタン。
そんとき参加者はナニオモウ……?」
死神のゲームに7日間生き残れば、解放される。
4日目に出されたミッションも、簡単。
きっと、参加者は油断しているだろうと、カリヤは睨んでいた。
「フン……なるほどね。ボスはそこまで計算済みってわけね」
「1週間全力で参加者を消してたら、俺達がもたないダロ~? ボスの愛情ってコトデ」
死神にも、休息は必要なようだ。
「ったく……アンタ、いつ全力で働いたのよ?」
「まぁ、細かいことは気にスンナ。それと、俺達にはボス直々の指令があるダロ?」
「そういうことなら仕方ないわね。……どうなるか楽しみだわ」
ようやく落ち着いたヤシロは、ボスの指令通りに行動する事にした。
その時、彼女は不敵な笑みを浮かべていたという。