すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとシキはビイトに呼び止められ、トワレコへの到着を競争する。
ライムはビイトの後を追いかけ、ネクとシキは104に向かった。
そこで、シキがライムのペンダントに注目し、それがレアなものである事を語る。
シキとネクは人気の芸能人、王子英二と出会い、彼からファッションのアドバイスを受ける。
その後、ネクとシキはミッションを達成するためにトワレコに向かうのだった。
ネクとシキは、ミッションの条件となるトワレコに向かっていった。
その道中、スクランブル交差点でシキがネクに声をかける。
「ねぇ……ネク……前から気になってたんだけど」
「なんだよ」
「あのね……スキャンするとヘンなシンボルが見えるの……。あれ……何かな?」
そのシンボルは緑色を基調としており、
丸が四方に四つあり、中央にはスペードが描かれている。
シキが言う「ヘンなシンボル」とは、ノイズの事を指しているのだろう。
「緑色のノイズ、シンボルが見えるな……」
「ケータイのブタマークアイコンが光ってる……」
ノイズをスキャンすると、携帯電話のアイコンも光っていた。
「あっ! もしかして、このノイズがあれかな? 羽狛さんが言ってた」
「ピグノイズってやつだな」
この緑色のノイズ――ピグノイズは、バッジを持っていて、撃退すると落とす。
つまり、バッジを集めるためには、ピグノイズを倒す事も大事なのだ。
二人は早速、ピグノイズをスキャンし、戦った。
大した攻撃をしてこなかったためあっさり勝利し、ラブチャージというバッジを手に入れた。
そして、東に行こうとすると、赤いパーカーの男が条件を伝える。
「……この道を通りたければ、バッジ1000YENを2枚持ってこい。
ノイズレポートナンバー2のノイズが持っている」
壁を通るために必要なビックバフログは、小さいノイズの中に潜んでいる。
それだけを的確に狙えば、目的を達成できる。
目的のバッジを2枚手に入れたネクとシキは、赤いパーカーの男の前に立つ。
「……条件達成を確認した。この壁を開放する」
男がそう言うと、見えない壁は消え、先に進めるようになった。
ネクとシキがトワレコに行こうとすると、いきなりシキの機嫌が悪くなった。
「あぁ~、ムリ! もう、見てらんない!!」
「……なんだよ、いきなり」
「……取れてる」
「は?」
「ネク……ズボンのボタンが取れかけてるよ」
「あ……ホントだ」
シキは、ネクの服装がおかしい事を指摘した。
ネクは気にしないと言ったが、シキはいても立ってもいられず、
「ボタンを付けてあげる」と言った。
裁縫が得意なシキは、どうしてもネクのズボンを直したかったのだ。
「はい! できあがり!」
シキは数分で、ネクのズボンのボタンを直した。
伊達に裁縫を好んでいないだけはある。
「あ~、すっきりした! 取れかけたボタンってすっごい気になるの」
「早い……それに……うまい。おまえ、針と糸、持ち歩いてるのか?」
「うん、コレあると今みたいにパッと直せて便利でしょ? 私、裁縫スキだしね。
またどこかボタンが取れたり、どこかほつれたりしたら言ってね!」
「……」
シキの裁縫の才能は、流石のネクも一定の評価を下した。
一方で、また脱がされるのか、という危機感も抱いていたが。
渋谷デパートには特に買いたいものがなかったので先に行こうとしたが、
またも見えない壁があった。
「……この道を通りたければ、バッジ500YENを5枚持ってこい」
500YENバッジは、ガレージウルフとモッシュグリズが持っている。
ネクとシキはこれらを中心に倒していき、条件を達成して先に進めた。
カドイの前には、ビイトとライムがいた。
「あっ! いたいた!! ビイト! ライム!!」
「遅ぇぞおめぇら! 勝負だって言っただろ!? ちゃんとヤル気あんのかよ!」
「ヤル気があるのはおまえだけだ」
ビイトは勝負に乗らなかったネクを一方的に怒鳴っていた。
一方、ネクは冷めた目でビイトを見ていた。
「おめぇは勝負に負けて悔しくないのか! 勝ちたくねーのか!?」
「じゃあ、なんでおまえがここで待ってるんだ?」
「そ、それはだな……」
「ふふふ」
ビイトがどもると、ライムが彼の後ろから言った。
「ネク君達を待とうって言ったのはビイトなんだよ」
「だあぁぁぁ! おいライム! 余計なことは言うな!」
シキは、ビイトとライムのやり取りを見て、「ビイトは意外と優しい」と思ったとか。
「俺らが先に着いたんだから、俺らの勝ち……で文句ねぇな?」
「どうぞご勝手に」
「よし! んじゃぁ行くぞ、ライム」
「待ってビイト! そんなに急ぐと転んじゃうよ!」
ライムに言われながら、ビイトは彼女と共にトワレコに向かうのであった。
二人の様子を見ていたシキが、微笑んでいる。
「うらやましいな……親友がパートナーなんて」
「だったら、おまえもケータイのヤツと組めばよかっただろ」
ネクとしては、携帯電話の画面に映っていた人物とシキが
パートナーを組めばいいと思っていた。
だが、ネクはその人物が誰なのかは知らず、
さらに、ネクとシキも、ビイトとライムの本当の関係について知らなかった。
「そんなの無理だよ……。だって……」
ネクの言葉に、シキは首を横に振った。
「さあ、私達も行こう」
「……」
この時、シキは何か隠し事をしていると、ネクは思っていた。
しかし、彼女がそれを話す事は、なかった。
そして、四人は目的地、トウワレコード――すなわち、トワレコに辿り着いた。
人がごった返している中、ライムは手を振っているビイトに駆け寄る。
だが、彼の足元に背びれがついたノイズが現れ、ビイトを引きずり込もうとした。
「危ない!!」
ビイトがノイズに引きずり込まれる直前、ライムはビイトを突き飛ばした。
ノイズは車から鮫の姿に変わり、次の瞬間、ライムを一口で飲み込んだ。
鈴がついたペンダントが、からん、と落ちる。
地面には、ライムが身に着けていたペンダントだけがぽつんと落ちていた。
「今……何が起きたの……?」
予想外の出来事に、シキは大きく困惑する。
「くぅ~! ざぁ~んねん……。連続消滅記録は15人でストップ」
「死神!?」
眼鏡をかけた青年死神が、ネク達を見下ろしながら言う。
その事件を起こしていたのは、死神の一員、カリヤとヤシロだった。
「そ~ぅ! 死神、俺が狩谷拘輝。んで、こっちが八代卯月。以上、自己ショーカイ。
ま、礼儀ってコトデ」
人が消えてしまったにも関わらず、カリヤは軽薄な態度を取っていた。
まるで、人の命など、どうでもいいかのように。
「おい、ライムは……ライムは、どこだよ!?」
ライムを失ったビイトは、死神に掴みかかる。
「何言ってんのよ、今見てたでしょ? 消滅よ、消滅。ノイズに食われてゲームに負けた」
「ソウルとして渋谷のチリになりましたトサ」
カリヤとヤシロは、ライムの消滅を冷静に伝えた。
「うそ……ライムが……消えた……」
「おめぇらか……。おめぇらがやったのかっ!?」
初めて、仲間が消えるのを見たシキは、驚きを隠せない。
当然、パートナーを失ったビイトは、落ち着けるはずがなかった。
「そうだけど? なにか? とっておきのノイズを仕掛けたのよ~、ボスの命令でね。
コレがあたし達の仕事だしぃ~」
「仕事!? ふざけるな……ふざけんじゃねぇ!
おめぇらはライムを……ライムを消したんだぞ!! 返せ!! ライムを返せよ!」
ライムはビイトにとって、家族のように大切なパートナーだった。
突っ走りがちなビイトのストッパーになったのも、彼女だった。
そんな彼女が、ノイズの攻撃で消えてしまえば、ビイトが怒りに満ち溢れるのは当然だった。
「おぉコワ……泣いて怒って悲劇の主人公気取りカイ?
でも、ちっこいドクロが消えたのは俺らのせいじゃナイゾ。
悪いのはでっかいドクロ……おまえさんダロ?
パートナーを守りきれなかったんダカラナ。現実逃避はタイガイにシロヨ」
確かに、本来ノイズに消されるのはビイトだった。
しかし、ライムはビイトを守るために彼を庇った。
結果として、ライムは消滅してしまったのだ。
「俺らが参加者を消そうとしてんのは、初めっから分かってたコトダロ?」
「そ、そんなこと……」
「その辺、ちっこいドクロは分かってたみたいダナ。だから、おまえさんを守ったンダ。
消滅してマデモネ」
「ライムが消えたのは……俺のせい……」
「残念無念~、あぁ~、くやしいくやしい」
カリヤは言葉巧みにビイトに話し、ヤシロはくすくすと笑っている。
「でも、安心しなさい。その苦しさからすぐに解放してあげる☆」
ヤシロは二体のノイズを召喚する。
どうやらヤシロは、ビイトをライムと同じ目に遭わせようとしているようだ。
「ノイズ!? おめぇら、ノイズを作れるのか!!」
「そ~ぅ! 核バッジとソウルではいデキアガリ」
「あたしらは参加者に直接手をだせないルールなの。
だから、ノイズを作ってノイズに襲わせるの。
ほんとは直接相手をしてあげたいんだけどね☆」
このゲームは、参加者にも死神にもルールがある。
ゲームを取り仕切る死神は参加者に手を出せない。
その代わりに、ノイズというモンスターを参加者にけしかけているのだ。
「ってことで、今日のお仕事シュウリョ~! はい、テッシュー」
「じゃあね☆ バイバイ」
ヤシロが去っていき、カリヤも去ろうとした時、去り際にカリヤがビイトにこう言った。
「あ、そうそう……でっかいドクロ……。悔しかったら根性見せろヨナ」
「待て!! 待ちやがれ! このヤロー!! 逃げんじゃねぇ!
逃げんな……逃げんなよ……」
ビイトが殴り掛かろうとしたが時既に遅く、カリヤは既にヤシロと共に去っていった。
「おい……今はこのノイズが先だ」
「そうだね、なんとかしないと……私達も……」
鮫型のノイズを何とかしなければ、ネクもシキも、そしてビイトも消滅してしまう。
それを知っての上で、ネクとシキは身構えていた。
「先に小さいノイズから倒すぞ」
ネクとシキは、襲ってきたノイズを迎え撃った。
カエル型ノイズとオタマジャクシ型ノイズが、二人に襲い掛かってくる。
ネクはパイロキネシスでカエル型ノイズを浮かせ、
シキが黒猫のぬいぐるみをけしかけてオタマジャクシ型ノイズを攻撃する。
「何だかんだでちゃんと守ってくれるんだね、ネク」
「無駄口を叩く暇があったらこいつらを倒せ」
ノイズの数は多かった。
オタマジャクシ型ノイズは特にたくさんいた。
だが、一体一体の強さは大した事がないので、体力に注意しながら攻撃をし続けて倒した。
「よし……あとはあの大きいノイズだけだ」
「うん!」
ネクとシキが鮫型ノイズを倒そうとすると、ビイトが小さな声で二人を止める。
「おめぇら……手を出すな……」
「え!?」
シキが驚くと、ビイトがネクとシキの前に立つ。
先程ライムを消してしまったあの鮫型ノイズ、ビイトは敵討ちのために戦いを挑みたいのだ。
「コイツだけは俺がぶっ倒す!! 手ぇ出したらおめぇらもぶっとばす!」
「やめとけ!」
「あ、アンタは!?」
ビイトが鮫型ノイズを攻撃しようとすると、男がビイトの行動を諫めた。
その男は死神のゲームの監視者、ハネコマだった。
「おまえ、パートナーいないだろ? 今のおまえじゃノイズは倒せねぇぞ」
「そんなの知るか!! カンケーねー! 俺はライムの仇を取る!」
「パートナーの死を無駄にする気か!! 自分の無力さを思い知れ!
おまえの命はパートナーの形見だ!!」
ビイトはパートナーがおらず、そのまま戦うとライムと同じ運命を辿ってしまう。
ハネコマはそれを知っているために、ビイトに無茶をさせたくないのだ。
「パートナーが消えてひとりになった参加者の命は7分……。おまえの命は残り3分弱だ。
なぜパートナーがおまえを守ったのか考えてみろ」
「くっ!!」
ハネコマに言われてビイトは踏みとどまるが、やはり血の気は上ったままだ。
「俺はもう消えるんだろ? だったら……」
「おまえが生きのこる手段はまだある。時間がない! 早く来い!!」
ビイトの無謀な行動をたびたび諫めるハネコマ。
まるで、パートナーのライムのようだった。
「でもっ……俺だけ生きのこるなんて」
ビイトはライムを大切にしているため、一人だけで生き抜くのは苦痛だった。
いっそ、彼女と一緒に消えたかったが、シキは真剣な表情でビイトに言った。
「ビイト、お願い。ライムのためにも……」
「だけどっ……」
「後は任せろ」
「私達だってライムの仲間よ」
「うぅぅぅぅ」
ネクとシキは、ビイトを仲間として認識し、彼を何としてでも生き残らせると決意した。
ビイトは思わず、大粒の涙を零してしまう。
「いいか……ひとりになったおまえでも、おまえにしかできねぇことがある……。
俺が教えてやる。だから今は耐えろ!」
「ぬおぉぉぉぉぉ!! ……頼む……。アイツの……仇を取ってくれ」
ビイトは泣きながら、ノイズとの戦いをネクとシキに任せる。
ライムを消し去ったノイズを自分自身の手で倒す事はできなかったが、
せめて、仲間の手でライムの敵討ちをしてほしい、とビイトは託し、去っていった。
ネクとシキは、ビイトの代わりに鮫型ノイズを倒す事にした。
鮫型ノイズは地面に潜っていて、なかなか攻撃できない。
まずはカエル型ノイズとオタマジャクシ型ノイズを先に倒して、
鮫型ノイズを安全に倒そうとネクは考えた。
「ネク、危ないよ!」
「ぐっ!」
地中からの体当たりを食らったネクはのけぞり、もう一度体当たりを食らう。
シキはネクが逃げている間に黒猫のぬいぐるみで鮫型ノイズを攻撃した。
地中に潜っていても、攻撃は効果があるようだ。
「はぁっ!」
鮫型ノイズが頭を出した隙に、ネクは雷を落とす。
それにより鮫型ノイズは動きが鈍り、シキは黒猫のぬいぐるみをけしかける。
鮫型ノイズは口を開けてネクを飲み込もうとするが黒猫のぬいぐるみが防いだ。
「ネク!」
「ああ!」
そして、二人は力を解放し、五枚のカードを出す。
同じマークのカードを選びながら、力を高める。
次々と正解し、力はどんどん上がっていった。
そして、シキの黒猫のぬいぐるみと、ネクのサイキックが鮫型ノイズに命中し、
鮫型ノイズは消滅した。
「また……ふたりになっちゃったね……」
鮫型ノイズを撃退したネクとシキだったが、二人の表情に嬉しさはなかった。
ライムは消え、ビイトもハネコマに連れられ、再びネクとシキだけになったからだ。
「ビイト……大丈夫かな?」
「羽狛さんがついてる、平気だろ……」
「でも……あと3分の命って……」
「だからって、俺達には何もできないだろ」
「そうなのかな……」
パートナーがいない参加者は、命がもたない。
しかし、今のネクとシキは、ビイトを助ける事ができなかった。
「なんで、ライムを助けられなかったんだろう……」
「ライムのことは……避けようがなかった」
「どうして、そんなに簡単に割り切れるの? ネクは悲しくないの? 悔しくないの?
私達だってなんとかできたかもしれないのに!」
ノイズが襲ってくる前に一緒に逃げれば、ライムもビイトも消えずに済んだはずだった。
だが、ネクは死神と同じように平然としていて、それが、シキには理解できなかった。
「……しょうがないだろ」
この感覚は、あの時と同じだったが、ネクはそれが何なのか思い出せなかった。
「こんなことになるなら、協力なんてしなきゃよかった……」
結局、ネクは協力を拒否する結論に至った。
協力すれば、こんな悲劇が起きてしまうと、ネクは思っているからだ。
「それ! どういうこと!? 協力しなかったらライムは消えなかったっていうの?
どうしてそんなに冷たいの!? ビイトもライムも私達の仲間じゃない!!」
記憶を失ったネクは、他人との協力を煩わしく思っている。
シキは何よりも仲間を重視していて、ライムが消えた時は悲しい気持ちになっていた。
「ライムが消えちゃったのは仲間全員の……私達みんなの責任だよ!!
私達の……せいなんだよ……」
悲しむシキを前に、ネクは俯くだけだった。
「……仲間って……なんだよ……」
「え……?」
「どういうのが仲間っていうんだよ!
へらへら笑ってバカ話して調子合わせて、気ぃ使って疲れて傷ついて、
そんな関係なんて意味ないだろ!! ない方がマシだろ!!
他人なんて邪魔なんだよ! ただの重りなんだよ。俺は他人に引きずられるのはごめんだ。
それに、おまえが一方的に仲間って思ってるだけだろ!」
ネクは仲間を信じていないわけではない。
ただ付き合うだけの関係も、一方的に決めつけた関係も、認めたくなかっただけなのだ。
死神のゲームで生き残るためには、こうするしかなかっただけなのだ。
「ひどい……そんな言い方……。ライムだって、私達のこと仲間って……」
「ウザイんだよ! 俺はヤツらを仲間だと思ってない。
おまえとだって……生きのこるために仕方なく一緒にいるだけだ」
「ひどいよ……ネク……」
シキは、ネクの本当の気持ちを理解できなかった。
ネクにとって仲間とはどういうものなのか、シキが分からなければ、困るのも当然だ。
「ライムが消えたとき、なんにも感じなかったの?
ちょっとでも悲しいって思わなかったっていうの? そんなの人間じゃない……。
ネクなんて……あの死神達と全然変わらないじゃない!」
仲間が消えたにも関わらず、何も反応しないネク。
カリヤやヤシロのように笑っていなかっただけマシと言えるが、
今のシキには、ネクが彼らのように見えた。
死神のゲーム、四日目は終わる。
果たして、ネクとシキは生き残って、本当のパートナー同士になれるのだろうか。